ぐだぐだくらぶ

ぐだぐだと日常を過ごす同級生たちによる
目的はないが夢はあるかもしれない雑記
「ぐだぐだ写真館」、始めました

未来人の遊び ~タンマウォッチ~

2010年05月30日 10時37分53秒 | 小説
周りの時間が止まっていることに気付いたのは、しばらく経った後だった。




最初は特に違和感を覚えることもなかった。

図書館で本を読んでいたんだから、気付かなくてもおかしくは無い・・・はず

いつ時間が止まったのかもわからない。

ふと図書館の時計を見たら、針が動いていなかった

職員の人に知らせようかと周りを見渡して、やっと気付いた。



・・・え?



その後はお察しの通りだ。

慌てたなんてもんじゃない。

もちろん夢だと思った。

思いっきり自分を殴ってみた。

目が覚めるはずもなく、大きめのたんこぶができただけだった。



焦るな、落ち着け。



とにかく、一度家に帰ることにした。

家が図書館に近くてよかったと改めて思った。




そして今、僕は家にいる。


水道の水は空中で凍ったように止まっている。

火は固まって熱さも感じない。

家族も石像のようになってピクリとも動く気配が無い。


・・・ちょっと気取って詩的に言ってみたが、

とにかく何もかも止まっている。

図書館で周りの人が固まっているのを見た時は腰を抜かしたが、

家に帰ってくるまでに慣れてしまった。

別段何とも思わない。

こんな状況で落ち着いている自分がおかしい



まず、これからどうするかを考えよう。



そもそも、なぜ時間が止まってしまったかもわからない。

なにしろ、時間が止まった瞬間も知らないんだから

どうやって時間を動かすのかもわかるはずがない。


というより、一度時間が動き始めたら二度と止まらないんじゃないか?

それなら、今のうちに色々できることが・・・

いや、いつ動き出すか分からないのに、それどころじゃない。

このまま動かないままなんて冗談じゃない。



でも、そんなに神経質になっているのも時間の無駄だ。

(時間が流れてないんだから無駄でも何でもないが)

楽観的になろう。



・・・今のうちに何かやっとくか。



そう言いながら机に向かう僕は真面目すぎる。


そのうちに、楽しくなってきた。

自分だけの時間があるということがうれしくてたまらない。

得した気分だ。

自分だけが動いているという変な状態の中で

世界は僕のためにあるんだみたいな錯覚を感じた





かなりの時間がたって(時間は経っていないが)、ふと我に返った。


眠い。


今が本来なら何時かは分からない。

遊び呆けて、ご丁寧に勉強までして、

まあ15時間は経ってるんじゃないだろうか。

相変わらず机の隣のカーテンは凍りついている



怖い。



急に寂しくなって外を見た。

誰も動いていない。

周りに誰もいないような気がした。

泣きたくなった

自分だけ、神様とやらに遊ばれているのか?




どこからともなく、クスッと笑い声が聞こえたような気がした。




振り返ると、何やら時計のようなものが落ちている。

相変わらず止まっている。

上にボタンが付いている

何気なく、そのボタンを押してみた。





「あれ、図書館に行ってたんじゃなかったの?」


後ろを見ると、母が不思議そうにこっちを見ている。



・・・え?




さっきまでの静かな世界はどこへやら、

突然外が騒がしくなり始めた。

車の音、電車の音、犬の鳴き声、

人の笑い声や怒鳴り声。

周りに人がいる安心感。


僕は、いつもの世界に帰ってきたようだ。


手に持っていたはずの時計のようなものは、

いつの間にか無くなっていた。

安心したような、どこか残念な気持ちで、

僕はそのまま眠りに落ちた。






【タンマウォッチ】
 時間を止めることができる。

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