ひまわり日記 2

名古屋駅前のフリー雀荘スタッフと店の成長日記
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よーこです

2012-08-05 08:19:55 | Weblog
先日、友達と会話しておりました。


「ね、よーこ。聞いてよ。彼氏がひどくってさあ」
「んー?」
「わたし、野球のこと全然興味ないのに、ずーっと話してくるの。無視してもずーっと同じ話! 興味ない話延々とされるのってすごくいや!」
「あらー」
「そのくせ、わたしが趣味のライブの話すると、こっちの顔もみなくて、話きいてないの。人の話も聞かないなんて、ほんとサイテー」
「あー……」



お願い気付いてその矛盾。

まあお互い歩み寄りが必要ということですね。


などともごもご口の中で唱えつつ。

さて、そんな日々を過ごしておりますが、前回の日記同様、去年の中国留学時に旅した回想日記の続きでも書き連ねてみます。
続きもの・長文となっておりますので、この暑さに耐えかねてちゃぶ台ひっくり返したくなると思われたらば、華麗なスルーでお願い致します。

中国は四川省、九寨溝に行った次の日からの続きでございます。


************************




目を覚ますと、時刻は午前5時20分を指していた。
アラームをセットした時間よりもはやい。
多少緊張しているのだろう。

中国四川省の北に位置する景勝地、九寨溝とともに名をあげる、黄龍。
今日はそこへ向かう予定だった。

身支度を整え外に出ると、山と空が間近に私を迎えた。
雲は多いものの、太陽が見える。
そのことに少しばかりほっとする。

まずは腹ごしらえだ。
旅仲間のYさんとSさんとともに、宿の隣の民家のような小さな店で、手作り水餃子を食べる。
お昼ごはん用に、チャーハンも確保。

さあ、いざ出発だ。

バスの出発時間は7時半。
帰りの九寨溝行きのバスチケットは、店頭販売は行っておらず、車内で買う仕組みになっている。

途中、休憩があって、バスが停まった。
何の気なしに見ていると、とまったすぐ近くの家から、地元人らしきおばちゃんがのっそりとバスに乗ってきた。
途中乗車のお客さんだろうか、と思いながら見ていると、彼女は何やら小さな小瓶を取り出して、にこやかに言い始めた。

意訳すると、こんなところだろうか。

「黄龍に行かれるみなさん、こんにちは~! ところで知ってます? 黄龍って、すごく高地にあるから、高山病の危険性がひどいんですよ! 高山病はすごーく苦しいし、死ぬこともあるわけで。途中ポイントでは4000メートルのところまでのぼるからね。頭がんがん、気分最悪。そんな旅にはしたくないですよね? せっかくきたんだもんね~。でも大丈夫! そんなあなたにお勧めのこの薬。これを飲めば、高山病にはならない! 行きに2瓶、帰りに3瓶飲むといいかんじ~!」

ああ、宣伝か。

中国では、バスに乗り込んでものを売りつける人はそう珍しくはない。
無視しておこうと視線をそらそうとしたところで、思わず二度見してしまった。

ヨーロピアンの方々、中国人の観光者。
バスの乗客たちが、国籍関係なく、興味深そうに品物を見ては、購入していっていたのだ。

あれ、あれ。なんで? 買うの? 詐欺とかじゃないの?

旅の準備を周到にしていそうなヨーロピアンの方たちは、事前情報もいろいろ調べているだろう。そんな彼らが買っている。
中国人観光客は、売り子のおばさんに根掘り葉ほり質問をして、頷いて、買っている。

あれ、もしやこれはマストアイテムなのだろうか?

バスがここで停車したのも、、わざわざこのおばちゃんに宣伝してもらうためなのだろうか。
いろいろ考えて、もう一度品物を見る。
1瓶10元(約120円)。1セットで50元(約600円)。

当時のわたしにとって、50元で小さな薬を購入するというのは考えられなかった。
私がいた小さな土地では、3~4人の友達にお昼ごはんをご馳走できる値段なのだ。

でもみんな買ってるから、えっと……。

日本人。みんながやったら自分もやります。
そんな標語が頭をめぐる。

結局、中途半端に2本だけ購入することにした。
行きから高山病になったらいやだが、帰りの分は、最悪帰るだけだから大丈夫だろう。

Sさんも同じく2本購入したが、体力自慢のYさんは、結局購入せず。
これを飲んで死んだり副作用が出たら、日本に新聞に出るのはいつだろうなあ。
邦人2人、安易に薬に手を出した!とかいう見出しかなあ。

などとダークなことが頭をかすめつつも、人差し指ほどの小さな瓶を一息で飲み干す。
味はとくにないが、においがきつい。イソジンくさい。

結論的にいえば、副作用もなく、薬を飲んだわたしもSさんも、飲まなかったYさんも、体調が崩れることはなかった。
果たして薬のおかげなのか、生来の丈夫さ故か、高山だということで動きに気を使ったおかげかは、謎である。

さて、バスは再び動きだし、山をいくつも越える。
次第に高度は増し、再びバスが停まったとき、そこはまだ目的地の黄龍ではなかったのだけれど、今回の旅で、おそらく最も海抜高度を誇る場所。

見渡す限り、山。

4000メートル。

そのわりに、高さを感じさせない。
眼下に雲海が広がっている富士山の頂上のほうが、まだ高いと感じると思ったのが、不思議だった。

山々の頂上部分が目の高さにあるので、それがまるで丘のようになだらかな土地が広がっているような錯覚を覚えるのだろう。

ただ、少し歩いただけでも息が切れた。
頭に少し違和感を感じ、高山病かな、とどきりとしたものだ。


黄龍に辿りついたのは、出発から約3時間後。午前10時半のことだった。
入場料が210元(わたしは留学できている学生だったので、160元)。
まずは80元を払って、ロープウェーに乗る。

そうして、いよいよ黄龍とご対面である。

大量の酸化カルシウムを含む水が、棚田のような光景を作り出している、黄龍。
薄い青色と、黄土色がマーブルのように混ざっている。

その色の、その形の不思議なこと。
何万年もかけて生み出された自然の形。
人が見て、美しいと、何かの意味があるのではないかと、思わず考えさせられる。
人の手が生み出せない奇跡のような光景。

この地球上に、いくつこんな場所があるのだろう。

わたしは今の人生の中で、いくつそれを見ることができるのだろう。

それを思うと、人生がもっと長ければいいと思う。


さて、この黄龍内では、酸素吸入ポイントというのがある。
高山病対策ということで、設置され、値段も安いのでやってみる。
幸いわたしは高山病をしっかりと経験したことはないが、その怖さは知っている。
薬にしろ、酸素吸入にしろ、できることはなんでもやっておきたい。

そんなふうに体に気を使いながら3人でゆっくりと歩いていると、一人のおっちゃんがしんどそうに後ろについて歩いてくることに気付いた。
黄龍のルートは決まっているので、追い越したり追い越されたりというくらいなのだが、何度か見かけた顔だ。

「おひとりですか?」
「ああ、そうなんだよ」
「つらそうだけど、大丈夫です?」
「さっき酸素吸入したからな、大丈夫だ」

そんな会話をしながら、自然と同じ速度で歩くようになる。
打ち解けると、おっちゃんはガイドのように、いろいろな話しをしてくれた。

おっちゃんは少し訛りが強く、わたしは話の半分も聞き取れればいいほどだったのだが、我ら智将のSさんは、よどみなく会話をつづけていた。

途中で、綺麗な赤い花を見つけた。
鮮やかで、大きな花弁。

綺麗ですね、というと、おっちゃんが、「ああ、あれは**で、このあたりによく咲くんだよ」と答えた。
わたしを見て、にかりと笑う。

「ちょっと待ってろ」

ルートを逸脱し、草を踏み分け、なぎ倒し、ごそごそと遠くでしたと思うと、彼はそこでくるりと振り返る。
手には例の大きな花。

「ん」

「わ、わーい。ありがとうございます」

花を渡してもらう。

それはとても少女漫画な展開であり。
そんなときに無粋なつっこみしてしまうのは申し訳なく思うのですが。

あの、さりげなく自然破壊ですよね。
あれ、世界遺産の土地ですよね。
高山植物というものは、簡単にとったりとかいけなかったような気が致しますが、ええと、もしかしてこの花って、この土地のみの、希少植物だったりしないですよね?



とりあえずぶんぶん振ってみる。
頭にさしてみる。

おっちゃんが、上機嫌で写真をとってくれる。
Sさんにパス。まつ毛の長いぱっちり目のSさん。わたしよりお似合い。
Yさんにパス。南国系のお似合いなYさん。赤い花がとてもお似合い。

そして再びわたしの手元に戻ってくる。
もらうのは嬉しいが、その対処に困るもの、それは花。

しばらく小学生のように花を手にぶんぶん歩き、しばらくしてから近くの水流にそっとささげる。
自然にお帰りください。。。

おっちゃんは、どうやらわたしたちを気にいってくれたようだ。
その後黄龍から降り、九寨溝に戻った後、バスガイドのお姉さん(といっても、地元の学生バイトだった)とともに、何やら豪華な食事をおごってくださる。

所せましと丸テーブルに並べられる料理。

「食え、食え! 好きなもの飲め!」

中国人の習慣だ。
ホストは食べきれないほどの料理を出すのが礼儀とされる。

出会ったばかりだろうが、一度親しくなれば全力でもてなしてくれる。

次から次へと出される料理。

Yさんは、この中で唯一中国語を話せない(わたしもたいがい怪しいもんだが)。
しかしYさんが日本人メンツの中ではもっとも酒を飲める。

「よーし、Y、おまえ飲め!」
「あ、どうもどうも」
「なあ、今日はいい日だなあおい!」
「ははははは」
「楽しいか? もっと飲むか?」
「どうもどうも」

おお、通じてる。(のか?)
二人して、ビール、白酒(50~60度)をばしばし空ける。
浅黒い肌を赤く染めながら、おっちゃんはさらに言う。

「なあ、知ってるか? わかってるか? 中国人は日本人を嫌っているところがある! なあ! いろいろあったもんな! 俺もそう思う! 日本人どうかって思う! そう思わせるところがあるんだよ実際な。中国人だって、いろいろあるもんな。でも今夜は別だ。俺はおまえらが好きだ! よーこ! なあ、おまえ今の、Yに訳してくれよ!」

「えっと、Yさん。おっちゃんが、『今夜はいい日だなあ』だってさ」


Yさんは実際、酒に強かった。
初めて成都で出会ったときも、彼はビールを山ほど飲んでいた。
俺はお酒強いよ、といっていた。

いうだけのことはあった。
多少ふらふらしているが、それでも意識は保っている。

そしておっちゃんもすごかった。
酔っているのはわかった。
でもふらふらという単語は似合わない。彼は豪快に酔っていた。

「よし! カラオケ行くぞ!」

バスガイドのおねーさんが、友達も呼んでいいかときくと、おっちゃんはもちろんかまわんぞ!と笑う。
連れてきたのは、同い年くらいのかわいい女の子だった。

二人とも学生で、旅行を専門に学んでいるという。
彼女たちが話すのは、流暢な普通語だった。

さて、わたしたちは九寨溝に戻ってきている。
小さな町だ。カラオケなんてあるのだろうか、と思っていたが、ガイドの女の子が案内してくれた。

そこは小さな町に似合わぬ豪華な店だった。
カラオケ屋というよりは、むしろ旅館に入っているカラオケ屋を借りるつもりなのかと思った。

中にはいってみると、これがまた、すばらしく豪華なお部屋。
なんだこれ。スナックか。バーか。なんだこれ。

料理は豪華なものをごちそうしてくれるし、カラオケ屋ではこれだし。
おっちゃん、何者だ。

Yさんと酒を酌み交わすおっちゃんに、尋ねる。

「あのー、お仕事って、何されてるんですか?」
「ああ、ダイヤとかな! 売ってるんだ! 俺、結構上の方なんだよな。幹部ってやつかな!」

ダイヤか。
響きは豪華そうだが、そんな金払いがいい職種なのだろうか。

浅黒い肌に、がっしりとした体格。視線は鋭く、いかつい顔立ち。
ダイヤというと宝飾系であり、なんとなくきらきらとした空間を思い浮かべるが、彼はどんな立ち位置なのだろう。

「まあいわゆるhei she huiだな! ははは!」
「hei she hui?」

聞きなれぬ単語に反芻する。
そんな職種があっただろうか。

「She hui」は「社会」だ。
「hei」な社会。heiって何だったっけか。
職種に関係する単語で……ああ、「黒」がheiって読むな。

くろ……しゃかい。
黒社会。

あー………つまりおっちゃん。





中国マフィア。

首に光るぶっとい金のチェーンはなるほどお似合いなわけです。
ほほほ、とわたしは笑った。
お仕事大変そうですね、と。

酔っぱらったおっちゃんは、わたしの隣にどかりと腰を下ろした。

「なあよーこ!」
「はい」
「おまえなー、男と一緒に泊まるんじゃないよ! 危ないだろう?」

(旅をはじめてから、YさんとSさんと同室)

「いや、なんか旅ってだいたいmix(男女混合部屋)なんで」
「別れろ!」
「いや一緒に旅してますしつきあってないし」
「おまえ、学生だろ?」
「そうですね」
「両親に面倒かけてるんだろ! お金もらって、中国まで留学にきて、ご両親も大変だろう! はやく社会に出てだな、親に楽させてあげろよな!」

面倒かけてるかもしれないけれど、お金は全部、自分で稼いだものを使用しております。
だいたいわたし、すでにいい年ですし。社会人してましたし。学生なのは留学生だからであって。

なんて反論するほどの語彙力も気力も隙間もない。
故に日本人=大和撫子(おとなしい)のイメージがつくんだな、と思っていると、おっちゃんは言った。

「おれが面倒みてやろうか? 金だしてやろうか?」


それは酒の席の戯言だ。
たとえ本気であったとしても、もちろんNOではあるのだけれど。

一瞬だけ、言葉につまった。
わたしがもしも、本当にお金がなくて、そうしてどうしても中国で勉強したいのであれば。
それはとても甘い言葉だ。

けれどこれは、道楽だ。
中国語を学びたいのも、世界を旅したいのも、それだけしかないと思ってやっているわけではない。やらなければならないという絶対的意思もない。やりたいから、やっているのだ。

何かを得るためと大言壮語をいうほどでなく、夢というほど大層なものでもない。

興味があり、そうしてそれを自分で実行できる力があったから、わたしはここにいる。

誰かに頼ってまでつらぬきとおすほどの意志もない。
そんな自分を卑下もしないが、鼓舞もしない。

よっぽどのことでない限り、自分でできる範囲で動くのが信条だ。リスクを買ってまでする必要はない。

なんてことを。
一瞬頭の中で真剣に考えた自分自身に苦笑しつつ。

その場はお開きになった。

時刻は真夜中をさしている。
帰り際、歩きながら、おっちゃんが言った。

「また話していいか?」
「え、はい、もちろん」

にこにこと答える。
わたしはもうすぐ留学を終え、日本に帰る。
それでも、SKYPEとかいう文明の利器もあることだし、おっちゃんも日本人に興味を持ってくれるなら、それは何より嬉しい。

おっちゃんはわたしの返事を聞くと、Sさんに何やら話しかけた。
そのすぐ後で、Sさんがわたしのそばにきて、耳打ちするようにいう。

「よーこさん、いいんですか?」
「へ?」
「あのおじさん、この後、よーこさんと二人で話すから、僕たちに先帰れって言ってますけど、いいんですか? よーこさんもそれをOKしたとかいってるんですけど」
「へ? え? いや。いやいや。『後で話す』って、いや、なんかこう、未来的な、またいつか話そうって意味だと思って、うんっていったけど。え? 今から? 二人で? おっちゃんとって話?」

「また後で」を、「またいつか」とわたしは訳したが、実際の意味は「この後」だったようだ。
よくわからないことにほいほい頷くものではない。

疑惑と偏見にまみれた、素直に人を見れない腐れた大人とののしられようとも。
いくら親切にして頂いた相手でも、さすがに本日初対面のおじさまと、真夜中二人きりになるのは好ましくない。


慌てておっちゃんに言う。

「すみません、さっきの勘違いです。今夜は無理です」
「よーこ、いいっていっただろうが!」

酔ってらっしゃるマフィアさん。
ちょっと怖い。

「いや、あのだから、その、そう、わたし今夜、両親と大事な話をしないといけないの。PCでチャットする約束してるの。留学について、今後のことを話さないといけないの。かなり親が心配しているみたいで」
「……じゃあそれが終わるまで待ってる」
「いや、ほんと何時に終わるかわからないから」
「いい、待ってる」


結局。
おじさんはわたしたちの宿で一時間ほど待っていたようだ。
SさんとYさんが説得してくれて、最終的にはお帰りになった。


最後は少し、どたばたしたものの、それはそれで、人生稀なる経験ということで、思い返せば面白かった。
そんなこんなで。

わたしの初・四川旅行は終わりを迎えたのだった。

このあと、Yさんは世界一周旅行へと旅立った。
Sさんは、休暇を終えて、日本の会社に帰っていった。

そうしてわたしは、残りわずかな留学生活のために、北の小さな大学に戻った。

人生一期一会というが、なるほどな、と思う。


ちなみに四川省はパンダちゃんも有名です。
一人2万円ほど払うとだっこできるそうです。
わたしは行ってないですが。

ご報告まで。





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