一二九街近く、中山路沿いに建つ旧満鉄中央試験所です。
(和洋折衷の重厚な2階建てです)
1907年に、関東都督府中央試験所として建設が始まったとされています。
面積は6,660平方メートルで、かなりの広さがあります。
(当時の写真です)
満鉄中央試験所は満鉄調査部に属し、研究開発の拠点になりました。
設立当初は関東都督府の管轄で、その後満鉄に移管されたそうです。
科学・技術各分野のエキスパート約600人が在籍した巨大組織だったそうです。
アルコールの開発や大豆油の抽出、オイルシェールの開発、石炭の液化など、様々な研究開発が行われました。
この試験所を、「単に満鉄の研究機関にとどまらず、東洋における科学技術の殿堂として誇りうるまでに発展した」と評する文献もあるぐらいですから、相当の精鋭が集まっていたことが窺えます。
1909年には、夏目漱石がここを訪れています。
漱石は、著作「満韓ところどころ」で、満鉄中央試験所を次のように紹介しています。
これが豆油の精製しない方で、こっちが精製した方です。色が違うばかりじゃない、香いも少し変っています。嗅いで御覧なさいと技師が注意するので嗅いで見た。
用いる途ですか、まあ料理用ですね。外国では動物性の油が高価ですから、こう云うのができたら便利でしょう。第一大変安いのです。これでオリーブ油の何分の一にしか当らないんだから。そうして効用は両方共ほぼ同じです。その点から見てもはなはだ重宝です。それにこの油の特色は他の植物性のもののように不消化でないです。動物性と同じくらいに消化しますと云われたので急に豆油がありがたくなった。やはり天麩羅などにできますかと聞くと、無論できますと答えたので、近き将来において一つ豆油の天麩羅を食ってみようと思ってその室を出た。
出がけに御邪魔でもこれをお持ちなさいと云って細長い箱をくれたから、何だろうと思って、即座に開けて見ると、石鹸が三つ並んでいた。これがやっぱり同じ材料から製造した石鹸ですと説明されたが、普通の石鹸と別に変ったところもないようだから、ただなるほどと云ったなり眺めていた。すると、この石鹸に面白いところは、塩水に溶解するから奇体ですよとの追加があったので、急に貰って行く気になって葢をした。
柞蚕から取った糸を並べて、これが従来の奴ですと云うのを見ると、なるほど色が黒い。こっちは精製した方でと、傍に出されると全く白い。かつ節ふしなしにでき上っている。これで織ったのがありますかと聞いて見ると、あいにく有りませんと云う答である。しかしもし織ったらどんなものができるでしょうと聞くと、羽二重のようなものができるつもりですと云う。その上価段が半分だと云う。柞蚕から羽二重が織れて、それが内地の半額で買えたらさぞ善かろう。
高粱酒を出して洋盃に注つぎながら、こっちが普通の方で、こっちが精製した方でと、またやりだしたから、いや御酒はたくさんですと断った。さすが酒好きの是公も高粱酒の比較飲みは、思わしくないと見えて、並製も上製も同じく謝絶した。是公の話によると、この間高峯譲吉さんが来て、高粱からウィスキーを採とるとか採らないとかしきりに研究していたそうである。ウィスキーがこの試験場でできるようになったら是公がさぞ喜んで飲む事だろう。
陶器を作っている部屋もあったようだが、これはほんの試験中で、並製も上製もないようであった。
なるほど、漱石はここでお土産に石鹸をもらったのですね。
同じく1909年秋には、伊藤博文もここを訪れています。
伊藤の来訪時も石鹸と高梁酒、煙草の試験が行われていたそうです。イギリスに留学経験のあった伊藤は留学中に科学を学んだため、元々化学に興味を持っており、高粱酒を試飲したり、石鹸の試験に興味を示したとされています。
今は大連理工大学の研究所として利用されています。
(文物保護単位に指定されています)
(和洋折衷の重厚な2階建てです)
1907年に、関東都督府中央試験所として建設が始まったとされています。
面積は6,660平方メートルで、かなりの広さがあります。
(当時の写真です)
満鉄中央試験所は満鉄調査部に属し、研究開発の拠点になりました。
設立当初は関東都督府の管轄で、その後満鉄に移管されたそうです。
科学・技術各分野のエキスパート約600人が在籍した巨大組織だったそうです。
アルコールの開発や大豆油の抽出、オイルシェールの開発、石炭の液化など、様々な研究開発が行われました。
この試験所を、「単に満鉄の研究機関にとどまらず、東洋における科学技術の殿堂として誇りうるまでに発展した」と評する文献もあるぐらいですから、相当の精鋭が集まっていたことが窺えます。
1909年には、夏目漱石がここを訪れています。
漱石は、著作「満韓ところどころ」で、満鉄中央試験所を次のように紹介しています。
これが豆油の精製しない方で、こっちが精製した方です。色が違うばかりじゃない、香いも少し変っています。嗅いで御覧なさいと技師が注意するので嗅いで見た。
用いる途ですか、まあ料理用ですね。外国では動物性の油が高価ですから、こう云うのができたら便利でしょう。第一大変安いのです。これでオリーブ油の何分の一にしか当らないんだから。そうして効用は両方共ほぼ同じです。その点から見てもはなはだ重宝です。それにこの油の特色は他の植物性のもののように不消化でないです。動物性と同じくらいに消化しますと云われたので急に豆油がありがたくなった。やはり天麩羅などにできますかと聞くと、無論できますと答えたので、近き将来において一つ豆油の天麩羅を食ってみようと思ってその室を出た。
出がけに御邪魔でもこれをお持ちなさいと云って細長い箱をくれたから、何だろうと思って、即座に開けて見ると、石鹸が三つ並んでいた。これがやっぱり同じ材料から製造した石鹸ですと説明されたが、普通の石鹸と別に変ったところもないようだから、ただなるほどと云ったなり眺めていた。すると、この石鹸に面白いところは、塩水に溶解するから奇体ですよとの追加があったので、急に貰って行く気になって葢をした。
柞蚕から取った糸を並べて、これが従来の奴ですと云うのを見ると、なるほど色が黒い。こっちは精製した方でと、傍に出されると全く白い。かつ節ふしなしにでき上っている。これで織ったのがありますかと聞いて見ると、あいにく有りませんと云う答である。しかしもし織ったらどんなものができるでしょうと聞くと、羽二重のようなものができるつもりですと云う。その上価段が半分だと云う。柞蚕から羽二重が織れて、それが内地の半額で買えたらさぞ善かろう。
高粱酒を出して洋盃に注つぎながら、こっちが普通の方で、こっちが精製した方でと、またやりだしたから、いや御酒はたくさんですと断った。さすが酒好きの是公も高粱酒の比較飲みは、思わしくないと見えて、並製も上製も同じく謝絶した。是公の話によると、この間高峯譲吉さんが来て、高粱からウィスキーを採とるとか採らないとかしきりに研究していたそうである。ウィスキーがこの試験場でできるようになったら是公がさぞ喜んで飲む事だろう。
陶器を作っている部屋もあったようだが、これはほんの試験中で、並製も上製もないようであった。
なるほど、漱石はここでお土産に石鹸をもらったのですね。
同じく1909年秋には、伊藤博文もここを訪れています。
伊藤の来訪時も石鹸と高梁酒、煙草の試験が行われていたそうです。イギリスに留学経験のあった伊藤は留学中に科学を学んだため、元々化学に興味を持っており、高粱酒を試飲したり、石鹸の試験に興味を示したとされています。
今は大連理工大学の研究所として利用されています。
(文物保護単位に指定されています)
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