岸田総理が大号令をかけてスタートしたGX推進関連法とGX総合戦略。脱炭素というスローガンの下に、総額150兆円という巨大投資が動き出すのだが、これは果たして本当に脱炭素なのだろうか?
*トップ写真は経産省の「カーボンニュートラルの広がり」と言うイラスト。無駄なものがいっぱい書いてありますので、発見してください!
画像がよく見えない方はこちらから
https://www.meti.go.jp/policy/energy_environment/global_warming/ggs/index.html
怪しい「e-メタン」技術
8月1日発行のエコノミストは、GX特集として「e-メタン」を特集していた。GX基本方針の柱は二つで、一つは脱炭素技術への投資で、もう一つはカーボンプライシング。カーボンプライシングとは、炭素に価格付し排出した分のお金を払わせる仕組みだ。「e-メタン」は脱炭素技術の一つという位置づけだが、メインは省エネ、再エネ、原子力となっていて、「e-メタン」は「その他」の水素・アンモニア支援制度の中の一つだ。
GXの方針がそうなのか、マスコミが書くことがそうなのか、どちらかよくわからないが、メインではなくあえて端っこのことが針小棒大に描かれる傾向がある。「その他」の水素・アンモニアはそれだけでCO2をゼロにはできない技術だ。製造過程の電気は再エネの普及が前提になるし、石炭などの化石燃料と混焼して、その発電所のCO2を1割か2割程度を減らすという技術だ。これを理由に、石炭や天然ガスを使い続けることを正当化するための技術とも言える。やがて石炭や天然ガスは使えなくなるのだから、一時的な「過渡的技術」に過ぎない。
「e-メタン」は水素・アンモニアのさらに変形版だ。「e-メタン」は「水素・アンモニア支援制度」で作った水素と化石燃料発電所から抽出固定したCO2とを反応させてメタンを作るのだという。発電所で抽出するときにCO2を減らしているので、これを使ってメタンを作ってCO2を出しても「排出ゼロ」ということになるのだという。本当か?
記事を読んでいると、頭がくらくらしてきた。せっかく固定させたCO2を、1年も経たずに放出する技術なのだ。固定させるのに、まず相当のコストをかける。その固定したCO2を太陽光発電の電気で水を電気分解させて作った水素と反応させて「e-メタン」を作る。水素を作るところでコストがかかり、この水素とCO2を反応させることでまたコストがかかる。太陽光発電の電気だけを使えば、非常に安価な電気なのに、いくつもの不思議な工程を重ね合わせて「e-メタン」を作る。
理屈上の「排出ゼロ」(その理屈も間違っているが)を、猛烈なコストをかけて実現するのがGXらしい。どのくらいのコストなのか? 2025年の目標がLNG価格の2倍強だと書かれている。LNGによる発電単価は、図1のグラフのようになっている。これは政府の発電コスト検証ワーキンググループの資料をもとに作成されたものだ。電気の市場価格が高騰した2022年9月には25.23円/kWhの最高値をつけている。その後下がってはいるが、2023年6月で15.99円/kWhである。その2倍強とすれば、「e-メタン」の電気は30円/kWhを超える単価になる。
化石燃料発電所でのCO2固定、水の電気分解による水素取り出しの両者ともに相当な「装置」を必要とする。さらにそのCO2と水素を反応させる「装置」を作る。それぞれの「装置」が数十億円は下るまい。上記の単価計算に、これら装置価格が含まれているかも判然としない。そもそも2023年時点で実用化していない技術であり、これから日本の名だたる企業が試行錯誤してチャレンジするらしい。この類のことに、日本中がチャレンジして、そのためにかけるお金が総額150兆円ということらしい。
読みにくい方はこちら https://pps-net.org/statistics/gas7
正直なところ実現自体怪しい。最初から太陽光発電と風力発電で電気を作れば、電気のコストは10円/kWh以下になるだろう。巷にCO2ゼロで10円/kWh以下の電気が溢れかえっているのに、3倍の「e-メタン」の電気を買う企業があるのだろうか。しかも太陽光や風力発電なら確実にCO2を減らせるのだが、「e-メタン」はせっかく固定化したCO2を放出する技術なのだ。太陽光や風力発電の電気は、ゼロからマイナスにすることができるが、「e-メタン」の電気は、せいぜいゼロのままなのだ。これをもって脱炭素技術と言えるのだろうか。
日本では「脱炭素」の意味が捻じ曲げられている
時代は脱炭素、脱炭素だと言えばなんでも売れる・・と勘違いしている人(企業)がかなり日本には多いのではないか?脱炭素とはCO2ゼロということだ。石炭火力を水素混焼で2割ほどCO2排出を減らしても、それを脱炭素とは言わない。世界の脱炭素基準はもっと厳しく、日本のようないい加減な基準で「脱炭素」電気で作った製品ですとやっていたら、世界のサプライチェーンから完全に日本は外される。
日本だけ鎖国して「炭素の国」を作るのなら、それはそれで大した根性だが、それを間違えて「脱炭素」だと思っていると大火傷をする。水素・アンモニアへの巨大投資を促すGX戦略はその筆頭と言って良い。また政府に騙されて、東芝のように倒産か倒産寸前に追い込まれる企業が続出することになるだろう。
間違った思想と認識の上に、エネルギー戦略が組み立てられているので、それを信じてはいけないのだ。日本の脱炭素の間違いが制度的に組み込まれているのが、エネルギー供給構造高度化法(以下「高度化法」という。)である。高度化法自体は省エネのための法律だったが、そこに「非化石」という国際的には流通していない概念を貼り付け、再エネだけでなく原発もゴミ発電も「非化石」にしてしまった。しかも高度化法で義務化されている「非化石」達成のためにはFIT再エネは使えない。FITの環境価値は「再エネ賦課金」によって対価が払われており、使用済みという理屈だ。ところがそれはしっかり日本のCO2削減として政府はカウントしている。それなら消費者から取らずに税金で支払うべきだと思う。そして、この環境価値を非化石価値として企業に買わせれば、支払った税金もちゃんと回収できるはずである。
読みにくい方はこちらから https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/denryoku_gas/seido_kento/pdf/079_06_00.pdf
あえてそうしないでいるため、高度化法の義務達成市場では「非FIT非化石証書」が高値に張り付いている。2022年に入ってからの入札では、図2のように売り手が売りをほとんど出さないからだ。もっと価格を釣り上げたいのだろう。ちなみに「非FIT再エネ指定」は「大型ダム水力」で「非FIT再エネ指定なし」は「原発」と思って良い。どちらも大手電力しか売れない非化石証書だ。FIT非化石証書は高度化法の義務達成には使えないので、買い手もつかず二束三文らしい。結果として、高度化法の2030年非化石比率44%という目標は、達成できないことが確実だ。44%目標は、再エネ22〜24%、原発22〜20%という政府の2030年目標と繋がっている。原発20%というのは100万kWの原発23基に相当するが、2022年6月までに再稼働したのは6発電所10基のみ。しかも全て1年を通じてフル稼働という条件もつく。強引にあと13基を再稼働させたとしても、それをフル稼働で動かし続けるのは不可能だ。
環境価値(脱炭素)とは何か
RE100企業の脱炭素基準はもっと厳しい。日本と違って10年以上前にできた再エネの環境価値すらないという判断だ。高度化法の義務達成に使われる「ダム水力」の環境価値など、みんな「何10年もの」だ。私自身が扱ったことがあるグリーン電力証書の場合、10数年前に発電した電気の環境価値までシリアル番号付きで保存されている。トレーサビリティはすごいのだが、そんな塩漬けされた環境価値には「ノー」が出される。
そこで、改めて「脱炭素」の意味を考えてみよう。正しい意味は「炭素を出さない」という意味だ。炭素を減らすとか、別の形に変えるという意味ではない。もちろん一時的に「炭」にするのは、その時点では脱炭素だ。それを畑に撒いて土壌改良剤として使っても、何年かの間には、炭素は分解して大気中に出てくる。まして炭として燃やして焼き鳥などすれば、それは炭素の放出だ。固着させたものだから「ゼロ」だと言いたい人があるだろう。確かにそうだが、実は日本はゼロじゃダメなのだ。
読みにくい方はこちらから https://climateactiontracker.org/documents/849/2021_03_CAT_1.5C-consistent_benchmarks_Japan_NDC-Translation.pdf
図3は、クライメート・アクション・トラッカーが指摘する、日本が本当に達成しなければならない排出削減目標である。2050年に気温上昇を1.5℃に抑えるためには、既に長年にわたってCO2を出してきた先進国は排出量をゼロにするだけでは責任を果たしたことにならない。日本は2050年までにゼロではなくマイナス4000万トン削減を達成しなければならない。これは現在の排出量から133%以上削減することを意味する。
それには、今CO2を排出している発電所やガス供給や移動手段を「全て」別のものに置き換えないといけない。電気は太陽光と風力、小水力などの再エネに、ガスなどの熱は太陽熱かバイオマス熱に。移動手段はほぼ再エネの電気に置き換えるしかない。大変かもしれないが、正解は既に出ており、自然変動電源としての過不足を蓄電池やその他の系統制御技術でカバーすることが、世界の技術開発の中心となっている。結果を出すためのコストは、ダイレクトに再エネに投資することが最も安いのだ。
もちろん資源を無駄に使わないように省エネや断熱は推奨される。ただ、再エネによる電気、熱の資源は日本にはほぼ無尽蔵にあり、少なくとも今想定できる日本のエネルギー需要に対して資源が不足することはない。むしろ、多くの余剰が生まれ、中国や韓国、北朝鮮、ロシアに対するエネルギー輸出国になれるだろう。まさにマイナスを作り出し、しかもそれがお金になる。
原子力の幻想という障害物
これほどわかりやすい、かつ簡単に達成できる道が見えているにもかかわらず、日本政府のCO2削減への道程は遠い。あえて遠回りをしているようにしか見えない。その背景にあるのが「原子力への幻想」だ。GX基本方針の技術開発対象の一部に過ぎないのだが、打ち出されたGX脱炭素電源法の半分は原子力の活用を促進するものだ。
GX脱炭素電源法は(1)地域共生型再エネの導入促進と(2)原子力の活用・廃炉推進の二つで構成される。再エネは放っておくと無秩序、無制限に拡大する。一言で言うと「儲かる」からだ。だから日本では「儲からない」ように二重三重に制限や規制がかけられている。ここでいう「地域共生」もそうだ。山を削り、森を切り倒して地域環境を破棄し尽くしてメガソーラーが拡大してきたが、「地域共生」はこれを規制する概念だ。地域と共生できる、すなわち地域の人に受け入れられる発電所しか認めない。この規制はそんなに悪くはない。ただし「地域共生」ができている発電所には、系統接続などの規制は取っ払ってほしい。
一方で原子力に「地域共生」の義務はない。「共生」などできないからだろう。福島原発事故は、原発が地域を繁栄させるものではなく、放射能で汚染し、人の住めない故郷にすることだと教えてくれた。それを認めたくないがためか、除染し、立ち入り禁止区域を解除し、強制的に住めという政策が始まっている。こちらは「地域強制」だ。
核のゴミ(放射性廃棄物)は今も行き場が定まらない。これを増やせば、さらに処理処分の費用は増大し、最終的に「国民負担が増す」ことは明確なのに、まだ再稼働に固執している。再稼働しても「使用済核燃料プール」が満杯で、運転できなくなることが明確なため、「中間貯蔵」という「とりあえず策」を打ち出して、プールを無理やり空けて発電しようとしている。
原発の発電コストは、経産省のホームページでは今でも10円/kWhとされているが、これは再処理費用や廃棄費用を少なく見積もるなどいろいろな問題がある。最もわかりやすいのは運転期間を40年で計算していることだ。太陽光発電など再エネは20年で計算されている。太陽光発電も実は40年使うことが可能だ。そうすると太陽光発電の発電コストは5円〜6円/kWhになる。逆に原発を20年にしてみると20円/kWhになる。この単純なマジックを消すだけで、原発コストは太陽光や風力発電の2倍という実態が見える。それでも「安い」と言い張って、政府はこの無理を通そうとしている。
安くはないし、危険だし、最後に残る廃棄物の処分方法はいまだに決まっていない。それでも日本政府がこれに固執するのは、原発が「核兵器」技術の一部であり、政府が核武装能力を持っていたいと考えているからとしか思えない。軍事なら採算は度外視だからだ。もちろん、そんな願望があるなどと言ったら国際社会からの経済制裁になりかねないので口が裂けても言わないだろう。
結果的にできないことに固執して、大きな可能性を持っている再エネの邪魔をしている。高度化法のところで説明したように、再エネの非化石証書は日本で実質使えず、原発の非化石証書に多額のお金が流れていることもその一つだ。原発や石炭火力などが、送電線使用の既得権を持っていて、長らく再エネの送電線接続が阻まれてきた「系統接続問題」、原発や石炭火力などに全新電力が拠出金を支払うことになった「容量市場」などなど。再エネの建設費用を高くし、新電力が再エネを供給しようとしても電気代を下げられないようにする画策が次々と行われている。まだ不足と見えて「長期脱炭素電源オークション」という新たな仕組みも作られた。これについては、また別の機会に詳しく説明したい。
GXのお金の使い方を監視しよう
私はGX基本法と関連法の中身が全て悪いとは思わない。GX推進法によるカーボンプライシング(炭素排出への課金)や排出量取引制度がきちんと機能することを願いたい。GX脱炭素電源法による系統(送電線網)整備のための環境整備や既存再エネの更新・増設への追加投資にも期待したい。しかし新しい再エネ設備が爆発的に拡大していくための応援制度はGXの中には見当たらない。今後10年でGX移行債を20兆円発行し、民間投資150兆円を呼び込むというのなら、今すぐに再エネのための系統整備に20兆円を注ぎ込むことの方が正解だろう。
一方でGX施策は無駄なもののオンパレードだ。目的は脱炭素のはずである。実際には脱炭素できない「脱炭素技術」が、政府資金や民間投資を食い荒らすことをしっかりと監視しよう。投資家として、消費者として、また税金を払う国民として、いろいろな立場から「物を言う権利」が私たちにはある。もう「失われた10年」などと言っているうちに、地球温暖化は激しく進行してしまう。もう待ったなし。あなたが動くときだ!
*最後に日経クロステックの図を添付。
この手のバラ色イメージが社会に溢れていますが、半分以上「無駄な投資」です。あなたもよく見て発見してください。
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https://xtech.nikkei.com/atcl/nxt/column/18/01770/090200001/?SS=imgview&FD=-654642772
*トップ写真は経産省の「カーボンニュートラルの広がり」と言うイラスト。無駄なものがいっぱい書いてありますので、発見してください!
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怪しい「e-メタン」技術
8月1日発行のエコノミストは、GX特集として「e-メタン」を特集していた。GX基本方針の柱は二つで、一つは脱炭素技術への投資で、もう一つはカーボンプライシング。カーボンプライシングとは、炭素に価格付し排出した分のお金を払わせる仕組みだ。「e-メタン」は脱炭素技術の一つという位置づけだが、メインは省エネ、再エネ、原子力となっていて、「e-メタン」は「その他」の水素・アンモニア支援制度の中の一つだ。
GXの方針がそうなのか、マスコミが書くことがそうなのか、どちらかよくわからないが、メインではなくあえて端っこのことが針小棒大に描かれる傾向がある。「その他」の水素・アンモニアはそれだけでCO2をゼロにはできない技術だ。製造過程の電気は再エネの普及が前提になるし、石炭などの化石燃料と混焼して、その発電所のCO2を1割か2割程度を減らすという技術だ。これを理由に、石炭や天然ガスを使い続けることを正当化するための技術とも言える。やがて石炭や天然ガスは使えなくなるのだから、一時的な「過渡的技術」に過ぎない。
「e-メタン」は水素・アンモニアのさらに変形版だ。「e-メタン」は「水素・アンモニア支援制度」で作った水素と化石燃料発電所から抽出固定したCO2とを反応させてメタンを作るのだという。発電所で抽出するときにCO2を減らしているので、これを使ってメタンを作ってCO2を出しても「排出ゼロ」ということになるのだという。本当か?
記事を読んでいると、頭がくらくらしてきた。せっかく固定させたCO2を、1年も経たずに放出する技術なのだ。固定させるのに、まず相当のコストをかける。その固定したCO2を太陽光発電の電気で水を電気分解させて作った水素と反応させて「e-メタン」を作る。水素を作るところでコストがかかり、この水素とCO2を反応させることでまたコストがかかる。太陽光発電の電気だけを使えば、非常に安価な電気なのに、いくつもの不思議な工程を重ね合わせて「e-メタン」を作る。
理屈上の「排出ゼロ」(その理屈も間違っているが)を、猛烈なコストをかけて実現するのがGXらしい。どのくらいのコストなのか? 2025年の目標がLNG価格の2倍強だと書かれている。LNGによる発電単価は、図1のグラフのようになっている。これは政府の発電コスト検証ワーキンググループの資料をもとに作成されたものだ。電気の市場価格が高騰した2022年9月には25.23円/kWhの最高値をつけている。その後下がってはいるが、2023年6月で15.99円/kWhである。その2倍強とすれば、「e-メタン」の電気は30円/kWhを超える単価になる。
化石燃料発電所でのCO2固定、水の電気分解による水素取り出しの両者ともに相当な「装置」を必要とする。さらにそのCO2と水素を反応させる「装置」を作る。それぞれの「装置」が数十億円は下るまい。上記の単価計算に、これら装置価格が含まれているかも判然としない。そもそも2023年時点で実用化していない技術であり、これから日本の名だたる企業が試行錯誤してチャレンジするらしい。この類のことに、日本中がチャレンジして、そのためにかけるお金が総額150兆円ということらしい。
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正直なところ実現自体怪しい。最初から太陽光発電と風力発電で電気を作れば、電気のコストは10円/kWh以下になるだろう。巷にCO2ゼロで10円/kWh以下の電気が溢れかえっているのに、3倍の「e-メタン」の電気を買う企業があるのだろうか。しかも太陽光や風力発電なら確実にCO2を減らせるのだが、「e-メタン」はせっかく固定化したCO2を放出する技術なのだ。太陽光や風力発電の電気は、ゼロからマイナスにすることができるが、「e-メタン」の電気は、せいぜいゼロのままなのだ。これをもって脱炭素技術と言えるのだろうか。
日本では「脱炭素」の意味が捻じ曲げられている
時代は脱炭素、脱炭素だと言えばなんでも売れる・・と勘違いしている人(企業)がかなり日本には多いのではないか?脱炭素とはCO2ゼロということだ。石炭火力を水素混焼で2割ほどCO2排出を減らしても、それを脱炭素とは言わない。世界の脱炭素基準はもっと厳しく、日本のようないい加減な基準で「脱炭素」電気で作った製品ですとやっていたら、世界のサプライチェーンから完全に日本は外される。
日本だけ鎖国して「炭素の国」を作るのなら、それはそれで大した根性だが、それを間違えて「脱炭素」だと思っていると大火傷をする。水素・アンモニアへの巨大投資を促すGX戦略はその筆頭と言って良い。また政府に騙されて、東芝のように倒産か倒産寸前に追い込まれる企業が続出することになるだろう。
間違った思想と認識の上に、エネルギー戦略が組み立てられているので、それを信じてはいけないのだ。日本の脱炭素の間違いが制度的に組み込まれているのが、エネルギー供給構造高度化法(以下「高度化法」という。)である。高度化法自体は省エネのための法律だったが、そこに「非化石」という国際的には流通していない概念を貼り付け、再エネだけでなく原発もゴミ発電も「非化石」にしてしまった。しかも高度化法で義務化されている「非化石」達成のためにはFIT再エネは使えない。FITの環境価値は「再エネ賦課金」によって対価が払われており、使用済みという理屈だ。ところがそれはしっかり日本のCO2削減として政府はカウントしている。それなら消費者から取らずに税金で支払うべきだと思う。そして、この環境価値を非化石価値として企業に買わせれば、支払った税金もちゃんと回収できるはずである。
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あえてそうしないでいるため、高度化法の義務達成市場では「非FIT非化石証書」が高値に張り付いている。2022年に入ってからの入札では、図2のように売り手が売りをほとんど出さないからだ。もっと価格を釣り上げたいのだろう。ちなみに「非FIT再エネ指定」は「大型ダム水力」で「非FIT再エネ指定なし」は「原発」と思って良い。どちらも大手電力しか売れない非化石証書だ。FIT非化石証書は高度化法の義務達成には使えないので、買い手もつかず二束三文らしい。結果として、高度化法の2030年非化石比率44%という目標は、達成できないことが確実だ。44%目標は、再エネ22〜24%、原発22〜20%という政府の2030年目標と繋がっている。原発20%というのは100万kWの原発23基に相当するが、2022年6月までに再稼働したのは6発電所10基のみ。しかも全て1年を通じてフル稼働という条件もつく。強引にあと13基を再稼働させたとしても、それをフル稼働で動かし続けるのは不可能だ。
環境価値(脱炭素)とは何か
RE100企業の脱炭素基準はもっと厳しい。日本と違って10年以上前にできた再エネの環境価値すらないという判断だ。高度化法の義務達成に使われる「ダム水力」の環境価値など、みんな「何10年もの」だ。私自身が扱ったことがあるグリーン電力証書の場合、10数年前に発電した電気の環境価値までシリアル番号付きで保存されている。トレーサビリティはすごいのだが、そんな塩漬けされた環境価値には「ノー」が出される。
そこで、改めて「脱炭素」の意味を考えてみよう。正しい意味は「炭素を出さない」という意味だ。炭素を減らすとか、別の形に変えるという意味ではない。もちろん一時的に「炭」にするのは、その時点では脱炭素だ。それを畑に撒いて土壌改良剤として使っても、何年かの間には、炭素は分解して大気中に出てくる。まして炭として燃やして焼き鳥などすれば、それは炭素の放出だ。固着させたものだから「ゼロ」だと言いたい人があるだろう。確かにそうだが、実は日本はゼロじゃダメなのだ。
読みにくい方はこちらから https://climateactiontracker.org/documents/849/2021_03_CAT_1.5C-consistent_benchmarks_Japan_NDC-Translation.pdf
図3は、クライメート・アクション・トラッカーが指摘する、日本が本当に達成しなければならない排出削減目標である。2050年に気温上昇を1.5℃に抑えるためには、既に長年にわたってCO2を出してきた先進国は排出量をゼロにするだけでは責任を果たしたことにならない。日本は2050年までにゼロではなくマイナス4000万トン削減を達成しなければならない。これは現在の排出量から133%以上削減することを意味する。
それには、今CO2を排出している発電所やガス供給や移動手段を「全て」別のものに置き換えないといけない。電気は太陽光と風力、小水力などの再エネに、ガスなどの熱は太陽熱かバイオマス熱に。移動手段はほぼ再エネの電気に置き換えるしかない。大変かもしれないが、正解は既に出ており、自然変動電源としての過不足を蓄電池やその他の系統制御技術でカバーすることが、世界の技術開発の中心となっている。結果を出すためのコストは、ダイレクトに再エネに投資することが最も安いのだ。
もちろん資源を無駄に使わないように省エネや断熱は推奨される。ただ、再エネによる電気、熱の資源は日本にはほぼ無尽蔵にあり、少なくとも今想定できる日本のエネルギー需要に対して資源が不足することはない。むしろ、多くの余剰が生まれ、中国や韓国、北朝鮮、ロシアに対するエネルギー輸出国になれるだろう。まさにマイナスを作り出し、しかもそれがお金になる。
原子力の幻想という障害物
これほどわかりやすい、かつ簡単に達成できる道が見えているにもかかわらず、日本政府のCO2削減への道程は遠い。あえて遠回りをしているようにしか見えない。その背景にあるのが「原子力への幻想」だ。GX基本方針の技術開発対象の一部に過ぎないのだが、打ち出されたGX脱炭素電源法の半分は原子力の活用を促進するものだ。
GX脱炭素電源法は(1)地域共生型再エネの導入促進と(2)原子力の活用・廃炉推進の二つで構成される。再エネは放っておくと無秩序、無制限に拡大する。一言で言うと「儲かる」からだ。だから日本では「儲からない」ように二重三重に制限や規制がかけられている。ここでいう「地域共生」もそうだ。山を削り、森を切り倒して地域環境を破棄し尽くしてメガソーラーが拡大してきたが、「地域共生」はこれを規制する概念だ。地域と共生できる、すなわち地域の人に受け入れられる発電所しか認めない。この規制はそんなに悪くはない。ただし「地域共生」ができている発電所には、系統接続などの規制は取っ払ってほしい。
一方で原子力に「地域共生」の義務はない。「共生」などできないからだろう。福島原発事故は、原発が地域を繁栄させるものではなく、放射能で汚染し、人の住めない故郷にすることだと教えてくれた。それを認めたくないがためか、除染し、立ち入り禁止区域を解除し、強制的に住めという政策が始まっている。こちらは「地域強制」だ。
核のゴミ(放射性廃棄物)は今も行き場が定まらない。これを増やせば、さらに処理処分の費用は増大し、最終的に「国民負担が増す」ことは明確なのに、まだ再稼働に固執している。再稼働しても「使用済核燃料プール」が満杯で、運転できなくなることが明確なため、「中間貯蔵」という「とりあえず策」を打ち出して、プールを無理やり空けて発電しようとしている。
原発の発電コストは、経産省のホームページでは今でも10円/kWhとされているが、これは再処理費用や廃棄費用を少なく見積もるなどいろいろな問題がある。最もわかりやすいのは運転期間を40年で計算していることだ。太陽光発電など再エネは20年で計算されている。太陽光発電も実は40年使うことが可能だ。そうすると太陽光発電の発電コストは5円〜6円/kWhになる。逆に原発を20年にしてみると20円/kWhになる。この単純なマジックを消すだけで、原発コストは太陽光や風力発電の2倍という実態が見える。それでも「安い」と言い張って、政府はこの無理を通そうとしている。
安くはないし、危険だし、最後に残る廃棄物の処分方法はいまだに決まっていない。それでも日本政府がこれに固執するのは、原発が「核兵器」技術の一部であり、政府が核武装能力を持っていたいと考えているからとしか思えない。軍事なら採算は度外視だからだ。もちろん、そんな願望があるなどと言ったら国際社会からの経済制裁になりかねないので口が裂けても言わないだろう。
結果的にできないことに固執して、大きな可能性を持っている再エネの邪魔をしている。高度化法のところで説明したように、再エネの非化石証書は日本で実質使えず、原発の非化石証書に多額のお金が流れていることもその一つだ。原発や石炭火力などが、送電線使用の既得権を持っていて、長らく再エネの送電線接続が阻まれてきた「系統接続問題」、原発や石炭火力などに全新電力が拠出金を支払うことになった「容量市場」などなど。再エネの建設費用を高くし、新電力が再エネを供給しようとしても電気代を下げられないようにする画策が次々と行われている。まだ不足と見えて「長期脱炭素電源オークション」という新たな仕組みも作られた。これについては、また別の機会に詳しく説明したい。
GXのお金の使い方を監視しよう
私はGX基本法と関連法の中身が全て悪いとは思わない。GX推進法によるカーボンプライシング(炭素排出への課金)や排出量取引制度がきちんと機能することを願いたい。GX脱炭素電源法による系統(送電線網)整備のための環境整備や既存再エネの更新・増設への追加投資にも期待したい。しかし新しい再エネ設備が爆発的に拡大していくための応援制度はGXの中には見当たらない。今後10年でGX移行債を20兆円発行し、民間投資150兆円を呼び込むというのなら、今すぐに再エネのための系統整備に20兆円を注ぎ込むことの方が正解だろう。
一方でGX施策は無駄なもののオンパレードだ。目的は脱炭素のはずである。実際には脱炭素できない「脱炭素技術」が、政府資金や民間投資を食い荒らすことをしっかりと監視しよう。投資家として、消費者として、また税金を払う国民として、いろいろな立場から「物を言う権利」が私たちにはある。もう「失われた10年」などと言っているうちに、地球温暖化は激しく進行してしまう。もう待ったなし。あなたが動くときだ!
*最後に日経クロステックの図を添付。
この手のバラ色イメージが社会に溢れていますが、半分以上「無駄な投資」です。あなたもよく見て発見してください。
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