「モディリアーニの絵の女」
2023年11月24日(金)
私の目の前に座っているこの女は、アルコールの影響で上気しているのか、それとももしかして、私を見てうっとりしているのだろうか。物憂い虚ろな目は、確かに私を見ている。がしかし見つめているのは私の後ろの虚空だ。
私はモディリアーニの絵の女を思い出した。その女の目には瞳は描かれていない。丁度この女のように虚ろな目をしている。そして、その絵を見ている者を見ているようであるが、やはり見つめているのはその先の虚空なのである。
私は、身動き一つせずに虚空を見続けるこの女に触ってみたいという欲望を抑えることができなかった。それは、私の欲望を満たすだけではない。この女を悦楽で満たそうと思ったからである。
指を櫛のようにし、髪を梳かしてみる。芳しい香りが指から伝わってくるようである。ゆっくり、ゆっくり、時には耳朶にもかすかに触れてみた。大概の女は耳朶に触れると、喘ぐような息を吐くが、この女はピクリともしない。
うなじまで髪が伸びているが、ここは触らない。うなじに触るのは、女をいかす時の切札としてとっておきたいからだ。
私は、次に顔を愛撫してみることにした。この女の額に指を当て、眉にそって指を動かし、そのまま目の周りをかすかに撫でた。鼻は少し摘まんでもみた。それでも、反応がない。
次こそ、この女は私の愛撫に反応を見せるのではなかろうかと、最後に頬を伝いこの女の唇に指をあて、唇に沿って撫でた。しかし、依然としてピクリともしない。一体この女には神経はあるのか! 血は通っているのか! 焦った私は、この女の唇に私の唇を押し当てようと、この女の顎を持って引き寄せようとした。
「もしもし、もしもし、お客さま、お客さま、作品には、お手を触れないようお願いします。お手を触れないようお願いします。お客様!お客様!」スタッフの声に、私は、ハッと気が付いた。な、何ということだ。私はモディリアーニの絵の女を触っていたのだった。
私は、私をして妄想の世界に引きずり込む、この女の魔力に、心底震えあがった。