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Iwaoのタルムード 事実は小説より奇なり

日々の体験の中に真実を学ぶ すべてノンフィクションです

 

SCM 実話 桜庭支配人の現場一直線 第二話

2023-05-19 11:30:00 | SCM ノンフィクション劇場


・自分本位の思いの塊
     ~分析をやめ飛び込む勇気を持つ






 人はあまりにも落ち込むと、今まで気軽に相談していた人にも声をかけなくなり、一人でいろいろと思いあぐねるようになるものらしい。このときの桜庭もそうだった。

 このことを見越したかのように、次の日 アジア開発の櫻井監査役から電話がかかってきた。
「どうだ、もう準備は出来たか?」

「それが、、、、とてもそういう状態ではありません」

この答えを予想していたかのように電話の向こうで、櫻井監査役が独り言のようにつぶやいた。

「お前は頭が良すぎるんだよ、分析ばかりして」

「え?どういうことですか。」

「昨日 あっちこっち見てきて それで よーし がんばろう!となったのか、と言ってるんだよ。たぶん逆になってるだろう、お前の場合は。」

「、、、、、」

「お前は 自分の立場しか考えていないから落ち込むんだよ。こんな難しいところに放り込まれて 失敗したらどうしよう、と。」

「経験も実力もないのを承知でそこに向かわせたこちらの思いなんか 少しも感じてないらしいな。情けない、、」

「その大変な式場で15年以上がんばってきたおばさんたちは すごい人たちだと思わないのか。」

「あんたの自己成長の場として選んだんだよ。教えようなんて思うなよ。あんたの勉強だよ、自己成長という。」


いつもはざっくばらんで親しみやすい櫻井監査役だったが、このときの指導はさすがに桜庭の心に突き刺さった。




今までの経験だけで考えると人を指導する位置に立つというのは、社員より優れた能力が必要であり、経験も上で、常に相手より上の立場で無いといけないのではないかという一種の考え方の癖が、水島の中に自己中心的な分析癖を生むことにつながっていた。

「それでは、この式場の現場の社員の方々は、これから赴任する私に何を期待し、何を求めているのでしょうか?」

「お前が元気で輝いていることだよ。」

「え?、、、、」

「頭で考え理解しようと思っているうちは、言っておくけれど、嫌われ続けるぞ、
飛び込め、考えている暇があったら、現場で一緒に汗を流して 現場の声を聞き続けるんだ。」


確信のこもった指導を受けながら 水島は昨日まで心の中でもやもやしていた雲がどんどん晴れてゆくのを感じていた。

「今は良く分かりませんが、とにかく 明日から、その通りやってみます」

こうして いよいよハートロード結婚式場へ出社の日がきた。前もって何か考えたり準備したりせず、
とにかくこの日 ただ元気よく過ごそうとだけ水島は決意していた。













SCM 実話 桜庭支配人の現場一直線 第七話

2020-07-07 18:56:50 | SCM ノンフィクション劇場
 桜庭支配人の現場一直線 第七話



・鬼の目に涙

 仕事の鬼、という表現が適切かどうか分からないが、すでに50歳を超えているベテランである石原マネージャーは、どんなに仕事が大変で体がきつくとも、決して弱音をはかなかった。
宴会当日は大学生や高校生の若いアルバイトを使っていたが、こうした若いバイトたちも石原マネージャーにいつも仕事が遅い、配慮が足りない、等の罵声を浴びせられながら、スパルタ式に現場でたたき上げられていた。




そのくせ、バイト学生の面倒見が良くて 親分肌なのだろう、仕事以外にも学生たちのこまごまとして悩み事に相談を良く受けていて、平日でも学生たちが気軽に遊びに来ては、無料奉仕で仕事を手伝って帰っていったりした。
もうこの式場で15年以上もバンケットを仕切ってきた石原マネージャーは、この式場の“影のボス”とも呼ばれていた。

もともとこのハートロード結婚式場は、現社長の母親が女将として活躍して地元で多くの顧客を呼び込んで成功し、その母親と共に忙しいバンケットという裏方の仕事を支えてきたのが石原マネージャーだった。そのうち 女将さんが病気で倒れ、地元のお得意さんとの信頼のパイプはこの石原マネージャーが引き継いできたといっても良かった。

 確かに桜庭支配人にとっては、こうしたタイプのベテラン女性社員と面と向かうのは初めての経験だった。しかも、能力も経験もすべてかなわない相手だった。つっけんどんに見える態度が、最近は嫌がらせにすら感じられ、自分に早く此処から去ってほしい、とでも言っているかのように感じられて仕方が無かった。




 それでも 有島副社長の指導に最後の望みをかけて 宴会に臨んだ。
「始めまして。支配人の桜庭と申します。お料理のお味はいかがですか。?」
なんと切り出していいかわからず、おもむろに名刺を差し出すと
「いつ利用しても気分がいいね、此処は」
地元の農協の定期総会が終わって宴会が始めると 桜庭は早速こうして担当の理事長に
挨拶したが、もう何年も連続して総会を此処でやってもらっているらしく、石原マネージャーも顔見知りらしかった。

「君はここが地元じゃないのかね。千葉のナマリがないね。」
桜庭はこうしたざっくばらんなやり取りになんと言っていいか分からないので
とにかく石原マネージャーを連れてきて挨拶してもらうことにした。


「あら、理事長さんじゃないですか。今年の田植えのときは、また機械かしてくださいね。」
(機械、、、?田植え、、、?)
すっかり溶け込んでしまった石原マネージャーを理事長の横に座らせると、石原さんにもグラスを持たせてビールを注いだ。

「今日は私のおごりで石原さんにもぐいぐい飲んでもらいます。」
すっかり理事長と話が盛り上がってしまった石原マネージャーは 桜庭や理事長の注ぐビールをぐいぐい飲み干していった。底なしに強かった。5杯くらい一気飲みをやっても少しだけ顔を赤くする程度の石原マネージャーは、桜庭にもグラスを渡した。

「石原さん、今日は僕が家に送ってゆくので、石原さんが代わりに飲んでください。」
此処で少し気分をよくしたのか、石原マネージャーは理事長に桜庭のことを話し始めた。
「ねー 理事長さん 聞いてくださいよ。この桜庭支配人って ホンとボンボンで世間知らずで困ってるんですよ、、。横で見ていていつも心配で心配で仕方が無くて目が話せないんですよ、、。」
(へ?心配だったのか、、?)




石原マネージャーが私の悪口を酒の肴に理事長と1時間以上盛り上がって相当良いもまわっていい気分になった頃
「桜庭君、いいかい、とよちゃんは私の大切な人なのよ、大切に大切にして頂戴!」
もう酔った勢いでそれ以降は何を言っているか聞き取れなかったが 理事長も石原さんも相当気分が良かったのだろう、最後に玄関までお送り知るのに3人で肩組しながら理事長を代行の車に乗せた。

 その後有無を言わさず、石原マネージャーをそのまま桜庭の車に乗せると、山奥に有る自宅まで送っていった。

「支配人って少し見直したわ、、、」
「でも さっき理事長にさんざ悪口言ってたじゃないですか。」
「馬鹿ね支配人って、だから女性たちに嫌われるのよ、あれはね、気に入っているって事なの。」
「へ?僕のこと、、、、今まで避けてたくせに。」
「何いってんのよ、避けてたのは支配人のほうでしょ」

自分の方が避けていた、、、そういえば同じようなことを有島副社長にも言われた気がした。
山奥の坂の途中にあるその家は しっかり教わらなければそのまま通り過ぎてしまうような見えずらい位置にあった。





「こんばんわ。奥様をお届けに参りました。」
前もって電話してあったようで 旦那さんがたたみ部屋から出てきて頭を下げた。

あまり話をしないご主人のようで、とにかく安全にお届けしたので帰ろうと思ったところ
「支配人 お茶が入っていますよ。ごはんも食べていってくださいな。さっきは接待でろくに食べれなかったでしょ。」
こうして 石原マネージャーのご家族と夜10時もなろうとしているのに、一緒にごはんを食べることになった。
聞いてみると だんなさんはトラックの運転手をしていて夜9時以降に帰ってくるが、帰ってくると必ずビールを飲んでその後食事にするのだそうだ。
高校2年生になる息子も夜遅くまで遊びに出かけているようだった。
昔はだんなさんは農業をやっていて田んぼも沢山持っていたのだそうだが、今は人に貸していて 繁忙期に借り入れの手伝いに行く程度なのだそうだ。その時に地元の農協から刈り入れの機械を借りてくる、ということだったのだ。





「じゃ おかずはいつ作るんですか?」
「朝 会社に行く前に仕込んでおいて冷蔵庫にしまっておくんですよ」
昼は 会社で宴会のサービスと後片付け、家に帰ればだんなに食事の接待、夜11時頃に皿洗いをしてようやく12時頃に休む、朝は6時には起きて息子とだんなの朝食を作りさらに夕食のおかずを仕込んで会社に来ていたのだ。

 桜庭は石原とよさんがトイレに入っている隙に、台所で皿洗いを始めた。
だんなさんにビールのお酌をして挨拶をして、石原とよさんがトイレから出てくるときには車に乗ろうとしていた。
「明日のあさ 8時には迎えに来ますからゆっくり休んでください。」
その言葉を聞いて石原とよさんの目から大粒の涙が流れていた。










SCM 実話 桜庭支配人の現場一直線 第六話

2020-06-30 13:01:45 | SCM ノンフィクション劇場
桜庭支配人の現場一直線 第六話


<登場人物>

桜庭支配人~ このシリーズの主人公。
株式会社アジア開発 入社2年目の新人にして現場の支配人の辞令を受けた。
35歳 結婚式場の責任者の経験はまったく無く、営業の経験も無い。ないない尽くしで自信もないまま 指導を受けて独り立ち上がる。
河野俊一~ 隣町の結婚式場の支配人。同じアジア開発の社員で、やはり支配人として人材派遣された。桜庭より1年早く入社して現場に配属されいた。30歳。
後藤部長~ハートロード結婚式場の営業部長。営業部10年目。現場のたたき上げで
     規則を守ることに厳しい。現場の鬼と呼ばれている。32歳
石原とよ~ バンケットマネージャー。ハートロード結婚式場の創立メンバーで、地元の顧客には顔きき役。親分肌で面倒見もよく、影のボスといわれている。52歳。
白石庄平~地元の生命保険のトレーナーで引退後も後輩の面倒を見ながら研修会に参加している中で桜庭と出会う。72歳。

大林友子~ハートロード結婚式場の専務婦人。フロント予約課課長。
内田悟~ハートロード結婚式場営業部課長代理。
柏崎理恵~ハートロード営業課長で最古株社員。営業の実力ナンバーワン。
小森友和~ハートロード結婚式場営業部主任。






・立ちはだかる心の壁

桜庭はバンケットの婦人たちに しばらくバンケットの仕事を手伝いながら
どんな苦労があるのか体験することを約束し、次の日からは 午前中だけ営業に出て
午後からはバンケットと厨房でその日の宴会や結婚式の準備を手伝い、宴会のサービスも一緒にやった。

昼ごはんは厨房で作り、営業マンも昼食時には帰ってきて厨房で15名ほどの社員が
一緒に食事をしていたが、その食事当番も買って出た。
おのずと午前中もだんだん営業に行く時間が無くなり、掃除やメンテナンスまで一緒にやっているうちに、ほとんど一日中 式場の中で仕事をするようになってしまった。



1ヶ月ほどこんな状態が続く中、厨房の調理長や男性スタッフとは徐々に心が通じてきて何でも言い合えるようになってきたが、バンケットのベテラン女性社員とは、なかなか打ち解けることが出来なかった。

桜庭支配人が2階の宴会場の横にあるスタッフ控え室に顔を出し、ビンを拭いたり掃除を始めると、いつの間にかみんな別の部屋に行ってしまっていたりした。

「バンケットのベテラン婦人社員たちと 心の壁をなくするには 何かいい手立てはありませんか。」
たまらずに 有島副社長に正直に気持ちを訴えた。



「今度 地元の農協とか病院なんかの宴会はいつあるんだ?」
「明後日 日本生命の営業マンたちの研修と宴会が一件、農協の定期総会と宴会が一件入っていますが、、」
「その時 お前が宴会に入ってお酌しながら 名刺を配って挨拶しなさい。さらに バンケットの責任者の石原マネージャーを呼んできて 紹介し、出来たらお酒も少し一緒に飲んでもらいなさい。後日 石原マネージャーと一緒にこの宴会の責任者のところに挨拶訪問に行きなさい。」
「お酒を飲んだら 車でかえるのに危ないと思いますが、、、」
「お前は飲まずに 石原マネージャーを家まで送ってあげなさい。」
「朝は、、、、」
「迎えに行ったら」
「、、、嫌がられると思いますけれど、、」
「嫌がれるんではなく お前がいやなだけだろ。お前が嫌っている限り向こうもお前を嫌い続けるぞ。」
(こ、これも因われにありなのか、、参ったな)
それでも この現状にほとほと困っていた桜庭支配人は 再度腹を決めてその通りにすることにした。










SCM 実話 桜庭支配人の現場一直線 第五話

2020-06-30 12:59:08 | SCM ノンフィクション劇場
桜庭支配人の現場一直線 第五話




・「ケンタッキーフライド事件」勃発

ところが、2週間ほど過ぎた頃だった。一つの問題が起きた。
これは、その後「ケンタッキーフライド事件」と営業マンたちのあいだで言い伝えられるようになった事件である。

 毎日 夜10時くらいに玄関を閉めようとすると、フロントで予約課長をしていた年配の女性職員である大林友子が、最後までその日の申込書等の整理をしているので、本当に大変だ、頑張っているな、と思っていた。






 この日も 夜遅くまで営業をやって帰るときになり、ふと遅くまで頑張っているこの社員のことを思い出して帰り道にたまたま明かり点いていたケンタッキーフライドチキンで軽食にチキンを5ピースほど包んでもらった。

そして大林課長に持たせて帰らせた。
「いつも遅くまでありがとうございます。家で待っているご家族と一緒に食べてください」
桜庭はいい事をしたと思った。社員を激励したのだ。気分よくその日は帰途についた。

ところが 翌日 社内の雰囲気が朝からおかしかった。
年配の女性たちが朝礼に出てこないのだ。いるのだけれど、2階に引きこもって掃除をしているだけで 下に下りてこなかった。
後藤部長も朝から黙っていた。朝礼は簡単に終わって その後桜庭は厨房に呼び出され、年配の女性職員たちにいきなり囲まれた。



「支配人、貴方は私たちをどういう存在だと思っているんですか?」
「え?、、、、、、、」
「バンケットの仕事をこの年になって毎日やって行くって大変なんですよ。」
「フロントの仕事が、バンケットの仕事より大切だというんですか?」
「私たちが、どれだけ会社のために犠牲になって支えてきたのか分かっているんですか?」

いったい何が起こったのか、はじめは桜庭にはまったく理解が出来なかった。
いろいろ聞いてゆくうちに、どうやら昨日 大林課長に買ってあげたフライドチキンが問題の発端になっているらしかった。



「私たちにもフライドチキンがほしかった、ということですか?」
桜庭は、此処でさらに言ってはいけないフレーズをはいてしまい、火に油を注ぐこととなった。
此処での議論は午前中いっぱい続き、桜庭はとうとうこの日営業活動に出ることが出来なかった。それでも、延々と婦人たちの愚痴や不満を聞いているうちに、あることに気がついた。
此処で働いている婦人たちは、家で何らかの人には言えない事情を抱えていて、ある面、仕方なく働きに来ている、そして此処できつい仕事が終わってくたくたになって家に戻っても、そこで又家事や夫のお世話が続くというのだ。精一杯を通り越してぎりぎりの人生を送っている人たちだった。

桜庭がフライドチキンをプレゼントした婦人は此処の会社の専務の奥様で、他の年配の婦人たちからすると、セレブ階級なのだ。
だから桜庭は悪気無く善意でフライドチキンをあげたのだが、他の女性社員にとっては 自分たちを差別し、えこひいきし、苦労と汗と誠意を裏切りつばを吐きかけたことに等しい行為だったのだ。
だから彼女たちの怒りが止まなかったのだ。

その日の昼間に久しぶりに桜庭は有島副社長に電話を入れた。
「すいません。大変な失敗をしてしまいました。」
「良かったな、早めに気がついて。」
「え、、、、、、」
「頭でっかちがそんなすぐに直ったら、哲学の偉大さが分からないだろう。
 この人は本当に自分たちのことをわかってくれる人なのだろうか、
 自分たちの味方なのか、単に会社の命令で自分の役割を果たす為にだけに来た人なのか、
 見られているんだよ。」

現場に入る意味も、営業に行ってお客様と会う意味も、同じだと指導を受け、
目から何か又剥がれ落ちた思いだった。
この事件を期に、聞くという作業に心が入りだした桜庭支配人は徐々にやる気と元気を取り戻していった。


#EMM(essentiai mind management)





SCM実話 桜庭支配人の現場一直線 第四話

2020-06-16 11:13:40 | SCM ノンフィクション劇場
 桜庭支配人の現場一直線 第四話



<登場人物>

桜庭支配人~ このシリーズの主人公。
株式会社アジア開発 入社2年目の新人にして現場の支配人の辞令を受けた。
35歳 結婚式場の責任者の経験はまったく無く、営業の経験も無い。ないない尽くしで自信もないまま 指導を受けて独り立ち上がる。
河野俊一~ 隣町の結婚式場の支配人。同じアジア開発の社員で、やはり支配人として人材派遣された。桜庭より1年早く入社して現場に配属されいた。30歳。
後藤部長~ハートロード結婚式場の営業部長。営業部10年目。現場のたたき上げで
     規則を守ることに厳しい。現場の鬼と呼ばれている。32歳
石原とよ~ バンケットマネージャー。ハートロード結婚式場の創立メンバーで、地元の顧客には顔きき役。親分肌で面倒見もよく、影のボスといわれている。52歳。
白石庄平~地元の生命保険のトレーナーで引退後も後輩の面倒を見ながら研修会に参加している中で桜庭と出会う。72歳。

大林友子~ハートロード結婚式場の専務婦人。フロント予約課課長。
内田悟~ハートロード結婚式場営業部課長代理。
柏崎理恵~ハートロード営業課長で最古株社員。営業の実力ナンバーワン。
小森友和~ハートロード結婚式場営業部主任。



後藤部長の仕切る営業部室で4名の営業マンと共に営業ミーティングが始まった。
桜庭も此処では一営業マンとして営業実績に責任を持つ立場になっていた。

しかも 営業マンとしての経歴は、お手伝い程度にかじった経験が2年ほどあるだけだった。ここでは10年近く営業一筋で経営を支えてきたベテラン営業マンが終結しており、
営業ミーティングでのやり取りに桜庭はまったく入ってゆくことも出来ず、ただ傍観してた。



「支配人は今月何件が目標ですか」
いきなり後藤部長からの質問にわれに返った桜庭は、返す言葉も無く、「何件って、、、、」
「獲得する自信が無いので、後藤部長の同行でしばらく一緒に回っていいですか?」
後藤部長はしばらく黙っていたが、
「分かりました、私だけというのではなく、4名に毎日別々に巡回して同行してもらいましょう。」
営業部は後藤部長を筆頭に女性営業マンだが常に営業実績ナンバーワンを保ち続ける柏崎課長、それから内田課長代理、小森主任と、実力派の営業マンがそろっていた。




こうして、おんぶに抱っこで、厄介者となったような気がした支配人は、面子も無くなったと嘆く暇も無く、心の中ではしきりに昨日の有島副社長の指導を思い起こしていた。
「飛び込め、考えている暇があったら、現場で一緒に汗を流して 現場の声を聞き続けるんだ。」

その日から昼間は営業同行に出て、お昼ごはんは社員と一緒に社員食堂で食べ、夕方の宴会のセッティングをバンケットのおばさんたちと協力して進め、その後又営業に出発した。
 それからは 仕事のスケジュールに追われる毎日が始まった。



 とにかく、現場で一緒に汗を流しなさい、という副社長の言葉が耳の奥に残っていて
頭でっかちの自分を捨てて、現場に徹しようと決めたのだった。
 夜は 宴会が終わる8時半頃に戻ってきて後片付けを手伝い、夜10時くらいに営業部室に戻ってきて自分の明日の日報を書くとともに 営業部員たちの帰りを待って報告を受け
最後に式場の全社員が帰るのを待って鍵をかけて帰宅した。
自宅に到着すると、大体夜の11時くらいになっていた。

 こんなスケジュール闘争のような毎日を無理やり過ごしながら、桜庭は、これだけ社員の仕事を手伝いながら一生懸命やっていれば、社員の反応もほぐれて 仕事もやりやすくなってゆくだろう、と勝手な期待をこめて日々を過ごしていた。