伊方原発の廃炉のために

2006年から「伊方原発のプルサーマル問題」として続けてきましたが、伊方原発の廃炉のために、に15年に改名しました。

3月3日の坂本茂雄氏による高知県議会一般質問への答弁批判

2015-04-10 10:14:19 | 南海トラフ地震で長期広域停電問題

 南海トラフ巨大地震問題で起こる長期広域停電が引き起こす伊方メルトダウンについて、2人目、高知県議の坂本氏がさる3月の高知県議会で一般質問に上げていただきました。

答弁はふざけた物でした。

そのことを文章に書きましたので紹介。

pdf版はこちらです。


現行の外部電源喪失時の過酷事故防止/収束対策の問題点

 原発さよなら四国ネットワーク 小倉正 

南海トラフ巨大地震が起こったとき、長期広域停電が起きても、非常用電源および無電力での冷却手法という2つのバックアップが万全なら大丈夫じゃあないか、 というのが、行政側の答弁の根底にあるようです。

以下、3月3日の高知県議会での坂本茂雄議員の一般質問への高知県の答弁(黒字部分、出典は(1))に対するコメント(青字の★印部分)の形で、現行の外部電源喪失時の過酷事故防止/収束対策の問題点を指摘しておきます。(阿部悦子愛媛県議も3月5日の一般質問でやり取りをしています(2)が、愛媛県の回答は細部に立ち入らないものでしたのでこちらを使います。)

◎坂本茂雄議員質問:

「本県の南海トラフ地震対策推進本部アドバイザーも務めておられる河田恵昭先生らが、昨年3月31日、関西大学社会安全学研究紀要4号で、「南海トラフ巨大地震における中長期的な電力需給ギャップ推計方法の一試案」と題して、東日本大震災で火力発電所の津波被災を検証し、南海トラフ巨大地震の津波被災の想定を行い、その結果、「四国の火力発電所の全てが5カ月以上の間停止する」と発表されています。もし、伊方原発が稼働していた場合に、この地震で過酷事故を起こしたときに、原子炉を冷却するための自家発電機の対応が50%の確率で可能だとしても、その燃料は2週間しか持たないという中で、この長期広域停電がもたらす影響を想定した対策は考えられているのか、林業振興・環境部長にお尋ねします。」

◎林業振興・環境部長(大野靖紀君) まず、南海トラフ巨大地震により、四国で長期広域停電が発生した場合に、伊方原発の対策は考えられているのかとのお尋ねがございました。

福島原発事故を教訓として、新規制基準では、電源を確保するための対策や、原子炉などを安定的に冷却するための手段の多重化など、従来の基準が強化されたものと承知しています。

★従来は過酷事故発生時の対応策、収束策(IAEAの深層防護の第4層)は法律で要求されていませんでした。「従来の基準が強化された」ものではなく、従来無かった範疇の第4層対策が新たに基準に組み込まれた点が大きな違いです。

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四国電力においても、福島原発事故を受け、長期の停電に備えて、

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★長期と言う言葉はあたかも5ヶ月に対応する言葉のように見えますが、それは単なるこちらの思い込みです、そもそも非常用ディーゼル発電機の燃料タンクが10日分し か用意していないのですから、その時間分しか備えていないものです。

311以前には「長期の外部電源喪失は想定する必要はない」とされていたことは、第 4層対策がなかったことの一つの実例でもありますが、そこで311事故の教訓を受けて 行われたストレステスト評価の中身が、ディーゼル発電用燃料の「10日分」をクリフエッ ジ(危機にいたる境界線の数値)であるとして、しかもこの長さの期間を是としていますの で、まさにこの10日分が「かつては想定する必要がなかった、長期」という言葉の意味する長さであると解釈するべきです。

 南海トラフ巨大地震で起こるこの5ヶ月の長期広域停電のことはそもそも「想定外」で したし、原子力規制委員会の審議の中で言及されてはいません。5ヶ月間のことは超長期 という呼び方にするべきだ、と主張するのも良いかと思います。

南海トラフ巨大地震で住民が備蓄すべき飲料水が7日分必要、と呼びかけられています が、本来必要なのは上水道施設に電力が供給されるまでの期間(つまり5ヶ月分)である、 のと同じくらい、的外れな準備であると言わざるを得ません。

5ヶ月の外部電源喪失という想定に対しては、原子力規制委員会は本来、5ヶ月分の燃料備蓄を求めるべきです。

1号機から3号機に、それぞれ2台設置していた非常用ディーゼル発電機に加え、

(以下、添付画像の出典は(3))

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★表の7-7に示してある新規制基準の要求は7日分の連続運転分だけです。

新たに、電源車などの7日間の燃料を確保できる重油タンクの3基の増設や 
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★複数台設置のローリーで燃料を丘の上のタンクから発電機のところまで運搬するという、坂道の道路利用を前提とした 仕組みにしています。人の操作が大前提というところにも脆弱性がありますが、四電は長い燃料パイプを設置していては、地震で壊れない保証がないと答弁しており、もっともなことです。

 所内でも液体燃料を運ぶのに苦労するなら、到着した重油運搬船から陸地に重油を陸揚げするところでも津波被災を受けていろいろな困難が予想されます。

非常用ディーゼル発電機の燃料消費量は、7日分で318.3m^3、 空冷式非常用発電装置の燃料消費量は、7日分で133.4m^3、 (資料(4)の中では同時に動かすことはない、とされています。)

緊急時対策所用非常用発電装置の燃料消費量は、7日分で80.3m^3

タンク側は、元の保有燃料容量は258m^3、追加の重油タンクは3基で150m^3、でまか なう計算としています。

これに加え、エンジン駆動型ポンプ用に軽油用のタンクも小規模のものが別途作られてい ますが、他の原発と同じ期間しか持たないのでは、全く想定が不十分です。

空冷式の大型電源車を4台配置する措置を講じています。

★これらのバックアップ用発電機器は、もとの非常用ディーゼル発電機と同じ仕様 の、大規模な設備ではありません。したがって外部電源喪失後に、最初の非常用ディーゼ ル発電機を瞬時に起動することに失敗する時点で、「冷やす」機能を喪失すること(全交 流電源喪失、10条通報事象)になることには変わりありません。

バックアップ発電機器は、2台の非常用ディーゼルの代替というよりむしろ、計装系の 停電問題に対応する、所内の一般電源用の機器であることが、「大阪府市エネルギー戦略 会議」の会合の場で佐藤暁委員から指摘されています。(5)

つまり、それら非常用電源設備があることは過酷事故収束策実施のための必要条件ではあっても、十分条件であるとは言えません。

参考画像:左が3号機、斜め後ろの丘の上にタンクを置いてい ます。 
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311のおりに無事に停止できた福島第二では1号機が津波被災したため一端10条通報が 行われていますが、所内に残っていた外部電源をケーブルを引っ張ってきて復旧していま す(6)。これに比べ、女川、東海第二ではいずれも外部電源が最低1系統は生きたままで した。これらの例は非常用電源の準備が必要条件であることの状況証拠になりそうですが、 十分条件とは言えないことは、電源車を多数送られたが爆発した福島第一が証拠となって います。

また、自主的な対策として、これまであった送電線に加え、異なる変電所からの配電線を既設し、

★この対策(高圧送電線3回線の独立運用と共倒れ回避)は送電網の最も上流側の火 力発電所が停止することに対しては、全く無意味な、とんちんかんな対策です。これを対 策として取り上げることへの理解に苦しみます。

必要に応じて、国、自治体とも連携し、陸海空のすべての運送手段を使って、発電 機の燃料を補充するとともに、

★陸海空のすべての運輸手段を使って、と言う言葉は、佐田岬半島の災害弱者を助 けるために動員する、と愛媛県の担当者が語っていたその言葉と同じです。では、南海ト ラフ巨大地震が起きたときに、避難民と原発とどちらに優先順位を付けるのか、災害対応 の二正面作戦は果たして可能なのか、するべきなのか、という論点の議論をして決着を付 けておく必要があるでしょう。その優先順位付けがなければ、どちらも上手くいきません でした、で終わってしまいます。 そもそもいったいどこから燃料を輸送するのか、南海 トラフ巨大地震による広域の被災そのものへの想像力に欠ける説明だとしか思えません。

災害対処の2正面作戦(地震津波災害対処と原子力災害対処)をやりたい防災担当者は どこにもいないと思います。この2つの複合災害を食い止めるための「予防原則」に基づ く抜本対策は、唯一再稼働をさせないこと、天災は予防できませんがこれで原発との複合災害は食い止めることができるんです。四国全域が5ヶ月間の長期停電をし、火力発電所 がすべて停止するという企業にとって最悪の想定を受け止めれば、南海トラフ巨大地震へ の全力での対応を優先課題としてとるべき四国電力も、伊方3号機のたかだか90万kW は捨てておくことがもっともBCP(事業継続計画)の上で重要な、名判断になりうるで しょう。

その2ルートある送電線を活用し、遮断された外部電源を早期に回復すると聞いて います。 

★この2ルートというのは、おそらく四国電力と本州の二社を結ぶ、電源開発所有の連系線のことを指しているのだと思います。南海トラフ巨大地震の際には、この連携線が無事かどうかも全くの未知数です。そして、河田教授らの論文によれば、和歌山側の関西電力も、岡山側の中国電力も、ある程度は火力発電所が津波で被災して、需給ギャップ ができる期間が続くため、四国電力に余剰電力を廻してくれる余裕があるとは限りません。東日本大震災の場合と同じくぶっつけ本番で復旧工程をやることになるのですから、「早期」がどれだけ日数がかかるかも分かりません。また火力発電所を復旧させるための重電機器の製造工場自体も、多くが被災地域になるだろう瀬戸内海沿岸や太平洋ベルト工業地帯にあるわけですから、本当に東日本大震災後 と同等のペースで電力 が復旧できるかどうかも判りません。

 これらの対策に加え、今後、 
非常用ガスタービン 発電機、 

直流電源、及び、

非常用外部電源受電 施設を設置することとしており、3号機 については、平成27 年度に工事が完了す るとの説明を受けています。

★上記(5)の説明に同じ

さらに、すべての電源が喪失した場合でも、原子炉等に水を注入し、安定的に燃料 を冷却できるよう、ポンプ車などを配備し、冷却手段の多重化、多様化を進めるこ とを確認しています。

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解説の図は四国電力資料(7)より

★冷却手段としてシステムの中に組み込まれているのは、電源が必要なECCS(緊急 時炉心冷却装置)系と、この蒸気で動く給水ポンプ(これはPWRの特長を活かした装置)だ けであり、それ以外は人がさまざまな対応を出来るよう、機材を揃えて いる、と言うレベル の対応です。

原子力規制委員 会の新規制基準は、 IAEAの深層防護の 第4層(過酷事故 の収束策部分)を今回初めてカバー しましたが、でき たらいいなという 対策に使える設備をてんこ盛りした だけの、ハードウ エアの有無を審査する内容であり、アドホックなAチームが担当として所長として全権をふるって対応するものならば有効でしょ

うが、そのようなチームが派遣されてやってくるわけではなく、従来からの社員、協力会 社員といったたまたまその場に居合わせる人たちの混成チームが対応に当たります。収束 作業に際しどれだけの被ばくを許容するのか、「決死隊」を募ることは労働法規に触れな いのか、といったテーマ、つまりアクシデントマベジメントにおけるソフト面、訓練の成 熟度合いなどヒューマンエラー対策には原子力規制委員会は正面から取り組んではいませ ん。

このように、四国電力においては、議員からお話がありました河田教授の論文で 推計されているような長期に電力が不足する事態に備えて、燃料の給油手段を複数 準備するなどの措置を講じ、安全確保に努めているものと認識しておりますが、今 後も勉強会等において、しっかり確認してまいります。

★前述のように、「長期」という言葉遊びに走ってだましをしています。超 長期の広域停電にともなう安全確保の必要性は初めて突きつけられた課題ですが、 四国電力の市民団体からの公開質問状への回答(電話による)は、伊方発電所の総 務課長松本氏から「質問事項については、原子力は必要なので、万全の安全対策の 中で今後とも取り組む。火力発電に対しても、必要な安全対策を今後とも続けてい く。」とだけしかありませんでした。(8)

いずれにいたしましても、現在、原子力規制委員会では、新規制基準による安全 審査が行われており、国においては、厳格な上にも厳格な審査を行い、基準に該当 しない原発は稼働させないとの姿勢を堅持していくべきであり、四国電力において は、安全確保に向けた最大限の努力をしていただく必要があると考えます。

【その他の論点】

1.これまで出てきている、フクシマの教訓に基づくヒューマンエラー対応としては、首 相/官邸が首を突っ込まない、原子力規制委員会も収束策の部分には首を突っ込まない、 という縛りを掛けているもようです。つまり、電力会社の所長他が、全権と全責任をもっ て収束作業に対応する、という仕組みです。 まあどこかでゴルフをしていて欲しい首相をトップに戴いている現状ではその通りでしょ う。が、電力会社が過酷事故時に最終的にどこまで責任を負うのか、といった程度の再発 防止の議論も出来ていない現状で、収束策にも責任を負わない原子力規制委員会が、電力 会社が天才チームを持っていることを保証しても、それを誰が信用できますか、安心には 全くつながらないということです。

2.ここで想定されている「アクシデントマネジメント」は、念には念を入れて、ほとん ど起こらないと想定されるケースの収束対策として準備している内容ですが、南海地震は

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史上もっとも確実に100~150年間隔で起こることが分かっている地震であり、その発生 時の規模が、最大規模のものが来るかどうかが確率的に分からないというだけですから、 伊方原発においては、確定的な事象として外部電電の長期喪失を想定の上で対策を提示す るべきです。(9)

実際には原子力規制委員会に、南海トラフ巨大地震への対応に特化させるための権限を 与えて、伊方原発の再稼働については審議をさせるべきでしょう。特に伊方原発について は、5~8ヶ月間の電源を維持できるかどうかを正式に評価、お墨付きを付けさせること がまずその一歩でしょう。 あるいは、「南海トラフ巨大地震による四国の長期広域停電問題」は伊方原発の再稼働 前に、経産省の他の部局などでそのリスクの評価、確認を要する課題であるとするのか、 いずれにしても、どこかがこの難問を解いてもらわないと、伊方再稼働はあり得ません、 と言っているだけなんです。

官僚(ここでは原子力規制委員会)の無謬性を無条件に前提として答えているのが県レ ベルの答弁の限界なんでしょう。

3.機械(エンジン、タービン、など回転機械一般として)についての信頼性工学のジャ ンルでは、MTBM(平均メンテ間隔)、MTBF(平均故障間隔)といった概念で、機械の継続 運転可能性が評価されています。たとえばガスマイクロタービン式発電機などでも、3000 時間(4ヶ月強)でメンテ期間に入るなど、個別のシステム単位でも長期の信頼性を確認 することは難しい課題です。長期の停電に対応できるシステムであるためには、個別の機 器の長期信頼性をはっきり示される必要があります。長期信頼性についての評価を抜きで、 長期広域停電に立ち向かうのは無謀です。

【資料編】

1.坂本議員の質問「3月3日代表質問仮議事録」 http://www.sakamoto-shigeo.jp/situmon1503.htm

2.阿部議員の質疑はこちら。 「3月5日は阿部悦子県議の最後の一般質問でした」 http://blog.goo.ne.jp/ikatanoplu/e/b7e25976df93602c3df357e7b6e5c96a

3.添付の画像はいずれも「伊方発電所3号炉 保安電源設備について」より(伊方の新規 制基準適合審査当初の四電資料)page9image6016

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その回の審査会合のページ(第9回平成25年8月15日) http://www.nsr.go.jp/disclosure/committee/yuushikisya/tekigousei/power_plants/ikata3/committee/index.html

4.四電の資料集 0017_04より

https://dl.dropboxusercontent.com/u/1663305/0017_04.pdf

5.「6/13にはブラックアウト由来原発事故問題が俎上に乗った!」(大阪府市エネルギー戦略会議のある会合のテープ起こしをしたもの)

http://blog.goo.ne.jp/ikatanoplu/e/35f752b319ab39448745b9df1ebdc4ae

6.福島第二原発の奇跡 ハフィントン・ポスト日本語版

http://www.huffingtonpost.jp/tomoko-nagano/fukushima-nuclear_b_5421167.html

7.四電、伊方原発の安全対策について

http://www.yonden.co.jp/publish/pdf/page_11_anzentaisaku.pdf

8.「10/21には追加で公開質問状を四国電力に手渡しました」 http://blog.goo.ne.jp/ikatanoplu/e/3778f35de01fb2ba9278493a896751e5

9.小倉が南海トラフ巨大地震そのものの新聞記事紹介を以前まとめたもの

https://dl.dropboxusercontent.com/u/1663305/南海トラフ3.pdf 


 

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