空の洪水

春名トモコ 超短編、日記など

神様ラジオ (超短編)

2005年05月18日 | 超短編
 僕は慎重にチューナーをまわしながら、秘密の放送局を探す。毎日周波数が変わるので、見つけ出すのは難しい。激しい雨音の向こうからようやく話し声が聞こえてきた。僕の目当ては天気予告のコーナーだ。
「××さんからのお手紙です。『最近、土曜日は雨ばかりですが、手を抜いているんじゃないですか』」
「心外だなあ」
「次のおハガキです。『来週の日曜は彼女とデートなので、絶対ぜったい晴れにしてください!』」
「雷雨です。お気をつけください」
「では、あしたの天気予告をお願いします」
「午前中は晴れ。夕方から三十パーセントの確率で雨を降らせるかも」
「なお気まぐれにより天気は変わるのでご了承ください。それではまたあした」
 最近分かってきたことだが、神様はちょっとかわいそうな若い女の子のお願いなら聞いてくれる。僕はしたためたハガキで紙ヒコーキを作った。それを窓から空に向けて飛ばす。
 来週の日曜日こそは晴れるだろうか。

-------------

「超々短編広場」掲載分

なぜ若い女の子のお願いだけ聞くのかと言うと、500文字の心臓の競作「駄神」の時に考えた作品だからです。

ラブレター (超短編)

2005年05月08日 | 超短編
 夜空の星がチカチカパチンとはじけました。すると街中の犬が屋根にのぼって大合唱。昔から犬が歌うと晴れと言います。
 次の日、真っ青な空が落ちてきて、僕たちは青い色水に溺れました。部屋の中を熱帯魚が泳ぎまわって大変です。
 夕方、郵便配達員が自転車でアクロバットをしながら、金魚鉢と手紙を運んできました。僕は熱帯魚を金魚鉢に押し込んで冷凍庫にしまいます。
 届いた手紙で早速あの子に電話をかけよう。僕の声に合わせて、あの子がふりふり踊りだすよ。
 素敵なダンスに夜空の星が拍手をくれる。
 チカチカパチン。

-----------

超々短編広場 掲載分