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私達動物の息の仕方とその歴史

水中の動物たちの呼吸 18 まとめ

2023-03-31 18:00:00 | 日記
水中の動物たちの呼吸18―まとめ

水中の動物のシリーズでは魚類と頭足類の呼吸と循環の機能について見てきました。
今回は17回分のまとめです。

原生代末期(先カンブリア時代)のエディアカラ紀から古生代にかけて、海中で発生した大型で扁平な動物たちは、体表から水中の酸素を拡散(酸素が表皮を通して染みこむこと)によって取り込んでいました。口と消化器官を形作り、そこにエラを進化させるまでには更に数千万年の時間が必要でした。 

約5.2億年前の古生代カンブリア紀前期には脊椎動物の無顎類(開閉する顎は無くて口は丸く開口)、節足動物(三葉虫など、甲殻類と昆虫の祖先)や軟体動物(オウムガイなど、貝やイカ・タコの祖先)、 半索動物(筆石など、ギボシムシの祖先)が出現しました。

初期の魚類である無顎類では酸素の吸収と二酸化炭素の排出は全身の表皮で行っていました。血液は心臓から全身の組織で酸素を放出し二酸化炭素を取り込んで、皮膚の毛細血管から酸素の吸収と二酸化炭素の排出を行って心臓に戻ります。こうして酸素の豊富な血液がまず始めに心臓に流れていました(血液循環は心臓→全身→皮膚→心臓)。
咽頭にある櫛状の線毛管(エラの元)は口から流入する水から餌をこしとる給餌器官でした。
約4.5億年前のオルドビス紀後期には顎を持つ 魚類(顎口類) が登場し、水流の多い線毛管は給餌器官から酸素を吸収するエラに進化した。
酸素吸収器官が皮膚からエラになると、心臓に流れる血液には酸素が乏しくなり、長時間の高速遊泳や激しい運動時に心臓への酸素供給が不十分になります。
心臓へ還流する静脈血から供給される酸素は冠動脈を持たないスポンジ状心筋にとって必須のものでした。
おそらく、皮膚呼吸に替わる酸素吸収器官が必要になったためでしょうか、硬い骨を持つ魚類はエラを獲得してから約3千万年後のシルル紀中期(約4.2億年前) に肺を進化させました。 

肺で酸素を吸収した血液は心臓へと向かい、全身の組織から帰ってきた静脈血と混合して心臓へと流れていました(血液循環は心臓→エラ→全身→心臓と心臓→肺→心臓とが重複)。
肺を獲得した理由として、「低酸素環境に曝された」ことによる進化圧力との主張が主流ですが、その他に上記のように「心臓へ酸素を供給する」ため、あるいは「浮力を得る」ためなどの生理学的理由も論じられています。
いずれにしろ、エラ呼吸だけでは酸素を十分に取り込むことができない環境の変化に対して、皮膚よりも酸素と二酸化炭素のガス交換に特化した肺を進化させたと言えるでしょう。

ところが、現在のほとんどの魚類は肺を呼吸器官から浮力装置の鰾(ウキブクロ)に変えています。
酸素を吸収する重要な器官である肺をなぜ鰾(ウキブクロ)に変えたのでしょうか。
その理由として
1生存圏を深海に広げたため空気呼吸で水面まで浮上するのが困難になった
2水面で空気を吸うときに翼竜などの空からの捕食者を避けるため
3沈まないための浮力の獲得
4心筋へ酸素を送る効果的な冠状動脈系の発達で低酸素血でも良くなった
などが言われています。

このように魚類の進化では、皮膚 →エラ →エラ+肺 →エラ(+鰾)が主要な呼吸器官の変遷ですが、酸素吸収には肺だけでなく口から消化管の各部位(口腔、のど、食道、胃、腸)までを利用して、それぞれが独立して何度も発生してきました。
例えば現生のトビハゼ(ムツゴロウなど)は口腔内面と皮膚を利用して干潟を這い回っています。木登り魚は上䚡器官(ラビリンス)を呼吸器官に利用し、長時間陸上で過ごすことができます。
トビハゼの皮膚には薄い水の膜があって乾燥を防ぎ、必要な酸素の80%を吸収しています。
湿った皮膚と口腔、咽頭を利用する呼吸方法は両生類が採用している呼吸と同じですが、循環系は基本的には普通の硬骨魚と同じ構造であり、心臓―鰓―全身―心臓と心臓―空気呼吸器官(口腔やラビリンス)―全身―心臓とは並列してつながっています。

肺を使う空気呼吸魚
デボン紀に硬骨魚類から進化・分岐した条鰭類の一部と肉鰭類は現在でも肺を主要な酸素吸収器官としています。特に肉鰭類の肺魚は肺を使って酸素呼吸の90%を肺から採っています。
肉鰭類の心臓は条鰭類と同じ1心房1心室ですが、心房と心室には不完全な中隔があって肺を通って心臓に帰ってきた血液と全身から戻ってきた血流が混合しないように調節されています。このため肺から流出する酸素化された血液は主に全身へと流れ、全身の組織から戻ってきた脱酸素化された血液は肺へと灌流していて、機能的に2心房2心室に類似した血液循環になっています。
肉鰭類から進化した両生類の2心房1心室の心臓では、心室内の弁(らせん弁)により低酸素血は主に肺と皮膚へ流れ、酸素化された血液は大部分が大動脈に流れるという機能的な2心室構造になっていて、肺魚の心臓はこれに類似した血流調整が行われています。

頭足類
古生代カンブリア紀の初期(5.4億年前)に貝殻を持つ最古の頭足類のプレクトロノセラスが現れました。
プレクトロノセラスの系統から、約4.1億年前のシルル紀末期にオウムガイ類があらわれ、更に肉鰭魚類が出現した4億年前のデボン紀には、アンモナイト類とイカやタコの祖先の鞘型類(しょうけいるい)が分岐して出現しました。

タコとイカは、元々は貝殻を作る外とう膜と斜紋筋という筋肉で、鞘(さや)のような中空の筒を作り、その中に内臓を納めているので、これが鞘型類という名前の由来です。
筒の筋肉を使って吸い込んだ海水を左右にある房状のエラに流して酸素を吸収しています。
左右のエラ心臓から押し出された血液はエラを通った後に体心臓に流入して全身の臓器へ循環しています。この心臓の機能を哺乳類と比較すると、右心房と右心室の機能をエラ心臓が担い、左心房左心室を体心臓が受け持っていることになります。ポンプとしての心臓を低圧系のエラ心臓と高圧系の体心臓に分けたために、運動時に必要な酸素を含んだ血液を十分に送り出せるようになっています。

酸素を運ぶ血色素は脊椎動物のヘモグロビン(Hb)ではなくヘモシアニン(Hc)です。
HcはHbより60倍も大きい分子で、酸素運搬の効率はHbよりも少し低く、酸素と結合すると青色になります(脱酸素化すると無色透明になるので、イカ・タコを切っても血は目立ちません)。
古生代初期に、Hcを用いる無脊椎動物が現れ、次いでHbを用いる脊椎動物が出現しました。現在の地球の動物種ではHcを利用する種の方がはるかに多く、昆虫や蜘蛛、エビ、カニなどの節足動物は全動物種の85%を占めて第1位、第2位は貝やタコ、イカなどの軟体動物であり約8%を占め、脊椎動物(魚から鳥、ほ乳類まで)の5%以下よりも遙かに多いのです。
Hc動物のほとんどは解放血管系を持ち小型ですが、タコ・イカだけは閉鎖血管系を持ち大型で高い知能を持っています。閉鎖血管系が知能の発達や大型化をもたらしたのでしょうか。
Hbを採用した魚類は大型化に伴ってシルル紀には肺を獲得してエラと肺を使うようになりましたが、Hcを選択した軟体動物や節足動物たちは肺を必要としませんでした。水中の酸素の吸収と利用にはHcの方がHbよりも有利だったのでしょうか。
イカ・タコはオウムガイから進化したとされていますが、オウムガイと比べるとその身体の構成の独自性(大きな脳、独自の呼吸循環系、高い運動能力、優れた目、洗練された神経系と形態変化能力など)がみられます。これは遺伝子の激変があったためですが、その変化の原因は隕石などからもたらされたレトロウイルスによるというパンスペルミア説(宇宙汎種説)も主張されています。

魚類は肉鰭魚類に進化すると水呼吸から空気呼吸へと切り替えて、陸上へ進出する準備が整いました。いよいよ両生類への進化が始まります。
次回からは魚類や軟体動物と同時期のカンブリア紀前期に出現した三葉虫を代表とする節足動物と、その子孫の昆虫について見ていきます。
その独特の呼吸器官は大変興味深いものです。

参考文献は、「水中の動物たちの呼吸1~17」を参照してください。
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水中の動物たちの呼吸17

2023-02-22 18:00:00 | 日記
空気呼吸する魚たち-3

今回は湿った環境なら1年以上も空気呼吸して生存可能という驚きのポリプテルスです。
ポリプテルスは、約4億年前のデボン紀に条鰭類が現在の魚類・陸生四肢動物へと適応放散を開始する前に派生したと考えられています。

ポリプテルスとは「多くのヒレ」という意味で小さく分かれた背びれが尾まで連なっています。稚魚には両生類の幼生のように1対の外鰓があり成長すると消失し、魚類と両生類に進化する分岐点にある動物と考えられています。

ハイギョや初期の陸生4足動物と同様に、頭の上に大きな対の開口部(気門)を持っていて、そこを通して空気を吸い込んで肺呼吸をしている。
まず、頭部を水面上に出して、気門弁を開き、胴体を膨らませると空気が肺に吸入される。その間、頬咽頭腔も拡張して空気を溜めて、気門弁を密封してから頬腔を縮めるとそこの空気が更に肺へ補充される。
息を吐くときは、肺からのガスが広がった頬咽頭腔に移動すると呼気はエラのすき間から出始め、頬咽頭腔が縮むにつれて完全に排出される。
こうして、呼吸の最大93%を気門の呼吸が占め、ほとんどエラを使っていません。

カナダのマギール大学では、このポリプテルスを使って魚が陸上動物へと進化する過程の変化を研究しました。
ほぼ1年間陸上でポリプテルスを飼育したところ、幼魚が成長する間に解剖学的および行動的に大きな変化を示しました。胸の骨格とそれを支える支持が強くなって、歩行中に頭蓋骨を持ち上げて頭/首の動きが大きくなるという変化が起きたとのことです。
その結果、胸ヒレを体に近づけ、頭を高く上げて、ヒレが滑らないようにして効果的に歩きました。
魚が最初にヒレを持って陸地を歩いたときに起こった可能性も反映していると推測されています。

下記のURLで歩行する動画を見ることができます。
https://www.youtube.com/watch?v=mKxRe0hAQmg&t=8s
この動画を見ると、胸びれを腕のように使う両生類のイモリや、は虫類の蛇がくねって移動するようにも見えます。
初めて陸に上がった動物は、敵のいない新天地の湿地帯をこの様に進んでいたのでしょうか。

参考文献
1.Canada McGill Univ 
https://www.mcgill.ca/newsroom/channels/news/walking-fish-reveal-how-our-ancestors-evolved-land-238477
2.Graham JB Nature communications Published 23 Jan 2014
3.Ishimatsu A Aqua-BioScience Monographs, Vol. 5, No. 1, pp. 1–28 (2012)
4.Wikipedia:ポリプテルス
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水中の動物たちの呼吸16

2023-02-07 17:44:10 | 日記
空気呼吸する魚たち-2
今回は幼生ではエラ呼吸ですが、成魚になると肺を使って空気呼吸をする魚の話題です。

はじめはハイギョ(肺魚)
約4億年前の古生代デボン紀に出現した魚類で、現在生きている種はオーストラリアハイギョ1種、ミナミアメリカハイギョ1種、アフリカハイギョ4種の、計6種。
硬い骨を持つ硬骨魚類は肉鰭類(にくきるい:分厚い肉質のヒレをもつ)と条鰭類(じょうきるい:線条の硬骨と膜でできたヒレを持つ)の2系統あり、ハイギョとシーラカンスは肉鰭類で、それ以外の現在のほとんどの魚は条鰭類です。陸生の4足動物は肉鰭類から進化したと考えられています。ハイギョは多くの魚と違って気道につながる鼻を持っています。

ハイギョの幼体は両生類と同様に外鰓(体の外に広がるエラ)を持ちエラ呼吸ですが、成長に伴って肺が発達します。成魚では酸素呼吸の90%を肺から採っているので数時間ごとに息継ぎのために水面に上がります。炭酸ガスの排出に使う器官は肺が30%、鰓が70%であり、主にエラで排出しています。
水が干れても地中で「夏眠」と呼ばれる休眠状態になりますが、これは代謝率を低下させてエネルギーと酸素消費量を制限するという冬眠とよく似た生理的状態です(英語版wikipedia)。

アフリカ肺魚の1種:プロトプテルス・ドロイとその解剖写真(Wikipedia)



図のハイギョの肺は胞状構造がよく発達して吸い込まれた空気から酸素を取り込む多くの毛細血管のために暗赤色のスポンジの様にみえています。

ハイギョの心臓は条鰭類と同じ1心房1心室ですが、心房と心室には不完全な中隔があって左右の血流が混合しないように調節されています。このため心房・心室の左側には肺からの酸素化された血液が流れ、右側には全身の組織から脱酸素化された血液が流れていて、2心房2心室に向かう進化の初期状態になっています。

この2つの血流は、心臓球から出るときもほぼ分離しています。
酸素化された血液の80~90%はエラのない動脈弓から大動脈を通り全身の組織へ酸素を供給した後に大静脈を通って静脈洞に流入しています。Johansen et al(1968)Bassi(2010)
一方、酸素の乏しい静脈血はエラを通って二酸化炭素を放出した後に肺動脈―肺―肺静脈と流れて酸素化された後に心房へ流入します。

このように血液循環は心臓→全身→心臓と一巡する回路のほかに心臓→えら→肺→心臓という回路もみられるので、陸生4足動物の呼吸循環系への萌芽の状態といえるのです。

次も空気呼吸する魚です

参考文献
福田芳生 ハイギョの進化古生物学 The chemical times 2006 no.3
Ishimatsu A. Evolution of the Cardiorespiratory System in Air-Breathing Fishes.
Aqua-BioScience Monographs, Vol. 5, No. 1, pp. 1–28 (2012)
Wikipedia:ハイギョ(日本語版と英語版)
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水中の動物たちの呼吸15

2022-12-31 21:00:00 | 日記
空気呼吸する魚たちー1

水中を生存圏として進化してきた魚ですが、陸上で空気呼吸をする魚もいます。
原初の魚類は皮フを使って酸素を取り込み炭酸ガスを排出する皮フ呼吸をしていたのですが、約4億年前の古生代デボン紀に硬骨魚から進化した肉鰭類(シーラカンスと肺魚、両生類の祖先)はエラに加えて肺を獲得しました。
肺を獲得した理由としては以下のような多くの学説があり未だに議論されています(水中の動物たちの呼吸6参照)。
○環境からの進化圧力:低酸素への適応
淡水での酸素欠乏、生息池の水の枯渇、汽水域での水位の干満
○生理的な進化圧力:浮力の獲得、心臓への酸素供給

鰾(浮き袋)や肺という特殊な空気呼吸器官は食道の壁の一部を外に向かって膨らませてつくりました。それ以外にも、口から消化管の各部位(口腔、のど、食道、胃、腸)を使う空気呼吸は進化史の中で独立して何度も発生してきました。現在までにわかっている空気呼吸魚は18目50科140属の約400種といわれています(オランダ版Wiki)。
空気呼吸器官はこの図のようにまとめることができます。これらの器官の主要な目的は酸素を吸収することであり、炭酸ガスの排出はそれまでと同じようにエラでおこなっていました。

多くの魚ではこれらの部位を一つだけでなく複数利用しています。例えばアミメウナギは肺と皮膚呼吸を、タウナギは咽頭とえら蓋の内腔と皮膚を使って酸素を吸収しています。
以下は、各呼吸器官とそれを利用する魚たちです。
① 頭部周囲の呼吸器官
頬内腔・咽頭腔・えら蓋内面・咽頭嚢・上鰓腔に呼吸のための上皮を配置
ハゼ科各種(ワラスボ、トカゲハゼ、トビハゼ、ムツゴロウ、ホコハゼ)、
ナマズ目(レッドキャット、ヒレナマズ)、タウナギ目、デンキウナギ、
ギンポ類、ライギョ、キノボリウオ
② 消化管に位置する呼吸器官
浮き袋管:ヨーロッパウナギ
食道:ダリア魚
胃 :ナマズ目(ロリカリア等)
腸 :ドジョウ、ナマズ目(カリクティス)
③ 肺または浮き袋
肺:肺魚3種、ポリプテルス、アミメウナギ
鰾(浮き袋):ガー目、アミア、アロワナ目、ネズミギス目、カラシン目、イシモチ、
ナマズ、デンキウナギ、その他
④ 皮フ
アミメウナギ、ヨーロッパウナギ、ドジョウ、ヒレナマズ目、デンキウナギ、ギンポ、
トビハゼ、ムツゴロウ、トゲウナギ、タウナギ、その他

はじめに①の頭部周囲の器官と心臓・血管についてみてみましょう。
○ハゼ科のワラスボ、トビハゼ、タウナギ、デンキウナギなどは頬および咽頭の内腔、エラ蓋内腔、皮膚などを利用しています。
魚種により利用する主要な部位は違いますが、最も陸上生活に適応したトビハゼの仲間では、口腔、咽頭、えら蓋の内側の空間に水と空気で泡を作り、そこから内腔表面に張り巡らされた毛細血管網の血液に酸素を吸収しています。
水中よりも空気中の方が酸素の吸収が良好です。

また、皮膚には薄い水の膜があって乾燥を防ぎ、酸素がその表皮を透過して皮下の毛細血管に吸収され易くなっています。陸上では吸収する酸素の約80%が皮フからともいわれています。
湿った皮膚と口腔、咽頭を利用する呼吸方法は両生類が採用している呼吸と同じであり、生きている期間の4分の3程度を陸上で過ごしています。(Wiki英語版)

デンキウナギ
デンキウナギの口腔は毛細血管が多数の蕾のように盛り上がって内面を覆い、口腔内に溜めた酸素を吸収している(Graham1997)。


キノボリウオの仲間:アナバス、ライギョ、ベタなど
実際は木に登ることはなく、雨天時などに地面を這い回る程度のようです。
えら蓋の中に上鰓器官(じょうさいきかん:ラビリンス器官)という迷宮のような構造・形により表面積を大きくして、その表面に発達した網状の毛細血管を介して、空気呼吸をします。補助的な呼吸器官ですが、陸上でも湿った環境なら長時間生存できるようです。


これらの魚の循環系は基本的には普通の硬骨魚と同じ構造であり、下図のように心臓―鰓―全身の血管が直列につながっています。エラへ流れる血液の一部は頭部周辺の空気呼吸器官へ流れて高密度の新生血管で酸素を吸収してエラから出てくる血液と合流します。
皮フ呼吸を併用する時は頭部と体幹の動脈の枝から毛細血管に分かれ酸素を吸収します。頭部呼吸器官と皮フの酸素に富む血液は酸素の少ない全身静脈血と合流して心臓にもどります。



これらの頭部周囲の空気呼吸器官とエラはハイブリッドになって、水中と空気中で切り替えて全身の組織に酸素を送るのですが、普通の魚と同じように、低酸素の血液が心臓に流れています。
トビハゼや木登り魚の仲間は四肢の代わりにヒレを使って干潟や湿地を歩いているので、陸生動物への途上にあるのかもしれない。しかし陸上での活発な生活のためには四肢に加えて、緻密心筋や心臓にもっと酸素を送れるような循環器の構造的な進化が必要です。

次はこれを解決した肺魚の話題です。


参考文献
Ishimatsu A :Aqua-BioScience Monographs, Vol. 5, No. 1, pp. 1–28 (2012)
Graham J.B.: AIR-BREATHING FISHES in Encyclopedia of Fish Physiology, 2011
オランダ版wiki:https://nl.wikipedia.org/wiki/Luchtademende_vis
英語版wiki:https://en.wikipedia.org/wiki/Mudskipper
インドUtkal大学講義録: Dept. of Zoology, Utkal University  Dr. S. S. Nishank Air breathing fish より

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水中の動物たちの呼吸14

2022-11-22 18:00:00 | 日記
エラ呼吸の話が続いているので、少し空気呼吸をする肺についても話題にしてみましょう。

水中で暮らす魚と軟体動物はみなエラを使って水中の酸素を取り込み二酸化炭素を排出するガス交換をしています。魚やイカ、タコのエラは、写真のウーパールーパー(メキシコサンショウウオ)のエラの様に体外に飛び出してはいませんが、外の水がエラの表面を流れてそのまま排出されるという点では、外部環境に露出していると言えるでしょう。

このようにエラは水中という外部環境に解放されているために川などの淡水ではエラを通して体内に水が染みこんだり、海水では体から水分が抜ける脱水をおこしたりするので、それを避けるためにエラや腎臓の仕組みを利用して体の水分バランスを調節しています(水中の動物たちの呼吸2を参照)。
一方、陸に住んで空気呼吸をする爬虫類、鳥類、哺乳類はガス交換に肺を使っていますが、これらの動物たちの肺は気管・気管支という長い管の先の奥深くに配置されていて、エラのように空気中に解放されてはいません。
もしヒトの肺がエラと同じように体の外に露出していたらどうでしょうか?
具体的なイメージとしては、毛細血管が張り巡らされた薄いシートが本のページのように重なっているクモの書肺です。
例えば図のように背中に多数のヒダが本のページのように重なった翼に似た肺が背中から生えているとしましょう。(はからずも天使のようになりました 天使の翼は呼吸器官ですか!?)

ページの間を空気が流れてガス交換を行い、その全ページの総面積は肺胞表面積と同じ80平方メートルあるとします。(以後、「翼の肺」と言う)
露出しているために、埃で汚れる、傷つきやすい等の問題はありますが、呼吸のための運動が不要、病気の発見が早い、などの利点があるでしょう(この図の場合仰向けに寝られないのも欠点ですが)
この場合、重要なことは翼の肺の表面が薄い水の層で覆われていることです。その水に溶けた酸素が肺表面の細胞膜を通って毛細血管へと吸収され、二酸化炭素はその逆を通って排出されるからです。カエル等の両生類が呼吸の50%を皮膚呼吸に頼っているために常に皮フを湿らせていることと同じです。
このような状況では翼の肺表面から水の蒸発が無視できない量になります。

○翼の肺表面から蒸発する水分量を見積もる
多少荒っぽい話ですが、洗濯物が乾く過程を参考にします。
普通のタオル(30×70cm)を濡らして水分が100g残るように絞ります。これを、湿度30%で気温25℃の無風状態という爽やかな気候の時に陰干しすると1時間後には水分が蒸発して約70g軽くなりました。
さて、タオルの表面積は表と裏を合わせて0.42平方メートルです。肺の表面積は約80平方メートルなので、タオルの約200倍もあります。この湿ったタオルと同じ割合で肺の表面から蒸発すれば1時間に14kg(70gX200=14000g =14リットル)もの水分が蒸発することになり、脱水して干からびるのを避けるためには大量の水分を取らないといけません。

○肺が体の奥にあると干からびない理由
ヒトが呼吸をする毎に、乾燥した空気は鼻、喉、気管、気管支を通って徐々に肺胞に到達します。
息を吸うときには空気は気管・気管支の熱と水分で加温、加湿されて水蒸気で飽和してから肺胞に到達するために、肺胞表面から水は蒸発しません(この時空気は37℃となって含まれる水分は1リットル当たり0.044g)。

息を吐くときは、水分で飽和した37℃の肺胞気が逆に流れて気道に熱を与えて温度が下がると、それと共に飽和水蒸気圧も減少して呼気中の水分量も減ります。鼻から出る呼気が25℃に下がっていたとすると含まれる水蒸気量は1リットルあたり0.023gに減っています。
成人の安静時の1回の換気量は約500ml、大きく息をするときは2000~3000mlになります。1日の内では、安静に寝ている、食事する、歩く、仕事する、などの状況で換気量は変化しますが、それを平均して1回1000ml 1分間に20回呼吸するとしましょう。すると1分間の換気量が20リットルとなります。乾燥した空気を吸って、吐くときの水分量は1リットル当たり0.023gでしたから、呼吸で失われる水分量は毎分0.46g(0.023g×20リットル=0.46g)、つまり1時間で約28g(0.46X60=27.6g)、1日では660gとなります。翼の肺では1時間に14kgでしたからそれのほぼ1/500程度とかなり少なくなっています。

空気呼吸動物は呼吸する空気の温度と湿度を調節するために、肺を体の奥深くに収めて、口や鼻、長い気管・気管支を通過させていると言えるでしょう。
海に住む魚は脱水を避けるために大量の海水を飲んでいますが、陸上の私たちはそれができないので、水分を逃がさないように調節しています。
こうして肺胞を湿潤状態に保ってガス交換を維持し、かつ呼吸に伴って過剰な水分が失われないようにして、体の中の“海”を守っているのです。
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