ユーラシアの風~2010年・自転車による単独ユーラシア大陸横断記

2010年・自転車による単独ユーラシア大陸横断記

街が死ぬ?

2010年09月20日 | 中国(4)烏市→喀什
カシュガル市内には、至る所に「老城(ラオチェン)」というウイグル人居住区がある。
土壁が続く老城の路地は、複雑に入り組んでおりまるで迷路のよう。そして、角を曲がれば鮮やかな民族衣装を纏った婦人や子供とすれ違う。RPGの世界に迷い込んだような感覚になる。











老城はどこかトルファンの故城群を思わせる。
真夏でも涼しく、土やレンガなどこの地の材料で作られ続けてきた住居である。何百年も続いてきた生活の舞台である。それを粉塵に帰してコンクリート都市に作り変える作業が、今日も急ピッチで進む。



わずかに残された老城は「民俗風景区」として保存されている。そして、そこに入る観光客は30元の料金を取られる。これまでは何の変哲もなかった当たり前の風景、そして今も人が暮らすただの街に、入場料をとってやろうという神経。それも市や自治区当局でなく、民間の旅行会社がやるのだからやるせない。



急速に進む工事は耐震のため、老朽化対策のため…と宣伝されている。四川や青海で起きた大震災の悲劇を思えば納得できる。それでは、残る老城に住む住民たちにはどんな解決策が供されるのか。金儲けの道具として囲われた街に住む人間は、当局の言う「安全と文明」から取り残されるのか?
ウイグル人の生活習慣を破壊し、文化を断絶し、宗教を排斥するための再開発…ウイグル人にそんなふうに言わしめるこの大工事。真相は、一外国人などが知る由もない。


旅人同士の間で、「カシュガルは死んだ」という言葉を聞く。あちこちで上がる土煙、大量になだれ込む漢民族の移民と観光客を目の当たりにして、以前を知る誰かが言い放ったのだろう。

入場料をとる老城に住む子供たちは、観光客にお金をせびることを覚えてしまった。漢語の旅行書では、少数民族の写真を取るためには、お金を渡すよう指南されている。
「イークワイチェン!イークワイチェン!(1元ちょうだい)」そう言いながらの満面の笑みを見ていると、なんとも言えない気持ちになる。しかし、しばらく一緒に遊んでいると、じきにお金をせびることなんて忘れてしまう。カメラを向けると、とっておきのポーズを決めてくれる。国道沿いの村々の子ども達となんら変わらない笑顔。




○みんなでテレビを見ています


住民は町の変化に翻弄されながら、生きていくしかない。
何か重苦しいものを背負いながらも、生き続けるしかない。

街は、変化するもの。景観も人心も、とどまれるものではない。
他所から来た者が、ある一時期のことを切り取って「良かった」と言うのは勝手だ。
でも、彼らは途切れることなくそこで生活をしている。
カシュガルは死ねない。そこに暮らす人がいる限り。






「民族分裂反対」
「共創美好未来、感謝党中央」
漢字で大書された看板が、砂埃の中にかすむ。
宿で休んでいると、今日も老城を破壊する地響きが聞こえる。



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