脇を固める俳優陣はもちろんのこと、中心となる三人の俳優がすばらしい。
綾野剛演じる達夫は、人間というより弱りきった動物だ。
無表情が9割のその顔は支えきれないほどの内面の重さを想像させ、
驚く程地味だが艶やかな色気がある。
菅田将暉は、対象的におどけた軽みで映画に浮力をつけている。
一途さがあり、観ながら深く惹き込まれた。
池脇千鶴演じる千夏。身を売りながら、汚れながら、彼女は無垢な輝きを失わない。
姉弟(千夏と拓児)に達夫を加えた三人が、町の食堂でビールを飲むシーンには、
唯一明るい笑顔がこぼれたが、ものがたりは更に、もうひとつの転落を用意している。
踏まれても、踏まれても、底の底から頭をもたげて来る、雑草のような希望がのぞいている。
不思議だが、私は最後まで前方から差し込む、光のようなものを信じることができた。
清冽な美しさを持つ日本映画だ。漲る弓のような強度がある。
(「家庭画報5月号」より抜粋 文・小池昌代)