*** june typhoon tokyo ***

CICADA@代官山LOOP




 情動蠢く新年の饗宴。

 2015年に放った1stアルバム『BED ROOM』は各メディアでプッシュされるほか、R&B/ヒップホップとジャズやエレクトロを横断する近年の傾向にも添った音色で注目されているバンド、CICADAの2マン・イヴェント〈CICADA presents"DETAIL" act.1〉へ足を運ぶ。CICADAのライヴを観るのは3回目で、2015年11月のレコ発ライヴ以来となる。

・2015/01/25 Mixed Up@代官山LOOP
・2015/11/04 CICADA@WWW

 2016年5月の渋谷CLUB QUATTROでのワンマンライヴ〈CICADA One man show"Absolute"〉へ向けて、マンスリーで開催する対バン・イヴェント〈“DETAIL”〉の第1弾は、代官山LOOPにエレクトロニック・ダンス・ミュージック・ショウケース〈SonarSound Tokyo 2012〉にも出演経験のある1987年生まれのビートメイカー/マルチアーティスト、Seihoを迎えて開催。サイドステージには日本初のテクノ・ユニット“ガルトデップ”やYMOのコピー・バンドなどでも活動したシンセサイザー・ミュージシャン、Hisashi Saito(齋藤久師)がこの2マン・ステージにエレクトロでダビーな華を添えた。



 赤のトップスと白のボトムパンツの城戸あき子、白の揃いのパーカーのバンド・メンバーという姿は前回観た渋谷・WWW公演と同様。SeihoからHisashi Saitoへと繋がった宇宙の潮流のようなうねりを持った熱量がフロアに蔓延するなかで、このイヴェントの主宰・CICADAが登場。背後の黒幕がライトでバーガンディに染められ、アダルトでシックな妖しさを帯びながら、彼らのステージが幕を開けた。

 それにしても感じるのは、彼らのライヴ・ステージは“騙される”ということ。もちろん、それは良い意味で“裏切られた”というのと同義だ。WWW公演で「アルバムのイメージとは異次元な、熱い脈を打ちならすステージング」と記したが、ステージ毎に彼らのヴィジュアル・イメージとは異なる貪欲性に驚いてしまう。特に、紅一点のヴォーカル、城戸の華奢で細い体躯からは放たれる肉欲的とさえ表現したくなる生々しいヴォーカルには、アーティスト写真などからこちらが勝手に想像していたパブリック・イメージを瞬時に壊してしまう強さを抱えている。
 それに加えて、今回のステージでは微笑む表情が強く印象に残った。ヴォーカルの城戸はもちろんのこと、人力高速ビートを叩き上げるドラムの櫃田良輔ですら時折笑顔を見せているところを鑑みるに、彼ら自ら成長と日々の充実を実感しているのではないかと感じた。

 さて、貪欲や肉欲的とは言うものの、彼らはドカドカと欲望の翼をあらん限り伸ばすかのような貪り方はしない。あくまでも知り慣れた都会の街並みを戸惑うことなくすり抜けながら、欲する獲物へと辿り着こうとする洗練性を携えている。それはサウンドにも表われていて、寡黙ながらも太い刻印を残す木村朝教の漆黒のベースと高速ドラムンベースを軸としながらも時に“歌う”ような表情を持った音を奏でる櫃田のドラムというリズム隊が土台として機能しているからこそ、微笑みと妖艶を往来するような城戸のヴォーカルや自らもフロウを放ちながら心任せに鳴らす及川創介の鍵盤が、音色という名の天空を自由に舞うことが可能となる。
 さらには、彼らの楽曲に内包されているエモーションを吸い上げるかのごとく、若林とものキーボードから生まれるコードの連なり(ループ)が、絶妙な“楔”となって楽曲の骨格を固めていく。奔放にも感じられるかもしれない及川の鍵盤の音色と連綿と流れるグルーヴを構築する若林の和音という、一見対照的な鍵盤の融合も、彼らの“上質感のある貪欲性”を体現させている要因の一つ。楽曲によって若林がギターを弾くこともあるが、基本的にギターレスでも十二分に展開出来る強みは、各パートの主張と親和性とが程よい緊張の下でなされていることにも依っているのだろう。

 また、ラップ・パートをイントロダクションやインタールード的に挟み込ながらほぼノンストップに澱みなく進行する構成もフロアのヴォルテージを高める要素の一つで、それを可能足らしめているのは、ドラムやベースのリズム隊が“力点”として機能しているからこそ。野太い音とビートを響かせる櫃田、木村の両リズム隊がグググッと音を押し出すと、その力をコードやサンプリングという装飾を施しながら若林のキーボードが“支点”となってその力を増加して伝え、表情豊かな声色の城戸や弾むようなポップな鍵盤を叩く及川が“作用点”となってフロアに熱気とグルーヴを解き放っていく……といった具合だ。

 アルバム『BED ROOM』に収録されているオープナー「ふたつひとつ」やリード曲「Naughty Boy」などには程よい“抜き”も兼ね備えたようで、彼らの充実ぶりが即座に解かるような演奏ぶり。「Colorful」ではおなじみのコール&レスポンスでオーディエンスとの距離感をグッと縮めるなど、彼らの作品群が持つスタイリッシュ、アーバンといった側面や作品と異なるアレンジで進行されるステージというような直観的な印象だけに頼らない、その場の空気を掴んだライヴ感も増してきたようだ。

 アンコールは櫃田の高速ドラムンベースがインパクトを残す「stand alone」で幕。次回は2月19日に渋谷のLOOP annexにておかもとえみとの2マンとのこと。成長期というよりも“確変”期に入っているような彼らが、短期間でいかなるスキルアップという名のカードを手に入れるのか。それを確かめに行っても損はないはずだ。



◇◇◇

 CICADAの前にエモーショナルなパフォーマンスを繰り広げていたのがSeiho。ロングヘアに凛々しいルックスとフェミニンなファッションが印象的。ダブステップやチルアウト、ポスト・ロック、エレクトロニカ、音響系あたりのビートを駆使したトラックメイクやリミックスで、トライバルでサイケデリックな要素を打ち出していた。キャッチーとは対照的なジャンルレスな音作りながらも、ビートの強弱や出し引きでグッと意識を引き寄せる。ワールド・ミュージックなど民俗音楽風の土着性と神秘性も包含したような陶酔感が非常にユニークだった。
 ラストは、テーブルの上に置かれていた花瓶に花を生け、高々と水を瓶へ注ぐパフォーマンスから矢野顕子「Tong Poo」のリミックスへと繋げてステージアウト。サイケデリックだが豊かな映像想起性をもたらしていた。







 ちなみに、Seihoのステージの時、自分の真横でどこかで見たような女性がクネクネと気持ちよさそうに身体を揺らしていたのだが、水曜日のカンパネラのコムアイ嬢だった。結構マジマジ見ていたせいか、その後に逃げられた(?)けれど。




 Seiho同様にHisashi Saitoも初見。一聴するとノイジーな不協和音が耳を突くのだが、やおらそれが原子・分子的なミクロの世界と宇宙の胎動へとリンクするような精神性の高い音鳴りとして聴こえてくるから不思議。また、音かそれ以上に、絡み合うくらいのコードと多数のツマミ(ノブ)を有したアナログシンセ・マシーンを操る姿が、要塞を牛耳る支配者のようでクールだった。それを物語るように、彼の終演後にはマシーンを覗き込む人たちで溢れていた。

◇◇◇

<TIME TABLE>
18:50- Hisashi Saito(SIDE STAGE)
19:30- Seiho
20:30- Hisashi Saito(SIDE STAGE)
20:50- CICADA

<SET LIST>
≪Seiho≫

≪CICADA≫
eclectic
ふたつひとつ
Naughty Boy
back to
フリーウェイ
君の街へ
熱帯魚
Colorful
夜明けの街
≪ENCORE≫
stand alone
※ 順不同

<MEMBER>
CICADA are:
城戸あき子(vo)
櫃田良輔(ds)
若林とも(g&key)
木村朝教(b)
及川創介(key)


Seiho(DJ)

SIDE STAGE:
Hisashi Saito(syn)(LIVE SET)


◇◇◇













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