KK病院の血液内科にS先生という医師がいた。当然私のいる研究室のような所にも出入りしていたが、いつも苦虫を嚙み潰したような表情で必要なこと以外何も喋らないから、私も黙っていた。
そのS先生が1年間イギリスに留学に行ったのだ。以後3年間は勤めるという条件で。
KK病院はそういう意味では職員に優しい病院だったと言える。
そのS先生が留学から帰ってきて、私にウエッジウッドのコーヒーカップをお土産にくださった。
それはともかく、S先生に笑顔が見られたのだ。とても感じがよくなっていた。先生が言うにはイギリスではエレベーターで二人になった時は、黙っていないで必ず何らかの会話をするそうだ。沈黙は許されない。そんな環境に1年間いたものだからすっかりそういう習慣が身についていた。
凄い効果だ。イギリスは夏はいいけど冬は耐えられないと言っていた。巻き寿司ののりをこのラップは何だい?と聞かれたという。家でパーティーをしたのだろう。よく喋るようになっていた。
でも、私は元々病気であまり喋れなかったのと、前の印象の方が強くて自分からは積極的には話さなかった。今頃どうしているだろうな?