米島勉のセカンドオピニオン

ここでは,広い意味で健康に関するセカンドオピニオンを考えてみたいと思います。

病気を作る人々―厚生労働省の恐怖

2008年05月05日 | Weblog
 世界でもっとも売れている薬は何だと思いますか。風邪薬でも胃腸薬でもありません。それは高血圧の薬,すなわち降圧薬です。
 先進国における高血圧人口は総人口の10~15%とされており,日本だけでも1500万人,あるいは3000万人とされています。数字が倍も離れていますが,これは高血圧症の定義にもよります。そのうち診療機関を受診している人だけでも約800~1000万人とされています。1000万人の患者に,たとえば現在用いられているもっともポピュラーな降圧薬の一つであるカルシウム拮抗薬アムロジピン(一般名)5mgを1日1錠服用したとします。それだけで1日1000万錠,保険薬価80.50円として8億500万円が消費されているのです。しかも降圧薬は一度服用を始めたらよほどの改善が見られない限り一日たりとも休むことなく続けなければなりません。1日8億円として年間2920億円,約3000億円が消費されているわけです。
 それではどんな基準で投薬を開始するのでしょうか。それがきわめてあいまいなのです。通常はかかりつけの医院なり病院の医師が開始時期を判断します。判断の根拠となるのは心臓の搏動に伴う収縮時と拡張時の血圧です。
 しかし,よく知られているように,血圧は毎日,朝夕,いろいろな場面でも容易に変動します。医師の白衣を見ただけでも血圧は上下します。ですから,どの時点で高血圧患者と診断するかはきわめてあいまいなのです。
 さらに困ったことに,厚生労働省はこれまでになんども高血圧症の定義域を変更してきました。それも収縮期,拡張期血圧とも低い方へと移行させたのです。その根拠もけっして疫学調査などの確固とした客観的根拠によるものではなく,低く抑えてよければよかろう,程度の理由で引き下げていったのです。
 上限血圧を引き下げれば,とうぜん高血圧症と診断される患者が増えることになります。そうすれば降圧薬はもっと売れるのです。収縮期血圧を5mg引き下げると数百万人高血圧症患者が増える,と言われています。これは血圧の分布がベル型(釣鐘型)であれば当然です。
 では,現在の降圧薬は本当に効果があるのでしょうか。この問題に関しては,アメリカの国立衛生研究所(NIH)と国立心肺血液研究所(NHLBI)が高血圧患者を対象とした史上最大規模の臨床試験 "ALLHAT"(Antihypertensive and Lipid-Lowering Treatment to Prevent Heart Attack Trial)を実施しました。その結果は2002年に発表され,アムロジピンなどの降圧薬の効果は利尿薬と同程度である,とされてしまったのです。製薬業界はこの結果に焦り,「降圧薬は利尿薬と同程度の効果がある」ときわめて修辞学的表現にすり替えたのです。つまり「同程度の効果しかない」と言うべきところを「同程度の効果がある」と表現したのです。なぜなら,利尿薬の薬価は降圧薬の数分の一に過ぎないのですから,「同程度の効果がある」として降圧薬を投与すれば,投薬コストは数倍に跳ね上がるのです。
 こういったまやかしが厚生労働省の主導の下で行われているのです。このような偽計が厚生労働省では数多く行われています。この4月から実施されたメタボリックシンドロームの検診義務化もそうです。メタボリックシンドロームについては,改めて書くつもりです。