横須賀うわまち病院心臓血管外科

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40代に生体弁で人工弁置換?

2020-06-22 23:08:40 | 弁膜症
 弁膜症のガイドラインによると、人工弁と置換する手術をする際に、機械弁とするか、生体弁にするかという議論は昔からあります。日本人は海外の人と比較して長生きするため、若くして生体弁で置換すると生きている間に再手術が必要になる、という考えで以前は70代の後半でも機械弁で人工弁置換し、一生涯ワーファリンによる抗凝固療法をするというのが一般的でした。生体弁の寿命が10年と言われていた時代は、70代で生体弁置換すると80代で再手術が必要になってしまう、と考えられていたからです。
 その後、2009年ごろから生体弁の寿命が弁膜の処理の工夫によって長くなったと言われ、日本においても機械弁より生体弁の使用数が逆転しました。より高齢の患者さんが手術を受けるようになって生体弁の使用割合が増加した以上に、アメリカのガイドラインというのが初めてできて、65歳以上は生体弁を推奨するというデータが示されたことが影響しました。その当時の知識によると、55歳から65歳の間で生体弁置換した患者さんが生きている間に再手術が必要になる可能性が30%であるのに対し、65歳以上の患者さんが生体弁置換した後に、生きている間に再手術が必要になる可能性が10%以下という統計結果が出たことが根拠になっています。それに加えて生体弁を作るメーカーの大々的な宣伝が大きく貢献したと思います。今や、生体弁の寿命は20年もつ可能性が9割と言われており、10年で再置換が必要になる可能性は低いと考えられています。もちろん例外的に早期に弁が壊れてしまうことも残念ながらありますし、改良前の生体弁で異常に早く壊れてしまう弁が存在しているのも確かです。
 さて、筆者の経験では、妊娠を希望する若い女性が生体弁で人工弁置換を受け、お子さんを出産した後に、生体弁が壊れた後に機械弁で人工弁置換した症例や、極真空手の道場を経営していて、シニアの部の大会に出場したり、瓦を素手で割ったりしているのでワーファリンを飲めないと言って大動脈弁を生体弁置換をした40代の患者さんなどの経験があります。大動脈弁位に移植した生体弁は僧帽弁位に移植した弁よりも長持ちするので、その空手の道場の患者さんは10年以上経過してもまったく人工弁に異常を認めず過ごされています。
 ガイドラインに機械弁を推奨されている年齢の患者さんに、機械弁と生体弁の選択について説明すると、どうしても生体弁を希望するようになってしまうのは仕方ないことなのかもしれません。もし筆者が人工弁置換術を受けるとしたら基本的に再手術の危険があっても生体弁を希望すると思います。若い人ほど早く生体弁は壊れる傾向になるので、20年はもたないかもしれませんが、現在は生体弁の中に経カテーテル的に新しい生体弁を移植するTAVI IN SAVという治療が日本でも始まっています。TAVI弁の寿命は現時点では10年以内とも言われていますが、20年後は改良されてさらに長期使用可能な弁も出ていると思います。20年の生体弁の寿命に加えて、追加のTAVIで10年、合計30年の間、ワーファリンによる抗凝固療法から解放されるメリットを考えると、当然生体弁を希望するのではないでしょうか。実際に30年間再手術フリーとなるのかどうかは、じっくり検証していこうと思います。
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