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私達動物の息の仕方とその歴史

水中の動物たちの呼吸15

2022-12-31 21:00:00 | 日記
空気呼吸する魚たちー1

水中を生存圏として進化してきた魚ですが、陸上で空気呼吸をする魚もいます。
原初の魚類は皮フを使って酸素を取り込み炭酸ガスを排出する皮フ呼吸をしていたのですが、約4億年前の古生代デボン紀に硬骨魚から進化した肉鰭類(シーラカンスと肺魚、両生類の祖先)はエラに加えて肺を獲得しました。
肺を獲得した理由としては以下のような多くの学説があり未だに議論されています(水中の動物たちの呼吸6参照)。
○環境からの進化圧力:低酸素への適応
淡水での酸素欠乏、生息池の水の枯渇、汽水域での水位の干満
○生理的な進化圧力:浮力の獲得、心臓への酸素供給

鰾(浮き袋)や肺という特殊な空気呼吸器官は食道の壁の一部を外に向かって膨らませてつくりました。それ以外にも、口から消化管の各部位(口腔、のど、食道、胃、腸)を使う空気呼吸は進化史の中で独立して何度も発生してきました。現在までにわかっている空気呼吸魚は18目50科140属の約400種といわれています(オランダ版Wiki)。
空気呼吸器官はこの図のようにまとめることができます。これらの器官の主要な目的は酸素を吸収することであり、炭酸ガスの排出はそれまでと同じようにエラでおこなっていました。

多くの魚ではこれらの部位を一つだけでなく複数利用しています。例えばアミメウナギは肺と皮膚呼吸を、タウナギは咽頭とえら蓋の内腔と皮膚を使って酸素を吸収しています。
以下は、各呼吸器官とそれを利用する魚たちです。
① 頭部周囲の呼吸器官
頬内腔・咽頭腔・えら蓋内面・咽頭嚢・上鰓腔に呼吸のための上皮を配置
ハゼ科各種(ワラスボ、トカゲハゼ、トビハゼ、ムツゴロウ、ホコハゼ)、
ナマズ目(レッドキャット、ヒレナマズ)、タウナギ目、デンキウナギ、
ギンポ類、ライギョ、キノボリウオ
② 消化管に位置する呼吸器官
浮き袋管:ヨーロッパウナギ
食道:ダリア魚
胃 :ナマズ目(ロリカリア等)
腸 :ドジョウ、ナマズ目(カリクティス)
③ 肺または浮き袋
肺:肺魚3種、ポリプテルス、アミメウナギ
鰾(浮き袋):ガー目、アミア、アロワナ目、ネズミギス目、カラシン目、イシモチ、
ナマズ、デンキウナギ、その他
④ 皮フ
アミメウナギ、ヨーロッパウナギ、ドジョウ、ヒレナマズ目、デンキウナギ、ギンポ、
トビハゼ、ムツゴロウ、トゲウナギ、タウナギ、その他

はじめに①の頭部周囲の器官と心臓・血管についてみてみましょう。
○ハゼ科のワラスボ、トビハゼ、タウナギ、デンキウナギなどは頬および咽頭の内腔、エラ蓋内腔、皮膚などを利用しています。
魚種により利用する主要な部位は違いますが、最も陸上生活に適応したトビハゼの仲間では、口腔、咽頭、えら蓋の内側の空間に水と空気で泡を作り、そこから内腔表面に張り巡らされた毛細血管網の血液に酸素を吸収しています。
水中よりも空気中の方が酸素の吸収が良好です。

また、皮膚には薄い水の膜があって乾燥を防ぎ、酸素がその表皮を透過して皮下の毛細血管に吸収され易くなっています。陸上では吸収する酸素の約80%が皮フからともいわれています。
湿った皮膚と口腔、咽頭を利用する呼吸方法は両生類が採用している呼吸と同じであり、生きている期間の4分の3程度を陸上で過ごしています。(Wiki英語版)

デンキウナギ
デンキウナギの口腔は毛細血管が多数の蕾のように盛り上がって内面を覆い、口腔内に溜めた酸素を吸収している(Graham1997)。


キノボリウオの仲間:アナバス、ライギョ、ベタなど
実際は木に登ることはなく、雨天時などに地面を這い回る程度のようです。
えら蓋の中に上鰓器官(じょうさいきかん:ラビリンス器官)という迷宮のような構造・形により表面積を大きくして、その表面に発達した網状の毛細血管を介して、空気呼吸をします。補助的な呼吸器官ですが、陸上でも湿った環境なら長時間生存できるようです。


これらの魚の循環系は基本的には普通の硬骨魚と同じ構造であり、下図のように心臓―鰓―全身の血管が直列につながっています。エラへ流れる血液の一部は頭部周辺の空気呼吸器官へ流れて高密度の新生血管で酸素を吸収してエラから出てくる血液と合流します。
皮フ呼吸を併用する時は頭部と体幹の動脈の枝から毛細血管に分かれ酸素を吸収します。頭部呼吸器官と皮フの酸素に富む血液は酸素の少ない全身静脈血と合流して心臓にもどります。



これらの頭部周囲の空気呼吸器官とエラはハイブリッドになって、水中と空気中で切り替えて全身の組織に酸素を送るのですが、普通の魚と同じように、低酸素の血液が心臓に流れています。
トビハゼや木登り魚の仲間は四肢の代わりにヒレを使って干潟や湿地を歩いているので、陸生動物への途上にあるのかもしれない。しかし陸上での活発な生活のためには四肢に加えて、緻密心筋や心臓にもっと酸素を送れるような循環器の構造的な進化が必要です。

次はこれを解決した肺魚の話題です。


参考文献
Ishimatsu A :Aqua-BioScience Monographs, Vol. 5, No. 1, pp. 1–28 (2012)
Graham J.B.: AIR-BREATHING FISHES in Encyclopedia of Fish Physiology, 2011
オランダ版wiki:https://nl.wikipedia.org/wiki/Luchtademende_vis
英語版wiki:https://en.wikipedia.org/wiki/Mudskipper
インドUtkal大学講義録: Dept. of Zoology, Utkal University  Dr. S. S. Nishank Air breathing fish より

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