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私達動物の息の仕方とその歴史

両生類の呼吸ーその7

2025-08-08 18:54:15 | 日記
両生類の呼吸―その7
代謝率について
******今回の要約****************************************************************
「両生類の呼吸-その4」では両生類の酸素消費量(代謝率)を有尾目サイレンで得られた結果を用いました。今回は有尾目、無尾目の広範な体重分布に対する代謝率のデータから15℃、20℃、25℃の体重―酸素消費量の関係式(回帰式)を求めました。
その回帰式を使って「両生類の呼吸-その4」と同様にして測定温度20℃で体重13gのカエルの酸素消費量と皮膚からの酸素消費量を比較しました。表皮の厚さは文献から0.05mmとしました。
その結果、20℃の陸上にいる13gのカエルの安静時酸素消費量は0.0135ml/分であり皮膚からの酸素吸収量は0.0183ml/分となりました。
皮膚酸素吸収量が酸素消費量よりも十分に大きいので、肺呼吸を併用すれば陸上での運動時でも低酸素になることはないと推測されました。
*********************************************************************************

「両生類の呼吸-その4」では、両生類の代謝率については、シュミットニールセンの教科書に記載された水棲の有尾目サイレン科で測定された関係式を両生類全般に使うことにして、代謝率P(kcal/日)と体重M(㎏)の関係式をP=0.79M^0.65 としました。(M^0.65はMの0.65乗を示します。以下同様)
けれども、その後いくつかの文献と書籍から、両生類のうち有尾目(サンショウウオ等)、無尾目(カエル)の体重と酸素消費量(代謝率)の関係式を求めることができました。
文献などのデータは体重をkg、酸素消費量を ml/分に変換してExcel上で両対数軸の散布図から累乗近似曲線により関係式(回帰式)求めました。その散布図は最後にまとめて記載しています。
また、後述するように、動物では1mlの酸素を代謝に利用すると4.8calの発熱量があることを使って酸素消費量を熱量(kcal)に換算して、は虫類、哺乳類と比較します。

1.有尾目の代謝率:サイレンとその他有尾目
〇サイレン(sirenidae)
上記のサイレンの関係式はUltsch(1974)の測定によるものです。彼は平均体重0.36gから1310gの水棲の有尾目サイレンを酸素で飽和された25℃の水中に2時間潜水させてから、1時間以上に亘り水中の酸素分圧の低下を測定して酸素消費量の平均値を求めました。
回帰式は、W(酸素消費量)=0.1113M^0.654(ml/分, M:kg)、相関係数は0.9896でした。(GR Ultsch. Gas exchange and metabolism in the sirenidae1974表9より)

○有尾目(サイレンを除く)と無尾目の回帰式
教科書(Environmental Physiology of the Amphibians Table12.1)には1897年から1989年までの間に報告された約750件の両生類の酸素消費量の測定値が一覧されています。
その表では、有尾目、無尾目、無足目に対して、5℃~30℃の範囲で体重(g)、酸素消費量(ml/h)、固有酸素消費量(ml/g/h)の測定値を利用できます。
サイレンを除く有尾目(サンショウウオ)と無尾目(カエル)について15℃、20℃、25℃の体重(g)、酸素消費量(ml/h)をKgとml/分に変換して回帰式を求め、以下の表にまとめました。
サイレンについてはUltsch(1974)のデータです。無足目についてはデータ量が少ないので回帰式を求めていません
なお、サイレンを除く有尾目と無尾目の回帰式を求めるときに、回帰式の係数と指数が大きく変化しない範囲で、散布図から4~5つの著しい外れ値を除いて相関係数を大きくしています。


・これらの回帰式の相関係数がどれも0.8以上で体重と酸素消費量の間に強い相関がみられます。
・回帰式の指数はサイレンでは0.65だが、有尾類、無尾類ではどの温度でも0.8程度です。有尾類、無尾類では多くの種が混在したデータから回帰式が求められていることが、サイレン1種の回帰式との違いの原因かもしれません。指数については、イモリ単独あるいはアマガエル単独の広範囲のデータから得られた回帰式の検討が必要かもしれません。
・有尾目と無尾目の温度変化では15℃と20℃の係数に大きな変化はないが、25℃になる と約2倍になって、体重を同じとすれば酸素消費量は2倍です。
両生類はもともと冷涼な15~20℃の環境に適応していて25℃では“暑すぎる”ために酸素消費量が増えているのでしょうか。
両生類やは虫類のような外温動物では温度変化により細胞内の代謝速度が変わります。一般的に代謝量の変化をみる指標としてある温度T℃とそれより10℃高いT+10℃の酸素消費量の比Q10 が用いられていて、Q 10の値は一般に2~3の間です。
有尾類と無尾類で15℃から25℃で酸素消費量が2倍になっているのはQ10=2に相当していて、この回帰式が代謝を反映していると考えられます。

○カエルの酸素消費量(代謝率)と皮膚からの酸素吸収量の再検討
「両生類の呼吸―その4」ではサイレンの回帰式を使って、25℃で体重1kgのカエルの酸素吸収量と代謝量をみましたが、ここでは今回得られた回帰式と平均体重を用い、表皮の厚さを再検討して酸素消費量と皮膚の酸素吸収量をみてみます。
まず、消費量はカエル20℃の式: W=0.476xM^0.82、体重Mは中央値の13g。
酸素消費量は、 W=0.476x(0.013)^0.82=0.0135ml/分となります。

また、カエルの表皮の厚さについてはヒトに近い0.3mmと仮定しましたが、今回文献を渉猟したところ、1951年の沢近氏の蛙皮についての論文が見つかりました。それによると、トノサマカエルの表皮の厚みは季節で変化し、背と腹でも差がみられて、平均37µ(概ね20~60µの範囲)とのことです。今回は表皮の厚さとして誤差も含めて50µ(0.05mm)と前回の1/6としてして計算します。
間質の酸素拡散定数は1.1x10^(-9)mmol/sec/m/mmHg(20℃)と前回と同様です。
表皮の厚さ0.05mmとして前回と同様に計算すると、皮膚からの酸素吸収量は単位表面積当たり3.17x10^(-4)ml /分です。
カエルの体表面積S(cm^2)と体重M(kg)の回帰式は前回と同じで:S=1060xM^(0.67)
これより、13gのカエルの体表面積=1060x0.013^0.67=57.8 cm^2なので、
吸収酸素量=3.17x10^(-4)x57.8=0.0183ml/分 です。

以上から、20℃の陸上にいる13gのカエルは安静時に酸素の消費量:0.0135ml/分であり皮膚からの酸素吸収量は0.0183ml/分となりました。
皮膚酸素吸収量が酸素消費量よりも十分に大きいので、肺呼吸を併用すれば陸上での運動時に低酸素となることはないでしょう。また空気に良くさらされた冷涼な水中ならば十分に酸素を取り入れることができると推測されました。

2.爬虫類・哺乳類の代謝式
 爬虫類の代謝率も多様です。いくつかの文献の回帰式を表にしました。
回帰式の係数は1前後であり、体重Mの指数は0.8前後でした。係数の値から爬虫類の酸素消費量は15~20℃の環境中の両生類の5倍程度でした。
両生類ではこの係数に相当するのは25℃のカエルの回帰式の係数でした。爬虫類の測定温度は30℃と両生類よりも高いことが関係しているのでしょう。


3.哺乳類の代謝式
哺乳類では体重M(kg)と酸素消費量W(ml/分)の回帰式は
   ○ W=11.3M^0.75 (シュミットニールセン)
教科書中の単位では体重M(kg)と熱量P(kcal/日):P=77.9M^0.75です。
(酸素1mlで4.8calとして換算)
○ W=12.2M^0.75 (本川 ゾウの時間ネズミの時間)
  本文中の単位では体重M(kg)とW(ワット):W=4.1M^0.75です。
(1Watt=1/4.19 cal/secで換算)
  哺乳類は両生類や爬虫類と違って外気温に依存しない内温動物なので体温を36~38℃に保つために、エネルギー消費量(代謝率)は大きくなっています。
回帰式の係数で比較すると、爬虫類の代謝率は15℃の有尾目の約5倍、哺乳類は30℃の爬虫類の約10倍の代謝率になっていました。
今回は、多くの文献や教科書から引用したデータで両生類の代謝率を算出し、それと爬虫類、哺乳類の代謝率を比較するためにずいぶん時間がかかりました。データは全てが最新の信頼性の高い値ばかりではないことや、データ処理における誤差も含まれていると思いますが、それぞれの生息環境下での代謝率は、おおむね哺乳類の1/10が爬虫類、爬虫類の1/5が両生類との結果でした。
今回の結果は「両生類の呼吸-その4」よりも正確と思われます。しかし両生類の動物種の間で間質の酸素拡散定数を同一としていますが、動物種毎の拡散定数は測定されていないのでしょうか?

<酸素消費量と熱量(カロリー)の関係について>
酸素消費量から熱量のカロリーへの変換については次のように考えます。
動物が代謝する炭水化物、脂質、タンパク質を代表する物質として、グルコース、パルミチン酸、アラニンを取り上げます。それぞれが酸素1Lで代謝されるときの熱量は、グルコースは21.4kJ(5.11kcal)、パルミチン酸は19.1kJ(4.56kcal)、アラニンは19.6kJ(4.65kcal) とほぼ20kJ程度です。動物によりこれらの代謝割合が変わっても10%以内(4.5~5.1kcal)なので、平均的に動物では酸素1Lの消費によって20.1kJ (4.8kcal)の熱量が産生するとしています(Dejours. P. 呼吸生理学の基礎 表2-1、およびK. Schmidt-Nielsen動物生理学:エネルギー代謝から引用)。
つまり動物においては、消費酸素量1ml当たり4.8calと換算されます。これを用いれば、酸素消費量を動物の代謝熱量に換算できます。

参考文献
1. K. Schmidt-Nielsen スケーリング: 動物設計論 コロナ社 東京1998
2..K. Schmidt-Nielsen 動物生理学 東京大学出版会 東京 2007
3 .Dejours P. 呼吸生理学の基礎 真興交易医書出版部 東京 1983
4 .GR Ultsch. Gas exchange and metabolism in the sirenidae (Amphibia: Caudata). Comparative Biochemistry and Physiology Part A: Physiology 47;p485-498 1974,
5. Feder ME. Environmental Physiology of the Amphibians. p317-329 table 12.1 Univ. of Chicago press. Chicago1992.
6. 沢近 巽 蛙皮の季節的変化、特にその組織測定. Archivum histologicum japonicum 2:79-83 1951 
7 .LK Maxwell et,al.  Intraspecific allometry of standard metabolic rate in green iguanas, Iguana iguana  CBP Part A 136: 301–310 2003
8 .Seymour RS et,al. Scaling of standard metabolic rate in estuarine crocodiles Crocodylus porosus JCP-B 183:491-500 2013
9 .RM. Andrews, FH Pough Metabolism of Squamate Reptiles: Allometric and Ecological Relationships Physiological Zoology, 58: 214-231 1985


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両生類の呼吸ーその6

2025-06-11 19:00:00 | 日記
両生類の呼吸―その6
有尾類・無足類の呼吸
① 有尾目
尾のある両生類で(有尾目、約670種)、サンショウウオ、イモリ、サイレンなどが現生しています。多くは低温で湿った地中や水中に棲息しています。
赤いアンダーラインについては画像を示しています。





有尾目は通常は肺を持っていますが、有尾目の2/3を占めるアメリカサンショウウオ(プレソドン)および、ハコネサンショウウオには肺はなく、皮膚だけで呼吸しています

・オオサンショオウオ(ヘルベンダー)
皮膚を使って消費酸素量の90%以上を吸収し、二酸化炭素の97%を放出しています。
下図のように、胴の大半を占めている大きな肺には肺胞構造はなくて、酸素吸収と二酸化炭素排泄のガス交換器としてよりも、おそらく浮力調整臓器としての機能が主と考えられる。
皮膚毛細血管は表皮細胞層を貫通して表皮の直下まで分布しているため酸素と二酸化炭素が皮膚を通って拡散しやすくなっている。
皮膚にみられる網目状のヒダとフラップによって、表皮の表面積を広げて毛細血管網の面積を大きくしている。さらに、静止しているときでも胴体を周期的に左右に揺れ動かすことで、皮膚のヒダを酸素が豊富で新鮮な水に換水している。

(A)アメリカオオサンショウウオ(B)レントゲン写真。肺(L)だけ着色、体腔内で占める容積が大きい。(C) 400gのサンショオウオの肺。大きく、透明で、血管の乏しい気嚢である。RW. Guimond。 Aquatic Respiration Science, Vol. 182, No. 4118. (1973), pp. 1263-65.
○サイレン
体長は25~95cmで、効率の悪いエラと肺胞のない肺とで呼吸をする水棲両生類である。
上肢はあるが下肢はない。他のサンショウウオとは異なり、心臓には心室中隔が存在する。
また、干上がった池の泥に潜り込み、粘液の繭で身を包んで干ばつの時期を生き延びることができる
○アメリカサンショウウオ(プレソドン、ムハイサラマンダー)
中生代末期の白亜紀末期と新生代の境界の頃に分岐した、有尾目中最大の科であり、もっとも進化程度が高いと言われている。前肢に4本の指、後肢に5本の趾がある。頭尾長は4-36cm。
肺を持たないので、酸素摂取量の約83%〜93%を皮膚呼吸に依存している。
肺の元になる肺原基は、個体発生の最初の3週間は発達するが、その後細胞死して消失します。代謝率を下げることで低酸素症に長期間耐えることができます。
(Wikipedia、Plethodontidae英語版より引用 DL:2025/4/15)
○ハコネサンショウウオ
全長10-19cm。発生の途中で肺の原基が形成されるが、発生の進行に伴い消失し、皮膚だけで呼吸している。
○トウキョウサンショウウオ
このサンショウウオについては東京で年に一回研究会が開かれています。その記事より、全長8~13cm(頭胴長は5~8cm)、体重は 以下の回帰式が提案されています。
log(体重g)=2.44log(頭胴長mm)-3.63
頭胴長80mmとすると体重約10gとなる。
(http://salamander.la.coocan.jp/salamander/98report.html DL:2025/3/20)
○トラフサンショウウオ
 陸生の両生類、肺はよく発達して機能的であり、主に肺呼吸をしている。

② 無足目(アシナシイモリ)
四肢を失った両生類です。この進化は地中生活への適応と考えられています。
アジア、アフリカ、中央アメリカ、南アメリカの熱帯域に分布し、日本にはいない。
両生類の中でもっとも多くの原始的な特徴を保ち、地中生活に高度に特殊化していて、全身に多数の環状の溝があり、外観は大きなミミズの様に見える(7~100cm)。
頭骨と脊椎骨を持ち皮膚呼吸と肺呼吸(左肺は痕跡的で右肺は拡大して円筒形の袋)をしています。湿潤な土中あるいは水中の環境で生息している。
幼生体では水中の呼吸のために外䚡を持っている場合もある。(図)。
両生類は陸上での生活を開始した四肢類であり、幼生ではエラを使い、成体では皮膚呼吸を主として肺、口腔なども呼吸器官としています。
特に有尾類ではトラフサンショウウオのように肺呼吸を主とするものから、プレソドンやハコネサンショウウオの様に肺を失って皮膚呼吸だけで生きているというように、水中と陸上の生息環境に合わせて肺と皮膚の機能を選択しています。
ヘルベンダーでは全ての酸素の取り込みと二酸化炭素の排出は皮膚から行われています。

肺呼吸を併用しているカエルでは、環境中の酸素濃度に応じて肺と皮膚毛細血管の血流が制御されます。つまり換水・換気が減少して周囲の酸素含量が減ると皮膚血流は減少し(肺血流が増加)、酸素が多いときには皮膚血流が増加する様に調整されています。
(Enviromental Physiology of the Amphibians 1992)

参考文献
・RW. Guimond Aquatic Respiration: An Unusual Strategy in the Hellbender.
Science Vol. 182, No. 4118. (Dec. 21, 1973), pp. 1263-1265.
・http://salamander.la.coocan.jp/salamander/98report.html DL:2025/3/20
・Wikipedia、Plethodontidae英語版より引用 DL:2025/4/15
・https://www.nara-edu.ac.jp/cnee/kaerhebi/kaisetu/hakone.htm DL:2025/3/28
・https://ja.wikipedia.org/wiki/sirenidae DL:2025/4/28 
・https://en.wikipedia.org/wiki/Caecilian DL:2025/4/16
・松井正文 両生類の進化 東京大学出版会 東京 2012
・Feder ME. Enviromental Physiology of the Amphibians. Univ. of Chicago press1992.
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両生類の呼吸ーその5

2025-03-12 16:23:30 | 日記
両生類の呼吸―その5
カエルの循環器
前回は皮膚から吸収された酸素量を推定しました。今回は特にカエルの循環系では、皮膚からの酸素と肺からの酸素がどのように全身臓器に行き渡るのかということについて考えてみました。

肺の構造は隔壁のほとんどない単純な袋状のため、換気の面積が小さくて効率が悪いので、皮膚呼吸に大きく依存しています。

カエルの血液は2心房1心室の心臓から呼吸器官(肺と皮膚)を経て全身へながれます。
肺へ流れる血液は、右心房→心室→肺皮膚動脈→肺→肺静脈→左心房→心室→全身と流れています。

肺皮膚動脈を通り皮膚で酸素化された血液は動脈に合流して臓器へ酸素を運ぶのでしょうか(図の①)、それとも左房に流入して肺からの血液と一緒に全身へ流れるのでしょうか(図の②)。

①のルートは酸素化された血液がそのまま全身臓器へと運ばれるので効率の良い循環です。②のルートは全身の皮膚から酸素化された血液を心臓へと運ぶというそのためだけに血管系が必要になります。心臓に戻す利点も考えられません。教科書や文献を調べてみても②のルートはないようでした。
おそらく①のようなルートで皮膚から直接体循環に合流すると考えられます。
すると、肺からの血液と全身から戻った静脈血とが心室で混合して大動脈に流れたあと、途中で皮膚から来る酸素化された血液と混合されることになります。

さて、カエルなどの両生類の心臓には心室が1つであるために酸素化血と静脈血が混合するので、しばしば不完全な構造の様に記載されます。というのも、この心臓では一部の血液は心室→肺→左心房→心室と循環するからです。
それを避けるには、1つには哺乳類のように2心房2心室とするか、もう1つはイカやタコのエラ心臓と体心臓のように、肺の前と後に1心房1心室の心臓を置く構造があります(水中の呼吸18参照)。
けれども循環の途中で皮膚から酸素を吸収する機能があるなら、心室が1つであることは合理的で、無駄のないシステムと思われます。前回に推定した皮膚から吸収された酸素は、肺で取り込まれた酸素とたし合わされて全身臓器に行き渡るでしょう。
爬虫類、鳥類、哺乳類が持っていない皮膚呼吸という呼吸器官があるために、2心房1心室は適切な循環構造と考えられました。

なお②の様に、皮膚から酸素化血液が心臓に戻るような循環路が示されている文献があればコメントにお知らせください。


参考文献
松井正文 両生類の進化 東京大学出版会 東京 2012
シュミットニールセン 動物生理学 東京大学出版会 東京 2007


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両生類の呼吸ーその4

2025-02-27 20:00:00 | 日記
両生類の呼吸-その4
<少し定量的な話>両生類の酸素吸収能力について
******今回の要約***************************************************
両生類の呼吸では皮膚からの酸素吸収の役割が大きいので、特にカエルを例に皮膚からの酸素吸収能力を推定してみました。
水中に溶けている酸素の分圧とカエルの表皮下の酸素分圧の差を100mmHgと仮定し、表皮の厚さを0.3mmと仮定します。表皮を通過する酸素量を決定するためにKrogh(クローグ)の拡散定数を用いました。これらの数値をFick(フイック)の式に適用すると、1kgのカエルの表皮を1分間に通過できる酸素量は0.056mlと推定されました。
また、1kgのカエルの安静時酸素消費量は、イモリやサンショウウオの仲間のサイレンで測定された代謝率を借用して計算すると、1分間に0.11mlと推定され、表皮吸収量の2倍になりました。
これらの結果から、カエルの必要酸素量の約半分は皮膚呼吸でまかなえると推測されました。
********************************************************************
はじめに
水中あるいは表皮粘液の酸素が皮下に吸収される量を推定するためには次のことについて理解する必要があります。
(1) 酸素濃度と通過流量の関係式(Fickの法則)
(2) 組織中の酸素分圧と酸素濃度(酸素溶解度とHenryの法則)
(3) カエルの表皮を通過する酸素量を規定する定数(Kroghの拡散定数)
(4) 両生類の安静時1日酸素消費量
これらについて順に検討しましょう
(1) 酸素濃度と通過流量の関係
 水中や空気中の酸素の濃度が均等でない場合、時間とともに濃度が均一になるように酸素分子が拡散します。拡散する分子の流量は濃度差に比例し、距離に反比例するFickの法則で求めることができます。
図のようにdの厚みのある膜の両側の水中に濃度C1とC2(C1>C2)の酸素が溶けているとします。濃度差は(C1-C2)なので、比例定数をD(拡散係数)とすると膜を通過する単位面積あたりの酸素流量JはJ=D✕(C1-C2)/dです。両側のガス濃度は時間変化せずに常にC1とC2であることが条件です。

(2)酸素分圧と酸素濃度
Fickの式を使うため水中や血液中、組織中の酸素分圧の値を酸素濃度に換算します。
そのためには、液体中の酸素濃度Cが酸素分圧Pに比例するというHenryの法則:
C=B×P(Bは比例係数)を用います。
Bは溶解度といわれ、分圧1mmHgの気体が、ある温度の液体1Lに溶ける量です。
Cの単位:μmol/L、Pの単位:mmHgのときBの単位:μmol /L /mmHgです。
水中の溶解度Bについて
水中に溶ける酸素の量は、表のように水温が高いと減ります。淡水では溶けている酸素は水温0℃で1Lあたり9.9ml、20℃で6.2mlと60%に減ります。

(3)拡散係数と拡散定数について
動物体内の細胞質や体液、組織内では、溶解度と拡散係数をそれぞれ別に測定することが不可能なために、拡散定数を使います。拡散定数はそれぞれの組織固有の測定可能な定数です(Kroghの拡散定数)。
拡散定数=拡散係数×溶解度です。例えば20℃の淡水の拡散定数は(1)と(2)の図表の数値を使って

その意味は、組織や組織液中を単位圧力下に単位断面積当たり単位時間に拡散する物質の量です。組織の拡散定数は以下の表のようです(筋肉と結合組織はカエルの組織)。


(4) 両生類の代謝率と安静時1日酸素消費量
両生類の代謝率は測定が難しく、体重と代謝率の関係式(回帰式)はこれまでに水棲の有尾目サイレン科でしか測定されていません(スケーリング:動物設計論:p82)。
強引ですが、その関係式を両生類全般に使うことにします。

(爬虫類、哺乳類の回帰式は、同じく「スケーリング:動物設計論」より引用)
従ってそれぞれの動物の体重が1kgの場合、1日当たりの代謝量はこの式にM=1を代入して、両生類では0.79 kcal/日、爬虫類は7.8 kcal/日、哺乳類は73kcal/日となります。
さて、1Lの酸素を代謝に使うと約20キロジュール、4.8kcalの熱が発生することが知られています。これを用いて酸素量に換算すると、酸素消費量は1kgの両生類(カエル)では0.11ml/分、爬虫類では1.1ml/分、哺乳類では10.6ml/分です。
(計算:0.79x1000ml/4.8kcal/60分/24時間=0.11)。
以上で準備ができたので、皮膚からの酸素吸収量を推定しましょう。

(5) カエルの皮膚からの酸素吸収量

これは(4)で得られた1kgのカエルの酸素消費量0.11ml/分の約半分に相当します。
前回の「両生類の呼吸その3」で述べたように、肺を持つカエルが皮膚と肺からそれぞれ50%の酸素を吸収していることを裏付ける結果です。
もちろん、この計算では分圧差、皮膚の厚み、拡散定数を仮定しているので、実際の値と異なるでしょう。しかし、この推定から必要酸素量のかなりの割合が皮膚から吸収できることが推測されました。
カエルたちは、餌取りや繁殖のため皮膚の毛細血管網の密度を上げる、皮膚を薄くする、しわや突起で皮膚面積を増加させる、扁平な形態で表面積を増加させる、冷たい渓流で代謝を下げる、などの適応をして必要な酸素の半分くらいを獲得していると考えられます。 
そして10℃以下になると湿った地面の下に潜って冬眠をするときには、皮膚呼吸だけで静かに眠りにつきます。


次回は、皮膚呼吸で吸収した酸素はどのように全身の循環へと運ばれるのかについて、カエルの循環システムについて少し考えてみます。 

今回の投稿内容について、私の理解不足、誤解などについてご指摘、ご教示をお願いします。

参考文献
・Krogh A. The rate of diffusion of gases through animal tissues, with some remarks on the coefficient of invasion. J. Physiology 391-402 1919
・伊藤 聡 他 成人皮膚のガス等価係数の計測 医用電子と生体工学 25巻3号1987
・JISK0102-2010  HORIBAナビゲーションより引用 DL2014年6月13日
・Dejours P. 呼吸生理学の基礎 真興交易医書出版部 東京 1983
・ウエスト 呼吸生理学入門 メディカル・サイエンスインターナショナル 東京 2012
・シュミットニールセン スケーリング:動物設計論 コロナ社 東京 1998
・シュミットニールセン 動物生理学 東京大学出版会 東京 2007
・キャンベル キャンベル生物学11版 丸善 東京 2018

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両生類の呼吸-その3

2025-02-08 13:00:00 | 日記
両生類の呼吸-その3

両生類は約3億6千万年前に水棲の魚類から進化して、移動のためにヒレを四つ足にかえて、呼吸のためにエラの代わりに肺を利用するようになりました。 単純な袋状の肺と皮膚などを使って酸素吸収と二酸化炭素の排出(ガス交換)をしていました。初期の魚類で利用されていた皮膚が再び呼吸器官になったのでした。
初期の両生類は皮膚を利用する以外にも、咽頭粘膜や総排泄腔の粘膜を使う種もいるなど、全身のいろいろな部位を呼吸に使って陸上へ適応していったのです。

両生類の現生種は、有尾目(サンショウウオ、イモリ、等)、 無尾目(カエル)、無足目 (アシナシイモリ)の3群に分類されています。
成熟前の幼生体ではほとんどが水棲であり、エラ呼吸をしています。一方、成体の呼吸器官は非常に変化に富んでいて、サンショウウオの大部分は皮膚呼吸だけ、カエルでは皮膚呼吸と口腔を使う陽圧送気が主流であり、アシナシイモリの生態は詳細不明ですが肺と皮膚で換気しているようです。

◯今回は最も身近な無尾目(カエル)が獲得してきた呼吸法についてです。
無尾目の現生種は約6500種のカエルです。
幼生から変態して成体になるのですが、例外が多くの種でみられます。卵は水中に産卵されて、幼生(オタマジャクシ)は鰓呼吸をしますが、成熟して成体になるとエラはなくなり、肺呼吸と皮膚呼吸をします。
最大の特徴の1つは跳躍の能力を獲得したこと、もう1つは陸上の脊椎動物では尾があるのが普通ですがカエルではそれを失いました。尾は跳躍の際にじゃまになるために、進化とともに消失したと考えられています。

カエルには、肋骨や横隔膜という換気のための臓器がないので肺へ空気を送るには口腔を使います。それにはまず口腔を大きく広げて空気を貯め、次いで鼻とロをふさいでから口腔を縮めて空気圧を高め肺に空気を送ります。息を吐く時は、鼻を開いて受動的に排出しています(頬換気:Buccal pumping)。これはヒトが重篤な呼吸不全になったときに使う人工呼吸器と同じ換気方法です。
成体では肺と皮膚からの呼吸量はほぼ同じくらいなのですが、3月から9月にかけては肺呼吸量が増加します。皮膚呼吸量は年間を通じてほぼ一定なので、繁殖期の暖かなこの期間は肺呼吸量の方が大きくなります。

皮膚からの酸素吸収の効率をよくするため、皮膚の形態は多様に進化しました。
○毛ガエル
中央アフリカに棲息する体長10cmほどのカエルには、上肢から下肢にわたって体側と太腿に毛状の構造が密集して生えています。
これは真皮が乳頭状に伸びて、その内部に毛細動静脈が走っているので、水中では外鰓(外に飛び出たエラ)と同様の換気機能があるとされています。


○チチカカミズガエル
南米ペルーのチチカカ湖には完全に水棲の体長10cmほどのカエル(チチカカミズガエル)が棲息しています。その肺は陸棲の同サイズのカエルの1/3以下と小さく、また湖面は高度3800mのため空気中の酸素分圧は海面の60%しかないので水中に溶けている酸素量も少ない。このカエルはほとんど湖面に出ることはなく、皮膚表面の大きなしわや皮膚弁を素早く上下に振って潅水し、皮膚角質層内の豊富な毛細血管を使ってガス交換をしています。生理学的には低い代謝率、両生類の中で最小の赤血球容積、低いP50の値(酸素分圧が低くても赤血球が酸素化されること)、赤血球数とヘモグロビン濃度とヘマトクリット値が高いという特徴があります。


○ゴライアスカエル
西アフリカの熱帯雨林で滝や急流に棲息している半水棲のゴライアスカエルは体重が3kgもあり、カエルの中では最大です。大きいですが代謝率が低いので、多数の突起のある皮膚と、小さいけれども酸素吸収効率のよい肺で高頻度の口腔換気を使って呼吸しています。


○肺のないカエル(ボルネオハイナシガエル)
これまで確認されていたカエルは完全に水棲であっても肺を持っていました。しかし2008年に解剖されたボルネオ肺ナシガエル(Barbourula kalimantanensis、スズガエル科)には肺がないことが確認されました。皮膚呼吸のみで生きている唯一のカエルです。
捕獲された8個体の解剖では心臓周囲には胸膜はあるが肺はなく、また喉頭には気管につながるはずの気道の開口部も認められません。大きさは平均3.8cm重さの平均は6.5gと小型です。
14-17℃の冷たく高酸素濃度の急流に棲息するので浮力を軽減するために肺をなくして、皮膚面積を増加させて酸素吸収量を増やすために体型を著しく扁平化したのでしょう(Current Biology 18:R374-5)。


これらのカエルたちはそれぞれの環境への適応のために皮膚を改変して肺呼吸だけでは足りない酸素の吸収量を増やしているように思えます。
しかしそれは反対かもしれません。
つまりカエルにとっては皮膚が主要な呼吸臓器であり、肺は皮膚で足りない分を補うという位置づけの様に考えられないでしょうか。
なぜなら、カエルたちは環境によって皮膚を様々に変異させて酸素を呼吸していますが、皮膚から十分な吸収が可能になると肺もなくしているからです。
それに、同じ両生類のサンショウウオも肺を持たず皮膚呼吸だけであり、足なしイモリの皮膚が主要な呼吸器官なのも同じ理由かもしれません。
前回に話題としたように魚には口腔や皮膚を使う呼吸法を獲得して陸上で生存を可能とする方向への進化がありました。そのような進化の流れの上で魚から進化したばかりの両生類という進化段階ではまだ皮膚が主要な呼吸器官であったのではないでしょうか。
そう考えると、両生類が四肢動物で唯一肺のない進化を遂げた理由は、肺が進化して十分な機能を持つその時までは、未熟な肺はいつでも破棄できる臓器だったからと言えるのかもしれません。

参考文献
・松井正文 両生類の進化 東京大学出版会 東京 2012
・クヌート シュミット=ニールセン 動物生理学第5版 東京大学出版会 2007
・D. Bickford 他 A lungless frog discovered on Borneo  Current Biology vol18 No9:R374-5 2008
・毛ガエル:http//allabout.co.jp/gm/gc/70659/より転載
・チチカカミズガエル:Ugly-overloadより転載
・ゴライアスカエル:Wikipedia ゴライアスカエルより転載
コメント (1)
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