はじまりがなければ

2006-10-04 | 自作小説:読切短編
はじまりがなければ

はじまりがなければ、終わりはない。
僕たちには、はじまりがなかった。
だから、まだ、終わっていない。

あなたに、いつから恋をしていたのだろう。
たぶん、はじめて会った時からだ。
あなたと僕は、小学校5年生。
クラス替えで、あなたと偶然となりの席になった時だ。

初対面の僕に、あなたは聞いた。
 ”好きな女の子は、誰?”
僕はものすごく当惑したことを覚えている。
なぜなら、女の子を好きになったことなどなかった。
いや、好きになることさえ、知らなかった。
僕が思ったことは、女の子は好きになるものなんだ、ということだ。
それから、誰を好きになるべきか、すごく悩んだ覚えがある。
そんな僕に、いつも、あなたは、
 ”A子じゃないの?”
 ”A子でしょう?”
 ”絶対、A子だ”
と聞いてきた。そして、あなたの暗示で、僕はA子を好きになった。
でも、それは感違いであることは、次の席替えで、わかった。
たまらなく淋しかった。
男の子同士は、席が替わっても、友達として遊べる。
でも、女の子とは席が替われば、それまでだ。
もう、話しかけることはできない。
僕は、よく遠くの席になったあなたを見つめていた。
時々、目が合うことがあった。
僕は、そのたび、目をそらしていた。
でも、あなたは、そんな僕を見続けた。
ある時、僕が目をそらさずいたら、かなり長い間、おそらく1分くらいだと思うが、
見つめ合ったままになった。
僕は、あなたが僕のことを好きなんだと思った。いや、確信した。
でも、それは間違いであることは、しばらくたって、わかった。
あなたとC雄が両思いであるという噂がたち、それは事実だった。
一体、あの眼差しは何だったのか?

C雄は、小学校を卒業すると、親の仕事の都合で引っ越していった。
中学校の入学式でのあなたは、いつもと同じで何も変わっていなかった。
たかかが、小学生の恋。引きずるはずがないといえば、それまでだ。
だが、僕は、あなたと同じクラスになれずに、悲しかった。
そんな僕に、あなたはあの意味ありげな眼差しを送ってきた。
たまたまなのか?それとも、探してなのか?
僕は、思わず、目をそらした。恥ずかしかったのだ。
あなたに僕の思いを知られること。C雄がいなくなって喜んでいること。
何よりも同じクラスになれなくて、悲しんでいる顔を見られたくなかった。

結局、中学時代に同じクラスになることはなかった。
時々、廊下で、あなたとすれ違うとき、ほんの少しの間、視線を交わすだけだった。
笑顔のときもあれば、怒っているときもあり、
意味不明な表情を浮かべているときもあった。
特に、あなたの笑顔は魅力的だった。
その度、僕は一喜一憂した。
僕の知る限り、あなたは中学時代、誰とも付き合うことがなっかたと思う。
もちろん、僕も誰とも付き合わなかった。
あなたのことが好きだからということもあるが、
本当のところは、僕は人気者と呼べるような存在でもなく、
自分から告白しない限り、女の子と付き合うチャンスなどこないタイプだった。
あなたに、この想いを告白したいときもあったが、結局、できなかった。
怖かったと言えば、そのとおりだけれど、
僕の願いは、もう一度、ただ、見つめ合いたいだけだった
言葉を交わさなくても良かった。
廊下での出会いだけで、満たされてはいないが、充分だったのかもしれない。

中学を卒業すると、あなたは都内の女子高へ進学した。
僕は、自転車で30分ほどの地元の高校へ進学した。
そのため、僕らが出会うことはなくなった。
一度だけ、バス停で見かけたことがあったが、あなたは気がついていないようだった。

それから、25年近くたったある日、中学校の同窓会の開催の通知が来た。
クラス会ではなく、僕らの代の全員で行うということだった。
あなたが参加することが頭をよぎった。ありえない話ではない。
当然、僕は参加することにした。
同窓会は、地元のホテルの宴会場を借りて、立食形式で行われた。
本来は、結婚式などに使われているのだろう。
天井には、きれいなシャンデリアが、ぶら下がっていた。
150名近く参加していたが、あなたはいなかった。
最初は、会う人ごと懐かしがり、雑踏のような賑わいだったが、
徐々に、6つの円卓を囲むように、クラスごとの集団に分かれていった。
僕らの中学が、6クラスだったから、6つの円卓にしたのだろう。
主催者の思惑どおりだった。
僕は級友と昔話をしながら、あなたが来るのを待った。
会が始まり1時間ほどして、あなたは現れた。
昔より、確かに歳はとっているが、僕には気にならないほどの小さな変化だった。
会場に入るなり、君は誰かを探しているように視線を動かした。
僕を探している、、、、、、。
でも、あなたは、僕以外の目当ての人を見つけたらしく、
自分のクラスの円卓に小走りで向かっていった。
僕はあなたを目の片隅に置きながら、級友たちと談笑を続けた。
しかし、心は上の空だった。早く、僕に気づいてくれ。
一瞬、あなたが僕のほうを見た。僕は、素早く、あなたの方へ顔を向けた。
あなたがいない。
すると、僕の後方から、
 ”久しぶりね。”
いつの間にか、あなたは僕の後ろにいた。
 ”ああ、久しぶり。僕のことを覚えてる?”
あなたは微笑でいた。本当に久しぶりにみたあなたの笑顔だった。
いたずらぽっく、少し悪意が入り混じったような不思議な笑顔。
何も変わっていない。
 ”ええ、憶えてるは。小学校のとき、同じクラスだったでしょう。” 
僕らは、他愛のない会話をした。
思い出話を一通りした後、突然、あなたは言った。
 ”A子、来てないわね。”
 ”そうみたいだね。”
 ”随分とつれないわね。初恋の人なのに。”
なぜ、A子なんだろう?小学校のときと同じだ。
 ”C雄も来てないね。”
あなたは、おどろいたように僕をみた。
 ”両想いじゃなかったけ?C雄と。”
ちょっと、考え込んだ後。あなたは、
 ”ひょっとして、知らないの?”
と言い、まるで僕を試すように、顔を覗き込んだ。
 ”何が?まさか、C雄がもう、、”
僕の言葉を遮るように、静かな声で、
 ”私、C雄と結婚したの”
 ”えっ。”
僕は、あなたの笑顔の次に、左手の薬指を確認していた。
 ”これね。”
あなたも、すでに、僕が結婚指輪を確認しているに気がついていたようだ。
左手を僕に差し出しながらいった。
 ”正確には、結婚していたの。もう10年以上前のことよ。”
あなたは聞きもしないのに、これまでのことを話しはじめた。
C雄が転校した後も、文通をして交際を続けていたこと。
大学を卒業すると、すぐに結婚したこと。
二人の間に子供ができなくて、そのせいで、C雄が浮気に走ったこと。
1度目の浮気は許したけど、結局は心が離れていったこと。
 ”2度目の浮気のときは、怒りもなく、終わりが来たなって、感じたわ。”
あなたは軽く頭を下げ、
 ”つまない話で、こめんね。あなたは結婚してないの?”
 ”してないよ。”
 ”あら、A子のことが忘れられないの?”
僕は、少し考えたあと、長年の疑問を聞いてようと思った。
 ”なぜ、A子なの?僕がA子を好きだった、と思う?”
 ”A子のこと、好きじゃないんだ。”
 ”勝手にそう思ってるだけだよ。”
あなたは、あの笑顔を浮かべながら
 ”好きでないことは知ってたわよ。でも、あなたが、そう言わなかっただけ。”
僕は、あなたが何を言っているのか、解らなかった。
 ”もう遅いってこと。”
そういい残すと、あなたは僕から離れていった。
その日、二度とあなたが、僕を見ることはなかった。
僕は、あなたの帰った後の2次会にも参加した。
少しやけ気味だったせいかもしれない。
でも、C雄の親友から思いもかけないことを聞いた。
C雄は、高校生のとき、交通事故で死んでいた。

それ以来、僕は悩んでいる。
あなたは、なぜ、あんなつくり話をしたのか?
そして、聞きそびれた、あの眼差しの意味。
でも、僕にもわかったことがある。
はじまりがなければ、終わりはない。
いつか、あなたを理解できたら、はじまるかもしれない。
ただ、問題は、それを僕自身が望んでいないことを。

                  おわり?

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