アタシは今週月曜日の夕方、干してあった洗濯物を取り込むためにベランダへ出た。最後に外に出ていた時間から18時間半後の空は紺色のように青黒く、灰色の雲に覆われていて、アタシから見て左方向────渋谷方面は明るかった。決して沈んでいった夕日から漏れる光じゃない。人間の作り出した光。高層ビルや道路など、街にあふれる光が空に反射したものだ。横浜と言っても山寄りに住むアタシの町からは、やはり渋谷みたいな所は明るく見えるんだ。変わらないと思ってたけど。
右方向から急行電車が最寄り駅に向かって何かに追われているかのように目の前を通っていく。最寄り駅にその電車は止まらない。一つ先、二つ先、三つ先の駅に止まっていく。果たして急行の意味があるのだろうか。
左側の明るい空の地平線(と言っても最近出来たコンクリート打ちっぱなし、ガラス張りのデザイナーズマンションとメゾネットタイプ集合住宅の屋根だ)すれすれの彼方に、白くて小さい動く光が見える。飛行機だろうか。もっとも飛行機なら点滅する部分があるだろう。コレにはソレがない。一体何なのか。人工衛星か。人工衛星なんて北海道のキャンプ場でしか見たことがない。
ふと下の方を見てみる。下は道路だ。右から黒い軽自動車が走ってきた。その道路と目の前よりちょっと右側の道路はぶつかっていてT字路になっている。そのT字路に入ってきた別の車も前の軽自動車の後ろについて去っていった。
自分の立っているベランダ左方向は少し奥まっていて、リビングの隣の和室からも出られるようになっている。そこにはもう二度と世話をされることのない、植物の枯れた植木鉢が並んでいた。1年前までは元気に緑を輝かせていたけれど。
家の中では飼っている猫二匹がのんきに人間が使う為のソファとマッサージチェアの上で寝ている。
今ここにはアタシしかいない。
ここからずっと外の様子を眺めているけど、人は一人も通らない。
最寄り駅を通り過ぎていった急行電車の中にいる人は見えたけれど表情まで読みとれるはずもなくて、さっき通っていった車の中に人はもちろん居たはずだけど、全く見えなかった。
目を閉じて聞こえるのは、近くを通る高速道路を走る車のマフラーから漏れる音。
よくわからないけれど、中心だけが冷たく感じる風の吹く音。
ひょっとしたらこの世界にはアタシだけしか居ないんじゃないか、と脳を支配する妄想。
一日中家にこもる。
窮屈感。閉塞感。圧迫感。嫌悪感。
今はたくさん寝られるけれど。
やらなくちゃいけないこともたくさんあるけれど。
一時を除いて、本当は辛い。
やらなきゃいけないことがたくさんあるから、じゃない。
アタシが。アタシの本能が、何かを、たぶん、今の状況のほとんどを拒否してる。
戻りたい。
恋をしていてよかった。
甘えてばかりは居られないけど。少なくともアタシなんかよりよっぽど辛い思いをしてるはずだから。
人って温かいね。
アタシだけじゃないよね。みんな居るんだよね。ひとりぼっちなんかじゃないよね。