能登半島地震からの復旧の途上に重なった、豪雨による被害。そんな被災地を応援しようと百貨店各社は、来年正月用「おせち」に能登の料理人らが監修したお重を加えた。海の幸とともに重箱に「愛郷心」を詰め、地元の食文化を伝えようとしている。
北陸地方の食材が中心
「能登半島で営んできた店は被災し、営業できない状況が続いている。それでも地元の食文化を伝えたいと思ったので、おせちの監修を引き受けた」
こう語るのは、石川県七尾市の日本料理店「一本杉 川嶋」の店主、川嶋亨さん(40)だ。
同市出身の川嶋さんは関西の名店などで経験を積み、令和2年に故郷で開店。世界的な美食ガイドブックでも紹介された新進気鋭の料理人だ。
「一本杉 川嶋」の建物は国の登録有形文化財。能登半島地震で壁の一部は崩れ落ちてしまった。文化財のため修繕には協議が必要で、すぐには修復がかなわない。
店再開のめどが立たないなか、川嶋さんは大丸松坂屋百貨店の「和風おせち 二段」(4万2000円)を監修した。オンラインストアから申し込める。
重箱に詰まるのは「愛郷心」だ。ゴボウの七日炊きは七尾市に伝わる郷土料理。「能登ふぐ」の昆布締めなども入れた。
川嶋さんは「(被災後の今は)能登の食材だけで揃(そろ)えるのは難しい。それでも北陸中心の食材をメインにした。全国でおせちを受け取る方々に能登に行ってみたいと思ってもらえれば。かつて店に足を運んでくださった方々にも能登を感じてほしい」と力を込めた。
食べて応援したい
高島屋はオンラインストアで「北陸応援おせち料理」(三段2万2680円、一段1万5120円)を展開する。三段重に盛り込んだのは石川県産のサツマイモ「五郎島金時」を使ったスイートポテトや、「能登かき」のマリネ、「能登ふぐ」の西京焼きなど。
「石川県と富山県、新潟県の3県が産地の食材で作った40種類の料理を詰め合わせた。地震で大きな被害を受けた地域の食材を食べて応援したいというおせち」と担当者。売り上げの一部は3県に寄付される。このほか、高級料亭「東京 吉兆」の66万円のおせちには石川県の輪島塗の重箱を使用。このおせちは関東限定で店頭と電話で予約を受け付ける。
東京の百貨店「松屋」は、七尾市の老舗旅館「渡月庵」監修の「和洋おせち」(3万1860円)を展開。「北陸地方に少しでも貢献できればという思いで用意した。老舗旅館の世界観を感じてもらえれば」と担当者は話す。金沢市の老舗旅館「浅田屋」の「和風おせち 二段」(4万3200円)には、能登半島で古くから伝わる魚醤(ぎょしょう)の「いしる」にフグとサクラマスを漬けこみ焼きあげた料理などが入っている。
阪神百貨店は「北陸三ブランドコラボ三段重」(3万3480円)を販売。石川県加賀市の温泉旅館「宝生亭」や同市の食事処「加賀兎郷」などが監修している。
ご当地食品の需要アップ
北陸にこだわったおせちは復興を応援したいという思いを形にしたものだが、特色のある「ご当地食品」を味わえるという一面もある。
ご当地食品は人気が高まっている。楽天グループ(東京)が「楽天市場」サイト内で商品名に「ご当地」を含む食品の流通総額を調べたところ、令和5年は3年前に比べて約1.3倍となった。
広報担当者は「コロナ禍に旅行を控えた人たちがインターネットで〝ご当地料理〟を取り寄せるようになり、その後も定着。その影響から、ご当地食材の流通が近年、伸長しているとみている」と話した。(竹中文)
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