初いんふる。めでたくも何もありません。
気持ち悪い。
ぐらぐらする。頭が痛い。吐き気がする。
初めは熱がめっちゃ出ました。
熱かったよー!! 39度ってなんやねん!?
完治までまだかかかるよ!
本日もいつものように血で戦うあれの二次創作。
最初はインフルエンザだと思わなかったんです。風邪をこじらせただけだと思ったんです。
治らないから病院行ったらインフルエンザだって・・・。
通りで家の風邪薬が効かないわけだよ。
隊長が良くなったかなーと思ってもすぐに気分が悪くなる。
PCの前に座っても30分でもう駄目、限界。
うう、辛い。
BBB
情緒不安定な兄弟子の話。
兄弟弟子は二人共精神に問題ありだと私が嬉しい。
百万回の夜の際
たまにこんな夜が来る。
ザップ・レンフロは吐息と共に呟いた。
狂乱に溢れたヘルサレムズ・ロットが仮初めの静けさを迎える時間帯。
秘密結社ライブラのオフィス。
リーダーであるクラウス・V・ラインヘルツの趣味の観葉植物に埋め尽くされた温室。
その一角に置かれた巨大な円柱形の水槽。
なみなみと満たされた水が青く透けた影を眠りにつく植物達に落としている。
光も音も地に落ちる薄闇の中、水槽の主も本来ならば静かに眠っているはずだった。
けれど彼ツェッド・オブライエンは水の中にたゆたってはいない。
水槽の前、いつの間にか誰かが置いたソファ。そこに腰掛けた兄弟子の腕の中。
それはいきなりのことだった。
窓から侵食する夜の暗さ。意識が眠りにつくためにまどろみ始めた刹那。
開け放たれた扉、無表情な兄弟子。
何用かと問う暇もなく血糸によってそれこそ魚のように引き上げられた。窒息する前にエアギルスを身につけられたのはただの幸運だ。
そしてずっと兄弟子の腕の中。
いつもの騒がしい気配はなりを潜め、どこか虚空をじっと見詰める。
そんなザップの様子に、ツェッドもまた声をかけることを躊躇い息を殺すように身じろぎせず大人しく収まっていた。
どれだけの時間そうしていただろう。
心地の悪い沈黙は、オフィスの外今だ止むことの無い街の鼓動をことさら大きく響かせる。
そして死人のような生気の無い声がザップの唇から漏れた。
思わず顔を見る。
その目はやはりどこを見てるのか解らない。あるいは何も見ていないのか。
胸の奥から吐き出される長くか細い空気と共にザップは弟弟子をさらにきつく抱きしめた。
さらりとゆれた銀色に、彼の表情が覆われる。
「どうしたんですか?」
恐る恐る背中に回した掌を上下させ、ツェッドは彼の様子を窺った。
ザップ・レンフロのこれまでの半生と言うものはその大半が修行に費やされているものだった。
物心ついたときなどと彼の記憶には存在しない。
過酷な修行の最中、本来ならば人間が踏み込むことを許されない領域。秘境と呼ばれる場所。
それは夜だった。
どこかで鳥が鳴き、夜行性の獣がそこかしこに気配を残す。
ただ満天の星空だけが静かだった。
その真っ只中で、唐突にザップは己が一個人だと言うことを認識した。
名前すら持たなかった、これまで斗流血法創始者の弟子としてしか存在していなかった子供が、初めて己が己であると知った。
どうしてここにいるのか。親はいるのか。何故弟子となったのか。
それらは何も記憶に無かった。
師に聞いても答えはなかったし、彼も大して気に留めなかった。
そもそも厳しい、常識を逸した修行を課せられているザップに他のことに気を回す余裕は無かったのだ。
人間らしさとは無縁の生活を一体何年続けたのか、まるで憶えていない。
血反吐を吐いて、のた打ち回って、死にかけて。それを何度も繰り返す。
逆らうことは許されず、逃げようにも逃げられず。
全身全霊をかけてようやくギリギリで生き残る、只管研鑽の毎日。
それが終わりを告げたのは、今から数年前。
余りにも突然だった。前触れなど望めない。
ある日、一人立ちすべしと師に放り出された。
幸いにも小さな町のすぐ近く。
しかしここで始めてザップ自身が問題を自覚した。
彼は人の中での生き方を知らなかったのだ。
これまでザップが接した人間とは主に師であり、時折訪れる牙狩りだけ。彼らだってまともな人間とは言い難い。つまり彼の対人スキルはゼロと言っても差し支えない
だからこそ彼はすぐさま路頭に迷う羽目になった。
これが秘境ならば腹がすいたら獣を狩ればいい。喉が乾けば川を探せばいい。しかし人の町ではそうはいかない。
金がなければ何も出来ない。その金を得ようにも働き口すら探せない。何せその頃の彼にはまだ名前が無く己の生まれすら定かではなかったからだ。
どうしようもなく途方にくれるザップを拾ったのは一人の女。
お人よしで寂しがり屋の女だった。早くに両親を亡くして、遺された小さな商店を一人営む普通の女。
朗らかな笑顔で行く当ても無い若い男を家に置き、何くれと面倒を見てくれた。
周囲の人間にはいい顔をされなかったが、それでも人当たりのいい彼女は町の住人から信頼を得ていたし一人きりで寂しいのだろうと一定の理解は示された。よって特に何かを言うものはおらず。
暖かい寝床に美味しい食事。熱いシャワーを初めて浴びた。
己の名をザップとしたのもこの頃だ。
問われたときに返せなければ不便であると知れたから。だから、これまで見聞きしたものからつけた。適当ではあったが個人を判別できるならそれでいい。
献身的な女のおかげで皆無だった人の世で生きるための知識も随分とマシなものになった。
まともな、人間らしい生活なんて初めてだった彼はたどたどしくもそれでも生来の器用さを発揮して、色んなことを覚えていった。そこには勿論女の助けもあって。
警戒していた街の人間ともだいぶ打ち解け、軽口を叩けるようにもなったし酒の味も知った。
言い寄ってくる女のおかげで己の容姿とその活用法も覚えはじめた。
穏やかな空気にたっぷりと浸っていた。師が見れば腑抜けと吐き捨て問答無用で苦行フルコースを課すだろうと簡単に予測出来る、その程度には穏やかな毎日を送っていたある日。
どうしてそうなったのか知らないが、化け物が襲ってきた。
血界の眷属ではない。
別種の化け物だ。どのような存在か学の無いザップには判断できなかったけれど。
だが敵であるというのはわかった。
ザップはこの小さな町が気に入っていた。だから戦った。
己の血法はその為にあるものだと承知していたから。
戦いそのものはすぐに終わった。彼の実力ならば大したことは無い。
ただ――血まみれの彼の姿に怯えきった視線が向けられただけ。
女はいつもの笑顔ではなく恐怖に歪んだ顔で叫び、軽口を叩き合った酒場の男達は腰を抜かしそれでもザップから距離をとろうとし、言い寄った娘達は悲鳴を上げて逃げた。
恐怖と拒絶と奇異の視線を向けられて、己が異質と初めて知った。
いくら人の中で暮らしても、彼は人間と言う生き物をよく解ってはいなかったのだ。
それからザップは様々な場所を転々とした。
定住はしない。
自分には向いていないと理解している。
己の容姿を利用して女をつくり、気まぐれに彷徨って、化け物を殺す。
その過程で牙狩りが接触してきたから、所属することにした。
血闘神の弟子と言うものはその肩書きだけで価値があるらしい。
牙狩りになったところでザップの生活は特に変わりはしなかった。
ザップは常に一人でいた。
彼の実力は評価されてもその人間性で周囲と上手く馴染めないからだ。
そして周囲も彼を持て余していた。牙狩りでも上位に当たる実力ゆえに手放せないが、しかし手綱を引ける者がいない。
そもそもザップ自身、己より弱い相手に従うような素直さは持ち合わせていない。
命を懸けた戦いの中に身を置きながら、つまらない日々を過ごしていた頃。
世界を揺るがす異変が起こった。
ニューヨークの消滅と再構築。
たった一晩でその一帯だけ世界が切り替わった。
毎日のように報告される出来の悪いB級映画みたいな現実。
どんな下らない出来事も惨劇と呼ぶにしても出た犠牲が多すぎて喜劇になってしまうようなことも、嘘みたいに本当に引き起こされる。とにかく混沌を体現した場所。
何よりそこは永遠の洞に続く。
彼らの敵、血界の眷属の故郷。
牙狩りという組織の性質上放置してしておくことも出来ず、新たに支部を作ることと成った。
それがライブラ。
死亡率ナンバーワンの支部。
リーダーとなるクラウスと始めて顔を合わせた瞬間に理解した。彼は確実に己より強い、と。
クラウスだけでなく、スティーブンたちも腕が立った。そして彼らはこれまでザップの周囲にいた人間と違って酷く馴染みやすかった。
全てが狂ったこの街もザップにとっては居心地がよく住みやすい。
適当な女と夜を過ごして、酒に溺れて、異形と死闘を繰り広げ、肩を並べて戦える仲間もいて。
楽しいのだ。
楽しいはずだ。
少なくともここに来る前よりは、ずっと。
なのに、どうしようもない夜が来る。
どれほど柔らかい肌に埋もれようが強い酒を浴びようが薬が脳を侵そうが。
胸を掻き毟りたくなる夜が来る。
喉の奥からせり上がる言葉にならない叫びなのか、腹の底にたまる不快感なのか。さっぱりわからないコレはなんだろう?
べったり心に張り付いて取れないこの感情はどこからくるのか。
これまで本能のままに生きてきたザップは己の心と向き合うという経験がほぼ無かった。それを必要とされることが無かったから。
わからないことが余計にザップをイラつかせる。
手を伸ばして何をか掴みたいような気もするが、どこに伸ばすべきか何を掴むべきか。それに理解は及ばない。
自分自身がどうしようもなく、ガリガリと体の奥で暴れる何かから目を背けベッドの中で丸くなる。ただ夜が過ぎるのを待つ。
朝が来て、よくわからない感情の波が引いていく。
それからようやく息をつく。
これまでずっとそうやってやり過ごしてきた。
それ以外の方法がなかった。
どうしようもない夜は幾度も訪れ、その一夜を誤魔化して重ねてゆく。
知らず知らず降り積もっていくのは疲労か焦燥か。
夜が過ぎるたび確実に大きくなってゆく何かを見ない振りをした。
やり過ごすのに疲れたある夜。
ふいに浮かんだのは弟弟子。
生真面目で礼儀正しく、所謂良い子な自分とは正反対。この世で唯一ザップの側に立つ者。
何故彼のことが浮かんだのかわからない。だが直感した。
こいつだ、と。
埋めるのはこいつだ。
気付けば足はオフィスに向かい。
腕の中に大人しく納まる弟弟子は困惑の気配は伝わってくるものの抵抗は無い。
ならばと腕に力を込めてみたが、やはり抵抗は無かった。
青い、半透明の肌はしっとりとして意外と触り心地良く、人間より多少低い体温も火属性のガグツチを扱うゆえか体温が高めザップにはちょうどいい。
ツェッドを腕に抱いてから胸の中で暴れまわっていた感情が収まっていくのが解った。
随分と呼吸が楽になった気がして、静かに目を閉じる。
何も応えないまま寝息を立てはじめた兄弟子に嘆息した。
どこまで身勝手なのだろうかこの人は。
眠っていてさえツェッドの身体に回された腕の力は緩まない。
振りほどくことは簡単で。眠る男をたたき起こすと言う選択肢もあった。
けれど子供みたいな寝顔に毒気を抜かれどちら選ぶ気にはならず。
仕方が無いともう一度小さく息を零してソファの上、楽な体勢をとるためにザップに身を寄せる。
ザップの高い体温を感じつつツェッドは己の意識を眠りに沿わせた。
静かな夜の片隅で、二人寄り添う影が浮かんだ。
満たしましょう、満たしましょう。それで貴方が救われるなら!!
気持ち悪い。
ぐらぐらする。頭が痛い。吐き気がする。
初めは熱がめっちゃ出ました。
熱かったよー!! 39度ってなんやねん!?
完治までまだかかかるよ!
本日もいつものように血で戦うあれの二次創作。
最初はインフルエンザだと思わなかったんです。風邪をこじらせただけだと思ったんです。
治らないから病院行ったらインフルエンザだって・・・。
通りで家の風邪薬が効かないわけだよ。
隊長が良くなったかなーと思ってもすぐに気分が悪くなる。
PCの前に座っても30分でもう駄目、限界。
うう、辛い。
BBB
情緒不安定な兄弟子の話。
兄弟弟子は二人共精神に問題ありだと私が嬉しい。
百万回の夜の際
たまにこんな夜が来る。
ザップ・レンフロは吐息と共に呟いた。
狂乱に溢れたヘルサレムズ・ロットが仮初めの静けさを迎える時間帯。
秘密結社ライブラのオフィス。
リーダーであるクラウス・V・ラインヘルツの趣味の観葉植物に埋め尽くされた温室。
その一角に置かれた巨大な円柱形の水槽。
なみなみと満たされた水が青く透けた影を眠りにつく植物達に落としている。
光も音も地に落ちる薄闇の中、水槽の主も本来ならば静かに眠っているはずだった。
けれど彼ツェッド・オブライエンは水の中にたゆたってはいない。
水槽の前、いつの間にか誰かが置いたソファ。そこに腰掛けた兄弟子の腕の中。
それはいきなりのことだった。
窓から侵食する夜の暗さ。意識が眠りにつくためにまどろみ始めた刹那。
開け放たれた扉、無表情な兄弟子。
何用かと問う暇もなく血糸によってそれこそ魚のように引き上げられた。窒息する前にエアギルスを身につけられたのはただの幸運だ。
そしてずっと兄弟子の腕の中。
いつもの騒がしい気配はなりを潜め、どこか虚空をじっと見詰める。
そんなザップの様子に、ツェッドもまた声をかけることを躊躇い息を殺すように身じろぎせず大人しく収まっていた。
どれだけの時間そうしていただろう。
心地の悪い沈黙は、オフィスの外今だ止むことの無い街の鼓動をことさら大きく響かせる。
そして死人のような生気の無い声がザップの唇から漏れた。
思わず顔を見る。
その目はやはりどこを見てるのか解らない。あるいは何も見ていないのか。
胸の奥から吐き出される長くか細い空気と共にザップは弟弟子をさらにきつく抱きしめた。
さらりとゆれた銀色に、彼の表情が覆われる。
「どうしたんですか?」
恐る恐る背中に回した掌を上下させ、ツェッドは彼の様子を窺った。
ザップ・レンフロのこれまでの半生と言うものはその大半が修行に費やされているものだった。
物心ついたときなどと彼の記憶には存在しない。
過酷な修行の最中、本来ならば人間が踏み込むことを許されない領域。秘境と呼ばれる場所。
それは夜だった。
どこかで鳥が鳴き、夜行性の獣がそこかしこに気配を残す。
ただ満天の星空だけが静かだった。
その真っ只中で、唐突にザップは己が一個人だと言うことを認識した。
名前すら持たなかった、これまで斗流血法創始者の弟子としてしか存在していなかった子供が、初めて己が己であると知った。
どうしてここにいるのか。親はいるのか。何故弟子となったのか。
それらは何も記憶に無かった。
師に聞いても答えはなかったし、彼も大して気に留めなかった。
そもそも厳しい、常識を逸した修行を課せられているザップに他のことに気を回す余裕は無かったのだ。
人間らしさとは無縁の生活を一体何年続けたのか、まるで憶えていない。
血反吐を吐いて、のた打ち回って、死にかけて。それを何度も繰り返す。
逆らうことは許されず、逃げようにも逃げられず。
全身全霊をかけてようやくギリギリで生き残る、只管研鑽の毎日。
それが終わりを告げたのは、今から数年前。
余りにも突然だった。前触れなど望めない。
ある日、一人立ちすべしと師に放り出された。
幸いにも小さな町のすぐ近く。
しかしここで始めてザップ自身が問題を自覚した。
彼は人の中での生き方を知らなかったのだ。
これまでザップが接した人間とは主に師であり、時折訪れる牙狩りだけ。彼らだってまともな人間とは言い難い。つまり彼の対人スキルはゼロと言っても差し支えない
だからこそ彼はすぐさま路頭に迷う羽目になった。
これが秘境ならば腹がすいたら獣を狩ればいい。喉が乾けば川を探せばいい。しかし人の町ではそうはいかない。
金がなければ何も出来ない。その金を得ようにも働き口すら探せない。何せその頃の彼にはまだ名前が無く己の生まれすら定かではなかったからだ。
どうしようもなく途方にくれるザップを拾ったのは一人の女。
お人よしで寂しがり屋の女だった。早くに両親を亡くして、遺された小さな商店を一人営む普通の女。
朗らかな笑顔で行く当ても無い若い男を家に置き、何くれと面倒を見てくれた。
周囲の人間にはいい顔をされなかったが、それでも人当たりのいい彼女は町の住人から信頼を得ていたし一人きりで寂しいのだろうと一定の理解は示された。よって特に何かを言うものはおらず。
暖かい寝床に美味しい食事。熱いシャワーを初めて浴びた。
己の名をザップとしたのもこの頃だ。
問われたときに返せなければ不便であると知れたから。だから、これまで見聞きしたものからつけた。適当ではあったが個人を判別できるならそれでいい。
献身的な女のおかげで皆無だった人の世で生きるための知識も随分とマシなものになった。
まともな、人間らしい生活なんて初めてだった彼はたどたどしくもそれでも生来の器用さを発揮して、色んなことを覚えていった。そこには勿論女の助けもあって。
警戒していた街の人間ともだいぶ打ち解け、軽口を叩けるようにもなったし酒の味も知った。
言い寄ってくる女のおかげで己の容姿とその活用法も覚えはじめた。
穏やかな空気にたっぷりと浸っていた。師が見れば腑抜けと吐き捨て問答無用で苦行フルコースを課すだろうと簡単に予測出来る、その程度には穏やかな毎日を送っていたある日。
どうしてそうなったのか知らないが、化け物が襲ってきた。
血界の眷属ではない。
別種の化け物だ。どのような存在か学の無いザップには判断できなかったけれど。
だが敵であるというのはわかった。
ザップはこの小さな町が気に入っていた。だから戦った。
己の血法はその為にあるものだと承知していたから。
戦いそのものはすぐに終わった。彼の実力ならば大したことは無い。
ただ――血まみれの彼の姿に怯えきった視線が向けられただけ。
女はいつもの笑顔ではなく恐怖に歪んだ顔で叫び、軽口を叩き合った酒場の男達は腰を抜かしそれでもザップから距離をとろうとし、言い寄った娘達は悲鳴を上げて逃げた。
恐怖と拒絶と奇異の視線を向けられて、己が異質と初めて知った。
いくら人の中で暮らしても、彼は人間と言う生き物をよく解ってはいなかったのだ。
それからザップは様々な場所を転々とした。
定住はしない。
自分には向いていないと理解している。
己の容姿を利用して女をつくり、気まぐれに彷徨って、化け物を殺す。
その過程で牙狩りが接触してきたから、所属することにした。
血闘神の弟子と言うものはその肩書きだけで価値があるらしい。
牙狩りになったところでザップの生活は特に変わりはしなかった。
ザップは常に一人でいた。
彼の実力は評価されてもその人間性で周囲と上手く馴染めないからだ。
そして周囲も彼を持て余していた。牙狩りでも上位に当たる実力ゆえに手放せないが、しかし手綱を引ける者がいない。
そもそもザップ自身、己より弱い相手に従うような素直さは持ち合わせていない。
命を懸けた戦いの中に身を置きながら、つまらない日々を過ごしていた頃。
世界を揺るがす異変が起こった。
ニューヨークの消滅と再構築。
たった一晩でその一帯だけ世界が切り替わった。
毎日のように報告される出来の悪いB級映画みたいな現実。
どんな下らない出来事も惨劇と呼ぶにしても出た犠牲が多すぎて喜劇になってしまうようなことも、嘘みたいに本当に引き起こされる。とにかく混沌を体現した場所。
何よりそこは永遠の洞に続く。
彼らの敵、血界の眷属の故郷。
牙狩りという組織の性質上放置してしておくことも出来ず、新たに支部を作ることと成った。
それがライブラ。
死亡率ナンバーワンの支部。
リーダーとなるクラウスと始めて顔を合わせた瞬間に理解した。彼は確実に己より強い、と。
クラウスだけでなく、スティーブンたちも腕が立った。そして彼らはこれまでザップの周囲にいた人間と違って酷く馴染みやすかった。
全てが狂ったこの街もザップにとっては居心地がよく住みやすい。
適当な女と夜を過ごして、酒に溺れて、異形と死闘を繰り広げ、肩を並べて戦える仲間もいて。
楽しいのだ。
楽しいはずだ。
少なくともここに来る前よりは、ずっと。
なのに、どうしようもない夜が来る。
どれほど柔らかい肌に埋もれようが強い酒を浴びようが薬が脳を侵そうが。
胸を掻き毟りたくなる夜が来る。
喉の奥からせり上がる言葉にならない叫びなのか、腹の底にたまる不快感なのか。さっぱりわからないコレはなんだろう?
べったり心に張り付いて取れないこの感情はどこからくるのか。
これまで本能のままに生きてきたザップは己の心と向き合うという経験がほぼ無かった。それを必要とされることが無かったから。
わからないことが余計にザップをイラつかせる。
手を伸ばして何をか掴みたいような気もするが、どこに伸ばすべきか何を掴むべきか。それに理解は及ばない。
自分自身がどうしようもなく、ガリガリと体の奥で暴れる何かから目を背けベッドの中で丸くなる。ただ夜が過ぎるのを待つ。
朝が来て、よくわからない感情の波が引いていく。
それからようやく息をつく。
これまでずっとそうやってやり過ごしてきた。
それ以外の方法がなかった。
どうしようもない夜は幾度も訪れ、その一夜を誤魔化して重ねてゆく。
知らず知らず降り積もっていくのは疲労か焦燥か。
夜が過ぎるたび確実に大きくなってゆく何かを見ない振りをした。
やり過ごすのに疲れたある夜。
ふいに浮かんだのは弟弟子。
生真面目で礼儀正しく、所謂良い子な自分とは正反対。この世で唯一ザップの側に立つ者。
何故彼のことが浮かんだのかわからない。だが直感した。
こいつだ、と。
埋めるのはこいつだ。
気付けば足はオフィスに向かい。
腕の中に大人しく納まる弟弟子は困惑の気配は伝わってくるものの抵抗は無い。
ならばと腕に力を込めてみたが、やはり抵抗は無かった。
青い、半透明の肌はしっとりとして意外と触り心地良く、人間より多少低い体温も火属性のガグツチを扱うゆえか体温が高めザップにはちょうどいい。
ツェッドを腕に抱いてから胸の中で暴れまわっていた感情が収まっていくのが解った。
随分と呼吸が楽になった気がして、静かに目を閉じる。
何も応えないまま寝息を立てはじめた兄弟子に嘆息した。
どこまで身勝手なのだろうかこの人は。
眠っていてさえツェッドの身体に回された腕の力は緩まない。
振りほどくことは簡単で。眠る男をたたき起こすと言う選択肢もあった。
けれど子供みたいな寝顔に毒気を抜かれどちら選ぶ気にはならず。
仕方が無いともう一度小さく息を零してソファの上、楽な体勢をとるためにザップに身を寄せる。
ザップの高い体温を感じつつツェッドは己の意識を眠りに沿わせた。
静かな夜の片隅で、二人寄り添う影が浮かんだ。
満たしましょう、満たしましょう。それで貴方が救われるなら!!
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