「これは活断層に間違いない。将来活動する可能性がある!」
昨年11月、たった一人の学者が、全国の電力会社を恐怖のどん底に突き落とした。原発敷地内の活断層の有無を調べる原子力規制委員会の専門家調査団に外部委員として名を連ねた東洋大教授、渡辺満久(変動地形学)だ。
同年9月に発足した規制委は、関西電力・大飯原発(福井県おおい町)、日本原子力発電・敦賀原発(同県敦賀市)、東北電力・東通原発(青森県東通村)などで断層調査を行う方針を打ち出した。
渡辺は、当時国内で唯一稼働していた大飯原発の調査団に加わった。1、2号機と3、4号機の間を走る断層を調べると「地層がずれていた。(活断層の疑いの)レベルが上がった」と主張した。
他の調査団のメンバーは「地層が変位している構造はあったが、時代がいつか分からないと活断層といえない」と明確な判断を避けたが、渡辺は「活断層に間違いない」と声高に訴え、その姿はメディアを通じて全国に報じられた。
その後も渡辺のボルテージは高まる一方だった。11月5日、場所を東京・環境省に移して開かれた調査団の会合では、「(活断層では)ないことを理屈付ける調査は不要だ。原発をすぐに停止すべきだ」と激しい口調でまくし立て、他のメンバーの「活断層ではなく地滑りだ」という主張を封じた。
原子力規制委員会の前身である原子力安全委員会は平成18年に出した指針に「原子炉建屋など重要施設は活断層の上に建ててはいけない」と明記した。規制委が策定した新しい原発の規制基準にも、安全上の重要施設は活断層上に設置できない旨が盛り込まれた。
活断層と判断されれば、原発は再稼働できず、廃炉とするしかない。つまり原発の「死の宣告」となる。脱原発派が「活断層探し」に躍起になる理由はここにある。
× × ×
今年9月2日、原子力規制委調査団は、大飯原発について「活断層ではない」との結論を出した。何とか渡辺の主張を押し切ったといえるが、国のエネルギー政策の根幹となる原発再稼働の是非を少数の有識者に委ねてよいのだろうか。
そもそも渡辺は東日本大震災の前から「反原発」で知られ、「伊方原発をとめる会」や「大地・原発とめよう会」「美浜の会」など反原発団体主催の会合でも何度も講演している。
平成24年6月には、当時の社民党党首の福島瑞穂や、民主党衆院議員だった三宅雪子ら脱原発を掲げる国会議員5人の大飯原発視察にも同行している。
そんな渡辺は大飯原発調査直前の24年10月18日、規制委委員長代理で、断層調査の責任者である島崎邦彦に5項目からなる要望書を提出している。
「調査団のメンバーは助言役ではなく、専門審査会委員と同等の役割をもつことを明確にする必要がある」「現地調査によって『活断層ではないこと』を示す明確な証拠が見つからない限り『活断層である可能性』を否定できない。明確な証拠は調査団メンバー全員が了承できるものであること」-。
もしこの要望書が通っていれば、1人のメンバーがわずか1、2日の現地調査で「活断層を否定する証拠がない」と言い張れば、その原発を廃炉にすることも可能となる。
このカラクリに当時の民主党政権は気が付いていたのだろうか。この論法がまかり通れば、電力会社だけでなく、国民にも「悪夢」は現実となる。
× × ×
電力会社の「悪夢」はなお続いている。
今年5月15日、規制委の専門家調査団が日本原電の敦賀原発2号機の直下にある断層を「活断層である」と断定した。
敦賀原発が廃炉となれば、日本原電は破綻する可能性が大きくなるだけに、必死の抵抗を試みた。
7月に「活断層ではない」とする追加調査報告書を規制委に提出。海外の地質学者らによる「問題の破砕帯(断層)が12万~13万年前以降、動いていない明確な証拠を確認した」との評価書も得た。
にもかかわらず、規制委は追加報告書については、今も店晒(たなざら)しにしている。
そもそも原発を建設する際、詳細な地質調査が行われている。にもかかわらず、今になって敦賀、東通と活断層が相次いで見つかるのはなぜか。
実は規制委の断層調査で、大きな役割を担っているのが渡辺を含めた「変動地形学」の学者たちだ。
伝統的な地質学は、地中深くトレンチと呼ばれる溝を掘り、断層を探し出す。これに対して、変動地形学は、断層の活動によって生じた地面の変形に着目する。航空写真や地表面を調査し、変形やゆがみから、活断層があるかどうか見極めるのである。
このため、伝統的な地質学者は「活断層がある」という厳密な証拠をつかまない限り、「活断層はない」と判定するが、変動地形学者は「活断層存在の可能性がある」ことを前提に判断するわけだ。
学問の優劣はさておき、過去の調査は主に地質学者が担い、変動地形学者の意見はほとんど反映されていなかった。
形勢が逆転したのは、東京電力・福島第1原発事故後だった。電力事業者と監督官庁(経済産業省原子力安全・保安院)、そして学者が「原子力ムラ」と呼ばれて総攻撃を受けたこともあり、規制委は、断層調査に変動地形学者を多数登用し、旧来の地質学者をパージしてしまったからだ。
活断層の「クロ判定」が相次ぐ理由はここにある。
純粋に科学的な見解だけならば、学者の間で論争してもらえばよい。だが、これまで傍流扱いされてきた意趣返しに「クロ判定」を出しているとすれば、由々しき事態だと言えよう。
学者による活断層の「有無」の判定がいかに疑わしいか。端的に示した事件が今年3月28日に起きた。
「見たいと思ったものが見えてしまった。断層があると予想した位置にあり、断層と思い込んでしまった。催眠術にかかってしまったようだった…」
東京大地震研究所教授の佐藤比呂志(構造地質学)はこう釈明した。
佐藤ら東大地震研の調査団は今年2月、東京・多摩地区の立川断層の掘削調査で「活断層を確認した」と発表した。ところが、断層活動で動いたとされる石が、実は地下に埋め込まれたコンクリート製杭だったことが分かったのだ。
佐藤は東北電力東通原発の調査を担当した専門家調査団の1人。今年2月、敷地内の断層を活断層と事実上認定する報告書案を取りまとめている。
まさかこちらも「催眠術」にかかって報告書をまとめたわけではないだろうが、「活断層ありき」と調査しているという疑念はぬぐえない。
ちなみに、活動層探しに躍起となってきた渡辺さえも、九州電力の玄海原発(佐賀県玄海町)、川内原発(鹿児島県薩摩川内市)については「活断層が近くにない」と“お墨付き”を出している。
× × ×
「この1年の最大の課題は『安全神話』を払拭し、新たな安全文化を構築することでした。透明性と中立性、それに科学的・技術的見地に立った判断を基本とした取り組みを進めてきました。その結果、徐々にではありますが、変化が確実に生まれています」
規制委委員長の田中俊一は、9月19日の規制委発足1年にあたり、このようなコメントを発表した。
だが、この1年間の原発停止に伴い、日本の国富は大量に海外に流出した。
経産省によると、火力発電用の燃料費は、震災が発生した22年度から3兆6千億円増加した。来年4月の消費税率アップによる26年度の税収増加は5兆1千億円なので、この7割以上が原発停止により無駄に失われた計算になる。
福島第1原発事故を教訓に、規制委は「原発の番人」として発足した。従来の経産省原子力安全・保安院と電力会社の“もたれ合い”が批判されたことを受け、国家行政組織法3条に基づく独立性の高い「三条機関」となった。
だが、「政治介入を受けにくい」とは、「独善」に陥る可能性が極めて大きいということでもある。
3年連続の赤字が現実味を帯び、青息吐息の九電は、規制委が求めるままに2千億円もの安全への投資をする。
「安全性を高めるのに異論はありません。でも、そのお金の捻出すら、原発が動かないと難しい…」
九電幹部はこう打ち明ける。他の電力会社も同様のジレンマに苦しむ。よしんば原発が一部再稼働したところで、過剰なまでの安全投資は近い将来、電気料金値上げとして国民や企業に跳ね返ってくる。
それでも、規制委委員長の田中は「コストのことはまったく頭にない」と断じる。規制委の専門家調査団が下した判断を再検証する組織もない。
すでに規制委は「独善」に陥ってはいまいか。「独善」が招く「悪夢」は消えるどころか、ジワジワと広がっている。(敬称略)
今回の発電所視察は有意義であり、今後の活動に参考になるいい機会でした。
一緒に参加されました「あずまクラブ越前の守」さんのブログより写真などをアップしていただきましたので拡散していただければありがたいです。
高速増殖炉「もんじゅ」と敦賀原発見学会↓
http://blog.goo.ne.jp/azuma-kurabu/e/fa29ef2b2d6b1cd2f5c565fd43110e97
敦賀原電では主に破砕帯の調査現場まで入りD-1破砕帯は原子炉建屋につながっている活断層であるのかどうか確認の様子を見てまいりました。
セキュリティーは厳しいですが正式な申請手続きをすれば視察見学は可能です。
副所長の挨拶の言葉は感激で声がつまっておりました。
「外から応援していますので頑張って下さい」と励ましの言葉をかけさせて頂きました。
多数の皆様の視察見学によって絶大な応援になることを実感いたしました。
ご覧の皆様も是非とも福井県まで応援見学に足をお運び下さいませ。
しっかりと視察して報告します。
よろしくお願いいたします。
<(_ _)>