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株高誘った石破首相発言、実は植田総裁の見解と大きな差異なし その狙いは何か 

2024-10-03 13:47:34 | 経済

 石破茂首相が2日に「追加の利上げをするような環境にあるとは考えていない」と発言し、3日の東京市場では、株高・円安が進んだ。市場の一部では石破首相の発言がブレて、株安・円高のポジションを作っていた参加者がはしごを外されたとの声が出ていたが、実態は高市早苗・前経済安全保障相が自民党総裁に当選すると判断して株買いと円売りを仕掛けた参加者のポジションのあやが、石破首相の発言で整理されたということではないか。

 市場参加者の中には3日の石破首相の発言はこれまでの主張を転換したと受け止める声が多いが、3日の植田和男・日銀総裁と石破首相の発言に大きな差異はない、と筆者は指摘したい。したがって10月の金融政策決定会合で示される「経済・物価情勢の展望」(展望リポート)で、賃金やサービス価格の上昇、堅調な消費動向に言及して「オントラック」の道筋を歩んでいることを指摘するなら、12月会合や来年1月会合での利上げ検討が射程距離に入っているとみるべきではないか。以下では、石破首相と植田総裁の発言に大きなかい離がないことを説明する。

 

 <「利上げする環境ではない」、株安・円高ポジションは巻き戻し>

 石破首相は2日の植田総裁との会談後、記者団に対して「個人的には、現在、追加の利上げをするような環境にあるとは考えていない」と述べた。さらに「これから先も緩和基調を維持しながら、経済が持続的に発展することを期待している」と語った。

 この発言を受けて、多くの市場関係者は日銀の独立性を重視して日銀の追加利上げを許容するとみられてきた石破首相が方針を転換し、ハト派姿勢を鮮明にしたと受け取った。

 3日の日経平均株価は大幅に反発し、前日比743円30銭(1.97%)高の3万8552円06銭で取引を終えた。ドル/円も一時、147円台までドル高・円安が進み、その後は146円後半での取引となっている。

 一部の参加者の中には、石破首相の発言で株売り・円買いのポジション巻き戻しを強いられて、発言のブレを批判する声も上がっているようだ。

 また、アベノミクスの主唱者の安倍晋三・元首相ですら、金融緩和の長期化を日銀に求めつつ、具体的な手法は「日銀に任せる」と発言してきたことを踏まえると、今回の石破首相の発言はこれまでの政府の慣例を大幅に踏み越えて「ブレーキを踏んだ」と受け取った参加者もいたようだ。

 

 <石破首相の発言に2つの条件設定の表現>

 だが、石破首相の発言を詳細にチェックすると、2つの「防護壁」が存在する。1つ目は「個人的には」という表現だ。「利上げする環境にあるとは考えていない」とは政府の公式見解ではなく、個人の見解であるという条件設定だ。

 2つ目は「現在」という時間的制約を示す表現が用いられていることだ。市場関係者の多くは、かなりの期間にわたって利上げするなというメッセージとして受け取ったようだが、長期間ではない、ということを断った表現であると指摘したい。

 さらに「これから先も緩和基調を続けながら」という部分は、実質政策金利が大幅なマイナスで、次に0.50%に利上げしても実質的に大幅な金融緩和が続く現状では、次の利上げを否定しているとは言えない、と指摘したい。

 

 <時間をかけて判断、2つの発言に共通する考え方>

 一方、植田総裁は、石破首相との会談後に記者団に対して「日銀の見通し通りに経済・物価が動いていけば、金融緩和の度合いを調整していくことになる」としつつ「本当にそうかを見極めるための時間は、十分にあると考えているので丁寧に見ていきたいと(石破首相に)申し上げた」と述べた。

 同じ日に行われた全国証券大会のあいさつの中で、植田総裁は「海外経済の先行きは引き続き不透明であり、金融資本市場も引き続き不安定な状況にある」と述べ、こうした点を慎重に見極めつつ金融政策判断を行っていく方針を示していた。

 二人の発言を比較すると、次回の10月会合での利上げの可能性が低いことを共に指摘しているとともに、その先の金融政策判断に関しては、何らの方向性も示していないと言える。

 つまり、二人の発言を比較すると、実質的には大幅なかい離はないと考えるのが妥当であると考える。

 

 <石破ショックの反応に強い警戒感>

 では、なぜ石破首相は「スタンスのブレ」という批判を覚悟で、上記の発言をしたのだろうか。それは自民党総裁に就任直後のマーケットで大幅な株安と円高が進み「石破ショック」とマーケットから攻撃されたことに対する強い警戒感があったからではないかと考える。

 10月27日の衆院選投開票を前に「マーケットに冷たい石破首相」「利上げに寛容な石破首相」という市場からのレッテルをはがしたい、という強い意向が働き、植田総裁との会談という場を設定し、マーケットの認識を逆転させるという行動に出たと筆者は指摘したい。

 一方、日銀も9月会合の「主な意見」では、市場の変動の行方を慎重に見極める必要があるとの声が多数並び、10月会合で直ちに利上げに動くべきという声が見当たらない、という印象を作っていた。

 したがって石破首相の発言を受けて、植田総裁が困惑したということはなく、冷静に受け止めつつ、今後の政府・日銀の緊密な意思疎通を確認したと予想する。

 

 <マーケットが見誤った赤沢再生相の重い存在感>

 ここで、1つ注目したいのは、1日の組閣後の会見で赤沢亮正・経済再生相が日銀に対し「金利の引き上げは慎重に判断していただきたい」と述べていたにもかかわらず、マーケットは3日の動きとは対照的にほとんど注目することなく、材料として織り込まなかった。

 そこで、石破首相やその周辺は、マーケットの無反応を見て「石破首相による発言」という切り札の行使を決断したのではないかと推理する。

 マーケットが見誤った点は、赤沢経済再生相が石破首相の「最側近」であり、その重要人物が石破政権のマクロ政策の方向性を左右する経済再生相に就任した事実を軽視したことだろう。

 今後は、市場参加者の注目が従来よりも赤沢氏に注がれることになるだろうと予想する。

 

 <注目される10月展望リポートでの判断と植田総裁会見>

 一方、日銀の利上げがいつになるのかは、10月会合で示される「経済・物価情勢の展望」(展望リポート)で賃金やサービス価格の上昇、消費や設備投資の堅調さをどのように評価するかによって、かなり推し量ることができると考える。

 もし、かなり積極的な評価が織り込まれ、会合後の会見で植田総裁がその点を認めるような発言をすれば、12月利上げも視野に入ってくるかもしれない。

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