東京・代官山LOOPでの恒例イヴェント“Mixed Up”を観賞してきた。一番の目当てはEspeciaだが、その他にも昨年6月の“Mixed Up”で観賞したblue marble、初見だが以前より気になっていたCICADA(シケイダ)、Ditty Bopper、さらにDJには一十三十一ともよくコラボレーションしている流線形のクニモンド瀧口が出演。
このイヴェント“Mixed Up”は、何といってもアーティストのチョイスの妙が素晴らしい。表層的なジャンルをなぞるように4、5組集めましたというのではなく、初見の客層にもその趣向やツボをくすぐるような共通性を加味したラインナップを組んでくる。今回は所用で途中からの観賞となったため、Ditty Bopper、blue marbleは観られなかったが(特にDitty Bopperは観たかった)、CICADAはキーボード2台使いとロバート・グラスパー・エクスペリメントに感化されたようなドラムなどがスタイリッシュなAOR、ジャズ・ファンク/ヒップホップ系のサウンドを構築していて、黒さを含んだソフィスティケイトなポップといった佇まい。強調し過ぎない紅一点のヴォーカルもいい塩梅で、心地よいグルーヴを生み出していた。
音源を入手して今後もチェックしておきたいと思ったところ、近日、2015年2月4日に1stフル・アルバム『BED ROOM』をリリースするとのこと。ツアーもあるようなので、時間があれば足を運びたい。
CICADA(シケイダ)/Naughty Boy
クニモンド瀧口は、通常は物販スペースがあるフロア後方中央に陣取って、女性ヴォーカルを中心としたJ-ディスコ・ポップ歌謡路線のような選曲でDJプレイ。自身のユニット流線形がシティポップだし、一十三十一らとの相性が抜群な彼のセンスは、Especiaや前述のCICADAのサウンドを好む層には“ゴキゲン”なDJタイムではなかっただろうか。終盤にはBon Bon Blanco「バカンスの恋」など懐かしいラテン・グルーヴも。
流線形/タイムマシーン・ラヴ feat. 江口ニカ
※ 江口ニカは一十三十一のことです。
流線形/DANCING INTO FANTASY
BON BON BLANCO/バカンスの恋
そして、何より素晴らしかったのは、対バン・イヴェントでありながら、CICADAからクニモンド瀧口のDJ、さらにEspeciaとノンストップで繋いだこと。クニモンド瀧口のDJプレイが終わったその瞬間にEspeciaの「Intro」が重なって流れてくるというミックスCDを三次元化したようなステージングは、まさにイヴェント・タイトル“Mixed Up”を具現化した瞬間でもあった。
クニモンド瀧口のDJから引き継いだEspeciaがトリ。CICADAの黒さを受け継いだかのようなフィリー・ソウル風を意識した「West Philly」で本幕を開けると、モードなアンニュイ・ポップ「センシュアルゲーム」へ。ここで感じたのはヴォーカルのハリの良さ。ソロ・パートが多い冨永悠香が「West Philly」で無理なくリードすると、「センシュアルゲーム」ではそれに続いて各メンバーも自信を持った表情でコーラスを披露。特に、昨年末から今年の間に体調不良で欠席することもあった脇田もなりのヴォーカルの高音の伸びと安定感には目を(耳を)見張るものがあった。休養をとったことが功を奏したのかもしれない。
このところ、Especiaはメジャー・デビューを前にして相当数のイヴェントをこなしている。この土日だけでも6本のステージ。全てが長時間という訳ではないが、さまざまなアーティストのファンがいるなかでのステージも多く、場数を踏んで体力を鍛えているという感じだ。疲労も練習の比ではないはずだが、その中で無駄な力を抜いてやれることが出来るかという実践力がついてきたのだろう。これまで時に脇田や森絵莉加らが体調不良を起こしたりもしたが、場数を踏んで次第にそのサイクルにも慣れてきたようだ。言葉にすると簡単だが、本当の意味での“充実”という感触がメンバーのなかに芽生えているのは確かだ。
その好調さに加えて、セットリストの妙により、フロアでは想像以上の化学反応を起こす。「アビス」のイントロが流れてきた時のヴォルテージの上昇度、さらに「海辺のサティ」「YA・ME・TE!」への流れでの沸点への到達の速さは、これまでにないものだった。冒頭の「West Philly」以外は既発曲でありながら新鮮な感覚とコアなファンばかりが酔うことのない柔軟性が、身体に直に響かせるグルーヴをフロアに巻き起こす。
さらに、今回のメジャー・デビューでのリード曲「We are Especia~泣きながらダンシング~」になると、ファンが同曲をプロデュースした若旦那(湘南乃風)をフロア前方に呼び寄せ、その光景をステージから見たメンバーが呼応するという連鎖反応も。
アンコールは、Especiaメンバーが観客がいるフロアへ雪崩れ込んで行くヒップホップ・チューン「Good Times」から「We are Especia~泣きながらダンシング~」のコール&レスポンスより始まるショート・ヴァージョンで幕。若旦那を巻き込みながら、“ゴッソ、ゴッソ”というコールがホール一杯にこだました。観客、メンバーともに楽しさと充実に満ちた表情ばかりの、濃密なステージとなった。
Especia/We are Especia ~泣きながらダンシング~(ショート ver.)
今後益々イヴェントやライヴなどのステージが組まれているようだが、彼女らの成長や進化の度合いが次のステップへと昇ったとしたら、このステージがその契機となったのではないか、そう思わせる満足度の高いパフォーマンスだった。
ただし、大切なのはこれを継続すること。ボクシングのチャンピオンは戴冠すること以上にその王座を死守していくことの方が数十倍難しいと良く言われる。Especiaはまだ戴冠した訳でもないし、その挑戦者となる資格もまだ備えてはいないレヴェルではある。当イヴェントも先日のO-EAST公演から比べてみれば、観客数も数十分の一ほどと比較にならない。だが、近い将来への第一歩として、この感触を偶然の賜物にしない努力をし続けることが肝要だ。それを成し遂げていけば、メジャー・デビュー相応な格や結果も備わってくるはずだ。
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<SET LIST>
〈Ditty Bopper〉
01 境界線
02 I DO
03 Landmine
04 マテリアル
05 Bop the rag top
〈blue marble〉
〈CICADA〉
〈クニモンド瀧口〉(DJ)
〈Especia〉
00 Intro(from“GUSTO”)
01 West Philly
02 センシュアルゲーム
03 アビス
04 海辺のサティ
05 YA・ME・TE!
06 We are Especia~泣きながらダンシング~
≪ENCORE≫
07 Good Times
08 We are Especia~泣きながらダンシング~(short ver.)
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脇田もなり