太古の世界 〜マニアックな古生物を求めて〜

恐竜は好きか? 恐竜以外の古生物もか?
マニアックな種類を前に情報不足を嘆く心の準備はOK?

カナヅチワニモドキ(解説の章)…オフィアコドン類

2021-07-15 08:31:37 | 哺乳類へと至る道〜単弓類の進化〜
 夏!! …といえば水遊びたろう。水泳・マリンスポーツ・釣りなんでもござれ。
……というわけで(???)、読者におかれましては、水辺の捕食者と聞かれて何を思い浮かべるだろうか?日本人なら、真っ先にヒグマ水鳥を挙げるだろう。あるいはペット人気の強いカワウソ ――本来ペットにすべきではないが―― や、荒くれ者のワニを連想する人もいるかもしれない。
 それでは次に、今から1億年前の白亜紀へ思考を飛ばそう。そこで水辺の捕食者として振る舞っているのは、多種多様なワニ類スピノサウルス類だ。どちらも細長い顎を持ち、かたや水中から、かたや岸辺から。次々と魚を仕留めて丸呑みにしていた。
さらに遡ろう。今から2億年以上に昔の三畳紀では、ワニそっくりの爬虫類が何種類かいたし、オオサンショウウオでさえ可愛く見える“化け物イモリ”もいた。もちろん主食は魚である。
……それでは、もっともっと遡って、今から3億年前。ようやく陸上で安定した生態系か形作られた時代へ向かってみよう。そこの水辺には誰が君臨していたのか……? まず目に付くのはヌルヌル這い回る両生類だ。これは三畳紀の化け物イモリの祖先筋にあたる。今でこそ意外だが、かつて両生類は水辺で最強の捕食者だったのだ(#1)
がしかし、そこへ水飛沫とともに乱入した生物がいた。不届き千万、おのれ面見せぃ。
…顎は細長く、ズラリと並んだ歯は鋭い。四肢は短く頑丈で、胴体は細長い。一方チロリーんと伸びた尻尾は貧弱極まりない。…おそらく体表は鱗ないしシワだらけの硬い外皮に覆われていた。これこそが今回の主役、オフィアコドン《Ophiacodon》だ!!

(オフィアコドンの生態復元 wikiメディアより)

《基本情報》
学名→オフィアコドン《Ophiacodon》
全長→最大3.5メートル
食性→魚食(動きの遅い魚類や両生類)
生息時代・地域→約3億年前の北アメリカとヨーロッパの水辺(川や沼沢地)

 先に述べておこう。
オフィアコドン(科)は爬虫類ではない。ワニやトカゲはおろか、あらゆる爬虫類とは無関係で、むしろ我々哺乳類に近い動物だ。かつては諸々をごった煮にして“哺乳類型爬虫類《mammal like reptilesと呼ばれていた時代もあったが、今では最基盤の単弓類と呼ばれている

(最基盤の単弓類たち。奥がコティロリンクス、中がオフィアコドン、手前がヴァラノプス Wikiメディアより)

( ・ω・) 「あれ?“盤竜類《Pelycosauria》”っていう分類は違うのかい?

今こんな質問が届いた。…良い質問だ。今から5年かそこら前まで、このグループ名は図鑑・専門書を問わず使われていた。有名なディメトロドンエダフォサウルスなども所属していて、グループ名も彼らの背ビレから取られている。もちろん我らがオフィアコドンもその一員だった……。

がしかし、諸君朗報である(・∀・)

現在では盤竜類なる分類は空中分解してしまった
エエッー!?) …このあたりは本筋とズレるため深堀りしないが、ともかく今後は“”を付けて表記するか、さもなくは素直に最基盤の単弓類と呼ぶべきだろう ――そのあたり便利な分類名が欲しいと思う今日このごろだ。

(いわゆる“盤竜類”の系統図。左に行くほど基盤的で、右に行くほど哺乳類に近い(派生的)である。頭骨の形態は実に様々だ (#C))

 細かな分類はさておき、こうした最基盤の単弓類は、石炭紀の後半から本格的な多様化を始めた。というか、単弓類はフライング気味に進化のレースへ乗り出した。当時の爬虫類がどれも全長1mを超えない中、2m級の種類をポンポン量産していたのだ。…もっとも、それがあるグループの逆鱗に触れ、さらには地獄の釜の蓋を開いてしまったのだが ――それについては次回語りたい。



てなわけで、前振りはそこまで。ここからはオフィアコドン(科)の身体的特徴をまとめていきたい。ただし下半身からだ。

《尻尾》

(オフィアコドンの組み立て骨格。尻尾の貧弱さがよく分かる (#2))

情★報★不★足(´Д⊂ヽ
…実はオフィアコドン(に限らず初期の単弓類全般)の尻尾は資料が少ない。古来はチャールズ・ナイトの時代より、大根のごとき太ましい尻尾が描かれてきたのだが、ぶっちゃけ確たる証拠はない。
むしろ怪しいネットの吹き溜まりで手に入れた情報からするに、彼ら初期の単弓類の尻尾(尾椎)は、ちろーんと伸びた貧弱そのものだった可能性が高い

(オフィアコドンの尾椎。筋肉の付く突起が弱い (#4))

これも語ると爬虫類と哺乳類のボディプランの比較から、両者の得手・不得手。それが生んだ適応放散の違いまで、とても記事一本では収まらないから、また次の機会にさせてほしい。楽しみにしていてくれ…

《胴体》
(オフィアコドンの全身。 椎骨の低さや、肩甲骨の大きさに注目 (#★))

オフィアコドンの胴体は、一見すると面白味を感じられない。が、ヒトは見かけによらないとはよく言ったもので、探せば面白いことが見えてきた。
《基本情報》にて、オフィアコドンは水辺の魚食動物と筆者は記した。にも関わらず……
『オフィアコドンは泳ぎがド下手糞だった可能性があるのだ!!』

ファッ!?(# ゚Д゚)(# ゚Д゚)(# ゚Д゚)
(↑仰天する読者の図(筆者の予想))

そして読者は次にこう言う。

「いやいやいやいや!オカシイぞ!水辺の生物がカナヅチなはずがあるまい!!」

筆者も2年前に調べて仰天したのは良い思い出だ。たしかに指摘は正しい。クマやカワウソはもちろん、図体のデカいカバや普段は深みに入らないアオサギでさえ、必要と迫られれば見事な泳ぎを見せる。まだ信じられないようなので論文を紹介しよう。
2014年の研究(#2)、その名も『Was Ophiacodon (Synapsida, Eupelycosauria) a Swimmer? A Test Using Vertebral Dimensions (原題)/ オフィアコドンは遊泳家だったのか?(訳文)

この研究では椎骨《Vertebral》を他の四肢動物と比較している(論文内ではメソサウルス《Mesosaurus》始め、尻尾を推進力とする爬虫類にも触れられているため、“原初のウォータードラゴン”を知りたい方は読むと良いかもしれない)。以下は要約。

古来よりオフィアコドンは半水生だったと考えられている(歯・四肢・組織学etcより)
・ただし、近年では上記の証拠の再解釈や再研究が進み、これは証拠の役を成さなくなってきた
脊椎の中心の長さこそ半水生爬虫類と似ているが、他の最基盤の単弓類(100%陸生の種)もそれと似ていた。つまり、脊椎の特徴は決して半水生だった事を示しているわけではない
・その他の証拠も二次的な推測による曖昧なもののため、素直に陸生と考えるべきではないだろうか?


…半水生論者の心はメタメタのバッキバキに違いない。
傷口を抉るようで申し訳ないが、別の研究でもこれが間接的に支持されている。それは単弓類全体の椎骨の研究(#3)で、これによれば単弓類は皆、背骨を横に振る動きが苦手なことが示された。なるほど。たしかに私たちはヘビのようにクネクネさせる事は出来ない。程度の差はあれ、3億年前のオフィアコドンも同様だったとされている。
「だからどうした…」ではない。
これ、実は致命的である。何でも良いから哺乳類と鳥類以外の泳ぐ脊椎動物を思い浮かべてほしい。本当に何でも良いのだが、それは果たしてどのように泳いでいるだろうか?
……そうだ。察しの良い方もいるだろう。
メダカもマグロもイモリもヘビもワニも、みんな背骨を横に振って泳いでいるではないか。彼らには強い尻尾があり、それを左右に振ることで推進力を得ている。もちろんオフィアコドンにはペンギンのような前ビレ(フリッパー)はないし、クジラのように横に平たい尾ビレもない。だから当然推進力を得るには、身体を左右に振る必要があるのだ………が、肝心要の背骨が……動けん……馬鹿なッ!?


(オフィアコドンの椎骨など (#4))

…というわけだ。胴体の骨自体の特徴は、せいぜい上突起が背ビレ状になっておらず平坦であること。そして肋骨に括れが見られない(横隔膜は未発達)ことぐらいだろう。さして書くまでもないので、次に移りたい。

《四肢》

(オフィアコドンの手指など (#4))

オフィアコドンの四肢は短く、そして手指の骨が平たい。これは水辺で暮らしていたからだろう。持続的な推進力にはならないが、滑りやすい地面をしっかりと踏みしめたり、水底を蹴って滑るように動くことも出来たのではないだろうか。……というより、尻尾が貧弱なので、こうでもなければ水中で推進力できまい。そして、このような泳ぎ(?)では当然ながら速度は期待できないため、深みへ遠征したり、ワニ類よろしく獲物へ突撃するような真似は、残念ながら考えにくい。
…なんてアッサリ済むと思っていた筆者は馬鹿だった
なにせ他の大型単弓類(もちろんゴリゴリの陸生)も平たい手指の持ち主(#5)だったのだ。これはオフィアコドン以外の論文を読んで初めて知ったので、危うく皆さまへ誤解を与えるところだった(汗)

オイオイオイ(;・∀・)「どーゆーことやねん…」

ごもっともだ。どうやらかつては平たい手を根拠に水棲に特化していたとされていたらしい(←英Wikiより)が、ぶっちゃけ根拠と胸を張れるような代物ではない。筆者が思うに、こうした平たい手指は、初期の大型陸上四肢動物に共通していたのではなかろうか? 事実エリオプスからディメトロドンに至るまで、多くの種がこうした手指をしている(#6) こうした指は見るからに体重を支えやすそうだ。これらは論文はもとより各地の博物館でも確認できる。読者の皆さまも、コロナ禍が過ぎたらどうぞ見学してほしい。

(『大地のハンター展』より、エリオプスの胴体と四肢。指の太さと平べったさが分かるだろうか? (筆者撮影))

それと爪(末節骨)は鈍い。武器にはならなかっただろうし、何かをよじ登るのにも不適だった。身体の小さいアーケオティリス(←爪は見つかっていない)などは木登りが可能な鋭さもあったと思うが、少なくとも派生的な種類では上の写真の通りだ。ちなみに同時代のメセノサウルス類《mesenosaurine》(トカゲに似た有羊膜類)の場合、きちんと武器・登攀に使えそうな鉤爪が生えている。もしかすると、オフィアコドン類の平たい爪は、祖先から改めて進化し直した特徴だったのかもしれない。


 では改め直して。
オフィアコドンを語る上で肩周り。とりわけ肩甲骨を外すことはできない。

(左側の平たい骨が肩甲骨 (#★))

なにせ頭骨を除けば、もっとも立派な骨なのだ。上部・下部・横幅ともに広い。莫大な量の筋肉が付着していた。なので生前は首周りが異様にムキムキだったと推測できる。そうした筋肉群は、ある物は大きな頭部を支え、ある物は四肢を動かす原動力となった。
やや想像を逞しくすれば、オフィアコドンが獲物を襲う際に前肢でスタートダッシュを切ったとも考えられるだろうか? あるいは獲物へ勢いよく頭を振り下ろしていたのだろうか?
ぶっちゃけ使い方までは分からない。ただ巷で囁かれるように、『哺乳類は前輪(脚)駆動・爬虫類は後輪(脚)駆動』という流れの原点を垣間見ることが出来る……という意味では重要な特徴だろう。

《頭部》

(標本番号MCZ1366の頭骨(オフィアコドンのもの)。左から数えて一番目の穴(側頭窓)が小さい ハーバード博物館より)

 オフィアコドン(類)の頭部を見てまず最初に感じるのが、その大きさだろう。楕円形の頭骨は最大で50cm前後。高さも十分で、ずら〜っと並んだ歯も特徴的だ。まかり間違って噛みつかれるのは御免こうむりたい。
しかし幸いというべきか、オフィアコドン類に噛まれても大事には至らないだろう。なにせ彼らの歯は、先が尖っていても切れ味がない……つまり円錐形の歯をしていたのだ。オフィアコドン類は基本的に小動物か魚を狙うハンターであり、歯の第一の役割は獲物を滑り落とさないことだった(#8,#9)。このあたりは学名の由来(オフィアコドンとは“ヘビの歯”という意味)も示している。あいにく良質な資料は見つからなかったので、読者におかれては検索エンジンにて『teeth Ophiacodon』と検索してほしい。すると先述の円錐形をした歯を観察できる。
(『大地のハンター展』より、マレーガビアルの口先。縦横ともに最小限の抵抗となるようなデザインだ (筆者撮影))

こうした歯は、現生の魚や小動物を狙うワニ(↑のマレーガビアルなど)にも共通している。
オフィアコドン類の頭骨は左右幅が薄い。後頭部の咬筋の入るスペース(側頭窓)も狭かった。なので見た目ほど恐ろしい武器ではなかったようだ。とはいえ、非哺乳類型の単弓類は素早く噛む事が得意だったとする話(#8)もあり、おそらくオフィアコドン類の頭部へ求められたのは獲物を砕く力ではなく、素早く噛み付くスピードだったことを踏まえると、それも自然だろう……
 ……なんて終われればどんなに良かったことか。ところがどっこい、そうはいかないのがオフィアコドン。問屋もゲバ棒持って追い返すのが古生物学だ。
オフィアコドンの頭骨にもこれまた不可解な点が存在する。それは『頭骨の上下幅が高い』こと、そしてダメ押しに『鼻孔の位置が低い』ことだ。
冷静に考えてほしい。オフィアコドンの主食は間違いなく水辺の魚や両生類である。それらは何処に潜んでいるのかと言えば、もちろん水中だ。歯は問題ない。横幅も最小限に抑えられているから水の抵抗もない。

(オフィアコドンの頭部の問題点。水中では呼吸が出来ないし、振り回そうにも縦幅が邪魔だ (自作))

だがしかし!
ひとたび水中へ鼻先を突っ込んだら、もう悲惨だ。まず呼吸が出来ない。現生の半水生動物(カエル〜カバに至るまで)は、揃って鼻孔が水面へ突き出ている。いわば“動物版シュノーケル”だ。しかしオフィアコドンの鼻孔はその真逆。むしろ巻き上げた泥水を吸い込みかねない位置に開いている。もし無理やり鼻孔を外へ出そうとしたら、今度は身体全体が沈んでしまって話にならない ――そもそも頚椎の可動性からして難しいが。
なんとか呼吸の問題を解消したとしても、次は縦長の頭骨が待ち受ける。先ほどマレーガビアルの吩部を見せたのを覚えているだろうか? 水辺の捕食者の頭部は大別して2つ。1つはマレーガビアルやサギのような細長い“菜箸タイプ”か、あるいはカエルやワニのような平たい“カスタネットタイプ”だ。どちらも水中で獲物を捕える際に、水の抵抗を少しでも減らすための形態である。…にも関わらず、その逆を行った天の邪鬼がオフィアコドンその人。もう筆者も弁護のしようがない。なぜこんな不可解な頭部をしているのかは分からない。首は長くも無ければ特別柔軟でもないので、上空から勢いよく振り下ろす奇襲も難しかろう。あるいは、前述のガッシリした肩の筋肉群は、この矛盾に満ちた頭部を振り回すための“苦肉の策”だったのかもしれない……真相は不明だ。

(オフィアコドン類の1種ヴァラノサウルスの頭骨。口先の大きめな歯が犬歯である #)

やや余談に近いが、最初期のアーケオティリス《Archaeothyrisはもちろん、もう少し派生的なヴァラノサウルス《Varanosaurus》に至るまで、その多くが犬歯を長大化させているのは面白い特徴だ。形状は他の歯と変わらないのでほとんど誤差のようなものだっただろうが、ひょっとすると獲物を咥えた際にアンカーの役目を果たしたのかもしれない。とはいえ、最派生のオフィアコドン自体では犬歯が他の歯と同化して分かりにくくなっているので、元から大した意味はなかったのかもしれないが。



 かくしてオフィアコドンの身体的特徴の解説は終わった。
あっ、わかったわかった! 皆さまの気持ちは十分伝わってますから、チョ待っア”ア”ア”ア”ア”ア”(流れ込む群衆

(# ゚Д゚)(# ゚Д゚)(# ゚Д゚)「こないな欠陥生物、さっさと滅んで当然やないかぁ!!」

うん。その通りだと首を縦に振りたいのは筆者も同じだ。しかし、また1つ朗報がある……

『オフィアコドン科は約3000万年も生存を続けていた』

これがどれだけ凄いかは、人類と比較してみると良い。人類の歴史は最古の猿人まで遡っても僅か700万年。オフィアコドンの歴史は、実にその4倍以上だ。まかり間違っても“欠陥生物”とは呼べまい。しかもオフィアコドンその間に、石炭紀の熱帯雨林の崩壊Carboniferous rainforest collapse》(縮めてCRC)という絶滅事件をも生き延びていた。付け加えるなら、オフィアコドンは現状確認されている中では『最古の陸生大型肉食動物』でもある。
俄然面白くなってきた(某教授並み感)。
何がオフィアコドン類を地球史上最初の陸棲大型肉食動物へ押し上げ、誰が彼らから初代王者の座を奪ったのか?

言わば3億年に渡る『水際の興亡史』、その始まりを次回から探っていきたい。
次回『カナヅチワニもどき(後編)』にてお会いしよう。アディオーーース!


※白状すると、本日2021年7月15日に『水際の興亡史』が愛でたく発売となっている。後追いだの便乗だのは願い下げだったので、急ぎで書き上げた次第だ。ところどころボロが目立つが、まぁ……笑ってほしい。あるいは発売記念ということで1つw


《余談》
オフィアコドンの代謝について怪しくも面白い話がある。2017年の長骨(※四肢の骨)の論文(#11)によれば、彼らの代謝は原始的な外見とは裏腹に内温・温血動物のそれと近いもので、成長スピードも速かったらしい。にわかには信じがたいのだが、筆者の中で一つ、しっくりくる説明がある。
皮革業者の間では、昔から効率よくワニ革(もちろんワニの代謝は低い)を手に入れるためにある工夫をしている。それは飼育場の気温をガンガンに上げ、餌も山盛り与えることだ。こうすると変温動物でも代謝が促進され、成長も速まる。
これと同じことが当時の地球環境に起こったのかもしれない。詳しくは次回取り上げるが、当時の水辺はオフィアコドンにとって楽園だった。餌は多ければ天敵も少なく、気温も安定していた。まさに楽園であり、それがためにオフィアコドンは急速な成長と高い代謝の維持が可能だったのかもしれない……信じるか信じないかは、アナタしだい(・∀・)9

《参考文献》

[論文]

#1『A multitaxic bonebed near the Carboniferous–Permian boundary (Halgaito Formation, Cutler Group) in Valley of the Gods, Utah, USA: vertebrate paleontology and taphonomy』(Adam K Huttenlocker:2018)…石炭紀〜ペルム紀の生物相

#2『Was Ophiacodon (Synapsida, Eupelycosauria) a Swimmer? A Test Using Vertebral Dimensions』(Ryan N Felice:2014)…オフィアコドンの椎骨

#3『Adaptive landscapes challenge the “lateral-to-sagittal” paradigm for mammalian vertebral evolution』( Katrina E. Jones:2021)…単弓類の椎骨の可動性の進化

#4『A PARTIAL SKELETON OF OPHIACODON NAVAJOVICUS (EUPELYCOSAURIA: OPHIACODONTIDAE) FROM THE UPPER PENNSYLVANIAN OF CAÑON DEL COBRE, NEW MEXICO』(Susan Harris:2010)…オフィアコドンの下半身

#5『Patterns of evolution in the manus and pes of non-mammalian therapsids』(James A. Hopson:2010)…単弓類の手指の進化

#6『The behavioral and biostratigraphical significance and origin of vertebrate trackways from the Permian of Scotland』(Patrick J McKeever:1994)…スコットランド産の四肢動物の足跡化石

#7『Permo—Carboniferous Paleoecology and Morphotypic Series』(Everett C Olson:1975)…単弓類の生息地と頭骨の変遷

#8『Evolutionary Patterns in the History of Permo-Triassic and Cenozoic Synapsid Predators』(Blaire Van Valkenburgh:2002)…肉食性単弓類の進化

#9『Microanatomy of the radius and lifestyle in amniotes (Vertebrata, Tetrapoda)』(Damien Germain:2005)…頭骨から探る有羊膜類の生態

#10『A reevaluation of early amniote phylogeny』(MICHEL LAURIN:1995)…有羊膜類の頭部

#11『Ophiacodon long bone histology: the earliest occurrence of FLB in the mammalian stem lineage』(Christen Shelton:2015)…オフィアコドンの代謝

#12『Limb-Bone development of seymouriamorphs: implications for the evolution of growth strategy in stem amniotes』(Jordi Estefa:2020)…初期の四肢動物の成長速度

#12『Dimetrodon Is Not a Dinosaur: Using Tree Thinking to Understand the Ancient Relatives of Mammals and their Evolution』(Kenneth D Angielczyk:2009)…単弓類の総括) #2

WEB
#★『Ophiacodon uniformis (Cope, 1878)』…オフィアコドンの基本情報と骨格

[洋書]
#A『Ophiacodon (Synapsida, Ophiacodontidae) from the Lower Permian Sangre de Cristo Formation of New Mexico AMYC 』(DAVIDS BERMAN:2013)

#B『A PARTIAL SKELETON OF OPHIACODON NAVAJOVICUS (EUPELYCOSAURIA: OPHIACODONTIDAE) FROM THE UPPER PENNSYLVANIAN OF CAÑON DELCOBRE, NEWMEXICO 』(SUSANK HARRIS:2010)

#C『RE-EVALUATION OF RUTHIROMIAELCOBRIENSIS (EUPELYCOSAURIA: OPHIACODONTIDAE?) FROM THE LOWER PERMIAN (SEYMOURAN?) OF CAÑONDELCOBRE, NORTHERN NEWMEXICO』 (JUSTINA SPIELMANN:2010)

#D『Forerunners of Mammals: Radiation • Histology • Biology』(Chinsamy-Turan:2011)

[和書]
・『哺乳類型爬虫類-ヒトの知られざる祖先』(金子隆一:1998)
・『絶滅哺乳類図鑑』(富田幸光:2002) ・『恐竜異説』(ロバート・バッカー:1989)
・『肉食恐竜事典』…(グレゴリー・ポール:1993)
・『生命大躍進』(図録)…(科博:2015)


猛獣指定のパグ犬

2021-03-26 19:49:49 | 哺乳類へと至る道〜単弓類の進化〜
 話を遡ること数時間前。某氏とのコラボ企画の記事を練っていた時の事だった。不意にジワ〜っと溢れ出たのである。やる気ではない。単発記事のやる気であr(((往復ビンタ

 てなわけで挨拶はそこそこに、今回の主役を紹介したい。今回の主役は人呼んで“猛獣指定のパグ犬”こと、ヴェツソドン《Vetusodonである!!

(ヴェツソドンの生体復元。丸く短い鼻面が特徴的 #1より)

ヴェツソドンは生まれたてホヤホヤ(?)の古生物であり、記載されたのは2019年。南アフリカのカルー盆地《Karoo Basin、ペルム紀ロピンギアン《Lopingian》(およそ2億5900万年前〜2億5230万年前)の地層から発見された頭骨に基づいている。筆者が頭骨から推定した全長は約1m〜1.2m。同じく適当に現生哺乳類を元にして割り出した体重は約35kg。うん、重い(笑)。現生の哺乳類に比べて頭部が大きい事を考えてから、体型の近いアナグマラーテルを拡大した値である。なので過信しないでもらいたい(特に体重は)。

(アナグマの剥製 科博にて撮影)

(ラーテルの剥製 大地のハンター展にて撮影)

記載論文(#1)はフリーでネットに転がっているし、単弓類を研究している古生物学者のクリスチャン・カンメラー(Christian Kammerer)氏が実骨をツイートしていたで、この記事を片手に読み勧めてもらえたら幸いだ。

 発見当初からヴェツソドンは話題に事欠かなかった。
なぜなら本種が発見されたペルム紀後期は、もっぱらゴルゴノプス亜目《Gorgonopsia》テロケファルス亜目《Therocephalia》が繁栄した時代であり、ヴェツソドンなどキノドン類の出る幕はないと思われていたからである。実際ペルム紀のキノドン類には、プロキノスクス《Procynosuchus》ドヴィニア《Dvinia》に代表される小型で魚食ないし雑食の、控えめに言ってモブキャラのような種類が多かった。

(プロキノスクスの組み立て骨格。頭骨はエグい変形をしているので注意されたし 科博にて撮影)

よって『ペルム紀はキノドン類にとっての暗黒時代……とまではいかずとも、来たるべき繁栄へ向けた“忍耐の時”』というのが一般的な認識だった(#2,#3)。
それを根底からドッサリひっくり返したのが、我らがヴェツソドンなのである!

 ではヴェツソドンの特徴を見ていこう。…毎度ながら筆者は骨学的な事はサッパリなので、ざっくりした箇条書きになる事を念押ししておく。とはいえ、いくつかのポイントは多少なりとも掘り下げていきたい。ではまず口蓋面(口の裏側)から(´・ω・)テストニデルヨー

《口蓋面》

(ヴェツソドンの頭骨の口蓋面。スケールバーは1cm #1)

切歯(前歯)がやや小さく細長い
犬歯が太い楕円形
臼歯(奥歯)の発達が顕著
詳しくはゴルゴノプスの記事で解説するが、基本的に獣弓類(下手すりゃ非哺乳類の単弓類全体)は臼歯が貧弱だ。子孫である我々人類がスルメだの煎餅だのナッツだのをしれっと食べているから違和感を覚えるのであって、これは単弓類全体で考えるとレア中のレアなのである。
だがキノドン類は例外だ。キノドン類は複雑な奥歯を発達させた事で、ゴキブリだのソテツだの魚だのをムシャムシャ出来るようになった。
その例に漏れず、ヴェツソドンも発達した臼歯を生やしている。さながらたけのこの里みたいなこの歯は、肉を噛み切るだけでなく、大きな骨や硬いスジ、あるいは干からびた死体ジャーキーをバリボリ食べるのに役立ったことだろう。
無論ゴルゴノプスやテロケファルスも顎は強靭だ。しかしゴルゴノプスやテロケファルスに臼歯は無い。あっても無いに等しい。これは彼らのライフスタイルや進化史が原因だと思われるが、これ以上は話が脱線するのでまたの機会に話そう。
二次口蓋が中途半端
二次口蓋とは、人が口の中に指をツッコんだ時に感じる“口の天井”のことだ。実は魚類から鳥類にかけて、ほとんどの動物にはコレがない。じゃあ「口の中に指をツッコんだらどうなるか?」と聞かられたら、それは簡単。鼻の裏までズブリで鼻血ぶしゃーである。本当に鼻血ぶしゃーかは別として、これは捨て置けない問題だ。なぜなら二次口蓋が無い状態でモグモグよく噛んでいたら、食い物が鼻道に入り込んでしまうからである。それが嫌ならさっさと飲み込むしかない。実際、哺乳類以外の脊椎動物は基本的に餌を丸呑みにする。幸い自然界にテーブルマナーの厳しい親御さんはいないのでどヤされる心配はないのだが、これだと一つ困った事が起きる。餌をきちんと消化出来ないのだ。
( ´Д`)=3「いやまっさか〜(笑)」
って思った読者もいるだろう。なら今晩にでも缶詰めのスイートコーンをよく噛まずに食べてほしい。そして翌日の大便を観察してもらえないだろうか? 別に意地悪で言ってるのではなく、本当に消化されないのを確かめてほしいだけなのだ。悲しいかな、人間には砂嚢(砂肝)がない。これもまた便利な代物なのだが、それはリムサウルスの解説へお任せして、とどのつまりモグモグ咀嚼出来なければ、せっかくの食い物も無駄になってしまう。
ではどうするべきか? ここで一旦思い出してみよう。
Q.なぜ哺乳類以外の脊椎動物は咀嚼が出来ないのか?
A.鼻に食い物が入る(=呼吸の邪魔になる)からである。
…もう分かっただろう?
ズバリ(・∀・)9「鼻と口を隔ててしまえば良いのだァ!!」

てなわけで哺乳類(と一部の獣歯類)は、鼻と口を隔てる“第2の口蓋”=二次口蓋を獲得するに至った。肉塊のような消化し易い餌ならまだしも、植物や昆虫のような硬い餌を相手にする時、これが役に立つのは言わずもがなだ。
それではヴェツソドンに戻ってみるが、ヴェツソドンは二次口蓋が中途半端である。たぶん軟骨がこの上をカバーしていたのだろうが、その意味ではまだまだ発展途上である ――ヴェツソドンの主食が肉塊だった事も一因だろう。

《側面》

(ヴェツソドンの左向きの頭骨。パグ犬のような鼻面だが、化石化に伴う変形で誇張されている点に注意。スケールバーは1cm #1)

上顎骨(上顎の歯列寄りにある表面のボツボツした丸い骨)が大きい
※ボツボツは後で解説するので今は省略
鼻は硬骨で形成されている
おそらく哺乳類(ないし哺乳形類)になったタイミングで鼻の骨が軟骨になったと思われる。しかし詳細は不明……いずれ記事にしたい。

(ヴェツソドンの頭頂面と右向きの頭骨。後頭部の頭頂孔が残っているのは興味深い。また右向きの頭骨は、↓に出すプロガレサウルスの頭骨にも似ている。スケールバーは1cm #1)

・パグ犬さながらの短い口吻
側頭窓が非常に広い
頬骨(眼窩の後端から伸びる横長の骨)が太く長いアーチ状
一にも二にも、太い咬筋が通っていたためである。例えばディメトロドン《Dimetrodonディノケファルス類Dinocephaliaも強靭な顎を備えていたが、しかし頬骨(と側頭窓)は太短い(小さい)ばかりだった。これは筋肉の配置が関係しているのだが、一部の派生的な獣弓類(ゴルゴノプス以降の獣歯類)は、積極的に頬骨(と側頭窓)を発達させていった単弓類の咬筋もまた、これだけで記事一本が出来上がってしまうほど美味しいネタなので、詳しい話はいずれしたいと思う。ともかくヴェツソドンも咬筋(それも人の頬にあるのと同じ筋肉)を発達させていた事は覚えておいてほしい(#4)。
頭頂孔が半開き
より一般(?)には“第三の目”という名称の方が通りが良いかもしれない。ただ間違っても手塚治虫の三つ目がとおる』ではない。少し物知りな読者であれば、ムカシトカゲにはおでこに3コ目の眼があるなんて話を聞いた事がある人もいるのではないだろうか? もっとも、「眼」と言っても物を見ることは出来ず、せいぜい明暗を感じる程度である。しかし体温調節にはもってこいの道具だ。
・第三の目(頭頂眼)が明るいと感じる場所=日の当たる暖かい場所
・第三の目(頭頂眼)が暗いと感じる場所=日の当たらない寒い場所
さながらON-OFFスイッチのように働いて、上手いこと身体を調節してくれるのである。
その一方、頭頂眼があるという事は、すなわち持ち主の体温調節が日光に左右されていた(=変温動物)を示してもいる……。って無難に〆るのも悪くないが、本当にそうだろうか? 獣弓類の身体は凄いもので、探せば探すほど恒温動物だった証拠が出てくる。現生のハト(体温37℃)やトガリネズミ(半日絶食したら死ぬ)ほどの高代謝ではないにしろ、これが充電せねば動くこともままならない変温動物だったとは、とても信じられない。…毎度ながら単弓類の代謝も話すと長k(((以下略!
 ちょっと考えられそうなのは、当時の気候だろうか?ペルム紀の地球には超大陸パンゲアしかなく、とりわけ後期ともなれば平均気温が23℃(過去6億年の中で最高)に達した。パンゲア内部は乾燥化によって“死の砂漠”が拡がっており、沿岸部にしても赤道直下の強烈な日差しから身を守らねばならなかった。さしもの獣弓類も現生哺乳類ほどの高度な体温調節は出来なかった事を鑑みても、彼らが頭頂眼の観測結果を“日時計”のように使っていた可能性は、あながち否定できないのではないだろうか?
ヴェツソドンにしたって、わざわざクソ暑い昼真っ盛りに狩りをせずとも良いだろう。昼間は木陰で惰眠をむさぼり、明け方と夕方〜夜間にかけて自慢のエネルギーを爆発させる。そんな生き方を私は勧めてみたい。


《比較》
 いかがかな?
……(#・∀・)「こげな物いくら並べられても知るかボケェ💢
って人もいるに違いない。筆者も現時点ではこのレベルがせいぜいである。そこで次はちょっとばかり趣向を変え、収斂進化(?)の相手であるモスコリヌス《Moschorhinus》と比較してみたい。ちなみにモスコリヌスは、キノドン類ではなく肉食性のテロケファルス亜目であり、同時にペルム紀末の大量絶滅(P-T境界)すら乗り越えた実績を持つタフな捕食者だ。

(ヴェツソドン(左)とモスコリヌス(右)の比較。切歯や臼歯の大きさ、頭頂孔の開き方、後頭部の張り出し具合いなどが違う。スケールバーは2cm #1より)

どちらも頭骨長20cmほどで、パグ犬のような短い鼻面をしている。後頭部の側頭窓が広いのも同じだ。パッと見では確かに瓜二つ。でも丹念に観察してみれば、下顎の張り出し具合い眼窩の形状など、差異がポロポロ出てくる。そこで次は違いが顕著出ている口蓋面を例に比較してみよう。


(ヴェツソドン(左)とモスコリヌス(右)の口蓋面の比較。#1)

内鼻孔があまり見えない=作りかけの二次口蓋が見える
(モスコリヌスは内鼻孔が隠れ気味なれど、ほぼ丸見え)
歯列(とりわけ臼歯)が一歩引いている
(モスコリヌスは骨端崖っぷち)
ヴェツソドンの場合、歯の手前に頬(ふにふにした肉質のもの)が付いていた可能性がある。じゃあモスコリヌスに頬は無いのか?と聞かれたら、これも素直に首を縦には振れない。後でヒゲ諸々と合わせて解説するが、頬かダルダルの唇のような、何かしらの肉質の物が口を覆っていた可能性は高いと思われる。
側頭窓が緩い楕円形
(モスコリヌスは三角形)
後頭部の左右への張り出しが甘い
(モスコリヌスはオーバーハングしている)

内鼻孔や臼歯(と推測された頬の有無)を踏まえたら、ヴェツソドンのほうがモスコリヌスよりも発展していると思う人もいるだろう。それは概ね合っている。しかし全てが正しいとは限らない。

(ヴェツソドン(左)とモスコリヌス(右)の頭頂面の比較。#1)

よく見てみよう。彼らのおでこ(正確には後頭部の中央)を。その通り、ヴェツソドンにはハッキリした頭頂眼があるが、モスコリヌスには頭頂眼がないor目立たなくなっている。↑でも説明したが基本的に頭頂眼は、有ったら変温動物/無かったら恒温動物なのだ。これをどう受け取るかは解釈次第であるものの、必ずしもヴェツソドンのほうが哺乳類的であるというのは、いささか軽率な考えだろう。


てなわけで次は復元の話をしたい。

(ヴェツソドンの顔の復元。#1の論文中では、爬虫類のような骨張った復元だった)

 歯列(と頬云々)の話でしたように、ヴェツソドンには柔らかな頬か唇があった可能性が高い。しかし同時に、頬や唇を突き破りかねない長さの犬歯が生えているのも事実だ。
このあたりの復元は描き手によると言えばそうなのだが、一つ考えられるとすれば現生のウンピョウのごとき見てくれだったという話かもしれない。

(ウンピョウの頭骨。体格比ではネコ科最長を誇る 大地のハンター展にて撮影)

(現生のウンピョウの写真。犬歯が全て隠れている Wikiメディア)

 ウンピョウは古の“サーベルタイガー”に勝るとも劣らない長さの犬歯を生やしており、これでレイヨウやサルを噛み殺す。ただし歯の断面は薄べったい楕円形になっておらず(真円形)、いわゆるサーベルのような切れ味はない。この点がヴェツソドンに近い(彼らの場合、犬歯の断面はサーベルと真円の中間だが)。
肝心の唇についてだが、もちろんウンピョウは犬歯をきっちり隠している。であれば、ヴェツソドンの口元もダルダルふにふにの唇を付けたほうが現実的かと思われる。つまり論文の復元図は(論文)3:7(筆者)ぐらいで誤りだろう。……そもそもキノドン類(ないし獣弓類)は、ほぼ間違いなく口元にヒゲ(感覚毛)があった。

(プロガレサウルスの頭骨。口周りのボツボツがヒゲの痕跡。↑で示した右向きの頭骨と外形が似ている #5)

《余談》ちなみに↑の標本が「よみがえる恐竜・古生物」という図鑑にて“トリナクソドン《Thrinaxodonの頭骨”とされていたが、実際にはプロガレサウルス《Progalesaurusの頭骨である。なおこの事は筆者がヲタク界隈で初めて気づいた可能性が微レ存(^ω^)9ウッヒッヒ

 ゴホン…閑話休題。
であればヒゲを生やす毛根なり何なりを考えると、やはり唇があったのは至極当然だし、歯列も骨の縁より一歩下がった位置にあるのも、そうした肉質の存在を示唆(頬の存在を補強)しているさえと言える。まぁ、唇や頬&犬歯だけ剥き出しにしていた可能性も高いが ――筆者はこの可能性を押したい。実用性もさることながらカッコいいからである(笑)。

あとヒゲがあったのだから、十中八九ヴェツソドンの全身にも体毛が生えていただろう。復元図ではタワシ状の豪毛(?)が背中に申し訳程度生えていたが、たぶんそれはない(キッパリ)。この頃の単弓類は物がカラーで見えた ――もしかすっと鳥類みたく紫外線まで見えていたかもしれないが確かめようがないのでボツw―― ので、ヒョウ柄ではなく自然に溶け込みやすい色(ピューマクズリのような)の毛皮を身に纏っていたに違いない。

(ディキノドン類を仕留めた2頭のヴェツソドン #1より)

狩りについては、まず間違いなくゴルゴノプスより代々受け継がれし『今からテメェを右ストレートでぶっとばす。まっすぐ行くから覚悟しとけよ』戦術の使い手だろう。これについてはゴルゴノプスの記事でみっちり解説するつもりなので、期待してもらって構わない。控えめに言って身の毛もよだつ殺し屋だったとだけ言っておこう。



《参考文献》

[論文]

#1『A new, large cynodont from the Late Permian of the Karoo Basin, South Africa and its bearings in epicynodont phylogeny』(Fernando Abdala:2019)…ヴェツソドンの記載論文

#2『Dimetrodon Is Not a Dinosaur: Using Tree Thinking to Understand the Ancient Relatives of Mammals and their Evolution』(Kenneth D Angielczyk:2009)…単弓類の総括

#3『Evolution of the Permian and Triassic tetrapod communities of Eastern Europe』(AG Sennikov:1996)…ペルム紀〜三畳紀の食物網

#4『Phylogenetic interrelationships and pattern of evolution of the therapsids: testing for polytomy』(Kemp, Tom S:2009)…獣弓類の咬筋

#5『Padrões de diversidade e distribuição de cinodontes não-mamaliaformes do Triássico da América do Sul e África.』(Fernando Abdala:2012)…プロガレサウルスの論文

[ネット記事]

・『Vetusodon elikhulu: cuando lo antiguo tiene algo de moderno』(CONICET:2019)…ヴェツソドンのニュース記事

[書籍]
・『哺乳類型爬虫類-ヒトの知られざる祖先』(金子隆一:1998)
・『絶滅哺乳類図鑑』(富田幸光:2002)
・『恐竜異説』(ロバート・バッカー:1989)
・『肉食恐竜事典』…(グレゴリー・ポール:1993)
・『生命大躍進』(図録)…(科博:2015)


パンゲアの大横綱…ディノケファルス類

2020-10-08 21:24:18 | 哺乳類へと至る道〜単弓類の進化〜
 スピノやダケント復元教室のレポートは書かず、かといって「墓場」や「ハツェグ島」の続きは渋っている状況。そんなワケで今回は、筆者の気まぐれにより、地球最古の陸棲巨大生物を取り上げようと思う。



「背ビレ竜、ディメトロドンかい?」

ナンセンスだ。


「ゾワゾワの王、アースロプレウラ?」

それも違う…けど嫌いじゃない。


…そんな物理的に低い連中ではない。
今回取り上げるのは、獣弓類の先駆けディノケファルス類《Dinocephaliaである!!

(↑ディノケファルス類の1種、エステメノスクスの組み立て骨格 ©NHK)

ダイレクトに和名を恐頭類(「ディノ=恐るべき」×「ケファルス=頭」)と書き、それは言わずもがな一目で納得するだろう。多くの種が太く長い牙を持っていながら、それすら見劣りさせるほどの装飾(ヘルメット状の瘤や扇状の突起)で頭を飾り立てているオオツノジカなどの規格外な偶蹄類を別とすれば、史上最も派手な“単弓類”と呼んで差し支えあるまい。
ちなみに、ここで出てきた“単弓類”と呼ばれる分類群について補足すると、彼らは私たち哺乳類の祖先(より正確には哺乳類を内包する分類群)で、ちょうどニワトリから見たティラノサウルスをイメージすると分かりやすいだろう(※分類的な立ち位置の話)。

(↑大地をのし歩くディノケファルス類 ©NHK)


ただ、筆者が書き連ねたいこと(生態etc)とは別に、どうしても書かずにはいられなかった情報がある。…何を隠そう、ディノケファルス類の「分類」についてだ。
現行の日本語版Wikipediaや当ブログの単弓類において、数少ない日本語の参考文献となっている(著)金子隆一の『哺乳類型爬虫類 -ヒトの知られざる祖先』では、ディノケファルス類を異歯亜目(ディキノドン類etc)の仲間としている。ところが、1997年の論文(#2)では両者に直接の関係はないとされている。正直なところ分類云々は筆者もさっぱり ――私見では異歯亜目よりかは、むしろ獣弓類全体の最基盤っぽい―― であるし、今回の大筋には関わってこないため、これ以上は深入りしないことにする。
興味のある方は、Googlescholarで「Anomodontia(異歯亜目)」とでも打ち込んで調べてくださいお願いしますワタクシガシンデシマウノデ(殴

閑話休題。そんなディノケファルス類には、大別して2つの系統が存在する。1つは禍々しい顎と牙を備えたアンテオサウルス上科《Anteosauroidea》で、もう1つは横綱も真っ青な体格タピノケファルス科《Tapinocephalia》だ。

(↑両生類を捕らえたアンテオサウルス科のブリソプス《Brithopus》 Wikiコモンズより)

(↑茂みの中のタピノケファルス科 ©NHK)

多少の議論はあるものの、概ねアンテオサウルス科が肉食で、タピノケファルス科が植物食とされている(近日投稿予定の補記を参照されたし)。どちらも鎧兜のような頭と重心安定した胴体を持っていた。対称的に尻尾は貧弱でものの役にも立ちそうにない。これだけ聞くとカバっぽく思えるが、その四肢は斜め横に張り出しており、現存の生物に類似の種は存在しないだろう。
ここまで特異な姿をしたディノケファルス類には、かねてより1つの“定説”というか、旧時代的な解釈が行われてきた。それは…

ディノケファルス類がカバのような半水棲だったのではないか…?

なんて疑惑だ。
筆者なりの結論を言えば、こちらは『否!!』(# ゚Д゚)……である。
より正確には、ディノケファルス類は水辺を好んだものの、年がら年中プカプカ半身浴をしてはいなかった…と言おう。
このあたりの話を掘り下げると、それはそれで深くなってしまう ――下手すりゃ記事1〜2本分になる―― ため、ここでは半水棲説を否定する有力な証拠を1つ挙げるに留めたい。その証拠とは、ズバリ眼窩と鼻孔の位置だ。

(↑モスコプスの頭骨。眼窩は見事に水平に開いている Wikiコモンズより)

見ての通り、ディノケファルス類の眼窩は真横を向いており、鼻孔は鼻先の中腹に付いている。では読者の皆さまに質問しよう。この状態で水に浸かったらどうなってしまうのか……? 賢明なる紳士淑女であれば悩むまでもない。
カワノナカイシアデュ(そうだ。到底マトモに呼吸できず、おちおち眠りこけてなどいられなかっただろう。眼窩にしても同じで、組み立て骨格をパッと見た限りは高い位置にあるものの、実際には頭頂眼(通称は「第3の目」)の向きを考えると、大して高い位置にはない事が分かるのだ ――細かく説明すると、↑の組み立て骨格の向きでは、頭頂眼が斜め後ろを向いてしまう。太陽光を上手く取り込むには頭頂眼に真上を向かせる(つまり頭部全体を俯き気味にする)必要がある。

(↑水面に顔を出したカバ。水中で快適に過ごすには、このような突出した目が必要なのだ。 提供:@StarPredator247氏)


ということで、少なくとも今回に限っては、ディノケファルス類が陸をメインに活動する動物だとして話を進めていかせてもらう。
ディノケファルス類の黄金時代は、今から約2億6千5百万年前のペルム紀中期〜後期(バイオゾーン上のタピノケファルス帯《Tapinocephalus Assemblage Zone)とされている。この時代、陸地は超大陸パンゲアによってのみ構成されていた。大陸の内陸部で砂漠化が進行する一方、沿岸部には石炭紀から引き続いて安定した降水が提供され続けており、これが初期の裸子植物から、ひいては生態系の頂点に立つディノケファルス類を支えていたのである。

(↑ペルム紀中期〜後期の世界。大陸の沿岸部には肥沃な土地が拡がっていた ©NHK)

当時の陸上では非常に興味深い現象が発生していた。なんと(地質学的なスケールにおいて)昨日まで繁栄を極めていた初期の単弓類(俗に言う盤竜類)や陸棲特化のが次々に姿を消し、生態系の上位に空白が目立つようになっていたのだ。この謎めいた事件はオルソンの空白《Olson's Extinction》と呼ばれていて、今も原因が探られている(#4)。
そんな千載一遇の機に乗じ、我らが主役ディノケファルス類は多様化を成し遂げた。己が巨体を頼みに、抵抗勢力をニッチという名の土俵から寄り切り、世界を半ば独占したのである。川原で寝転んでいるのはディノケファルス類、その奥で腐肉を漁っているのもディノケファルス類、ちょうど森から顔を覗かせたのもディノケファルス類……なんてことがザラにある世界。それが2億6千5百万年前の日常だった。


こうした大繁栄のさなか、その立役者ディノケファルス類は、ある革新的な進化を遂げていた。だが不思議なことに(翻訳書を含めて)、それを和書で取り上げられたところは齢十八を数える筆者でさえ見たことがない。

それは単純な巨大化ではない。たしかに最大級のディノケファルス類は体重850kgに達したとする研究(#3)もあって、これは陸上生命史における快挙だ。
しかし、さらに重要なのが背丈が高くなったことなのだ。

それまでのエダフォサウルスディアデクテスのような植物食動物は、揃いも揃って低身長 ――遠目にはオオトカゲにしか見えない―― の種類ばかりであった。当然だろう。なぜなら彼らは、見たまんま90°のガニ股を貫く姿をしており、短足も相まって物理的に低い生物だったのだ。手が届いたとして、せいぜい地上から4〜50センチもあるまい。
はいえエダフォサウルスなどの台頭は、植物にとって厄災以外のなんでもなかった。菜食主義の四足動物が増えていくにつれ、植物全体の多様性は低くなっていたことがニール・ブロックレハースト(Neil Brocklehurst)らの研究(#5)により、今年になって明らかにされた。
それでも、彼らの影響は丈の低いシダ類などに限られていた。数メートルの超える初期の樹木は、未だに安寧と日光を享受していたのである。

(↑モスコプスの組み立て骨格 Wikiコモンズより)

ところがディノケファルス類に関しては、もはやオオトカゲなどと笑っていられない。際立った背丈は、大台1mを一気に飛び越え、最大級の種類では2m近い高さにさえ届くようになっていた。当然メートル級のトクサだのロボクだのにも、あっさり食指が伸びただろう。
何度も繰り返すようで申し訳ないが、ディノケファルス類の歯と顎は前時代の生物の比にならないほど強力無比だった。しかもタピノケファルス科の歯列は、後の鳥盤類や有蹄類の歯列を先取りした使い勝手の良い形状であったことが、昨年の研究(#6)で明らかとなっている。
たとえ繊維質の多いトクサだろうが、鎧のようなロボクの樹皮だろうと、なんであれ紙切れ同然に噛み千切ったはずだ。

(↑古生代のトクサ類《Annularia》の復元図 Wikiコモンズより)

あいにくディノケファルス類の咬合力(顎を閉じる力)を具体的に数値化した研究は見つからなかった ――もし貴方が知っているなら、是非ともコメントで教えていただきたい(´・ω・`)。
だが砲弾の如き頭部や補強された口蓋を見れば、どんなに控えめに見積もろうと、ツキノワグマに匹敵する咬合力(200kg)を生み出せたであろうことは、想像に難くないだろう。
つまるところ決論としては、ディノケファルス類の台頭によって樹木にも本格的な淘汰圧が促された可能性があると、筆者は考えている((#7)の論文も参照されたし)。
ディノケファルス類によって伐採された土地は、シダを始めとした下草にとって理想的な生育地となっただろうし、エオディキノドン《Eodicynodon》など初期の穴居性動物も巣穴を構えやすかろう。この辺は、近いうちに南半球の研究者(とりわけアフリカ)の頑張りに期待したいところだ。いつの日にか、上述の内容が論文化されることを祈ってやまない。


ではここで話を180°切り替え、読者の皆さまへ再び質問といこう。ディノケファルス類の得意技をご存知だろうか? ヒントはゴツゴツした頭部である。
…御名答!! まさしく頭突きだ。こちらは百聞は一見にしかずなので、ひとまず実骨を観察してほしい。

(↑A,アンテオサウルス、B,タピノケファルス科のウレモサウルス《Ulemosaurus》の頭骨。 コブ状の部位が確認できる #1より)

彼らの頭部に対する学者の意見(#8)は、研究黎明期からほとんど変わっていない。グダグダ議論までもなく、火を見るより明らかであろう。もしディスプレイ用の虚仮威しだとしたら、それはエネルギーの浪費と言わざるをえない。なお瘤の骨密度は高かったため、ぶつけ合うに足る強度も十分に備えていた。
こうした“恐ろしい(ディノ)頭(ケファルス)”は、過去〜現代にかける様々な生物にも見られる。過去ならば“石頭恐竜”パキケファロサウルス類、現代ならば極圏のジャコウウシや高山のオオツノヒツジ(ビッグホーン)といった具合いに。

(↑パキケファロサウルスの頭骨)

(↑ジャコウウシの決闘)

どれも程度の差はあれど、ヘルメット状の顕著に盛り上がった頭頂部(と棘や角)をしている。
ちなみにディノケファルス類こそ直接的に触れられていないものの、こうしたドーム状の頭部を持つ動物には、何かしらの収斂進化が働いていたのではないか? …とする研究(#9)もあり、非常に興味深い。

ただし、前述の堅頭竜類や偶蹄類とディノケファルス類には、決定的に異なる点があった。これも目敏い読者ならば気づくだろう。それは彼らの四脚である。

(↑ディノケファルス類の四脚 Wikiコモンズより)

ディノケファルス類の脚を見て気づく事といえば、その短足さ加減だろう。この四肢では回転数を上げてドタタタタッ!と走ることはできても、決してタタッ!タタッ!タタッ!っと、軽快なステップを刻むことは望めそうもない。しかも肘や膝はガニ股〜中腰で固定されているため、ジャコウウシよろしく、真っ直ぐ走って相手の頭頂部ピッタへ激突するのも難しい
ディノケファルス類の名誉のために言っておくと、彼らの四脚は、一昔前の学者に鼻で笑われていたような貧弱な脚ではない。ゴツゴツした上腕骨や大腿骨が、何よりの証である(言うまでもなく筋肉質だったことの証だ)。
…しかしだ。彼らの脚がダッシュアタック向きではないことは、火を見るより明らかであり、『哺乳類型爬虫類-ヒトの知られざる祖先』でも同様のことが指摘されている。これがもし、ジャコウウシやオオツノヒツジのようにダッシュアタックを得意技とする生物であれば、あまりにも不自然極まりない。
となると、ディノケファルス類の決闘はジャコウウシなどのそれとは趣きの異なるものだったに違いない。
ディノケファルス類を正面から眺めると、横に張り出した四肢のおかげで、おおよそ頭を頂点とした三角形ないし台形に見えるだろう。この体型は重心を安定させやすく、立派な肥満体型を支えたり、頭突き相撲において踏ん張ったりするにも都合が良かったはずだ。それこそ四股を踏んだ力士に近い、抜群の安定性を誇ったことだろう。

(↑頭突きを行うタピノケファルス類 ©NHK)

現生のウミイグアナも、オス同士が頭突きを行うことが知られている。こちらも行儀よく向かい合ってから、ガニ股で踏ん張りつつ、ジワジワと押し合う方法だ。やはり間違ってもジャコウウシのようなダッシュアタックなどしない。

ただし筆者は、ディノケファルス類の決闘が頭突きによるもののみだったとは、正直疑わしいと思っている。では他に何を武器にしてたかというと、ディノケファルス類をディノケファルス類足らしめている特徴……そう、発達した牙だ。
なにも突拍子も無い話ではない。一部のディノケファルス類(とりわけアンテオサウルス科)の牙は、前方へ向かって飛び出していた。ちょうど明石家さんまをイメージすると良いかもしれない。

(↑ジョンケリアの頭骨スケッチ。数本の前歯が突出している #10より)

現生のカバの前歯がそうであるように、ディノケファルス類もまた、この出っ歯で仲間同士ド突きあったりしていたと考えても、なんら不思議ではない。現にカバは同様の歯を用いて壮絶な噛み合いを繰り広げている(詳しくは資料映像を閲覧されたし)。

(↑牙を突き立てながら争うカバ)

当然ながら、そんな歯(と強靭な顎)で噛まれては無事で済むはずがない。実際ディノケファルス類の1種ジョンケリア《Jonkeria》大腿骨には、外敵(おそらく他のディノケファルス類)の噛み傷が刻まれていた。それを報告した論文(#11)中では、傷を残したのは捕食者であるとされている。だが大概のディノケファルス類の備えた破壊的な牙を踏まえると、どうしても仲間内における諍いの可能性を筆者は捨てきれない ――にしては傷が深いし、噛まれた箇所も不自然だが。

(↑捕食者の餌食となったディノケファルス類 ©NHK)


このように、陸上生態系において、初めて活動的(恒温的とも言えよう)な世界を創り上げたディノケファルス類であったが、皮肉にも在りし日の自らが為した簒奪の因果によってか、彼らもまた簒奪の憂き目に遭うことになった
ディノケファルス類がタピノケファルス帯に黄金時代を築くのと、ほぼ時を同じくして、やはり進化の荒波に揉まれた ――それを強いたのは王者ディノケファルス類であった―― 肉食獣の獣歯類《Theriodontia》(ゴルゴノプス亜目&テロケファルス亜目)や草食獣の異歯亜目《Anomodontia》(ディキノドン類etc)が本格的な多様化を始めている。これら新鋭の獣弓類は、どれも強靭な顎と柔軟な身体を備え、ディノケファルス類よりも敏捷で適応放散に長けていた
たしかにディノケファルス類も各ニッチにおいて一定の繁栄を見せたものの、その外見は良くも悪くも似たり寄ったりで、棲み分けという意味では十分な成功を収められずにいたのだろう。
かつてロバートバッカーが『恐竜異説』において述べたように、ひとたび解き放たれた進化の悪魔は、生物のアグレッシブ化によって歯止めを失い、その根源たるディノケファルス類さえも容赦なく淘汰されていったのである。2018年の研究(#12)でも、時代が下るにつれて生物種の絶滅率が高くなっていたことが示されており、それだけ生存競争が激化していたようだ。
こうした新勢力の台頭に合わせるようにディノケファルス類が衰退していく様は、まるで巨大なれど旧時代的な戦艦が、小型で小回りの効く戦闘機に敗れたのを彷彿とさせてくれる。

(↑獲物を咥えたゴルゴノプス亜目のリカエノプスと、川原を行くディキノドン類)

かくしてタピノケファルス帯の末期をもち、ディノケファルス類の血筋は完全に断絶した
だがそれでもなお、彼らの築いた陸上生態系の基礎は、他の獣弓類→クルロタルシ類→恐竜→現生哺乳類へ、脈々と受け継がれていき、世界を仁義なき修羅地獄へと導いていく(#13)。
この星を初めて“のし歩いた”ディノケファルス類。彼らの再評価が行われる日は、そう遠くないのかもしれない。



※余談1
話の都合で誤解が生まれてしまいそうなので忠告しておく。鈍重そうな見た目に騙されてはいけない!! カバは小突くだけでナイルワニを蹴散らし、ライオンの群れ相手に千切っては投げを続け、果ては時速40kmで自動車を猛追する生きた戦車なのだ。さすが“アフリカで最も危険な野獣”である。

※余談2
Wikipediaなどを覗いていると(ディノケファルス類に限らないのだが)、胸部の組み立てが失敗している骨格を見つけることが多い。ティタノフォネウス(英語版)のサムネなど、まさに代表例で、あれでは体重を支えることが出来ない。今回の記事立てにあたり使用した組み立て骨格は、なるべく違和感のない骨格を使用としたつもりだが、念のため読者個人も胸部の作りを見当し直してほしい。


《資料映像》

《参考文献》

[論文]
#1『Dimetrodon Is Not a Dinosaur: Using Tree Thinking to Understand the Ancient Relatives of Mammals and their Evolution(Kenneth D Angielczyk:2009)』(単弓類の総括)

#2『Dinocephalians are not anomodonts(FE Grine:1997)』(分類云々)

#3『First 3D reconstruction and volumetric body mass estimate of the tapinocephalid dinocephalian Tapinocaninus pamelae (Synapsida: Therapsida)(Marco Romano:2019)』(タピノケファルスの体重)

#4『Olson's Gap or Olson's Extinction? A Bayesian tip-dating approach to resolving stratigraphic uncertainty(Neil Brocklehurst:2020)』(オルソンの空白)

#5『The origin of tetrapod herbivory: effects on local plant diversity(Neil Brocklehurst:2020)』(植物の淘汰)

#6『Histological and developmental insights into the herbivorous dentition of tapinocephalid therapsids(Christian A Sidor:2019)』(タピノケファルス科の歯列)

#7『Functions of phytoliths in vascular plants: an evolutionary perspective (Caroline AE Strömberg:2016)』(植物の進化)

#8『Synchrotron scanning reveals the palaeoneurology of the head-butting Moschops capensis (Therapsida, Dinocephalia)(Julien Benoit:2017)』(頭突き説)

#9『A Dome-Headed Stem Archosaur Exemplifies Convergence among Dinosaurs and Their Distant Relatives (Michelle R. Stocker:2016)』(頭突きの収斂進化)

#10『On the carnivorous mammal-like reptiles of the family Titanosuchidae(R Broom:1929)』(ジョンケリアの半身)

#11『Osteomyelitis in a 265-million-year-old titanosuchid (Dinocephalia, Therapsida)(Christen D Shelton:2017)』(ジョンケリアの負傷)

#12『Evolutionary rates of mid-Permian tetrapods from South Africa and the role of temporal resolution in turnover reconstructionMICHAEL O. DAY ET AL. MID-PERMIAN TETRAPOD …(Michael O Day:2018)』(四足動物の進化と絶滅)

#13『Evolution of the Permian and Triassic tetrapod communities of Eastern Europe(AG Sennikov:1996) https://t.co/4MTnRQToOJ』(ペルム紀〜三畳紀の食物網)

[和書]
・『哺乳類型爬虫類-ヒトの知られざる祖先』
・『恐竜異説』
・『絶滅哺乳類図鑑』