庭の藤が見ごろになった。昔から植えてあったのだが、しばらく手入れをしていなかったので、枝が絡み合ったり、隣の松と競合したりして花を咲かせるのを忘れていた時期があった。この数年、藤棚を作り、思い切って枝を落としたりしていたら、棚一杯に花をつけるようになった。この花が咲くと、春が終わって夏の始まりとなる。
桜の花と同じく藤の花の散り際はあっけない。満開になったかと思えばもう散り始めている。まるで重さが何もないような花びらの一つ一つが風に運ばれている。
わが宿に咲ける藤波立ちかへりすぎがてにのみ人の見るらん
藤の花で思い出すのは、はるか昔、高校に入学した5月、級友の母親が亡くなってクラスを代表して自宅にお悔やみにあがったことがある。焼香の後、満開の藤棚の下で見送ってくれた、青ざめた顔の級友のセーラー服姿が今でも鮮やかに思い出される。