同じ会社で働き続けるのは有利か
転職を繰り返すのは良くないと聞きますが、同じ会社に長く勤め過ぎるのはどうなのでしょうか。職歴上良くないのでしょうか? もしそうなら、ひとつの職場でどれぐらい働いたら「長すぎる」とされるのですか?
確かに遥か昔は、何十年も同じ会社で長く働いて退職することが(「手厚い年金」や「功労として金の腕時計」などに象徴されるように)、会社への忠誠の表れのように考えられていました。しかし今日では、そうした働き方は我々の多くにとってもはや現実的な選択とはいえないでしょう。
短い期間で何度も転職を繰り返すのは、ジョブホッパー(職を転々とする人)と見なされるでしょう。対して、あまり長すぎるのも仕事に意欲を持っていないとか、型にはまった人だと見受けられかねません。
そこで、キャリアカウンセリングの専門家に、こうしたポイントから見たキャリア形成について聞いてきました。
キャリアを磨かずひとつの会社に居続けるとつけが回ってくる
ほとんどの人が今よりも良い機会を求めて仕事を変えます。高い給料や恩恵を得るために、さらにはまたより良いポジションでやりがいを感じられる仕事を求めて変化を起こすと言えるでしょう。これらは同じ会社に勤め続けていれば昇進という形でしばしば叶えられたりするものですが、このご時勢ですと、昇給が止まってしまったり、気持ちの上でも「仕事があるだけましだ」といった状態が続き、軽々しく昇進を期待できるような環境ではなく、職を確保するために何年も同じポジションで我慢し続けるといった状況が起きています。
仕事を変えることは、給与を上げ生涯年収を上げるためにも一番明確な解決策なのかもしれません。ある調査結果によると、社内で順当に昇進して行くよりも転職して外から入る方が、給与の面で18%から20%も高いのだそうです。
さらに考慮すべきはあなたの年齢です。LearnVest(個人の財産管理のための相談事業をする米国サイト)の調べで、長い間ひとつの職場で働いている人々の統計データを集めたところ、40歳代になると昇給は停滞期に入り、さらに45歳を超えると転職機会を見つけるのがだんだん難しくなるとしています。つまりもしあなたが40歳に近づいているのであれば、今後2~3年以内が高い給与、高いポジションのところへ移るにはちょうど良い時期だといえるでしょう。
結果的に、長く勤め過ぎた人が外に出なかったことで昇給を得るチャンスを逃す事に加えて、何年も社内で昇進できなかったりすると、転職時の採用担当者があなたを評価する際にそれが影響します。LearnVestはこうも伝えています。
ひとつの職場に例えば8年から10年の歳月を過ごすのは、新しい環境にそのプロフェッショナルがどう馴染むのかという疑問の声も上がるだろうから、長すぎるとされるのは理解に値する。
働いた期間よりも市場価値こそが大事
しかし、個人のキャリアのために敢えて転職を決意するのに、はっきりした時間の上限などはありません。前職の雇用期間の長さはキャリアの全体像を語る上での一部にほかならないのです。これまで着実に仕事のスキルを伸ばして来ているのであれば、新しい環境にも上手く慣れ、堅実な仕事のネットワークを構築し続けられることが証明できます。そこには「長すぎる」といった時間的な制約などありません。
実際に年功序列に則って指導的な立場となり社内でも発言権が増してきているようであれば、10年以上ひとつの職場に居続けるのもまた素晴らしい事です。会社側が願う未来のマネージメント職としてのふたつの資質、信頼に足る人物であり忠誠心のある人物だといえるでしょう。
IT事業における採用担当者のジョー・シェルトン氏は、重要なポイントは時代の波に乗り遅れず働く事だと言っています(文章内の強調部分は筆者による)。
ひとつの職場に長く居る事に規定の時間枠があるとは思いません。重要なのは、自分の専門分野において時代の波についていってること、そしてその分野で同じく働く人々とネットワークを作っておくことです。私はこれまで、20年以上勤務した後に会社を解雇され、業界内でも孤立し、その後の職探しがとても大変だった人々を見てきました。またその一方で、10年以上勤務しても常に時代の変化の波に乗り、仕事上のネットワークをあちこち作り続けて来た人たちが本当に素早く次の仕事を見つけて行くのも目の当たりにしてきました。もしあなたが現在の仕事に満足しているなら、長く働きすぎたと言った理由で辞める理由はどこにもありません。ぜひともご自身とその仕事のスキルにおいて市場価値を維持しておく事が大事であることをお忘れなく。
AvidCareerist社で管理職の人材コンサルタントであり、職務経歴書のライターでもあるダナ・スヴェイ氏はこのように述べています(文章内の強調部分は筆者による)。
良く耳にする質問に「同じ上司に付いてどれぐらい働いたら長すぎるといえるのか」というのがあります。上司が替わるたびに、職場環境や職習慣のようなものが大きく変わるのを受け入れざるを得ないでしょう。もし人が7年以上も同じ会社で働いていれば、彼らの職務経歴書の中には必ずどこか変化への順応性を垣間見ることができると思います。例えば、社内で直属の上司・部下の関係に変化があったり、ジョイントベンチャーに参画したり、指導的な役割を与えられたり、社内のビジネス戦略の著しい変化を体験したりなどといったところにおいてです。これまでいかに新しい職場環境に適応して来たのかをしっかり示し、説明をすることが大事なのです。
今現在新しい仕事を探していようといまいと、さらなる発展のために勉強を続けたり、今いる場所で自分が成長できる方法を探してやってみる事に損はありません。
職を転々としてたとしても大丈夫
短い期間で何度も職が変わるという事はキャリア上汚点にもなり得ます。しかし、人材専門家のペネロペ・トランク氏はジョブホッピング(職を転々とすること)は実はキャリア形成にとってプラスになり得るといっています。それはつまり職を移すことで仕事への情熱を維持でき、職業ネットワークがより早く形成され、やりがいが感じられ、自分の天職とは何かを探すことにも繋がるといった理由からです。
今後さらに若者が数年に一度は職を変えるようになり、そうした若者世代がだんだんと管理職に成って行って人を採用する立場になれば、職を転々とすることはかつて考えられていた程に悪い印象を与えなくなるかもしれません(アメリカ労働産業省労働局の発表では平均勤続年数は4.4年だが、若い世代ではその半分の年数とされる)。
ではどれぐらい転職をしたら「多すぎる」という印象を採用担当者に与えてしまうのでしょうか。パーソナル・ブランディングのブログを手がけているリチャード・カービイ氏は、「過去5年間に2回以上転職している、もしくは10年内に4回以上転職していること」と述べています(職歴を見定めるために採用する側が取り決めた雇用規約のようなものがあるのでは?と疑ってみたくもなるのですが)。
もちろん、このような事は採用する会社側の社内文化に基づいていたり、採用担当者らの見識であったり、さらには業界の常識があるとは考えられます。前述のシェルトン氏(IT事業における採用担当者)は以下のように述べています。
働いた期間が短ければ、たとえば1年以内に辞めてしまった仕事などを職歴としてあまりたくさん書き連ねたくないと思うかもしれません。しかしそれは見る人によって判断が違うのです。たとえば採用者がベビーブーム世代の人だったら5年以下の職歴であってもそれをジョブホッピングと見なさない人も中にはいるでしょう。でも一般的にこれまで順調に来た管理職の方が採用担当であった場合、ひとつの職場で1年から3年という職歴を見たらあまり良い反応を示さないかも知れません。
結果として新しい仕事を探す時は、職を転々としてきた人も長く勤めた人もあらかじめ用意しておくべき事は同じように思えます。それは自身のこれまでの職業経験が、受ける会社の求める人材といかにマッチしており、あなた以外に適任はいないと説得できるかどうかという事なのです。
もし短い職歴が続いてしまっているようなら、それらの仕事内容のつじつまを合わせて、自分の得意とする事とこれまでの業績をしっかりまとめて伝えればいいでしょう。もしひとつの職場で長く勤め上げてきたとしたら、自分がいかに経験を積んで社内でキャリア展開して来たのか、さらにそこでいかに成長し続けて来たのかを伝えれば良いのです。このように職探しの場面では、これまでの仕事をあなたがいかに伝えるか、その物語が全てともいえるのです。