
いまから丁度50年前、初の本格的な日仏合作映画として作られた作品があります。その映画を、今日初めてスクリーンで見ることができました。そして、その映画の主演女優の実物を目の前で見るという貴重な体験にも恵まれました。
それは、仕事の帰り、議員に夕飯に誘われて行った先のこと。
場所は東京日仏学院。映画の撮影50周年を記念した夕べが行われていました。
映画の名は『ヒロシマモナムール』。フィルムノワール(もとい「ヌーヴェルヴァーグ」でした)はてんで無知な私には無縁だがかなり高名な映画だそうです。実に前衛的な作品で、とても半世紀前に撮られたものとは思えませんでした。
上映後に行われた日仏女優競演の朗読会の冒頭挨拶で、演出を担当した映画監督の吉田喜重(よしだきじゅう)氏が当時のカンヌ映画祭での受け入れられようを大体このように語りました。
その伝説の名作『ヒロシマモナムール』を実際に見た後、その主演女優で御歳81歳の
エマニュエル・リヴァ(Emmanuelle Riva)本人が登場し当時のことを熱く語るのだから堪りません。レセプション後には握手する機会にまで恵まれ、まさに感無量の体験でした。
しかしまだありました。上映後の朗読会は日仏競演で行なわれたのですが、日本側も負けてはいませんでした。吉田監督の妻であり大女優の岡田茉莉子(おかだまりこ)の登場です。この日仏二大ベテラン女優が、『ヒロシマモナムール』の原作者、マルグリット・デュラス(Margerite Duras)の詩を交互に、日仏で朗読するのです。スクリーンにはそれぞれの番に応じて、日仏の字幕が交互に、読み手のスピードに応じてタイミングよく表示され、吉田監督のシャープな演出が冴え渡っていました。
日仏二大女優によって読まれるエロスの巨匠デュラスの詩も刺激的でした。
吉田監督の前説によれば、日本女優・岡田茉莉子によって日本語で読まれる詩はまさに『ヒロシマモナムール』の題材ともなって自叙伝的なもので、そこ で語られるのは女としての「苦悩」だそうです。それも精神的な愛情飢餓ではなく、性愛的な飢餓感からくる苦悩のことでした。実に深い世界です。デュラス自らが戦場で夫を失う孤独感から他の男と の情事に走ってしまったmorale(倫理)の限界が綴られていました。
フランス女優・エマニュエル・リヴァがフランス語で読んだ詩は、性愛的な衝動に駆られつつもハッと立ち止まることによる「孤独」を表現していました。さらに感情の抑揚などがまったく表現されておらず、監督のアラン・レネ(Alain Rennais)が「映画」というものに求める、三位一体ならぬ「三位独立」が見事に演出されていました。三位独立とはつまり、映画とはそもそも、音楽、映像、台詞がそれぞれバラバラに入って作られるものであり、ちぐはくであって当たり前であるという、レネ監督独自の考え方です。
実は『ヒロシマモナムール』は撮影中の事故により、撮影時の台詞のカットの音声録音がうまくいかず、フランスにフィルムを持ち帰ってから、日仏の俳 優が揃ってアフレコをしたという逸話があるそうです。これは、今回の上映後のディスカッションで、リヴァ自身が明かした話でした。しかしおかげで、どんなにうまく録音がで きていても、映像と台詞の統一感を欠いた作品になってしまい、はからずしも、レネ監督が求めていたことが実現した作品となったのが、『ヒロシマモナムール』なのです。
この「三位独立」した日仏初の本格的な合作映画、『ヒロシマモナムール』は、現代でも十分通用する深い作品です。是非またじっくり観てみたいと思いますが、DVDなど果たして発売されているのかどうか・・・。
今日は本当に、貴重な体験をさせてもらいました。
偶然とはいえ、誘って頂いた議員に大感謝の日でした。
今日のささやき
その前衛さによって
時代の風潮を越えて
受け入れられた作品
知恵と情熱を持てば
あらゆる壁を破れる