愛することに慣れ過ぎたボクを叱ってくれ、
それすらも甘えであることを悟らないボクは、
愛を受けることが当然だと思っているくらい傲慢で、
キミの気持ちを考えている、
そう言うことが免罪符になると信じている。 . . . 本文を読む
朝起きてシャワーを浴びて気付いた、
腹も胸も腕も肩も胸も鏡に映っているけれど、
ボクの顔だけが映っていない。
心配なので病院に行こうとドアを開けると、
ボクの顔を近所のネコがくわえていた。
あ、とこちらをちらと見て走り去るネコを
追い掛けようとしたけれど、
冬の寒風に諦めることにした。
まあいい、
顔が無くてもキミならボクだって分かるさ。 . . . 本文を読む
さっきまで激しく降っていた雨も、漸く降り止んだ。
道路にもボクの鎖骨にも、たっぷり雨がたまった。
そろそろ雨が上がる頃かと思っていたら、
さっきまで降ってきていたシズクがひとつぶずつ、
空に向かって上がって行く、
まるで時間を巻き戻しているかのように。
気が付いてみると、
雨はすっかり上がっていた。 . . . 本文を読む
ダメだ、ダメなヤツだ、と言われ慣れると、
気が付けばゴメンなさい、と謝っているボクがいる。
すると、卑屈なヤツだ、とまた罵られ、
ゴメンなさい、とボクもまた謝る。
謝って通り過ぎるなら楽勝さ、と
ボクは一人ほくそ笑む。 . . . 本文を読む
石ころに躓いた奴がいて、
奴は結局自らを殺めることになる。
転んだのを笑った本屋が悪かったのか?
定食の肉を少な目にした調理師の悪意か?
早めに帰宅すると浮気していた妻への愛か?
確実なのは石ころが全ての原因だということ。
石ころは何故、そこにあったのか?
神のみぞ知るというのならば神を呪おう、
奴は最期にそう言ったのさ。 . . . 本文を読む
為すべきことを全て為したボクは待ち続けた、
もう夢で指令を受けることもないだろう。
待ち遠しいような気もするし、
このままで良いという気もする、
何かを待っている気もするし、
その実何も待ってはいない気もする。
こうして待っているのが無駄な気もするし、
唯こうして満ち足りている気もする。 . . . 本文を読む
紫を掴みなさい、夢でそんな指令を受けた。
ボクは青を目にすることができたし、
赤を耳にすることもできたので、
朝飯前さ、紫を作ればいいんだから。
ところが取り掛かろうとして、はたと思い当たった、
青を手に取ることもできない、
赤を水に溶かすこともできない、
どうすれば青と赤とを混ぜられるのだろう?
初心に返って、青を見に行った。
新鮮な気持ちになって、赤を聴きに行った。
長い . . . 本文を読む
赤いものを耳にしなさい、夢でそんな指令を受けた。
それはなかなか難しいもので、
小鳥の囀り、歩む靴音、自動車の走行音、みんな赤とは違う音だ。
困り果て、ぼう、と放心していたら、夕日は赤かった。
夕日の音が聞こえるだろうか、
ボクは耳を澄ませて聴いていた。 . . . 本文を読む
青いものを目にしなさい、夢でそんな指令を受けた。
それはなかなか難しいもので、
唇、鏡、トマト、ネコ、バラ、みんな青とは違う色だ。
困り果てて天を仰いだら、空は青かった。
そしてボクは旅に出た、青に囲まれる為に。
空と海の青に囲まれる為に。 . . . 本文を読む
一枚の紙がある。
絵を描いたり、字を書いたり、印刷したり、
色々なことが出来るのが彼の自慢だけど、
たくさん集まってもやっぱり紙だ。
そんな紙が集まって束ねると本になる。
もう紙じゃない、本だ。
独りぼっちのときと違うことができた。
新しいことができるのが嬉しいけれど、
何よりも、みんなと一緒で気持ちが温かいんだ。 . . . 本文を読む
ボクの口はキミにキスもするけれど、人に唾を吐き掛けもする。
ボクの手は優しく撫でることもあるけれど、人を殺しもする。
ボクの眼は光を受けることもあるけれど、人を睨みもする。
誰だって自分の意にそぐわないことに合うものだけれど、
それが直接なら敏感で、間接なら鈍感なのが人間さ。 . . . 本文を読む
山の上を影がよぎると、鳥たちは一斉に飛び立つ、
飛ぶものの矜持を高々と掲げ飛び去る巨大な金属の鳥に、
いつの日か自らが追い越すことを夢見て、
風を切って突き進む一番手になろうと力を付けている。
今日こそはと意気込み果敢に挑戦するものは、
何処までも追い続けて力尽き、
だがどこか満足し、羽ばたきを止めて墜ちる。
不幸にも力尽きず山に帰り着いたものが、
弛まぬ努力を続けるものたちに冷 . . . 本文を読む
絶壁に、長い吊り橋が架かっている。
とても不安定な橋で、風が吹けばぐらぐら揺れる。
誰かが渡って行くのを止めたければ簡単なこと、
此方から橋を断てばおしまいさ、
渡っていた奴はもうどうでも良いのだから。
誰かが渡って来るのを止めたければ簡単なこと、
彼方から橋を断てばおしまいさ、
渡っていた奴はもう戻って来られないけれど。
断崖絶壁に掛かる橋に限って、吊り橋だ。 . . . 本文を読む
小さい頃から、ボクは天の邪鬼だった。
ああ言えばこう言い返し、人を困らせる、
それはちょっとした楽しみだった。
そんなことが楽しいのかと尋かれれば、
今のボクには分からない。
きっと楽しかったのだろうと思う。
今ではすっかり大人になったボクは、
どうしてと尋かれると、正直に答えられない。
誰もが納得する理由を考えて、言うだけさ。
そうすれば、みんな安心するだろう? . . . 本文を読む