今日の渋谷公会堂でのライブは、年の暮れにリリースする予定だったGLAYの1stアルバム『SPEED POP』のプロモーションを兼ねた東名阪3カ所のミニツアーのファイナルだった。
この日のライブは、僕にとってはオープニング前から違った意味合いを持っていた。
プラチナナムレコード会社から、「このステージで、君を正式なメンバーとしてGLAYに加えるかどうか判断したい」 そう申し渡されていたライブだった。僕には自信があった。
時計の針が6時半を過ぎ、場内が暗くなる。いよいよ、『THE SPEED POP LIVE '94』渋谷公会堂のステージのスタートだ。
●絶好調のTERU
オープニング曲『RAIN』が演奏され始めると、観客席からはメンバーの名前を呼ぶ声が響き渡る。こんな経験は初めてだった。ライブには、GLAYのメジャーデビューの立役者である『X JAPAN』のYOSHIKIさんも来ていた。
この頃、メンバーの間ではYOSHIKIさんのことを「組長」と呼ぶようになっていた。「今日、組長も来るらしいから、あの曲はやらなきゃヤバイよ。」 あの曲とは、デビューシングル『RAIN』だ。
それまでは、楽曲を含めて全てをYOSHIKIさんがプロデュースしたこの曲に対して、GLAYのメンバー全員が「この曲は俺たちの曲じゃない」という思いを抱いていた。そのため、ライブでも演奏したことがなかった。
しかし、この日はYOSHIKIさんが来るということで、「やらなきゃヤバイよね」ということになった。何気ない顔で演奏した『RAIN』。会場で見ていたYOSHIKIさんも、僕たちの演奏に満足げに聴き入っていた。
この日のTERUは絶好超だった。オープニングの1曲目が終わると、優しい笑顔で手を広げながら観客を受け入れる仕草をくり返す。
ちょうどTERUがそんなパフォーマンスをしていた時だった。リハーサルの時にメンバー全員がぶっとんでしまった火薬と音玉の弾けるような音が開場にこだました。
『真夏の扉』、続いて『千ノナイフガ胸ヲ刺ス』とノリのいい曲が続く。僕のドラミングも、緊張とは裏腹にガンガンとリズム隊を引っ張っていく。
「SPEED POP TOURファイナルへようこそ!」 TERUのMCに、大きな歓声で応えるファン。「これがメジャーか、これがメジャーのライブなんだ。これまで俺たちがやってきた小さなライブハウスとは全然違う。」 今になってスティックを持つ手が震えてきた。
「今日は今年最後のライブということで、みんな、俺たちの全てを受けとって下さい!」 「今年最後の元気を俺たちに下さい!それじゃあ、いくぜ!」
『HAPPY SWING』。誰もが思わず口ずさんでしまうようなポップなメロディのこの曲は、僕のお気に入りだ。
●ノリにノるメンバー
スポットライトに照らされたTERUは、静かに話し始めた。「俺にとってとても大切な人にある曲を預けたまま、ここ東京にやって来ました。その曲はもう…その人に必要なくなったけど、今、みんなに預けたいと思います。みんな…受けとって下さい。」
そんなMCで始まったバラードは、GLAYには珍しく素直に愛をうたった『ずっと2人で…』だ。客席はシンと静まり返り、TERUのその甘く切ない歌声に聴き入っている。
曲が終わると一転、「これからはもっともっと元気な声を聞かせて下さい。準備はできた?」 TERUがこうファンに語りかける。
「キャー!TERUくんステキー!」 「これからはもっと飛ばしていくから!」 そんなファンとのやりとりの後、ステージ前方から白い煙が勢いよく噴出し、『TWO BELL SILENCE』が始まる。
僕のドラミングは完全にGLAYのサウンドと一体化していた。今年最後のライブ。メンバー全員がノリにノッている。JIRO独特の頭を振ってのリズム取り。HISASHIは客席に向かって流し目をする。メンバーのおなじみのパフォーマンスだ。
客席の歓声がホール中に響く。ラストの曲『KISSIN’NOISE』の演奏が始まると、場内の興奮はピークに達した。
客席に向かってTERUが笑顔で手を振る。メンバー全員が歌う。僕も力の限りスティックを振るった。ライトが客席を明るく照らす。ファンが曲に合わせて手を差し伸べ、メンバーに握手を求める。
客席の誰もがまだ帰りたくない。メンバーともっと一緒にいたい。そんな思いで瞳を輝かせている。
「良かった、GLAYのメンバーに加わって良かった。こんな体の底からわきあがるような喜びは、これまでドラムを叩いてきて味わったことがない。」 僕はGLAYのメンバーであることを心から喜んだ。
●正式なメンバーに
メンバーがステージを去ると、場内ではアンコールの大合唱が始まった。再びステージに戻ると、ファンは嵐のような激しい歓声で僕たちを迎えてくれた。
『JUNK ART』、そして最後の曲は『BURST』だ。TERUが叫ぶ。「この曲が最後だぞ!」 僕たちがノリのいいリズムを弾き出すと、TERUはメンバーを紹介し始めた。その時だった。
「やっと正式にGLAYのメンバーになった!これからも俺たち共々よろしく!ドラムス、NOBUMASA!」
僕は一瞬驚いたが、TERUに応えるように思いっきりスティックをドラムに叩きつけた。会場のファンが「おめでとう、NOBUMASA」と言ってくれたのが、僕の耳にしっかり届いた。僕は言いようのない喜びを感じた。
次に、「ベース、JIRO!」 JIROはクールにベースを弾き続ける。「ギター、TAKURO!」 TAKUROは手を一員々とあげ、ファンの声援に応える。TERUはステージの中央に戻ると、自分の胸を指す。
メンバーが全員が「まだおまえの番じゃないだろ」と叫ぶが、ギターの音と場内の歓声でかき消されてTERUには聞えない。「ボーカル、TERU!よろしく!」
そう、ギター・HISASHIの紹介を忘れている。HISASHIはオーバーなリアクションで、ひねくれた顔をしながらアンプの後に隠れてしまう。TERUもようやく気がついたようだ。
「あ、そうそう(笑)ギター、HISASHI!」 最後に紹介されたHISASHIがTERUに蹴りを入れる。ファンに対しては手を上げて大きな声援に応える。
「それじゃあ、もっと熱いライブにしようぜ!」 こう叫ぶと、TERUはなんと水を頭からかぶり、ステージ一番前のギリギリの所までせりだしていく。TAKUROもJIROもHISASHIの顔も笑っている。
『BURST』の掛け合いを何度もくり返す。メンバー全員もファンも最高にいい顔をしていた。「そう、これだ。これなんだよ。俺がミュージシャンとして求めていたライブっていうのは。」
幕が降りた。誰からともなくメンバー同士握手をして、「良かったよな。やったよな。俺たち、やっとここまできたんだな」と口々に言い合った。楽屋に戻る道すがら、僕は興奮と喜びで足が震えていた。
●俺達の仲間の1人
楽屋にはレコード会社の関係者がつめかけていた。
「1ヵ月以上ツアーを一緒にやってきて、俺たちNOBUMASAとやっていかないとこれから先、絶対後悔すると思ったんですよ。これまでのNOBUMASAの活動に敬意と感謝をこめて発表したんです」
楽屋に集まったレコード会社関係者も、TAKUROの言葉にうなずいている。僕はうれしかった。TAKUROは続けて言った。
「俺たち、NOBUMASAの加入にはJIROに任せておいた部分が多いんだよね。俺たちが『もう、いいんじゃないかな』って言ったって、結局、NOBUMASAとリズム隊を編成しているのはJIROだからね。JIROにはリズム隊として考えるところがあったと思うから。そのJIROが一緒にやっていこうよっていう意見だから、もうNOBUMASAは俺たちの仲間の1人だ。」
続けてTERUが、「NOBUMASAの性格って、俺すごく好きなんだ。でも技術の面でJIROと気が合わなかったらダメだと思ったけど、JIROも太鼓判押してるしさ。いいんじゃないのかな。来年からがんばろうよ。」
TAKUROが□をはさんだ。「NOBUMASA、ツイてるよね。俺たち6年かかってここまできたのに、NOBUMASAは俺たちの仲間に加わって1週間でテレビに出るわ、メジャーデビューするわでもう最高じゃない。」
本当にその通りだ。僕は幸せ者だ。
【記事引用】 「GLAY‐夜明けDaybreak/大庭伸公(デビュー初期のドラマー)・著/コアハウス」