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世界の秩序に乱れ、高まるリセッション(景気後退)の足音

2019-08-17 14:50:05 | 国際社会・国際会議・国際政治・経済・法及び条約等

 世界の秩序に乱れ、高まるリセッションの足音

 2019 年 8 月 15 日 10:45 JST    WSJ  By Greg Ip 

――筆者のグレッグ・イップはWSJ経済担当チーフコメンテーター

 世界がどう機能するかの前提が崩れると、世界的な景気低迷がしばしば後に続く。

1970年代の初め、安価な原油の時代が終わったことを世界は学んだ。80年代初めには国家が

デフォルト(債務不履行)に陥ることを、そして10年前には、米国の住宅ローンや世界的な大手銀行が

安全ではないことを知った。


 現在起きているグローバリゼーションの再考もこれに似ている。ワシントンからブエノスアイレスに

至るまで、自由市場を互いに守り合う各国のコミットメントが崩れつつある。投資家はこれに対し

ポートフォリオを調整し、企業は投資を見直す一方、政策当局は対応に苦慮している。その全てが、

世界経済をリセッション(景気後退)へと近づけている。


 投資家は、中央銀行が限られた手段を使ってリセッションを回避できると考えている。中銀は実務型

官僚が集まるグローバル志向のエリート層最後のとりでだ。だが各国中銀は消耗戦に引き込まれる

恐れがある。

 

 英国民が欧州連合(EU)離脱に賛成票を投じ、ドナルド・トランプ氏が米大統領に選出された2016年、

ナショナリズムとポピュリズムが大きく報じられた。当初は、グローバリゼーションや自由貿易、

制御不能な移民の流れがもたらした文化や経済面の懸念に関し、実務型官僚のエリート層が無関心で

あることへの反動と受け止められた。


 だがここ1カ月で、ナショナリストたちはグローバリストの行き過ぎを是正しているだけではない

ことがはっきりしてきた。彼らはまるごと奪い取ろうとしている。大半の通商関係維持を目指した

EU離脱交渉は2年たてども実を結ばず、英国では今や、ボリス・ジョンソン首相が誕生し、経済的コスト

がどうあれ10月31日までにきっぱり離脱する構えを示している。

 

 トランプ氏が同盟国に押しつけた保護主義的な主張は、米内外の対抗力によって抑えられてきた。

だが中国との貿易協議の決裂は、主要国間の経済関係を巡るルールがさらに根底から覆される可能性を

予見させる。新たな協定の策定を棚上げにした米中は、単発的で力任せの関税や通貨の切り下げ、

報復といった手段に出ている。13日に予想外に発表された関税延期は単にそれを裏付けたにすぎない。


 他国に目を転じれば、イタリアでは反EU・反移民を掲げる「同盟」政党の党首でもあるマッテオ・

サルビーニ副首相が、解散総選挙に持ち込めば自身が政権を握れるとの期待から、自ら参画している

連立政権の解消を目指している。米同盟国の韓国と日本の間では、癒えない歴史の傷を巡り貿易戦争が

起こりつつある。アルゼンチンでは今週、通貨ペソと株式相場が暴落。同国を目下の苦境に陥れた

ポピュリズムと保護主義の伝統を持つペロン党の候補が、次期政権を率いると有力視されるように

なったことが背景だ。

 

 ここ2年というもの、米国をはじめ世界の主要国はナショナリズムとポピュリズムを軽視していた。

保護主義は抑制され、トランプ氏の減税や規制緩和のようなプラスの材料で十分に相殺されてきた。

だがこれ以上、目をつぶることはできない。企業も投資家も、国際取引に何らかのルールが導入

されればどうなるか不安で、高リスクの投資から引き揚げている。

 

 英国ではEU離脱の不確実性から企業の投資が滞り、一時的である可能性が高いものの、4-6月期

(第2四半期)のマイナス成長の一因となった。主要国でおそらく最も貿易に影響を受けやすい

ドイツは、リセッション入りした可能性がある。14日発表された指標によると、4-6月期はマイナス

成長となった。米中はともに輸出が減り、成長が減速している。米製造業は輸出と投資の急減に打撃を

受けている。


 ドイツ銀行のパラグ・サッテ氏によると、株式市場の変動は世界経済との関わりが特に大きな銘柄に

よって増幅されている。同氏の推計によると、海外売上高が大きい上位100社の利益はここ1年で

3%減少した一方、米国内への事業集中度が高い企業では5.5%の増益となった。


 グローバリゼーションは過去数十年に幾度か一時的な後退に見舞われた。しかし今回は様子が違う。

かつて世界貿易機関(WTO)などの国際機関の設立を主導した米国は、今やそうした機能の破壊を

主導している。貿易エコノミストのチャド・ブラウン氏とダグラス・アーウィン氏は外交専門誌

「フォーリン・アフェアーズ」最新号で、トランプ氏が鉄鋼、アルミニウム、自動車に対する関税や

輸入数量割り当ての適用を正当化するために国家安全保障を持ち出したのは、米国が75年間続けていた

慣例との決別との見方を示した。「トランプ政権はこのところロシアと並んで、貿易障壁に対する

WTOの一切の異議を押さえ込むには国家安全保障を唱えるだけで十分だと論じている」という。


 米国はこれまで、経済、軍事、道徳的な力を発揮して同盟国間の経済統合を推進し、また緊張を

和らげてきた。レーガン政権とブッシュ父子の両政権で経済外交を担当したダン・プライス氏は、

「われわれは対立している当事者たちの肩を抱いて、まあまあ、じっくり話し合おうじゃないか、

と言ったものだ」と語る。


 トランプ氏はこれと対照的に、英国のEU離脱をはやし立て、日韓摩擦を制止する手はほとんど

打っていない。プライス氏は「誰も全体の利益を見守っていない、調整役がいない、と人々が考える

ようになり、米国が身をもって一国主義を正当化するのを目の当たりにすれば、他の国々も抑止が

効かなくなる」と指摘する。


 まだ危機やリセッションに発展していないのは、世界的にパニックを広げるレバレッジや金融上の

連携がほとんど見当たらず、健全な労働市場が消費者に恩恵をもたらしているからだ。

1970年代や80年代とは異なり、金利は低い。マイナス金利さえある。


 ただし、破壊的な一国主義はいずれ為替相場や金融政策にまで広がる恐れがある。

 中国はトランプ氏が追加関税を表明したことを受け、人民元の下落を容認した。カリフォルニア大学

バークレイ校の経済歴史学者、バリー・アイケングリーン氏は、経済的にはもっともな動きだったが、

中国は貿易戦争の停戦を探る気がないと投資家に受け止められたと指摘。


 「トランプ氏は中国や韓国、ベトナムの通貨がドルに対して下落するのを好まない。従って追加関税で

脅しつける可能性が高い」とし、世界の信頼感に大きな重荷となっているのは貿易政策である以上、

中銀は「止血に着手することぐらいしかできない」と述べた。



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