日々・戯言の叫び

感じた事とか色々、表に出せない事を吐き出す独り善がりで嘘つきな日記

なんかまた寒いな

2012-05-20 13:14:37 | Fate系
曇ってるから仕方ないけれども。
布団干せないじゃないか!!
暫く寒いというか、曇りが続くみたいだし。
だからもう五月だぜ? いい加減、あったかくなろうや?
聖戦ものでっすよん。

最近ちょっと金欠。まぁ無駄遣いしなきゃいいだけなんですけどね。


Fate/Zero。
転生ネタ。葵さんに酷い話。
基本的に私は誰かが損するというか、誰かを不幸にしないと話が書けないらしいです。
最低だね!


崩落する奇跡


禅城葵がそれを自覚したのは七つの頃だ。
大人しく、親の言うことをよく聞く愛らしい子供。
子供らしい笑顔に、誰もが顔を綻ばせる。
葵は、非の打ちどころ無く完璧な、ただの子供だった。
その時までは。
いつの頃からか知らないが夢を見るようになった。
断片的で、抽象的な、誰かの夢。
ただの夢。
それらが意味を持ったのは、彼女が全てを思い出したから。
彼女は前世の記憶を持っていた。夢はかつての彼女の記憶だった。
前世もまた今の彼女と同じ名を持ち、同じ姿をしていた。
おかしなものだと思ったけれど、そんな些細な疑問はすぐに吹き飛んでしまった。
何故なら、記憶を取り戻した彼女の胸にあったのは狂おしいほどの恋情。
遠坂時臣。
前世での彼女の伴侶。
優秀な魔術師であり尊敬に値する夫。
彼女は彼を心底愛していた。
繊細な指先を、蒼い眼差しを、低く甘い声を、逞しい胸を覚えている!
――嗚呼、嗚呼! 時臣さん!
心を焦がす想いはしかし、純粋なものだけでは無く。
同時に喩えようも無い憎悪もそこに宿っていた。
間桐雁夜。
愛する男を殺した、白い異形。この世で最も憎い存在。
幼馴染であり、弟の様に可愛がってやったのに!!
あの男が己の伴侶を無残に奪い去ったのだ。
血溜まりに沈む愛しい人と、その傍に立つ男。そしてその男は自分にもそのおぞましい指先を伸ばして…。
前世において、精神を病んだままに死した彼女はその歪みもまた受け継いでしまった。
禅城葵は、齢七つにして最早どうしようもないほどの病を心に抱え、産まれ直してしまったのだ。
彼女の望みは唯一つ。やり直すこと。
もう一度、時臣との幸せな時間を。
「時臣さん、待っていて」
うふふと、倦んだ瞳で微笑んだ。
だが、現実は願う通りにはいかなかった。
彼女は、時臣どころか雁夜とすら知り合えなかった。
以前は禅城の特異体質を狙ってか割合早い段階で間桐雁夜と知り合い、幼馴染として過ごしていた。
そして遠坂時臣とも、中学生の時には出会っていたのに。
なのに、今生では未だ出逢えない。
一体何故?
冬木の地に、確かに愛しい人が生きているのに。
まだ子供と呼ばれる年齢の彼女には、この土地のオーナーである遠坂の人間においそれと近付けない。
禅城は最早魔術師としては廃れているが、それでもかつて魔術師であったがゆえに格の違いから容易には逢うことが出来ないのだ。
ようやくチャンスが訪れたのは、十四になった頃。
それは葵の父の知人が開いたパーティー。
禅城も上流階級に位置する家柄であり、そういったものとは決して無縁ではなかった。
事実、葵はこれまで両親に連れられて出席することも少なくなかったのだし。
既にその頃には大和撫子または才色兼備と評判で宴の華として周囲から持て囃されていたが、恋しい人以外何も目に入らぬ彼女には取り立てて意味のあるものではなく、積極的に行きたいと思うこともなかった。
けれど、今回に限りそうではなかった。
なぜなら、遠坂の子息も出席すると聞いたからだ。
時臣に逢える!
それだけが彼女の心を占めた。
何日も前から服を見立て、アクセサリーを選び。
美容院にだって、エステにだって通った。
本当に本当に本当にこの日を待ち望んでいた!!
薄化粧をし、この日のために選りすぐった衣装を身に纏い、訪れた場。
両親にも遠坂の子息と懇意にしていて損はないと囁かれた。
禅城は魔術師としての血は既に無いが、その特異体質は健在。
よって強力な魔術師の庇護を得られるならば願ってもない。
それが御三家の遠坂ならば尚更。
実際は遠坂だけでなく間桐の子息もここに来ていると告げられたが、葵の脳内からは綺麗に削除されている。
華やかなパーティー会場。
美しい微笑でぎらつく眼差しを誤魔化した葵は、さほどもせずに目的の相手を、愛しい男を見つけた。
自然と綻ぶ口元に、周囲の人間が感嘆の溜息をつく。
それほどまでに彼女の姿は艶やかだった。
けれどそれを一瞥することすらなく、彼女はただ一点を見詰め続ける。
整えられた髪。宝石よりも鮮やかな蒼の双眸。仕立ての良い赤のスーツと良く似合ったリボンタイ。
磨き抜かれた所作の流麗なこと!
「時臣さん…」
うっとりとその名を呟く。
逢いたかった逢いたかった逢いたかった逢いたかった!!
嗚呼、一体どれほどこの時を待ち望んでいたことか!!
これほどに自分があの人を想っているのだから、あの人も自分を想ってくれていたに違いない!!
愛しさに支配された彼女は、その心の促すままに彼の男に歩みを進める。
直前まで彼が話していた同じ年頃の青年の、緩くウェーブした髪が青味がかった紫であることなど気付きもしない。
「こんにちわ、初めまして」
極上の微笑で、最上の仕草で、彼女は時臣の前に立つ。
本当にはすぐにでもその胸に飛び込んでしまいたかったけれど、そんなはしたない真似は出来ない。
「おや、これは初めまして」
時臣もまた洗練された仕草で返した。
簡単な自己紹介を終え、テラスにでも誘おうとした葵の声は、しかし彼自身に遮られる。
「ほら。ご挨拶しなさい、雁夜」
「………は?」
――かりや? 雁夜? どういうこと!?
混乱する葵を他所に、時臣は酷く甘い眼差しを己の背後に向けた。
恐る恐るその視線を追えば、其処にいたのは小柄な少女。時臣よりも三つか四つは下だろう。
桜の散る藍色の振袖に白い帯。蝶の簪で薄紫の髪を飾った彼女は時臣の腰、彼のスーツの裾をきゅっと握りもじもじと顔を俯かせている。
「雁夜、君は私の妻になるのだから、ちゃんとご挨拶しなさい。ね?」
「う、うん。初めまして、間桐雁夜です…」
まろい頬を薔薇色に染めて、見上げるのは紫紺の瞳。
その様子を微笑ましく見詰めるのは葵の愛しい男。
「つま、ですって……?」
「ああ、そうだよ。雁夜は私の婚約者なんだ。ねぇ、雁夜」
「はい、時臣兄様」
震えた問いに時臣は見事な笑みで答え、雁夜もまた照れを隠さず、けれどしっかりと頷いて。
その様子に、葵は足元が崩れ落ちる錯覚に陥った。
――どうしてどうしてどうして!? ソレがそこにいるの!? 貴方を殺した憎い憎い憎い男なのに! 生まれ変わっても私の幸せを奪おうというの!? なんて酷いなんて悪辣!!
微笑み合う二人の姿を捉えたまま、葵の心は煉獄の様に荒れ狂う。
優しい指遣いで雁夜の頭を撫でる時臣も、それに擽ったそうに笑う雁夜も。
正直見るに耐えなかった。
喚き散らして上等な着物に包まれた体を突き飛ばしてしまいたかった。
しなかったのは偏に隣に立つ時臣の存在があったからだ。
愛しい彼の前でみっともないことなど出来はしない。
自分はしとやかな、彼に相応しい優雅な女であらねばならない。
そうだ、間違っても彼の隣に立つのがあんな汚らわしい男の生まれ変わりであってはならない!!
燃え上がる心が毒を撒き散らすうち、唐突に葵は思い至る。
――そうか、誑かされたのね。ああ、そうなのね可哀想な時臣さん。女になったから優しくしたら付けあがったのね。そうよねだって時臣さんが愛しているのは私なんだもの。かわいそうなときおみさんだいじょうぶよわかっているからわたしもあなたのことをあいしているわきっとわたしがあなたをすくってみせるから。
うふふふふふふふ…。
歪な曲線を描く唇に気付かずに、葵は幸福を夢想して、哂った。


この愛を貴方に捧げましょう。私が全てを捧げるのだから、貴方も私を想ってくれる。ねぇそうでしょう!?

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