空の洪水

春名トモコ 超短編、日記など

空から降りてくるもの (超短編)

2005年06月30日 | 超短編
 景色は続いているけど見えない壁が立ちはだかっている場所が僕の町にはあって、つまりそこが世界の果てなんだけど、その透明な壁に破ったノートをのりで貼りつけたら見えない段ができた。ずらして貼れば空へ続く階段ができあがる。
 一段のぼり破ったノートを壁に貼る。朝から続けて昼をまわった頃、街はすっかり小さくなった。でも雲だってまだまだ遠い。ちゃちな空でも案外高いんだな。
「あら」声が降ってきた方を見上げると、女の子が空中で逆さまに立っていた。長い髪もスカートも引力に逆らっている。
「おんなじこと考える人、下にもいるのね」
 女の子は手にしているマジックで見えない壁にかくかく線をひくとそれは階段になって、忍者のように逆さまのまま僕のところまでやってきた。目をこらして見ると黒いマジックの階段は雲の下から続いている。
「これ雲にひっかかってたの。せっかくだからあげる」
 僕の手の中に落ちてきたのは規則的にぴかぴか光る電気仕掛けの星。
「もっとお話ししたいけどそろそろ戻った方がいいわ。日が暮れると踏み外しちゃうから」
 大急ぎで雲まで続く階段をのぼっていく女の子の後ろ姿を見上げながらこれが恋なのかなと思ったり。
 それから僕はときどき空の真ん中で、女の子が降りてくるのを待っているんだ。

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500文字の心臓 トーナメントMSGP 2005 3回戦
  お題「空から降りてくるもの」
   ・文房具を登場させること