11月のテレホン法話「銀杏(いちょう)」             (11/16~/31)

2015-12-18 09:19:10 | 法話
「銀杏」
紅葉といえば紅(くれない)はモミジだが、黄色(きいろ)は深山(みやま)ならコシアブラ、里ならイチョウに止めを刺すのではないか。窟(いわや)毘沙門堂の境内(けいだい)には、二本のイチョウが聳(そび)え立つ。一つは蝦蟇(がま)ヶ池東(ひがし)の水口(みなくち)近くに、もう一つは蝦蟇ヶ池西の護岸にあり、後者(こうしゃ)は百年少し昔(むかし)に信徒が献木(けんぼく)したものである。その曾孫(ひまご)が達谷神楽の庭元(にわもと)であるのは、不思議な縁である。
植物なのに、雌雄(しゆう)の別があり、東が雄(おす)で、西が雌(めす)である。風媒花(ふうばいか)で、1キロくらい離れていても花粉が届くそうだ。ちなみに、被子(ひし)植物なら雄(お)蕊(しべ)雌蕊(めしべ)であるのに、イチョウが受粉後に花粉管の中で精子を作って受粉するのは、不思議な生態といえよう。
平瀬作五郎によって裸子(らし)植物の精子が発見されたのは、明治27年である。それが、恩師の池野成一郎のソテツの精子発見に結びつくのである。この功績により、共(とも)に帝国学士院恩賜賞を受賞している。
生きている化石と呼ばれるが、1000年ほど前には、江南(こうなん)に自生していたらしい。北宋の王(おう)都(と)があった開封(かいふう)に移植され、広まったとする説が有力だが、現在自生地はない。したがって、原産地を確定し難いのも、不思議である。
葉の上に銀杏(ぎんなん)が生(な)るオハツキイチョウや、葉が円筒状になるラッパイチョウ、そして銀杏(ぎんなん)を採るための園芸種など変種も多く、将に日本を代表する樹木ともいえよう。ちなみに日本では多くの社寺(しゃじ)に樹齢千年を超える大木が残っているが、イチョウの名木は東北に、その中でも青森県に巨木が多いというから、不思議な植物である。
参拝者の目を楽しませてくれた境内(けいだい)の銀杏が、11月11日に散った。黄金(こがね)色の絨毯(じゅうたん)に立って、葉の落ちた西のイチョウを見上げると夥(おびただ)しく実が生(な)っているのが分かる。毎年、果肉ごと拾って笊(ざる)に入れて洗って銀杏(ぎんなん)を採るのだか、臭いだけでなく、肌に触れるとかぶれるのでなかなか大変な作業なのである。困ったことに、不思議なことに、ここ2、3年ほど前から銀杏(ぎんなん)を食べる狸(たぬき)と先を争って拾わなければならないのは、可笑しな話でもある。
斯くして、不思議なことばかりだが、銀杏(ぎんなん)が毘沙門様の御宝前に御供えされるのは、師走15日の御縁日である。続いて、17日の観音様の御年越(おとしこし)に糧(かて)飯(めし)に入れられるのだが、これは昔から決まっているのである。

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