毒入りチョコレート事件第10の回答。
(アントニイ・バークリー著「毒入りチョコレート事件」創元推理文庫から発想しました)
小説本編終了後、二時間程おいて起こった出来事。
●夜、犯罪研究会例会が行われた建屋の外、出口前。
警察車両が止まり物々しい雰囲気。立ち去ったアリシアを除いたメンバーが並んで立っている。離れたところでロジャーが険しい表情でモレスビー警部と話している。
ワイルドマン卿「全く、なんて日だ!」
フィールダー「スリルですわ!」
ワイルドマン卿、フィールダー女史を睨みつける。
ロジャー「(大声で)皆さん、私の不作法をお許しください。私はこれからロンドン警察に行き捜査のお手伝いをいたします」
モレスビー警部「どうぞ、皆さん、お気をつけてお帰りください。関係者尋問は、再度、明日あらためて行います」
メンバーの苦々しい表情。一同、それぞれ家路につく。
●夜、路地裏。一人歩くチタウィック氏。
女性の声「チタウィックさん」
チタウィック氏驚いて振り返る。
チタウィック氏「フィールダーさんじゃありませんか」
フィールダー「ちょっとお話ししたいことがありますの、どこかでお食事でも」
チタウィック氏の表情くもる。しぶしぶ、
チタウィック「私のような者が行く酒場でもかまいませんでしょうか」
フィールダー「そうね。社会見学に良いかもしれませんけれど、私、個室のある素敵なレストランを心得ておりますの。ご馳走いたしますわ」
●同日、チャイニーズレストランの一室。赤と金の装飾の部屋。豪華な料理が円卓一面に並んでいる。
フィールダー「今日の貴方は百点満点でした!チタウィックさん」
チタウィック氏「私こそお礼を申し上げます。おかげで犯罪研究会にとどまる事ができそうです」
フィールダー「あら、おほほほほ!とどまるどころか貴方はロジャーに替わって会長になるお方かもしれませんわ」
チタウィック「…滅相もありません。力不足から脱会を迫られていた次第でして」
フィールダー「そんなこと、このあたくしがさせません。あら、料理が冷めてしまいます。どうぞお召し上がりに」
チタウィック氏、おずおずと箸をつける。
チタウィック氏「これは美味だ…。しかし、フィールダーさん、貴方はどうして愚か者のふりをなさっているのです?私に推理を授けて下さったじゃありませんか。私は貴方が他のどの会員よりも優れた知性を持つことを…」
フィールダー「(さえぎるように)私は劇作家です。演技すること、演技者を操ることが仕事ですのよ」
チタウィック氏、おびえたように目を伏せ、料理を黙々と食べる。
フィールダー「ふん!あの小生意気な女流作家?あははは!あの小娘にきついお灸を据えてやり、清々しましたわ」
チタウィック氏「お灸とおっしゃいますが、下手をすればアリシア女史の人生は…」
フィールダー「ご心配には及びませんのよ。彼女には私の劇団の精鋭がきちんとケアをいたします」
チタウィック氏「貴方はお顔が広い…」
フィールダー「劇団員はお芝居だけではなかなか生活出来ないのが現状です。才能ある若者達がいろいろな職場でお仕事しながら明日を夢見て頑張っているのよ」
フィールダー女史、料理に手をつけず、バッグより鏡を出しメイクを直す。
フィールダー「彼らの、そして彼女らのお仕事の一端をお教えしますわ。ひとつは有名なチョコの会社、タイプの老舗もあります。印刷屋勤めも多うござんす」
チタウィック氏「…私に、一つだけ教えてください」
フィールダー「ええ、貴方には知る権利がありますのよ」
チタウィック氏「ベンディックス氏がかつて関わったという場末の女優ですが」
フィールダー「あの浮気っぽい大根女優!」
チタウィック氏「私はあの女優の熱心なファンでした。薄汚れた劇場に通ったものです。最近見かけないのですが…お顔が広いところで、彼女のことなどご存じなら、お教えください」
フィールダー「私の娘、でした。……娘は心を病みました」
チタウィック氏「なんと!」
フィールダー「もう、全ておわかりでしょう。犯罪には愚か者の生け贄が必要ですのよ」
チタウィック氏、顔が青ざめている。
チタウィック氏「なんだか体調がすぐれません…今日はこの辺で…」
フィールダー「あら、もうちょっとお付き合い頂きますわ。ここの料理長は、それはそれは珍しい料理をつくります。古代王宮でつくられた秘密の「特別料理」。貴方には是非その秘密を知って頂きたいの」
チタウィック氏「フィールダーさん、わたしは…」
フィールダー「おだまり!」
いつの間にか、にこやかに笑む、屈強な白衣の若者が二人立っている。
フィールダー「役者を夢見て頑張っている若者は、あらゆるところにおりますのよ、チタウィックさん」
了。
(アントニイ・バークリー著「毒入りチョコレート事件」創元推理文庫から発想しました)
小説本編終了後、二時間程おいて起こった出来事。
●夜、犯罪研究会例会が行われた建屋の外、出口前。
警察車両が止まり物々しい雰囲気。立ち去ったアリシアを除いたメンバーが並んで立っている。離れたところでロジャーが険しい表情でモレスビー警部と話している。
ワイルドマン卿「全く、なんて日だ!」
フィールダー「スリルですわ!」
ワイルドマン卿、フィールダー女史を睨みつける。
ロジャー「(大声で)皆さん、私の不作法をお許しください。私はこれからロンドン警察に行き捜査のお手伝いをいたします」
モレスビー警部「どうぞ、皆さん、お気をつけてお帰りください。関係者尋問は、再度、明日あらためて行います」
メンバーの苦々しい表情。一同、それぞれ家路につく。
●夜、路地裏。一人歩くチタウィック氏。
女性の声「チタウィックさん」
チタウィック氏驚いて振り返る。
チタウィック氏「フィールダーさんじゃありませんか」
フィールダー「ちょっとお話ししたいことがありますの、どこかでお食事でも」
チタウィック氏の表情くもる。しぶしぶ、
チタウィック「私のような者が行く酒場でもかまいませんでしょうか」
フィールダー「そうね。社会見学に良いかもしれませんけれど、私、個室のある素敵なレストランを心得ておりますの。ご馳走いたしますわ」
●同日、チャイニーズレストランの一室。赤と金の装飾の部屋。豪華な料理が円卓一面に並んでいる。
フィールダー「今日の貴方は百点満点でした!チタウィックさん」
チタウィック氏「私こそお礼を申し上げます。おかげで犯罪研究会にとどまる事ができそうです」
フィールダー「あら、おほほほほ!とどまるどころか貴方はロジャーに替わって会長になるお方かもしれませんわ」
チタウィック「…滅相もありません。力不足から脱会を迫られていた次第でして」
フィールダー「そんなこと、このあたくしがさせません。あら、料理が冷めてしまいます。どうぞお召し上がりに」
チタウィック氏、おずおずと箸をつける。
チタウィック氏「これは美味だ…。しかし、フィールダーさん、貴方はどうして愚か者のふりをなさっているのです?私に推理を授けて下さったじゃありませんか。私は貴方が他のどの会員よりも優れた知性を持つことを…」
フィールダー「(さえぎるように)私は劇作家です。演技すること、演技者を操ることが仕事ですのよ」
チタウィック氏、おびえたように目を伏せ、料理を黙々と食べる。
フィールダー「ふん!あの小生意気な女流作家?あははは!あの小娘にきついお灸を据えてやり、清々しましたわ」
チタウィック氏「お灸とおっしゃいますが、下手をすればアリシア女史の人生は…」
フィールダー「ご心配には及びませんのよ。彼女には私の劇団の精鋭がきちんとケアをいたします」
チタウィック氏「貴方はお顔が広い…」
フィールダー「劇団員はお芝居だけではなかなか生活出来ないのが現状です。才能ある若者達がいろいろな職場でお仕事しながら明日を夢見て頑張っているのよ」
フィールダー女史、料理に手をつけず、バッグより鏡を出しメイクを直す。
フィールダー「彼らの、そして彼女らのお仕事の一端をお教えしますわ。ひとつは有名なチョコの会社、タイプの老舗もあります。印刷屋勤めも多うござんす」
チタウィック氏「…私に、一つだけ教えてください」
フィールダー「ええ、貴方には知る権利がありますのよ」
チタウィック氏「ベンディックス氏がかつて関わったという場末の女優ですが」
フィールダー「あの浮気っぽい大根女優!」
チタウィック氏「私はあの女優の熱心なファンでした。薄汚れた劇場に通ったものです。最近見かけないのですが…お顔が広いところで、彼女のことなどご存じなら、お教えください」
フィールダー「私の娘、でした。……娘は心を病みました」
チタウィック氏「なんと!」
フィールダー「もう、全ておわかりでしょう。犯罪には愚か者の生け贄が必要ですのよ」
チタウィック氏、顔が青ざめている。
チタウィック氏「なんだか体調がすぐれません…今日はこの辺で…」
フィールダー「あら、もうちょっとお付き合い頂きますわ。ここの料理長は、それはそれは珍しい料理をつくります。古代王宮でつくられた秘密の「特別料理」。貴方には是非その秘密を知って頂きたいの」
チタウィック氏「フィールダーさん、わたしは…」
フィールダー「おだまり!」
いつの間にか、にこやかに笑む、屈強な白衣の若者が二人立っている。
フィールダー「役者を夢見て頑張っている若者は、あらゆるところにおりますのよ、チタウィックさん」
了。