空の洪水

春名トモコ 超短編、日記など

真実 (超短編)

2005年02月18日 | 超短編

 姉が首をかしげた拍子に、耳の穴から何か
がこぼれ落ちた。足もとに転がってきたそれ
を拾いあげる。ありふれたネジだった。
「どうりで」
 私が返したネジを姉は納得した顔で握りし
め、そのまま祖父のいる書斎に三日間とじこ
もった。

あなたからの便り (超短編)

2005年02月03日 | 超短編
  あなたからの便り

 恋人がリスになりたがっていると人づてに聞く。知った時、すでに彼は小学生ぐらいの背に縮んで、やわらかそうなしっぽが生え始めていた。

「どうして話してくれなかったの」
 正座で向き合い問い詰める。彼はくりくりした目を合わせずに答える。
「怒るから」
「なぜリスなの」
「大きなふさふさのしっぽを丸めて眠りたかったから」
 それを聞いて無性に腹が立った。
「あなたがリスになったら、あたしはどうなるのよ!」
「ほら怒るだろ。だから内緒にしてたんだよ」
 言い合っている間も恋人の背は縮み、頭から耳が出てくる。茶色いしっぽもぐんぐん伸びる。まったくバカにしている。
「もう知らないっ」
 あたしが立ち上がると、彼は窓からひょいと出て行った。

 それ以来、恋人には会っていない。ときどき窓辺にどんぐりが届く。それを庭に埋め、木のうろで眠る彼を想像しながらいそいそと水をやる自分が、少し嫌になるのだ。

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 500文字の心臓 トーナメントMSGP 2004 準決勝
  お題「あなたからの便り」
   ・ケンカのシーンを入れなければならない
   ・3つの段落でできていなければならない

川上弘美さんっぽいという選評をいただきました。
本人も充分に自覚してます。
これ書いてた時、ちょうど「椰子・椰子」にどっぷりはまってました。

でも、自分ではこれ結構気に入ってます。
なぜなら、シバリをこなすのにめちゃくちゃ苦労したから。
この短さでケンカの「シーン」を入れるのなんて絶対無理!って思いましたよ。