去年の冬だったんだけどね、
まあ、2005年も終わるということで、
新年は、新しく虫歯のないきれいな歯で迎えたいってことで、歯医者に通うことにした。
で、おれが待合室で待っていると、どう見ても服装の小汚い、一人の初老の男が入ってきたんだよ。
ゾンビみたいな、ボロキレ着て、ニオイもきつかったから、絶対、今でもあれは、乞食だったんだろうと思うから、
ここでも、乞食ということで、紹介して行きたいと思うんですけど、
そんなやつが、入ってきたからね、
第一印象は、正直キツイなって思うよね。
まあ、歯医者なんて、予約いれちゃえばもちろん、
しなくっても、飛び入りでも、診なくちゃいけないからね。
どんなキツイの来ても、ちょっと診てくれって言われれば、
診察拒否できないから、当たり前のことだけど、歯医者もラクじゃないですよね。
で、自分の順番待ってると、おれが先に呼ばれて、
少ししたら、その乞食が呼ばれて入ってきたんだよ。
かかとををひきずるような歩き方で、ニオイもひきずりながら、入ってきたんだよ。
この場合、歯医者はまだいいんだよ、助手もね、含め、みんなマスクしてるから。
おれを含め、それ以外は、みんな無防備だからね、正直キツかったんだけど、
けど、ちょっとここまでくると、面白いなって、
この先どうなんのかなって、まあ、怖いものみたさっていうか、確実におれは、その乞食から目が離せなくなっていたよね。
で、おれには麻酔して、その麻酔が5分くらいで効いてくるから、待ってくれって、
その間に、先生は、その乞食のところに寄ってって、「こんにちわ」って座ったんだけど、
「今日はどうされました?」ってきいたら、
「歯が痛いからみてくれ」って、開けた口には、乞食、
上の歯が1本あるだけ。
どうみたって、おれの角度からだって、それは、すぐわかったからね。
1本だし、先生もすぐ検診終わって、
「虫歯ですね」って、早いんだ。
まあ、それも、おれの角度からどう見ても、すぐわかったけど。それが、虫歯だってことは。
で、先生は、
「抜かなきゃいけない歯ですけど、どうしますか?」って聞いたら、
「抜きたくない」って、ロレツの回らない舌で言うんだけど、
「抜かなきゃ歯茎にバイキンが入って、たいへんなことになる」って言うんだよ。
おれに言わせたら、バイキンが入って大変なことになってるのは、今この歯医者なんだけどね、
まあ、それはいいとして、
そしたら、その乞食、
いきなり、
「ここに住みたい」って言い始めたんだよ。
もう、ちょっとビックリしたと同時に、感激っていうかね、「来タ来タ」って、一生懸命高鳴る鼓動抑えるのに、おれは必死だったんだけど、
その乞食に言わせると、
「このイスには、
水道もあるし、
灯りもある。
テーブルだって、テレビもある、
おまけに横になって寝ることさえできる、なんでも揃ってる」ということらしい。
たしかに。
だからって「ここに住みたい」っていう、安直っていうか、ズレた思いつきはどうかと思うんだけど、
最初は先生もね苦笑いしながら「お父さん、それはムリですね」って、軽くあしらっていたんだけど、
「いや、住みたい」
「住みたい、住みたい、住みたい、住みたい、住まわせてくれ」って
ちょっと暴れだしたからね、
ああ、そろそろ警察かな、呼ぶのかなって、おれ思ってたら、
普通に、先生、その乞食、殴ったんだよ。
で、その瞬間、その乞食最後の、大切な歯が抜けたっていう、
いや、ほんとなんだって、
この話ね、結構周りの友達にしても、ほとんど誰も信じてくれなかったんだけど、
いや、ほんとの話。
まあ、結局警察来て、
そのあと、どういうことになったか、おれにもわからないけど、
その歯医者、友達にも紹介したよ、
ただ、歯医者も人の子、
気をつけるようにとは言って、送りだしましたけど。
だって、その殴った瞬間っていうのは、今でも目に焼きついてるからね。
ちょっとしたピカソのゲルニカ、
見てるみたいでしたから。
※あ、ちなみに、上の診察所の写真と、実際の歯医者とは、なんら関係ありません。
あしからず。
とおからず。
とおがらし。
あまからず。