伊方原発の廃炉のために

2006年から「伊方原発のプルサーマル問題」として続けてきましたが、伊方原発の廃炉のために、に15年に改名しました。

本「太陽は地球と人類にどう影響を与えているのか」を読んでみた

2022-01-31 17:16:22 | 続・温暖化いろいろ

 懐疑派/否定論の新たな項目についての別の本の紹介をしておきます。

温暖化懐疑派否定論の中でも人間以外に温暖化の原因を求めるうちの一つは「太陽活動が原因だ」とする論があるでしょう。
 最近の新書本から関係ありそうなものを取り上げてみます。

本「太陽は地球と人類にどう影響を与えているのか」
光文社新書1011
花岡庸一郎著 2019年6月発行


帯が刺激的です。
"変化しない退屈な星?
いえ、違います
今、社会で注目される「変化する太陽」
「爆発」は何をもたらすのか?地球温暖化との関係は?
「太陽物理学」入門"

 著者は国立天文台に准教授として勤め、「現在は国立天文台三鷹キャンパスで行っている太陽観測の統括を担っている」。
全部を知りたいわけではないので、急ぎ足で温暖化との関連を書いているだろうはずの、第4章と第5章をメインに読んでいきます。

第4章「変わらぬ太陽」は本当に変わっていないか
4-1「変わらぬ太陽」の変動
4-2太陽風と銀河宇宙線
4-3太陽活動と気候は関係あるのか

第5章 太陽活動の地球の気候への影響はどう議論されているのか
5-1太陽の明るさを変わっている
5-2太陽活動の変動は磁場の変動
5-3正しい太陽活動変動を理解する

P.9まえがき より
太陽の磁場が地球に影響を与える
 ”磁気活動は11年周期での変化のみならず、より長い時間尺度でも変化している。このゆっくりとした変化は先程のフレアが社会インフラなどに影響するのとは全く違った面で地球に影響すると考えられている。地球の気候の変動要因の1つとして、太陽の磁気活動の増減が挙げられているのである。
 実は最近40年ほどの間、黒点活動はだんだんと衰えている。”

第4章「変わらぬ太陽」は本当に変わっていないか より
P.167
”このように特に寒かった17世紀から18世紀前半のこの時期は実は第一章でマウンダー極小期として紹介した太陽黒点が極端に少なかった時期と一致しているのである。望遠鏡を使った太陽黒点の観測は17世紀初頭に始まり現在まで400年の歴史がある。この間の黒点数の変化を見ると特に気温が下がっていた時期と極端に黒点が少なかった時期がまさに重なっている。 この期間にあたる1645年から1715年をマウンダー極小期と呼んで
いる。”

P.171
”ここで、無黒点日が続いたという報道に戻る。近年になく太陽活動が低下したということは、マウンダー極小期のような黒点がほとんど現れない時期(大極小期と呼ばれる)が再び訪れ、今後地球の気温が低下していくことの予兆であるなどと言い出す人がいて話題になったわけである。”

●小倉要約
黒点の記録は太陽活動の反映。一方でそれとは違う、別の太陽活動のプロキシデータとして銀河宇宙線の影響を示すものが植物に吸収された炭素14(あるいはベリリウム同位体)という指標の変動データを用いて調べられている。

P.188
1976年のエディのデータで、太陽活動と気温変化の同期を示したグラフ
ロンドンとパリの冬の寒さを気温の指標として、黒点数観測、肉眼黒点の記録および炭素14比率を太陽活動の指標として表しています。(炭素14データを40年ずらす操作はどこまで妥当なのかはよくわかりませんが。)



●小倉コメント
 この気温データは、ロンドンとパリの冬の寒さを気温の指標としている、という点で、以前にマンの本の中で書かれていた欧州の一部についてのラムらの代替気温データのグラフ(IPCC一次報告書に記載)と類似したものでしょう。「冬の寒さ」だけで一年を通じた平均気温でもないですし。

P.189では、
“このように、銀河宇宙線の痕跡から再現される太陽活動と気候変動には、明瞭な相関があるように見える。ただ、より最近の気候変動の研究からは、偶然の一致で高すぎる相関になったと言う面があることも指摘されている。…それでは、より新しい研究では、過去にどのような気候変動があったと考えられているのであろう
か。”

…として、そのあとの節では氷期ー間氷期間の気温遷移とCO2濃度変化の65万年グラフや、2000年単位の気温変化と銀河宇宙線の痕跡変化を示したグラフを使って最近の研究解説をしています。
 ですがその後者には、実際にIPCCの第5次評価報告書の中での北半球の気温プロキシーデータ(マンの本のp.242で紹介されていた、第4次報告書に載った後追い研究のさらに新しい版)を気温の指標として使っています。(懐疑論の方にとっては悔しいことでしょうが。)



なので18のデータを一つ一つ見てもその大半はホッケースティック型で現代の気温上昇の実データまでつながることになります。

P.197
“また、気温の変化の方で、19世紀以降現在に至る温暖化が顕著に見えている。一方、太陽活動が対応して上昇しているようには見えない。このように、数百年単位で見れば太陽活動と気温変動に相関があると考えられるものの、細かい一致まで見て取るのは難しい。”

●小倉コメント
 著者は当然ながらホッケースティックの先の部分の温暖化に、太陽活動の変化が影響を与えているとはしていません。
(まあひいき目に見てやれば、20世紀前半には太陽活動が急激に活発化していることが気温上昇にも反映しているように見えないことはありません。
その一方で20世紀後半は前半と比べると減少しているので、太陽活動の活発化が近年の(最近50年間も続いている)温暖化の原因とは言い難いということも、妥当だと言ってしまってよいでしょう。)

 このあとは、もっと長期にわたる気候変動の話に入り、最終氷期の頃に何度もあったハインリッヒイベントやダンス・オシュガーサイクルということについては、

P.204
“このような気候の大変動は太陽の影響で起こっているわけではなく、地球の軌道や自転軸の傾きのゆっくりした変化が起こす氷期〜間氷期の気候変動に、氷期の氷床の発達・崩壊が始まって起きていることが知られている。 最近の太陽活動と気候の関係の話題では、地球気候は太陽活動に支配されているかのような議論も見受けられるが、氷期まで遡るようなより長い目で見ると、太陽活動は気候変動の要因として見ることすら難しく、それ以外の要因で気候が大きく変動してきたのを忘れてはならない。”
 としています。

 続いて第5章では、太陽活動の変化がどんなメカニズムで気温変化に影響しているのかについて、研究を紹介しています。

P.215
”ただ、いずれにしても、最も基本的な太陽の恵みである光のエネルギーの変動はわずかで、それが直接気候変動を起こす事は疑問視されており、そういう意味では「変わらぬ太陽」の根幹はやはり変わっていなさそうであると言うことになる。”
 本にはないグラフですが、こちらをTwitterワールドから紹介しておきます。 https://t.co/HecF7jx2MS



P.225
銀河宇宙線は気候を変えるか
“銀河宇宙線の増加で大気中に電離した原子が増えると、それが水蒸気が凝結する核の生成の誘因となって雲ができやすくなるという説がデンマークの地球物理学者ナイジェル・マーシュとヘンリック・スヴェンスマークによって唱えられている。雲ができやすくなると日光の地面への到達が減りそれだけ太陽光が地球を温める効果が減することになる。”
とスヴェンスマークの研究もp.226で紹介しています。



” この主張についてはこの発生が適切なのかその後起こった大規模火山噴火の影響が適切に考慮されているのかといった問題点も指摘されている。これは太陽活動が銀河宇宙船を通じて気候変動に影響するメカニズムの一説であるが、広く支持されているとまではいえない。”としています。

●小倉コメント
 スヴェンスマルクの研究については、周期的な変動はあっても、ベースラインを変えるものつまり50年間連続して上昇し続けている地球平均気温を説明するものとはとうてい思えません。
 雲量との関係では、黒点の数が減る→銀河宇宙線量が増える→雲が出来やすくなって気温が下がるというので、未来の黒点極小期(が仮にやって来れば気温は下がるはず)というだけのあったらいいな論になっているのではないでしょうか。

 最近50年間の継続しての気温上昇傾向(2つ上のグラフを見てください)について、太陽活動が関係している、という懐疑論の方々が望むだろう主張は、この本の中を読む限りでは出てきませんでした。

 黒点数の変動についてはp.233の「正しい黒点数の変動は」など過去の補正を指摘するものやらがあり、その過去には太陽活動の活発化が関係あるように見えていたが、現在の黒点数の評価ではそうでもない、という節があります。シミュレーションの現状などもごちゃごちゃしているので全体をお読みください。にわかにはまとまったものにはならない研究途上という風に思います。

 最後にまとめておきますと、この本は太陽観測の専門家による一般向けの解説本ですが、思わせぶりな表紙の文句にも関わらず、IPCCの中の気温データを使っていたり、オーソドックスな見解にとどまっていること、いくつかの懐疑派の議論に対して批判的な文言を出していることも見え、まあ普通の科学本であった、ということが出来ると思います。

●わかったこと
1.こういった現状のデータ理解からは、明快な代替のメカニズムによる太陽活動起因の温暖化が現在起きているのだ、という主張をするにはそのための根拠がなさすぎる、ということ。

2.近年衰えている黒点活動の傾向から、丸山大先生のように、2020年には小氷期に入っているはずだ、という大胆な予言を2010年の頃に出して恥をかかれた先生もいましたが、大先生はこれから10年後には、と未だに本の中では主張しているようです。
 そもそも予測できるレベルまで現象が解明されてもいないので、仮にそれが起こりうるとしても、先日のトンガの火山爆発のようにいつ起きるかわからない自然起因の変化が起こること(それも人間に都合がいい方向にだけ)を期待して、人為的な温暖化への無策を継続しようとするのはあまりに危険なギャンブルだ、という批判がそろそろ妥当になってきたように思います。


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