
心臓外科手術は三次元空間に時間的要素が加わった4次元手術であるため、他の診療科の手術よりも手技として難易度が高いと言えます。特に立体空間の中で思うような運針が出来ると言うことは、クオリティの高い手技を求められる弁膜症手術や冠動脈バイパス術においては必須であり、特にMICSにような限られたスペースの中でパフォーマンスを発揮するのに必要です。この中で特に多用するのは、持針器による針の持ち方で、鎌のように持って手前に引くようにかけたり、対面を持ち上げるように引っかけて運針する鎌持ちや、特に接線方向となる面に針の彎曲に沿って回転させながら刺すように運針する槍持ちは非常に重要です。これが出来ないと弁膜症手術はマスターしたとは言えません。ロボットであれば、任意の方向へ持針器となるアームが回転するのでしょうが、人間の手の回転には限界があるため必要な手技です。しかし、古い外科医の中にはこうした特殊な持ち方を受け入れない人もいて、筆者も「変な持ち方をするなっ!」と叱られたことがあるのも事実です。しかしそれも昔のこと、現在は若手にも必須の手技として指導しています。