あなたからの便り
恋人がリスになりたがっていると人づてに聞く。知った時、すでに彼は小学生ぐらいの背に縮んで、やわらかそうなしっぽが生え始めていた。
「どうして話してくれなかったの」
正座で向き合い問い詰める。彼はくりくりした目を合わせずに答える。
「怒るから」
「なぜリスなの」
「大きなふさふさのしっぽを丸めて眠りたかったから」
それを聞いて無性に腹が立った。
「あなたがリスになったら、あたしはどうなるのよ!」
「ほら怒るだろ。だから内緒にしてたんだよ」
言い合っている間も恋人の背は縮み、頭から耳が出てくる。茶色いしっぽもぐんぐん伸びる。まったくバカにしている。
「もう知らないっ」
あたしが立ち上がると、彼は窓からひょいと出て行った。
それ以来、恋人には会っていない。ときどき窓辺にどんぐりが届く。それを庭に埋め、木のうろで眠る彼を想像しながらいそいそと水をやる自分が、少し嫌になるのだ。
---------------
500文字の心臓 トーナメントMSGP 2004 準決勝
お題「あなたからの便り」
・ケンカのシーンを入れなければならない
・3つの段落でできていなければならない
川上弘美さんっぽいという選評をいただきました。
本人も充分に自覚してます。
これ書いてた時、ちょうど「椰子・椰子」にどっぷりはまってました。
でも、自分ではこれ結構気に入ってます。
なぜなら、シバリをこなすのにめちゃくちゃ苦労したから。
この短さでケンカの「シーン」を入れるのなんて絶対無理!って思いましたよ。