【ソウル聯合ニュース】今年のノーベル生理学・医学賞受賞者に東京工業大の大隅良典栄誉教授(71)が決まった。これにより、日本の自然科学系のノーベル賞受賞者は3年連続22人目(米国籍を取得した2人を含む)になる。
日本全国が喜びに沸いているのは言うまでもない。安倍晋三首相は3日夜、受賞者発表の直後に大隅氏に電話をかけ「先生の研究は難病に苦しむ方々に光を与えた。日本人として本当に誇りに思う」と祝意を伝えた。
3日、ノーベル医学生理学賞を受賞した大隅良典栄誉教授が東京工業大学で記者会見の途中に安倍首相から電話を受け、笑顔を見せる=東京/AP 聯合ニュース
日本科学界の度重なる成果を見て気持ちが沈むのは、日本がねたましいからではなく、韓国の基礎科学の研究環境がいかに劣悪であるかをあらためて思い知らされるためだ。ノーベル賞を受賞した日本の科学者たちは、他人が関心を持たない分野で黙々と研究に打ち込んできたという共通点がある。
大隅氏は東大を卒業し、米国に留学中だった1976年以来、40年にわたり酵母の研究に専念してきた。細胞の「オートファジー(自食作用)」の仕組みを解明するため、実に3万8000種類の突然変異の酵母を検査するという大変な作業の末に14種類の遺伝子がオートファジーに関わっていることを突き止めた。
だが、注目されない分野だったため研究費を得るのが難しく、自身の昇進も遅かったという。大隅氏は記者会見で「競争が好きではない」「人がやらないことをやるのが楽しい」と語った。自身の研究に地道に取り組む日本の科学者たちのこうした姿勢こそが、米国に次いで世界2位と評される日本の基礎科学の底力を生み出しているといえる。
執念を持った科学者が生涯にわたり研究に打ち込める環境をつくるには、政府の惜しみない支援が必要だ。日本政府は1995年に科学技術基本法を制定、2001年からは総合科学技術会議(現在の名称は総合科学技術・イノベーション会議)を設け、新技術や新知識の開発を体系的に支援している。
また、東大など少数の名門大学が人材や研究支援を独占するのではなく、旧帝大と地方国立大などが活発に交流し、競い合う日本科学界のオープンな環境にも注目する必要がある。日本のノーベル賞受賞者の中には、徳島大、山梨大、埼玉大など地方大学の出身者(学部基準)だけでなく、中小企業の元研究員も多数含まれている。
一方の韓国はどうか。理系トップクラスの大学受験生はほぼ例外なく医学部への進学を希望し、医学部の優秀な人材は形成外科や皮膚科など比較的仕事が楽で収入は多い分野を専攻するため競争に熱を上げるだけで、ほとんどの人は基礎医学など全く眼中にない。
企業がすぐに利益を出せる実用技術の研究に打ち込むのは分かるとしても、基礎科学の研究支援に大きな役割を果たすべき政府までもが短期間に成果を出すことを求め、研究費支援を受ける科学者たちを官僚的な規制でがんじがらめにしている。
こうした状況でついに、韓国の著名な科学者40人が、19兆ウォン(約1兆7500億円)を超える政府支援研究費のうち基礎科学の研究者が提案する課題に配分されたのはわずか6%ほどだと訴え、根本的な政策変化を求めるに至った。
政府と企業、学界がことあるごとに口をそろえて強調している通り、世界は今、人工知能(AI)などを活用する「第4次産業革命」の時代を迎えている。韓国は先進国が開発した技術を素早くまねるという戦略で産業化を成し遂げたが、今やそんな手法で中国などの新興国と競い合うことは不可能だ。
基礎科学の土台をしっかりと固めなければ、新たな時代に何も期待することはできない。ノーベル賞をもらうためではなく、国の生存のため、科学界の風土、政策、教育システム、企業の研究開発(R&D)、産学連携など基礎科学の振興に関わる全ての要素を見直し、時代遅れの古い制度と慣行を改めていくべきだ。
【社説】基礎科学を育成できなければノーベル賞は永遠に他人の祭り=韓国
2016年10月05日07時48分 中央日報
韓国は隣国の祭りを見物ばかりする状況だ。受賞どころか候補リストにも挙がっていない。韓国の研究開発(R&D)投資比率は国内総生産(GDP)比4.29%(86兆ウォン)と世界最高水準だ。日本や米国よりも高く、中国の倍にのぼる。しかしなぜこのような状況になるのか。
その根本的な原因は基礎科学研究に対する政府の軽視と短期成果中心の評価に探さなければいけない。研究予算が増えてもすぐに収益が生じる半導体・通信などに集中し、応用・先端技術の土壌である基礎科学は後まわしにする。
基礎科学の競争力は一日で生じるものではない。「科学が社会に役に立つのは100年後かも」という大隅教授の言葉を胸に刻む必要がある。
【社説】研究費世界一の韓国になぜ科学分野ノーベル賞受賞者がいないのか
2016/10/05 09:20 朝鮮日報
大隅良典・東京工業大栄誉教授(71)が今年のノーベル医学・生理学賞の受賞者に選ばれた。これにより、日本は科学分野のノーベル賞受賞者を22人輩出したことになる。
韓国と日本では科学研究の歴史が異なる。しかし、韓国は国内総生産(GDP)に占める研究開発費の割合が4.15%(2013年)で、主要20カ国・地域(G20)でトップだ。それでも科学分野のノーベル賞受賞がゼロというのは、学界の風土に問題があることを示している。
科学者40人は9月23日、研究開発(R&D)予算は増えているが、基礎研究は縮小しているとし、政策決定者が研究課題を下達するのではなく、研究者が直接提案した基礎研究への支援を呼びかけた。
数日間で科学者数百人が同調した。ソウル大自然科学学部の研究競争力を診断した海外の専門家12人は今年2月、「冒険的な研究よりも短期的な成果を重視しているため、既存の研究を踏襲する追従研究にとどまっている」と指摘した。
昨年7月にはソウル大工学部の教授が「韓国は先進国を模倣して改良することはできるが、概念を一新する設計能力があまりに不足している」とする報告書を発表した。
科学者は公務員が研究課題を定めるトップダウン式の研究開発費配分に問題があると口をそろえる。公務員が科学技術のトレンドを熟知しているはずはなく、官庁ごとの競争で重複投資も生じる。科学界は支援の配分をめぐって四分五裂している。
結局政府の支援金は2-3年以内に目に見える成果が期待できる分野に分散投資される。冒険的テーマに挑戦するよりも他人が既に開拓した分野に便乗し、断片的な研究実績を学術誌に発表し、計量的成果程度を立証する研究ばかりが量産されている。
このため、国家R&D事業の成功率は82%(12年現在)と世界最高だが、技術が事業化される割合は20%にも満たない。
米国(353人)に次ぐノーベル賞受賞者125人を輩出した英国の「分子生物学実験室(LMB)」は韓国では中規模の政府出資研究機関に該当する。
1962年の設立以来、LMBからはノーベル賞受賞者が13人も出た。55年の歴史で現在の所長は5代目だ。責任者の任期は通常10年を超える。政府は5年単位で予算を与え、一切干渉しない。
韓国政府は今年3月、囲碁の人工知能(AI)「アルファ碁」と棋士イ・セドルの対決直後、AI研究に1兆ウォン(約920億円)を投じると発表した。
このように流行を追い、「グリーン成長」「創造経済」など政権のスローガンに歩調を合わせるだけでは、人類の未来を革新する創意的な研究は生まれにくい。科学技術のマクロ的な流れに対する洞察力、若い人材を発掘する目、研究費を公正に管理する信望を備えた科学リーダーシップの確立が先決だ。
[社説]日本のノーベル賞3連覇から学ぶべきこと
2016.10.04 23:13 修正 : 2016.10.05 12:00 ハンギョレ新聞
大隅良典・東京工業大学名誉教授が3日、ノーベル医学生理学賞に選ばれた。これで日本は3年連続で受賞者を出した。日本の受賞歴は眩しく見える。
1949年湯川秀樹が初めてノーベル物理学賞を受けて以来これまでに基礎科学分野だけで22人の受賞者を出している。文学賞や平和賞を合わせると25人に達する。日本は2000年代以降では米国に次いで多くの受賞者を輩出した国になった。ノーベル賞に関する限り日本は韓国と比較にならないほど先んじている。
日本がノーベル賞大国になったのは第一に基礎科学分野に対する長年の関心と投資のおかげだ。その起源を詰めれば19世紀後半の明治維新の時期まで遡る。明治政府は早くから科学先進国に留学生を派遣し、それらの努力が実り、1901年の第1回ノーベル医学生理学賞の候補として北里柴三郎が上げられもした。
続いて1917年に理化学研究所を建てて30年余りで基礎科学分野で世界的な水準にまで達した。日本が基礎科学の先進国に至るには、このように100年先を見通した国家の支援と努力があった。
それと共に自分だけの世界で落ち着いて我慢強く掘り下げていける社会の雰囲気が、日本を基礎科学大国にしたもう一つの要因といえる。今回の大隅教授も「他の人がしないことをする」という信念で「細胞の分解」という珍しい分野に没頭したことが受賞の栄誉をもたらしたと述べている。
このような事実は我々韓国社会がノーベル賞のために何をすべきかという問いに対する指針を示してくれている。最も重要なことは国家が遠い先を見通す見識で、基礎科学分野に持続的な関心を示すことだ。
短期の実績だけに頼る気短い投資ではノーベル賞はよその国の話でしかない。私たちの社会全般の雰囲気も変わるべきである。今のように、可能性ある人材が基礎学問の分野に目を留めずに医大にばかり、それも整形外科のような金儲けをしやすいところにばかり集中するのは大きな浪費である。
それだけ、私たちの社会は未来に対する不安が強く、金銭が一番という考え方が蔓延しているためだ。このような大局が見られない雰囲気では根気ある努力を必要とする大きな業績は生まれようがない。国家の長期的な関心と共に社会の雰囲気の一大改革が必要だ。
[社説]3年連続ノーベル科学賞を出した日本に韓国が追いつけない理由
Posted October. 05, 2016 09:08, Updated October. 05, 2016 09:20 東亜日報
3日、東京工業大学の大隅良典栄誉教授が、2016ノーベル生理学医学賞を受賞し、日本が3年連続でノーベル賞を受賞した。
1970年代半ば、「オートファージ(autophagy・自家飽食)」研究を始めて50年、一つの井戸を掘った大隅氏の研究は、パーキンソン、アルツハイマー病、各種老化治療剤の開発に幅広く活用されている。日本人ノーベル賞受賞者は25人で、2001年以降、自然科学部門だけで米国に次ぎ2位(22人)だ。
世界が賛辞を送る日本科学技術の底力を目の当たりにし、韓国の現実はみすぼらしい。世界1、2位を争う研究開発予算だと自画自賛する政府と科学界は恥じを知らなければならない。
ついに科学者の集団行動まで立ち上がった。先月26日、国内の著名な科学者40人は、研究開発(R&D)支援が短期の成果にだけ集中し、政府が命じる課題が大半だとし、改革を求める集団請願を出した。3月、国内の理工系を代表する5大学の研究部総長が、短期の成果を重視する政府のR&D支援評価方式の改善を求めたのと同じ脈絡だ。
大隅教授は、「基礎研究をする若者を支援するシステムを作ることに貢献したい」と話した。通常、ノーベル賞受賞者は30代の時に書いた論文がその後、約数十年間引用され、60代に受賞する。日本政府は、今年から5年間、国内総生産(GDP)の1%である26兆ウォンを若い研究者の支援に使うと発表した。米国や英国も、アイディアと情熱を持つ若い科学者支援に研究開発予算を集中させている。
国内の場合、40才以下の研究者の数は全体の21%だが、研究費は7%しかない。研究課題評価も学縁と地縁中心で10年の長期課題も5年が経てば技術移転、実用化の要求が強く、大きな成果を出すことは難しい。
ネイチャーも指摘したが、韓国は位階秩序が支配する研究室で研究者間に討論がなく、縦割り研究文化も依然として残っている。ノーベル賞の季節が近づくたびに焦り、隣の宴をうらやむのではなく、R&D支援方式を革命的に改革しなければならない。
大隅教授は、「細胞内のごみ箱」という誰も注目しなかった突然変異酵母の研究を始め、「誰もしない事をする、科学者としてそれが楽しみ」と話した。若者たちには、「科学はすべて成功するわけではないが、挑戦することが重要だ」と述べた。流行に振り回されず、黙々と一つの井戸を掘れという助言を韓国の科学者も肝に銘じなければならない。
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