カラマーゾフの妹
高野 史緒 著 講談社 / 2012.8
ドストエフスキーの書いた世界文学の金字塔『カラマーゾフの兄弟』には、書かれていない第二部がある。
父殺し事件の真犯人が別にいることは、第一部を詳細に読めば明らかなのだ。
事件から十三年後、カラマーゾフ家の次男イワンが特別捜査官として町に戻ったことで次々に暴かれる衝撃的な真実。
その日、本当に起こったこととは、そして家族が抱えていた真の闇とは何だったのか。
すべてがいま解き明かされる。
久しぶりに江戸川乱歩賞受賞作品を読んでみました(久々に読んでみたいと思った作品であったともいう)。
ちなみに、ドストエフスキーの『カラマーゾフの兄弟』は当然、読んでいません(笑)。
受賞者は既に作家デビューしていることもあってか、私が乱歩賞に感じる“風”を全く感じませんでした。
つまり、こなれていて新鮮さや初々しさや汗を感じなかったというワケです。
全体的にテンポがよかったので読みやすかったですが、どうしても注文をつけたくなるっていうのか…。
イワンが多重人格だった…というところから面白くはなってきたのですが、蓋を開けてみれば、多重人格になったきっかけが微妙。
しかも、カラマーゾフ事件の再捜査に興味を持ち出しゃばってきたトロヤノフスキーとやらの魅力が薄い。
当然のことではあるのですが、登場人物の名前がカタカナで、しかも、ニックネームで呼んだりするので覚えるのに苦労。
そして、私にとって最もシラケたのが、犯人の自白でした(名前は書きませんが)。
「聞かれなかったから…」っていうのも「へっ??」といった感じだし、その他の殺人も全部だし、しかも、どれもバレておらず、更に更に、罪を償うことなく最後は英雄扱い…。
カラマーゾフ家の全ての人が闇(病)を抱えてていて、だから、仕方ない…ともとれるラストは説得力がなかったと思いました。
そうそう、イワンの別人格『悪魔』の予知能力?これはイタダケナイ!
イワンの別人格『悪魔』が言う予知は、つまり、イワンの発言ということで、『悪魔』の予知による事件はイワンが犯人?と思わせるためだろうと思ったのですが、どうやらカラマーゾフ家の病がもたらす症状らしいです(「ええっ?」)。
オマージュやパロディとしては面白いのだと思われますが、やはり、私が感じたい“風”が感じられない今回の乱歩賞は残念としか言えません。
イワンの悪魔が予知能力を持っているというのは、「カラマーゾフの兄弟」を踏襲しています。
「カラマーゾフの兄弟」でも、アリョーシャがある知らせを持って訪ねてくる、とイワンに悪魔が言うシーンがありますから。
そうですか、『カラマーゾフの兄弟』で書かれていたことなんですね。
だから? といって、私の感想は変わらないと思います(笑)。