フアン・アントニオ・バヨナ監督
孤独な13歳の少年コナーの夢枕に巨木の怪物が現れる「お前に3つの物語を聞かせよう。4つめはお前の物語を語れ」。一つめは王子の残酷な物語…。なぜ? 大好きな母が今死にかけているのに。怪物は12時7分になるとやってきて、コナーの心をかき乱す。二つ目は偏屈な薬草屋の物語。三つ目は…。
やがて少年は空想する力そのものにふれる。それは愛に満ちた精神のリレーだった。
傑作。
不治の病を得て入院した母。
シガニー・ウィーバーが裕福だが孤独で厳格な祖母としてコナーの前に立ちはだかる。
「お前は私の家に来て暮らすのです」
「いやだ、僕はお母さんと暮らしたこの家を離れたくない」
別居し再婚した、イケメンだが軽い父が訪ねてくる。
「俺はお前を引き取ることはできない、そうだお前の妹がいるぞ。いつでも会いに来てくれ」
「……」コナーには居場所がない。
「お前の母さんは若い頃絵描きになりたかったんだ」
「どうして、それをあきらめたの?……僕が、生まれたから?」
少年に一度につきつけられた困難はあまりに、重い。
(ここからは結末にふれ、勝手に想像しています)
少年コナーが見て育った風景、苦しんだこと、夢見たことは、母も経験したことだった。
母も、墓地にそびえるイチイの巨木を見て大きくなったのだ。そして空想した。祖母(母)に反発して家を飛び出した。世間にもまれ、夫になった男ともうまくいかず、別れた。
5歳のコナーと二人きりになった貧乏な暮らしの中で、コナーに空想のお話を語り聞かせた。そう、人は見たままの人ではないの…。
そのお話たちを、13歳になったコナーは忘れていた。母との別れという困難を前にして「お話」はコナーの意識の底から、ふたたび語りかけてきたのだ。
恐ろしげな木の巨人。それはかつて母がイチイの巨木を見て想像したものだ。
祖母の居間をコナーがたたき壊したのに、祖母は怒らなかったのは、かつて母が同じ事をしたのだろうと思う。
行き違いをして半生を離れて暮らすことになった娘との離反のきっかけとなった情景を再び見て、まえと同じように怒りに身を任せてしまうことを祖母は恐れたのか。
「お話」は、苦い現実認識からはじまって、やがては彼を励まし癒やすことになる。第四の物語、それはコナーに現実の直視を迫ることだった。
母の空想が、コナーの心に宿り、その言葉は、困難に直面した彼を癒やし励ましている。
母の空想する力はコナーに受け継がれ、新しい物語を刻んでゆくことだろう。コナー自身の物語として。
ラストの母がかつて描いた絵画帳に描かれたイメージは謎解きのように見えて、実は再会でもあった。
その想像、良いですね
母から語られていた話であった…というのはジブリのマーニーもそんな話でしたね、とても素敵で私も好きです。
もう一つの祖母が怒らなかった理由、これもとてもしっくり来ました!
あの頑固なお婆さん相手に娘も昔キレて暴れた事があるというのは、いかにも有りそうな事です(笑)