「夜市」恒川光太郎(角川ホラー文庫)
妖怪たちが様々な品物を売る不思議な市場「夜市」。ここでは望むものが何でも手に入る。
小学生の時に夜市に迷い込んだ裕司は、自分の弟と引き換えに「野球の才能」を買った。
野球部のヒーローとして成長した裕司だったが、弟を売ったことに罪悪感を抱き続けてきた。
そして今夜、弟を買い戻すため、裕司は再び夜市を訪れた。
角川文庫「夜市」背表紙より
この短い紹介文に惹かれて本を手に取った。
読みやすい文体で、物語の世界にすっかり引き込まれた。
子どものころ、夜市で弟を売ってしまったが、家にもどると弟はもともと存在しないことになっている。
弟を売ったことを覚えているのは兄本人だけなのだ。だれに責められることもないのだ。
しかし罪悪感にさいなまれ、野球のヒーローとしての自分をも、まったく喜べなくなり、弟を救いにいく。
果たして、弟は・・・
わが家のちびっこ兄弟も、おたがい影響し合い、なくてはならないもう一人なのだ。
そういう意味で二人きょうだいは特別なんだと思う。
とても面白かった。
またこの本におさめられている別の物語「風の古道」も同じくらい魅力的だった。
現世界からうっかり神の道(物の怪の道)に迷い込んだ少年の物語と
そこで出会った案内人の青年レンとの交流とレン自身の物語。
少年はレンに同行し、レンの物語を経験する。
日本の少し湿った空気の中に目に見えない何かの気配や、別の世界の入り口を誰しもがなんとなく肌で感じることがあるだろう。
そこに存在するかもしれないファンタジー。
読んでいる間、不気味ながらも引き込まれてしまう。