はんたろうのがらくた工房

えーと、えーと…。

続・ホエールウォッチング

2009-05-03 11:22:31 | いきもののこと
12人の乗客が揃ったので、航介丸は定刻より少し早く出航した。

前日までの実績と船長さんの勘をたよりに、広い土佐湾をびゅんびゅん走る。

ほかの船とも常に無線で連絡を取り、はじめは広く展開してクジラを探し、発見できれば集まってくる…という手筈らしい。



高知県の海岸線を右手に見ながら、南西に向けて30分ほど疾走したところで、船長さんが「おった!」と言って速度を緩めた。



ニタリクジラだ。



ニタリクジラ(Balaenoptera brydei)は温暖な海域に棲むナガスクジラの仲間だ。イワシクジラに似ているから「似たり」だという説がある。
そのイワシクジラ(B.borealis)とは、外見上は上あごの稜線の本数で区別する。

2006年にツノシマクジラ(B.omurai)が新種として登録されたとき、従来ニタリだとされてきたクジラが、じつはニタリクジラとイーデンクジラ(和名は仮称、B.edeni)の2種に分けられることが判明し、ニタリのほうは新しい学名をもらった。

ザトウクジラの場合、夏の採餌は高緯度の寒い海へ、冬の子育ては低緯度の温暖な海へと回遊するため、例えば沖縄県でのザトウクジラウォッチングは冬期に限定される。
だが、土佐湾のニタリクジラは一年を通じて定住しているので、春から秋までホエールウォッチングが楽しめる(冬が休みなのは人間のほうの都合である)。



クジラを見つけると、エンジン全開で接近し、ある程度近づいたら動力を切って静かに観察する。



気がつけば、分散していたほかの船も集まってきていた。



クジラのほうは好き勝手に泳いでいるから、見つけて近づいたと思ったらすぐに潜ってしまい、数分後に離れたところに浮上する。
そしたらまた、船が全速力で追いかける…という感じだ。



エンジン音が賑やかなので、なんだか寄ってたかってしつこく追い回しているような感じもしたが、それにしては、クジラのほうから船のすぐそばに浮上してくれることもあった。



どうやらこの海域での船とクジラとの距離感は、意外と近くてさばさばしているのかもしれない。





読者諸兄は、そろそろ飽きてきただろうか。
テレビで見るようなジャンプも、採餌も、スパイホッピングも、今回は、ない。
ザトウクジラやマッコウクジラとは違って、ニタリクジラは深く潜るときにも海上に尾ひれを出さない。

延々と、背中と背びれの画像だったりする。




今回の、たぶんもっとも貴重な画像。
海上に胸ひれをさし上げていると思われる。
カメラのファインダーをのぞくのに夢中で、私はこれを肉眼で見ていない。



船のすぐ傍に浮いてきたところ。
ズームアウトする間に、写真も撮り損ない、肉眼でも見損ねた。



これは、いかん。



私は写真を撮りにきたのではなく、クジラを見にきたはずではなかったか。



それで、握りしめていたカメラの電源をいったん落として、しばらく見るのに集中することにした。

ブローの瞬間も、海面に出た上顎も、見ることができた。
ふしゅう、というブローの音も聴いた。

さいわいなことに、この回はクジラを見る機会に恵まれ、遅まきながら私自身の視聴覚もクジラを堪能できた。





「戻るんに1時間くらいかかりませけん」と船長さんが言い、宇佐港への帰途についた。
しばらく舳先で風に当たっていたが、気がつくと他の乗客はみんな座席でうとうとしていた。
皆、早起きをして参加したのだろう。
ただひとり、自分のはしゃぎっぷりがおかしかった。

つづく。

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