もうそろそろ文月となります。
いよいよ夏も本番です。
部屋で座っているだけでも汗が出る。
なんて便利な天然サウナ!!・・・などとポジティブシンキングに身を委ねつつ、やはりむわっと空気にむかっとする季節です。
さて、そんな世間話で和んだところで、回想記など書いてみます。
なんとびっくり10回目です。
今をさかのぼること三年前、初一人旅、初海外の、回想日記です。
******************
2006年、7月6日。
ファームに到着。
ここでのわたしの仕事は、主に馬の世話だった。
労働力を奉仕する代わりに、衣食の保証がある。
シドニーからだいぶ北上したとはいえ、季節で言えば、まだまだ冬まっさかり。朝晩はかなり冷え込み、馬の朝の餌やりをするときは、凍りそうなほどだった。
お世辞にも綺麗とはいいがたい家。インテリア並に蜘蛛の巣がはっている。天井からぶらさがるでかい蜘蛛さながらぬいぐるみのよう。
うん・・・、きたばっかでなんですけど、帰っていいかしら。
食事は自給自足。街から遠く離れた場所にいるので、
オーナーに材料の買い出しを頼み、当番制でそれを調理していく。
あの子は美味しい唐揚げをつくった。
あの子はカレーを。
わたしは・・・。
当時の日記を読み返すと、今日は何を食べたというのはたまに書いてあるけれど、自分が作ったときの記録がない。
当番は必ずまわってくるから、何かはつくっていたはずなのに。不思議すぎる。
でもたまに、「今日はリンゴケーキをつくった」などと書いてある。
わたし作り方知らないはずなのになあ。まったくもって不思議だ。
何はともあれ、ファームでの日々は過ぎていく。
ジャージに長靴、すっぴんで、ひたすら日焼け止めをぬって、手袋をして。
雨の中、ぐしゃぐしゃなラウンドを歩き回り、ぐしゃぐしゃになったボロ(いわゆる馬糞)拾い。
台車にのせて運ぶけれど、重くて重くて、しまいには肩が上がらなくなった。
5、6人が過ごす家に、シャワーは1つ。
タンクに水をためて、お湯をわかしているので、最後のほうになると、まずお湯がでない。出るのは冷たい水ばかり。さらには水すら出なくなる。
凍死凍死とうしぃいいとつぶやきながら、シャワーを浴びた。
馬に対して、弱気をみせてはいけない。なめられるから。
などという話を聞いて、虚勢をはってみたりもした。
耳が後ろをむくと、怯えている印。
かみつくかもしれないと思って、びくびくとしていた。
馬の体を洗うときも、下手に後ろにまわると蹴られると、下手したら骨折や、命にかかわると、やっぱりおどおどと洗った。
ある日、馬に乗ったときのこと。
インストラクター、お客さん、そして最後尾にわたしがついて、山を散策していた。
途中で足をとめた馬を動かそうと、腹をけった瞬間、それは起こった。
一瞬だった。
突然、乗っていた馬が駆け出したのだ。
速歩とか、そういうレベルじゃない。
将軍様走り(わたし命名。
木々をすり抜け、道なき道を駆け下りる。
振り落とされたら、怪我じゃすまない。
ちょっとそこ、崖、がけぇえええええっつ
インストラクターが何か叫んでいる。
必死に馬の背の上でバランスを取りながら、たぶんけっこう死にそうなのに、走馬灯って、出てこないもんだなあと思ったものだ。
馬にのってるのになあと。
あとから、お客さんが、「めっちゃいい笑顔だったね」と感想をいってくれた。
いや、歯をくいしばっていただけっす。
インストラクターも、バランス力がいいね!とほめてくれた。
でも、もう二度といいです。。。。
ある日、ボス格の馬が有刺鉄線にひっかかった。暴れて、さらに食い込む。動いたために、さらに複雑に絡まり合ってしまっていた。
そんな中で、スタッフの一人は、自分に鉄線が絡まるのも恐れず、懸命にそれをほどこうとした。
馬も暴れ、鉄線が手に食い込む。
彼女はそれでも、一心不乱にとり続けた。
彼女は動物のお医者さんを目指している子だった。
馬は、かわいいと思う。
長いまつげ。つぶらな瞳。
背中にだきつくと、柔らかくて、とても、暖かい。
甘えるようにすりよってくれたときの、あのかわいさは、何より嬉しい。
くたくたになって働いた後、みなで集まって、トランプをした。
息が白くなるほどの寒さの中、外にでて、満天の星空を眺めた。
気持ち悪くなるほどの星空。
目をこらすと、流れ星がいくつも流れていった。
天の川。
星の川。いくつも、途方もない数の星が集まって、夜空を流れる川ができている。きらきらしていて、空が眩しかった。
知らず、息を止めていた。
ああ、わたしはこれがみたくてオーストラリアにきたんだ、と呆然としながら思ったものだ。
時がたつのも忘れるほど、寒さも忘れるほど、わたしたちは立ち尽くした。
さて、人間とは、状況になれるもので。
早朝の餌やりも、慣れた。
穴の空いた長靴で雨のふった広場のボロ拾い。うんちと泥の混じったエキスが長靴の中にしみこんで、えーと、これは素足で泥うんちの中を歩いているっていうんじゃないかなーとか思ったり。
部屋の中でちゅーちゅーいうネズミも、ごそごそとかけずり回るでかいゴキブリも、いやいやながらも慣れてしまった。アリが行進しているハチミツをパンにぬって食べるまでに成長した。
ただ、たまにかかってくる英語の電話では、言ったものだ。
「ああああいきゃーんとすぴーくいいんぐりーっしゅ」
「PARDON?」って返されました。
なんでかまったくもって慣れないんですねエーゴ。
オーストラリアきて、学校かよったあげくの4ヶ月目の人間の現状です。へらり。
ある日は、みんなで土ボタルを見に行った。
森を歩くと、土壁に、ぼんやりといくつもの光が現れる。
上を見上げると、満天の星。そして下にも、満天の星空のような青白いホタルが、輝いていた。
上にも下にも星空があるねって、みなできゃっきゃっしてた。
よくも悪くもいろいろあった一ヶ月。
出発のときが近づいていた。
旅立つ前は、いつもどきどきする。
長いこととどまっていた場所から出るときは特に。
カレンダーは、季節が8月になったことを示していた。
*********************************************
馬も星空も、蛍も。そのときできた友達も。
わたしにとって、とてもとて思い出深いものだったのです。
・・・ですが、それよりなにより、ある意味このオーストラリアで、もっとも思い出深い出来事がありました。
聞くも涙、語るも涙、その内容は。
超、太った。
今まで人生生きてきて、ベスト オブ 太った です。
のちに体重計ではかると、プラス8キロ。
いやいやいや。
ジャージがきつくなるって、ありえなくねーって。
当時の写真みても、あらー。ぱんぱんですわねーみたいな。
オーストラリアでは、いくつかジンクスがあります。
いわく、オーストラリアにワーキングホリデイにいくと、必ず三回恋をする。
いわく。
オーストラリアにワーキングホリデイにいくと、日本人の女の子は8キロ太る・・・。
当時のいたいけなワタクシは、そんなジンクスをかみ締めながら、輝く星空に涙を浮かべてみたものでした。
いよいよ夏も本番です。
部屋で座っているだけでも汗が出る。
なんて便利な天然サウナ!!・・・などとポジティブシンキングに身を委ねつつ、やはりむわっと空気にむかっとする季節です。
さて、そんな世間話で和んだところで、回想記など書いてみます。
なんとびっくり10回目です。
今をさかのぼること三年前、初一人旅、初海外の、回想日記です。
******************
2006年、7月6日。
ファームに到着。
ここでのわたしの仕事は、主に馬の世話だった。
労働力を奉仕する代わりに、衣食の保証がある。
シドニーからだいぶ北上したとはいえ、季節で言えば、まだまだ冬まっさかり。朝晩はかなり冷え込み、馬の朝の餌やりをするときは、凍りそうなほどだった。
お世辞にも綺麗とはいいがたい家。インテリア並に蜘蛛の巣がはっている。天井からぶらさがるでかい蜘蛛さながらぬいぐるみのよう。
うん・・・、きたばっかでなんですけど、帰っていいかしら。
食事は自給自足。街から遠く離れた場所にいるので、
オーナーに材料の買い出しを頼み、当番制でそれを調理していく。
あの子は美味しい唐揚げをつくった。
あの子はカレーを。
わたしは・・・。
当時の日記を読み返すと、今日は何を食べたというのはたまに書いてあるけれど、自分が作ったときの記録がない。
当番は必ずまわってくるから、何かはつくっていたはずなのに。不思議すぎる。
でもたまに、「今日はリンゴケーキをつくった」などと書いてある。
わたし作り方知らないはずなのになあ。まったくもって不思議だ。
何はともあれ、ファームでの日々は過ぎていく。
ジャージに長靴、すっぴんで、ひたすら日焼け止めをぬって、手袋をして。
雨の中、ぐしゃぐしゃなラウンドを歩き回り、ぐしゃぐしゃになったボロ(いわゆる馬糞)拾い。
台車にのせて運ぶけれど、重くて重くて、しまいには肩が上がらなくなった。
5、6人が過ごす家に、シャワーは1つ。
タンクに水をためて、お湯をわかしているので、最後のほうになると、まずお湯がでない。出るのは冷たい水ばかり。さらには水すら出なくなる。
凍死凍死とうしぃいいとつぶやきながら、シャワーを浴びた。
馬に対して、弱気をみせてはいけない。なめられるから。
などという話を聞いて、虚勢をはってみたりもした。
耳が後ろをむくと、怯えている印。
かみつくかもしれないと思って、びくびくとしていた。
馬の体を洗うときも、下手に後ろにまわると蹴られると、下手したら骨折や、命にかかわると、やっぱりおどおどと洗った。
ある日、馬に乗ったときのこと。
インストラクター、お客さん、そして最後尾にわたしがついて、山を散策していた。
途中で足をとめた馬を動かそうと、腹をけった瞬間、それは起こった。
一瞬だった。
突然、乗っていた馬が駆け出したのだ。
速歩とか、そういうレベルじゃない。
将軍様走り(わたし命名。
木々をすり抜け、道なき道を駆け下りる。
振り落とされたら、怪我じゃすまない。
ちょっとそこ、崖、がけぇえええええっつ
インストラクターが何か叫んでいる。
必死に馬の背の上でバランスを取りながら、たぶんけっこう死にそうなのに、走馬灯って、出てこないもんだなあと思ったものだ。
馬にのってるのになあと。
あとから、お客さんが、「めっちゃいい笑顔だったね」と感想をいってくれた。
いや、歯をくいしばっていただけっす。
インストラクターも、バランス力がいいね!とほめてくれた。
でも、もう二度といいです。。。。
ある日、ボス格の馬が有刺鉄線にひっかかった。暴れて、さらに食い込む。動いたために、さらに複雑に絡まり合ってしまっていた。
そんな中で、スタッフの一人は、自分に鉄線が絡まるのも恐れず、懸命にそれをほどこうとした。
馬も暴れ、鉄線が手に食い込む。
彼女はそれでも、一心不乱にとり続けた。
彼女は動物のお医者さんを目指している子だった。
馬は、かわいいと思う。
長いまつげ。つぶらな瞳。
背中にだきつくと、柔らかくて、とても、暖かい。
甘えるようにすりよってくれたときの、あのかわいさは、何より嬉しい。
くたくたになって働いた後、みなで集まって、トランプをした。
息が白くなるほどの寒さの中、外にでて、満天の星空を眺めた。
気持ち悪くなるほどの星空。
目をこらすと、流れ星がいくつも流れていった。
天の川。
星の川。いくつも、途方もない数の星が集まって、夜空を流れる川ができている。きらきらしていて、空が眩しかった。
知らず、息を止めていた。
ああ、わたしはこれがみたくてオーストラリアにきたんだ、と呆然としながら思ったものだ。
時がたつのも忘れるほど、寒さも忘れるほど、わたしたちは立ち尽くした。
さて、人間とは、状況になれるもので。
早朝の餌やりも、慣れた。
穴の空いた長靴で雨のふった広場のボロ拾い。うんちと泥の混じったエキスが長靴の中にしみこんで、えーと、これは素足で泥うんちの中を歩いているっていうんじゃないかなーとか思ったり。
部屋の中でちゅーちゅーいうネズミも、ごそごそとかけずり回るでかいゴキブリも、いやいやながらも慣れてしまった。アリが行進しているハチミツをパンにぬって食べるまでに成長した。
ただ、たまにかかってくる英語の電話では、言ったものだ。
「ああああいきゃーんとすぴーくいいんぐりーっしゅ」
「PARDON?」って返されました。
なんでかまったくもって慣れないんですねエーゴ。
オーストラリアきて、学校かよったあげくの4ヶ月目の人間の現状です。へらり。
ある日は、みんなで土ボタルを見に行った。
森を歩くと、土壁に、ぼんやりといくつもの光が現れる。
上を見上げると、満天の星。そして下にも、満天の星空のような青白いホタルが、輝いていた。
上にも下にも星空があるねって、みなできゃっきゃっしてた。
よくも悪くもいろいろあった一ヶ月。
出発のときが近づいていた。
旅立つ前は、いつもどきどきする。
長いこととどまっていた場所から出るときは特に。
カレンダーは、季節が8月になったことを示していた。
*********************************************
馬も星空も、蛍も。そのときできた友達も。
わたしにとって、とてもとて思い出深いものだったのです。
・・・ですが、それよりなにより、ある意味このオーストラリアで、もっとも思い出深い出来事がありました。
聞くも涙、語るも涙、その内容は。
超、太った。
今まで人生生きてきて、ベスト オブ 太った です。
のちに体重計ではかると、プラス8キロ。
いやいやいや。
ジャージがきつくなるって、ありえなくねーって。
当時の写真みても、あらー。ぱんぱんですわねーみたいな。
オーストラリアでは、いくつかジンクスがあります。
いわく、オーストラリアにワーキングホリデイにいくと、必ず三回恋をする。
いわく。
オーストラリアにワーキングホリデイにいくと、日本人の女の子は8キロ太る・・・。
当時のいたいけなワタクシは、そんなジンクスをかみ締めながら、輝く星空に涙を浮かべてみたものでした。