横須賀うわまち病院心臓血管外科

お気軽にコメントいただければ、一般の方の質問にも心臓血管外科専門医が答えます。

心房細動を合併するCABG術後の抗血栓療法はDOAC単剤でも良いのか?・・・X

2022-05-12 13:00:25 | 心臓病の治療
 

2020年の循環器学会のガイドラインでは、アスピリン単剤よりも2剤の抗血小板薬を内服した方が特に静脈グラフトの開存率が良いという研究論文があるのを根拠に推奨されるようになり、特に早期の閉塞を予防する可能性があるとのことです。しかし、最近は脳梗塞の予防や、心房細動の抗血栓療法においてDOACという新しい抗凝固薬単剤で予防が可能とする意見が増え、冠動脈ステント留置後も一年経過したらDOAC単剤でもよいと言われているようです。その根拠としてAFIRE試験において、心房細動患者で冠動脈疾患合併の患者に対してアスピリン併用の有無で比較したところ非劣性が証明されたサブ解析が根拠となっているようです。その影響でCABG術後の患者さんもアスピリンをいつの間にか中止にされ、DOAC単剤内服に切り替えられるケースが見られるようになってきました。今後はそういう流れなのかもしれませんが、ガイドラインの改定まで待つのが妥当なのか、CABG術後の患者さんもその新しい流れに乗っていっていいのか、ちょっと考え物です。というのも、そのAFIRE試験において、CABGの患者さんは50例ずつしかは入っておらず、エビデンスというにはあまりに少ないと思われます。やはりガイドラインに従った診療を当面はすることになるのではないでしょうか。以下、現時点で最新の2020年に改定されたCABG術後の抗血栓療法の項です。


CABG 施行後の抗血栓療法 冠動脈ステント留置後早期に CABG を施行された患者 では,術後速やかに負荷投与を行ったうえで DAPT を再 開することが求められる.ACS に対する CABG の術後 DAPT については,いくつかのランダム化比較試験(RCT) のサブ解析やメタ解析の結果が報告されている.CURE 試 験の CABG 施行患者におけるサブ解析では,クロピドグ レルを用いた DAPT 群の方がアスピリン単剤群よりも1 年 間の心血管イベント(心血管死+心筋伷塞+脳卒中)は少 なく出血イベントは多い傾向であったが,いずれも有意差 には至らなかったことが示されている 161) .一 方, TRITON-TIMI38 試験および PLATO 試験の CABG 例に おけるサブ解析やこれらを含むメタ解析では,ACS に対す る CABG 術後はプラスグレルまたはチカグレロルを用いた DAPT の方がクロピドグレルを用いた DAPT よりも全死亡 などの致死的転帰が少なく,クロピドグレルと比較した出 血はプラスグレルで多かったもののチカグレロルでは有意 差はみられなかったことが報告されている 162, 163, 170) .これ らの結果をふまえ,ACS に対する CABG 術後には,長期 の経口抗凝固薬投与が不要であれば,術後,可及的速やか に負荷投与を行ったうえで P2Y12 受容体拮抗薬を開始し 最長 12 ヵ月まで DAPT を継続することが推奨される(表 23).安定冠動脈疾患に対する CABG 術後では,DAPT による死亡率の改善は示されていないものの,いくつかの RCT やメタ解析の結果において,アスピリン単剤よりも DAPT の方が術後のグラフト開存率(特に静脈グラフト開 存率)が高く,オフポンプ CABG 施行時にはさらに有効 性が高まることが示されている 28, 146, 147, 171–173) . 抗凝固薬を必要とする患者における CABG 術後の DAPT および抗凝固療法の 3 剤併用療法についてはエビ デンスが乏しいが,PCI 施行後の 3 剤併用療法が出血リス クを増加させることを考慮すると,可能な限り避けるべき であろう.CABG 術後のワルファリンの効果を検討したメ タ解析では,グラフト開存率の向上という点でワルファリ ンとアスピリンは同等であることが示されているが 148) ,出 血リスクの点でアスピリンの方が優れていることから,グ ラフト開存率の改善を目的とした抗血栓薬としてはワル ファリンよりもアスピリンが用いられてきた.また Post CABG 試験では,アスピリンへの低用量ワルファリンの追 加投与によるグラフト開存率の向上は認められないことが 報告されている 149) .これらの結果から,抗凝固薬の適応 がない患者における CABG 術後のグラフト開存率向上を 目的とした抗凝固薬投与は推奨されない(表 23).ただし, CABG 術後の DOAC の効果に関してはランダム化試験に よる評価は行われておらず,この点については今後の検証 が必要である。

 この件について、昨日、日本人の臨床試験の中心となってエビデンスを構築してきた東邦大学の池田教授に聞いたところ、AFIRE試験においてもCABG患者はたった50例ずつ程しかエントリーされておらず、CABG術後の患者さんのデータが少ないのでガイドラインの変更に至るにはまだ相当のデータ蓄積が必要で、抗血小板薬からDOAC単剤としてよい、とするには時期尚早とのことでした。すっきりしました。

以下、AFIRE試験のプロフィール 
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« ステルス護衛艦はぐろ | トップ | 新型コロナウィルスワクチン... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

心臓病の治療」カテゴリの最新記事