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私達動物の息の仕方とその歴史

低酸素への適応―その2

2020-10-06 18:00:00 | 日記
冬眠動物とハダカデバネズミだけでなく、もっと身近で低酸素への適応をしているほ乳類がいます。それは、海に暮らすほ乳類の、クジラやアザラシたちです。
前回書いたように、私たちを含め陸のほ乳類のほとんどが無呼吸(窒息)で生存できる時間の限界は5分以内でしょう。一方、クジラやアザラシなどは1~2時間も無呼吸で水中活動をすることができます。この様な水棲哺乳類の酸素欠乏に対する適応をみる前に、私達ヒトの酸素保有能力をまとめてみます。
◯酸素運搬と貯蔵
哺乳類では、水に溶けにくい酸素を運搬して貯蔵するために、血液中ではヘモグロビン(Hb)、筋肉中ではミオグロビン(Mb)を利用しています。体内にあるHbとMbの量から運搬・貯蔵している酸素量と肺内の分とを概算してみましょう(計算は後ろにまとめました)。
1.Hbに結合した酸素量:
血液中のHbは標準で15g/100ml(血液)です。60kgの成人の血液量を体重の8%とすると約5LなのでHbは750g、このHbに結合できる酸素量は37℃では1200mlですが、70%は静脈血なので、約990mlです。
2.Mbの酸素量:
Mb量を大まかに見積もります。牛や馬では胸の筋肉重量の約0.7%程度なので、ヒトも0.7%とします。例えば30才、60kgのヒトでは体重の約40%、24kgが筋肉なので、24×0.7%=168gです。このMbに結合する酸素量は235mlとなります。結局、HbとMbに結合している酸素量はこれらを合わせて、 概ね1200mlとなります。
3.次に肺の中です。肺の全容積(TLC)は約6L、そこの酸素濃度が呼気と同じ程度の16%ならば、肺内には960mlの酸素があります。それに、全身の組織液に溶け込んでいる約200mlの酸素が加わります。
以上を合計すると、約2400mlの酸素を体内に持っていることになります。ある時に窒息などで突然呼吸が止まったとすると、成人の安静時酸素消費量は約250ml/分なので、この2400ml酸素を完全に使い切ることができたとしても約10分間しか耐えられません。しかし、実際にはこの半分の1200ml程度使うと血液中の酸素の圧力が下がって使えなくなり、それが約5分という限界なのでしょうか。残りは、体中に低濃度で分散して有効に使えないということになります。
私達の酸素保有能力は概ねこの程度のようです。

それでは次に、クジラやアザラシの持っているHb とMb の酸素保有能力を《借りてみる》ことにします。
アザラシの中には血液量が体重の20%とヒトの2.5倍もあるもの、またHbが25g/dlとヒトの1.7倍の高濃度のものもいます。
また、筋肉中のMbでもアザラシやクジラは筋肉重量の5~8%とヒトの10倍ほどもあります。
もしも、ヒトがこれと同じ血液量とHb 、筋肉のMb組成を持ったとすると、血液中の酸素量が4100ml筋肉中は2400ml、肺や組織液中はほぼ同じなので、総酸素量は約7700mlにもなります。
これだけあると、安静にしていれば25分程度の無呼吸でも生存可能かもしれません。
クジラやアザラシたちのこの様な酸素備蓄の能力は驚異的ですが、さらに彼らは無呼吸でじっとしているのではなく、深海に潜り、そこで1時間以上も活動しているのです。そのためには、循環や糖代謝に様々な変化があるのですが、この続きはまた次回で。

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酸素量の概算
以下の計算では、酸素は37℃、1気圧で1モルは25Lとしています。
Hb の分子量は64500なので、750gは約0.012モル、Hb1分子に酸素が4分子結合するので酸素は約0.048モル、従って37℃では1200ml。70%が静脈血でその酸素飽和度が75%ならば、全血液では、1200x0.3+1200x0.7x0.75=990ml。
同様にMbの分子量は17800なので、168gは0.0094モル、Mbの酸素化が100%とすれば、同量の酸素が結合するので酸素量も0.0094モル、従って235ml

人の体の約70%が水(1L=1kg)です。37℃の1Lの水には約5mlの酸素が溶けるので、体重60kgなら、60x0.7x5=210で約200mlの酸素が溶けている。

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参考   
・Butler, PJ.  Physiological Reviews vol 77, No3. I997.
・クヌート・シュミット-ニールセン 動物生理学第5版 2007年 
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