ヘチマカス

「泣いてみようとしたが泣けなかった…」「笑ってみようとしたが笑えなかった…」そんな心の不感症カモンが送る無意欲文章群。

クリニカ

2006-08-02 | Weblog

去年の冬だったんだけどね、

まあ、2005年も終わるということで、
新年は、新しく虫歯のないきれいな歯で迎えたいってことで、歯医者に通うことにした。

で、おれが待合室で待っていると、どう見ても服装の小汚い、一人の初老の男が入ってきたんだよ。

ゾンビみたいな、ボロキレ着て、ニオイもきつかったから、絶対、今でもあれは、乞食だったんだろうと思うから、
ここでも、乞食ということで、紹介して行きたいと思うんですけど、

そんなやつが、入ってきたからね、
第一印象は、正直キツイなって思うよね。

まあ、歯医者なんて、予約いれちゃえばもちろん、
しなくっても、飛び入りでも、診なくちゃいけないからね。

どんなキツイの来ても、ちょっと診てくれって言われれば、
診察拒否できないから、当たり前のことだけど、歯医者もラクじゃないですよね。


で、自分の順番待ってると、おれが先に呼ばれて、

少ししたら、その乞食が呼ばれて入ってきたんだよ。

かかとををひきずるような歩き方で、ニオイもひきずりながら、入ってきたんだよ。



この場合、歯医者はまだいいんだよ、助手もね、含め、みんなマスクしてるから。

おれを含め、それ以外は、みんな無防備だからね、正直キツかったんだけど、

けど、ちょっとここまでくると、面白いなって、

この先どうなんのかなって、まあ、怖いものみたさっていうか、確実におれは、その乞食から目が離せなくなっていたよね。



で、おれには麻酔して、その麻酔が5分くらいで効いてくるから、待ってくれって、
その間に、先生は、その乞食のところに寄ってって、「こんにちわ」って座ったんだけど、

「今日はどうされました?」ってきいたら、

「歯が痛いからみてくれ」って、開けた口には、乞食、
上の歯が1本あるだけ。

どうみたって、おれの角度からだって、それは、すぐわかったからね。


1本だし、先生もすぐ検診終わって、

「虫歯ですね」って、早いんだ。


まあ、それも、おれの角度からどう見ても、すぐわかったけど。それが、虫歯だってことは。



で、先生は、

「抜かなきゃいけない歯ですけど、どうしますか?」って聞いたら、

「抜きたくない」って、ロレツの回らない舌で言うんだけど、

「抜かなきゃ歯茎にバイキンが入って、たいへんなことになる」って言うんだよ。

おれに言わせたら、バイキンが入って大変なことになってるのは、今この歯医者なんだけどね、

まあ、それはいいとして、

そしたら、その乞食、

いきなり、

「ここに住みたい」って言い始めたんだよ。

もう、ちょっとビックリしたと同時に、感激っていうかね、「来タ来タ」って、一生懸命高鳴る鼓動抑えるのに、おれは必死だったんだけど、

その乞食に言わせると、

「このイスには、

水道もあるし、

灯りもある。

テーブルだって、テレビもある、

おまけに横になって寝ることさえできる、なんでも揃ってる」ということらしい。









たしかに。




だからって
「ここに住みたい」っていう、安直っていうか、ズレた思いつきはどうかと思うんだけど、

最初は先生もね苦笑いしながら「お父さん、それはムリですね」って、軽くあしらっていたんだけど、

「いや、住みたい」

「住みたい、住みたい、住みたい、住みたい、住まわせてくれ」って

ちょっと暴れだしたからね、

ああ、そろそろ警察かな、呼ぶのかなって、おれ思ってたら、



普通に、先生、その乞食、殴ったんだよ。





で、その瞬間、その乞食最後の、大切な歯が抜けたっていう、

いや、ほんとなんだって、

この話ね、結構周りの友達にしても、ほとんど誰も信じてくれなかったんだけど、

いや、ほんとの話。


まあ、結局警察来て、

そのあと、どういうことになったか、おれにもわからないけど、

その歯医者、友達にも紹介したよ、

ただ、歯医者も人の子、

気をつけるようにとは言って、送りだしましたけど。


だって、その殴った瞬間っていうのは、今でも目に焼きついてるからね。




ちょっとしたピカソのゲルニカ、

見てるみたいでしたから。










※あ、ちなみに、上の診察所の写真と、実際の歯医者とは、なんら関係ありません。

あしからず。

とおからず。


とおがらし。


あまからず。