水中の動物と酸素1
これからしばらくは水中の動物たちの呼吸についての話です。
海の動物の代表といえば魚ですが、魚はとても効率のいい呼吸器官のエラ(鰓)を持っています。どれほど優れているかというと、エラを通った水の中の酸素の70~80% を吸収することができるのです。
具体的な例を挙げると、川の水(25℃)は1リットルに6mlの酸素を含んでいます。 500gのコイでは毎分約200mlの水がエラを通るので、酸素吸収率が80%とすると毎分約1mlの酸素を吸収できることになります(6ml×0.2リットル×0.8=0.96)。
もし、重さが100倍ある50kgの魚がこれと同じ機能と効率のエラを持っているとすれば、吸収酸素量も100倍になり、毎分100ml吸収できます。
ヒトと比較すると、ヒトの安静時酸素消費量は毎分約200mlなので、その半分を水中から吸収できるほど優れた呼吸器官です。
今回はいくつかの海の動物たちが持っている酸素吸収の仕組みとエラの萌芽的な器官について概観してみます。
(なおここの動物の事例の大部分はフィンガーマン比較動物学1982からの引用です)
<ナマコは肛門で息をするー魚以外の海の動物たちの呼吸戦略―>
○海綿やイソギンチャク、クラゲ(刺胞動物)たちは体表から吸収している。
これらの動物はほとんど運動しないので酸素必要量が少なく、また、重さに対して表面積が大きいので酸素はほとんど体表からの吸収で十分です。
例えば、海綿(スポンジ)は餌となる有機物を捉えるために体の中にたくさんの窪みや水路を造って海水を流していますが、そのために体が新鮮な海水と接する面積が大きくなって酸素の吸収も十分にできます。
○ナマコ、ウニ、ヒトデ、等々(棘皮動物)は呼吸専用の器官を持った。
体表から海水中の酸素を取り込むのは共通しています。
・ナマコは肛門の内側に一対の海水を流し込む樹状の管(呼吸樹)があり、体の中に延びています。肛門の開閉と呼吸樹の収縮がポンプとなって新鮮な海水を交換して呼吸樹から酸素を吸収しています。
・ウニには口の周囲に体壁が薄い袋状になった器官がありここからも酸素を吸収しています。
・ヒトデは表皮の一部が指状に突出した皮䚡といわれる呼吸器官(まるで髭のようです)を持っていて、体の表面積を広げています。
これらの水棲動物は比較的運動量が少なく酸素消費量も小さいのです。それでも体表を通して水中の酸素を体内に浸み込ませる(拡散する)だけでは必要な酸素を吸収できない場合には、体の中に窪みや管をつくったり、ひげのように体を変化させたりして、表面積を大きくして新鮮な海水から酸素を吸収する進化が生じています。動物の体は必要に応じて様々な形と機能を持つように変化できるのでしょう。
活発な運動をする魚のような動物では、大量の新鮮な水から血液へ酸素が効率よく吸収される仕組みが必要となります。
<排水口がエラに!>
○魚に進化する前
海底の砂の中にすむ数センチから数メートルの細長いギボシムシ(半索動物)は、砂に付着した有機物を食べるときに大量の砂を口に入れます。有機物を粘液に付着させて消化管に送って、砂は排泄して、吸い込んだ水を咽頭にあいた隙間(咽頭裂)から排出しています。また水中を漂う餌は口の周りにある繊毛を動かして水流をつくって口から咽頭に送り、有機物は消化し、水を咽頭裂から排出しています。
このように、咽頭裂はえさをとるときに一緒に吸引した海水の排泄口の役割が主でしたが、新鮮な水流が集中し絶えず流れるので酸素を取り込む働きを持つようになったと考えられています。
○魚類の祖先:ナメクジウオの咽頭
ギボシムシよりも進化したナメクジウオ(脊索動物)では咽頭の前方にある繊毛の働きで浮遊する餌粒を咽頭に送ってそこの粘膜板で捕らえます。同時に吸い込んだ大量の水は咽頭内の血管網を流れるときに酸素を血液に渡して䚡裂から排泄されます。これは魚のエラへの進化の途上にあるようです。
〇魚類のエラはこの䚡裂を縁取る壁が折りたたまれ、毛細血管網を備えるように発達して、血流と水流が十分にガス交換できるように進化したと考えられています。
海の動物たちの体が酸素需要に応じて柔軟に構造と機能を変えています。太古の動物たちの持つ様々な萌芽的な呼吸器官が永い進化の中で試行錯誤してエラに変わっていった様子が思い浮かぶようです。
参考文献
フィンガーマン比較動物学(培風館1982)
Nature 2015年11月18日号
魚類生理学の基礎(恒星社厚生閣 2013)
wikipedia原索動物、ナメクジウオ
これからしばらくは水中の動物たちの呼吸についての話です。
海の動物の代表といえば魚ですが、魚はとても効率のいい呼吸器官のエラ(鰓)を持っています。どれほど優れているかというと、エラを通った水の中の酸素の70~80% を吸収することができるのです。
具体的な例を挙げると、川の水(25℃)は1リットルに6mlの酸素を含んでいます。 500gのコイでは毎分約200mlの水がエラを通るので、酸素吸収率が80%とすると毎分約1mlの酸素を吸収できることになります(6ml×0.2リットル×0.8=0.96)。
もし、重さが100倍ある50kgの魚がこれと同じ機能と効率のエラを持っているとすれば、吸収酸素量も100倍になり、毎分100ml吸収できます。
ヒトと比較すると、ヒトの安静時酸素消費量は毎分約200mlなので、その半分を水中から吸収できるほど優れた呼吸器官です。
今回はいくつかの海の動物たちが持っている酸素吸収の仕組みとエラの萌芽的な器官について概観してみます。
(なおここの動物の事例の大部分はフィンガーマン比較動物学1982からの引用です)
<ナマコは肛門で息をするー魚以外の海の動物たちの呼吸戦略―>
○海綿やイソギンチャク、クラゲ(刺胞動物)たちは体表から吸収している。
これらの動物はほとんど運動しないので酸素必要量が少なく、また、重さに対して表面積が大きいので酸素はほとんど体表からの吸収で十分です。
例えば、海綿(スポンジ)は餌となる有機物を捉えるために体の中にたくさんの窪みや水路を造って海水を流していますが、そのために体が新鮮な海水と接する面積が大きくなって酸素の吸収も十分にできます。
○ナマコ、ウニ、ヒトデ、等々(棘皮動物)は呼吸専用の器官を持った。
体表から海水中の酸素を取り込むのは共通しています。
・ナマコは肛門の内側に一対の海水を流し込む樹状の管(呼吸樹)があり、体の中に延びています。肛門の開閉と呼吸樹の収縮がポンプとなって新鮮な海水を交換して呼吸樹から酸素を吸収しています。
・ウニには口の周囲に体壁が薄い袋状になった器官がありここからも酸素を吸収しています。
・ヒトデは表皮の一部が指状に突出した皮䚡といわれる呼吸器官(まるで髭のようです)を持っていて、体の表面積を広げています。
これらの水棲動物は比較的運動量が少なく酸素消費量も小さいのです。それでも体表を通して水中の酸素を体内に浸み込ませる(拡散する)だけでは必要な酸素を吸収できない場合には、体の中に窪みや管をつくったり、ひげのように体を変化させたりして、表面積を大きくして新鮮な海水から酸素を吸収する進化が生じています。動物の体は必要に応じて様々な形と機能を持つように変化できるのでしょう。
活発な運動をする魚のような動物では、大量の新鮮な水から血液へ酸素が効率よく吸収される仕組みが必要となります。
<排水口がエラに!>
○魚に進化する前
海底の砂の中にすむ数センチから数メートルの細長いギボシムシ(半索動物)は、砂に付着した有機物を食べるときに大量の砂を口に入れます。有機物を粘液に付着させて消化管に送って、砂は排泄して、吸い込んだ水を咽頭にあいた隙間(咽頭裂)から排出しています。また水中を漂う餌は口の周りにある繊毛を動かして水流をつくって口から咽頭に送り、有機物は消化し、水を咽頭裂から排出しています。
このように、咽頭裂はえさをとるときに一緒に吸引した海水の排泄口の役割が主でしたが、新鮮な水流が集中し絶えず流れるので酸素を取り込む働きを持つようになったと考えられています。
○魚類の祖先:ナメクジウオの咽頭
ギボシムシよりも進化したナメクジウオ(脊索動物)では咽頭の前方にある繊毛の働きで浮遊する餌粒を咽頭に送ってそこの粘膜板で捕らえます。同時に吸い込んだ大量の水は咽頭内の血管網を流れるときに酸素を血液に渡して䚡裂から排泄されます。これは魚のエラへの進化の途上にあるようです。
〇魚類のエラはこの䚡裂を縁取る壁が折りたたまれ、毛細血管網を備えるように発達して、血流と水流が十分にガス交換できるように進化したと考えられています。
海の動物たちの体が酸素需要に応じて柔軟に構造と機能を変えています。太古の動物たちの持つ様々な萌芽的な呼吸器官が永い進化の中で試行錯誤してエラに変わっていった様子が思い浮かぶようです。
参考文献
フィンガーマン比較動物学(培風館1982)
Nature 2015年11月18日号
魚類生理学の基礎(恒星社厚生閣 2013)
wikipedia原索動物、ナメクジウオ