ボーダーラインの患者が他人とうまくつきあえないのは、自己愛の満たし方が未熟であり、また感情を体験する自己がしっかりしていないせいだとコフートは考えました。誰でも「自分がかわいい」という気持ち、つまり自己愛がありますが、ボーダーラインの患者の自己愛は、ちょとしたことでも激しく傷ついてしまいます。もちろん会社の上司からバカにされたり、人前で恥をかかされたりすれば、誰でも腹が立つでしょう。「自分がかわいい」という気持ちを傷つけられたから、その反応として怒りが湧いてくるのです。そういう怒りのことを、コフートは「自己愛憤怒(じこあいふんぬ)」と呼びました。もちろん、バカにされたり恥をかかされ、心が傷ついても、それが本当にひどいやり方でなければ、人間はふつう我慢します。ところがボーダーライン患者は、よくあるジョークや、多分悪気で言ったのではないだろうとふつうは笑って済まされるようなことでも、ひどい侮辱と感じて激しい怒りが生じるのです。さらにボーダーラインの場合、問題なのは、その怒りをコントロールすべき自己そのものがもろいために、ちょっとした出来事で自己がまとまりのないものとなってしまうことです。ボーダーラインの患者では、そのようなしっかりした自己がないので、その場で攻撃性を抑え得ることもできないために怒りが暴走しやすく、また、その怒りがなかなか収まらないものになりがちなのです。だからこそ、ボーダーラインの人が犯す殺人事件には、ひどく残虐なものが多くもなるし、「なぜ、ここまで」というくらい、しつこく攻撃することも多くなるのでしょう。ボーダーラインの自己愛憤怒は、激しく長続きするものになりがちなのです。(和田秀樹氏)
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