【社説】シリアを待つ「墓場の平和」
パックス・アメリカーナが終わるとき
2016 年 11 月 22 日 16:46 JST THE WALL STREET JOURNAL
バラク・オバマ大統領は20日、訪問先のペルーで、シリア紛争が近々終結する可能性について「あまり楽観できない」と述べた。極めて控えめな表現だ。国連によれば現在100万人の市民がシリア全土で紛争に巻き込まれている。中でも悲惨な状況なのが、ロシアとイラン、そしてアサド政権軍が反政府勢力への最終攻撃を仕掛けているアレッポだ。
6年にわたって紛争が続くアレッポでは20日、これまでで最大規模の空爆と砲撃が展開された。街の東部でその夜に診察を実施できた病院はわずかひとつしかなかったという。国際社会が反政府軍に対する援助も保護を行わない中、アサド政権を中心とした勢力はほぼ好き放題にしている。
死者が後を絶たない状況について、トルコのレジェプ・エルドアン大統領は国際社会の対応を批判。市民や難民を保護するために米国やその同盟国が飛行禁止区域の設置を再度考慮するよう強く求めた。その主張は正しい。しかし当のエルドアン氏も批判される側に立つべき人だ。米国はトルコによる反政府軍への援助を何年にもわたり嘆願していたが、同氏はアサド政権の転覆が目的に含まれない限りそれはできないと拒否してきた。
オバマ大統領は任期の最後まで自身の直感に身をゆだね、人道介入すら行う姿勢を見せない。米国がリーダーシップを示さない限り、他国が介入するようなことはないだろう。オバマ大統領にはウラジーミル・プーチン大統領に懇願するしか残された道はなかったが、ペルーでの両者は冷めた視線を交わし、握手をしただけだった。
道徳的な非難さえ気にしなければ、ロシアとその同盟国がシリアで何をしようとおとがめを受けることはない。プーチン氏はそのことを理解している。オバマ氏は道徳的な非難の声すらかき集めようとはしない。
ドナルド・トランプ氏が大統領に就任する2カ月後には、アレッポの戦いがすでに終わっている可能性がある。トランプ氏も行動する意欲は見せていない。21日、同氏はバーニー・サンダース上院議員に近い民主党のタルシ・ガバード下院議員(ハワイ州)と面会し、シリア情勢について語り合った。そのガバード氏が米国の国連大使に就任するという話もある。同氏はシリアについて何もする意志がないので、適任だろう。ロシアと中国が安全保障理事会で拒否権を持つ国連も、やはり行動する意志は持たない。
米国が世界のリーダーシップを放棄するとき、シリアのような光景が世界に広がることは理解しておかなければならない。パックス・アメリカーナがプーチン氏による「墓場の平和」に取って代わられるのだ。